第九話 真夜中の学校は魔の世界
ひょんなことから彼らは学校の中へと誘われるかのように入っていった。気が付けばそこは魔の世界と化し、とても自分たちが知る学校ではなくなっていた──…
「ナオ! ナオ落ち着け!!」
「これが落ち着けるかぁあ?!」
「止まってナオ!! 僕達けっこうヤバいかもしれないから!!」
なんとか彼を説得し、理科室へ入って、一応机の下で緊急会議を始めた。
「大変なことになった…」
「ものすごく命の危機を感じます…」
俺とシュウはガクッと手を床につきながら気落ちした。ナオはプルプル震えながら顔が青い。
「お、俺…なにかしちまったか…?」
「ナオ、お前には悪いが…全面的にお前が悪い」
「君のおかげで僕たち学校から出られるかわからなくなってきたよ」
「そ、そんなに?!」
今にもなきそうなナオを少しなだめて気分を落ち着かせた。もちろん、俺達も少し正気を取り戻せた。
だからさっそく俺達は状況を把握するために話し合いをはじめた。
「さっきのドアさ…シュウが言ったとおり閉まってた」
「うん? でも俺が触ったときは」
「そう。何故か開いていた。可能性はいくつかある。」
そこで次はシュウに任せた。
「その一。閉まってたと思ったのが僕の勘違いだった。その二。さっきのイザコザで開いた。その三。あの幽霊の仕業」
「一はまずない。がちゃがちゃドアノブを動かしてもうんともすんともしなかったから、鍵がかかってたってことだ。その二もないな。一番有り得るのは最後のパターンだ。」
「で、お、俺が勢いでドア開けてまんまと学校へ入ってしまったんですね…」
いつになく顔を青くさせた弱気のナオがそうポツリと呟いた。
「まぁ、もうしょうがないだろ。落ち込んでも悔やんでもやっちまったもんはしょうがない。それより今はこの状況をどう打破するかだろ。いいか、絶対ここから出るんだ。神隠しなんて冗談じゃない」
俺達はここから出るんだ。全員で。そう強く俺が言い切ると、二人とも静かに息を飲んだ。
「だ、だよな…そうだよな…。わかった! 頑張って力あわせてここを出ようぜ!」
先ほどからずっと弱々しかったナオに覇気が戻った。
「そうだね! まずはここを出てから。無事に出たら、文句をすき放題に言わせてもらうからねナオ!」
うわー。いい笑顔で人の傷を抉るなシュウ…。密かに根に持ってるんだな。
「うぐっ…だからすまねぇって…」
その瞬間、ゾクリとまた悪寒がした。
「お前ら、静かにしろ…っ」
「「?」」
耳を澄ますと聞こえてくる…何かが這いずるような音。ずり…ずり…ずり…と廊下から聞こえてくる。
たのむ。気づかずに通り過ぎてくれ…っ!
ずり…ずり…ずり…
ずり…
ずり……
ピタ。
「…?」
音がやんだ…? 恐る恐るつくえの下からそぉ~っと顔をのぞかせてドアのほうを見ると、そこには一目で見てわかる人型ではない、何かの影がドアの前で止まっていた。
「…っ」
「…」
「……っ」
俺とナオは思わず手を口でふさいだ。でないとあまりの恐怖で声を出してしまいそうだったから。そして声を出してここにいることがバレようものなら…。
それからさきは想像もしたくねぇ!!
しばらくして、その影がまたずりずりと音を立てながら立ち去っていったのを確認して、俺達はホッと一安心した。
「駄目かと思った…っ」
ナオは涙目だ。
「僕は食われるって考えちゃったよ…」
「俺はあいつがここへ入ってきたらどう逃げるか考えてた」
そう俺が言うと、ナオは驚いた顔をした。
「お前よくこんな状態でそんなことを冷静に考えられるな?」
シュウは力なく苦笑をしながら小さくため息をした。
「あはは…僕らはだめだね。こんな所にいるから次々嫌なことばっかり考えちゃう…それにくらべてケンは凄いな…僕、いくら怖い話が好きだからって…こんなのはさすがに…怖いよ…」
二人が不安そうに顔を俯かせた。
「あのな…」
俺は頭をカジカジとかきながら、ため息をし、そして面倒くさそうにしながらも、ちゃんと伝わるように二人の頭を撫でた。
「俺だって怖いっつーの」
怖くないわけないだろ。むしろこんな状態に陥って怖くないなんていう人間がいたら見てみたいね。
「ただ、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。そしてもちろんお前らを見殺すなんてもってのほかだ。なら、選択肢はたった一つ」
目をつぶる。愛美さんとの約束。黒吉との覚悟の契約…。それらを思い出す。そして再び目を開けた。
「どうやって生き延びるか。だろ?」
「ケン…お前」
「ケン…いつの間にそんな男らしくなったの?」
その言葉に苦笑しちまう。男らしく、ねぇ?
「ん~…ちょっとな…じつはこういう経験あるんだよ俺」
「ええ? 初耳なんだけど?」
「ずりぃ! それで俺達には話さなかったとか、ヒドくねぇかそれ?」
「いやいや! 冷静に考えてみろよ! いきなりそんな話されても絶対信じなかっただろ?! だから黙ってたんだよ」
すると二人は「ああ、それもそうか」と何かを考え出した。まぁ、納得いかないのはわかるけどさ…普通に考えたら有り得ないことばっかりおきたから…。
親友二人に何も話さなかったのは、流石の俺も心苦しかったけど。