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健路くんの非日常~囚われし巫女編  作者: ネムのろ
一章 どんなに嘆いても日常は戻りません
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第四話 死の時刻

走り続けて一体何秒? 何分? 何時間たったのだろう…。静かすぎる街に走り続けて居続けて、時間の感覚さえ狂うようで…。口の中はもうパサパサしていて、喉はカラカラだ。

 汗が異常に出ていて唾を飲み込むが効果はもちろんない。心臓はバクバクひっきりなしに鳴っていて、息さえ吸いづらくなっている。

 携帯は相変わらず圏外で。荒くなった息を整えている間に、ふと携帯に映る時刻を見てギョッとした。

 時計は午後4時44分で時計が止まっていたのだ。おかしい。次のスーパーまでの道のりで確かめたときはまだ3時半。

「壊れたのか…?」

 彼の携帯を持つ手が震える。時計が止まっているのはどう見ても故障だと思いたかったが…健路はそこで驚きの現象を目撃する。

 時計が一分進んだと思いきや、また一分戻って4時44分に戻されるのだ。

「…へ?」

 それは何度見ても繰り返されるだけで変わらない。おいおい、マジかよ…とそこで始めて自分は危機的状況に追い込まれていることに気がついた。

「化け物みたいな奴…静かな誰もいない街…進まない時間…」

 間違いなかった。認めたくはなかったが、これは学校で一時期噂になった『死の異次元空間』だと…。

 なんでもその空間に閉じ込められたら、この世にありえない化け物と遭遇したり、誰もいない街にきたりと怪奇現象を体験することになる。

 一番の問題はなぜ死の異次元空間だと呼ばれるのか。それはしごく簡単

「この空間に長くいたら死んじまうって…本当なのかな…」

 言いながら、ふと前を向くと、フッと人影が見えた。まさかまた化け物か?! と警戒したが、どうやら本当に人らしい。

 だが足元はフラフラしており、モヤがかかっているように、誰だかはっきりと見えなかった。

「す、すみません! 迷子になっちゃったんですが…」

 そう声をかけるがまるで自分の声が聞こえていないように、その人物はスタスタと歩いていく。見失ったらヤバイ。そんな考えが頭によぎった。

 何故かはわからない。しかたなく、健路はその人物の後を追った。

 角で曲がると、その人物は階段を上り始めた。よくよくみるとそこは赤い鳥居がそびえ立っており、階段が上へ上へ続いていた。神社があるのか?

 その人物は階段をフラフラ上っていく。おいおいマジかよ…と健路は思った。

「これ…上るのか?」

 かなり面倒だった。だがそれでも一人よりはマシだと健路は覚悟を決めて上っていった。途中、その人影がハッキリ見え始めるようになった。

 視界が霧で見えにくかったが、突然クリアになる。そして気がつくとその人物の後姿がハッキリと目に映った。

「兄ちゃん…?」

 そんなバカなことがあるか。いや、でも…目の前にいるのは…色素が薄くて灰色になった髪、振り向いたその顔にはメガネもあって…ただ、顔つきが引っ越した時と同じで。

 おかしい。今なら兄ちゃんは大学生のハズだ。なのに何故、高校生の姿のままなんだ?

「お前…何者だ! 兄ちゃんの格好しやがって…」

 するとそいつはフッと笑った。

「なんだ。もうバレたのか…まぁいい」

 そしてフイッとまた背中を向けて、今度は神社の敷地の入り口へと歩いていく。

「早く来い。もうすぐで時間切れになる。そうしたら帰れなくなるぞ」

 なんだ? こいつは何を知っているんだ? さっきの化け物の仲間か? それとも…。顔に出ていたのか、そんな彼の思考を、前の奴が声をかけて遮った。

「ぐちぐち考えるな。疑いをかけるのもわかるが…さっさとしないと帰れなくなると言ったろう」

「お前が…何者か話すまではうごかねぇ!」

 するとそいつは優斗の姿のまま、やれやれと首を振った。

「少なくともお前の味方だよ」

「証拠は?!」

 声を張り上げて逆らう威勢を崩さないまま健路が問うと、そいつはにっこり笑った。

「…いいかげんにしろよ?」

 笑ったが、目が笑っていなかった。

「こちとらお前がこんな面倒くさい場所に迷い込むから、必死に探し出して、『あいつら』に気づかれないように元の街に戻れるように手伝ってやってんのに…」

 ズカズカズカと歩いて、むんずと健路の首根っこをひっ捕まえると、そのままズルズルと神社の敷地内へと引っ張っていく。

「てんめっ! は、離せっ!!」

 暴れる健路だったがまるで功を成さない。

「大体、忘れられて困ってるのはこっちだっつーのに、助けて欲しいのはこっちだっつーのに…」

 ぶつぶつと文句を言うそいつは、困っているような難しい顔をし、ギロリと健路を睨む。その瞳が一瞬、猫のような瞳になって、銀色に光った。

 次の瞬間フッと首元を押さえていた手はなくなり―――

『まったく覚えてないとは…どういう了見だよおいコラ』

 そいつは黒猫の姿をしており、銀色の変わった瞳の色と、途中で裂けたような二つの尻尾と、人語を話せるということ意外は普通の黒猫の姿だった。だが残念なことに、この猫も“普通”ではなかった。

「…っ?!」

『今度は驚いて声もでないのか? まったく…さっき見てたけど腰抜けで逃げ腰なのは相変わらず変わってないよなお前』

 そしてそいつは『俺の案内はここまでだ。後はあいつにまかせる』そういいつつ、スタタと小走りに駆けて…フッとジャンプし、消えた。

「え…?」

 跡形もなくいなくなったしゃべる猫。ちょっと待て待て! と言いながら頭を抱えて少し唸り、止まっていた思考がやっと動き出した。

「えっと、色々考えなくちゃいけないことはあるんだが…」

 まず先に思考したのが、あの猫と一度どっかで出会っている。あいつは俺を助ける手助けをして、あとは…?

「誰にまかせるって?」

 辺りを見渡せども、そこは広い神社の敷地内で。人っ子一人の気配も感じられない。こんなところに一人取り残され、健路は不安になった。そしてあることを思い出し、ますます不安になった。

「もう少ししたら時間切れになる。そうしたら、帰れなくなる…」

 そう。彼は心当たりがあった。噂では時計が4時44分で止まり、その針がどうしても前に進まなかったら…タイムリミットが迫っている証拠。

 針の動く回数が早ければもう数分とたたないうちに、その世界に閉じ込められて、死ぬまでそこをさまよう事になる。

 実際に検証して確かめた人がいたらしい。その人はもう一人の仲間と無線で連絡を取り合っていたが…途中、変な化け物に襲われたらしく絶命した。と噂になっていた。

「どうしろっていうんだよ…」

 こんなところ、来たくて来たわけじゃないのに…親父のおつまみ買おうとしただけなのに……。

ほとほと困っていると、そこらへんに空気をも震わせるような鈴の音が聞こえた。


 シャラン…シャラン…


 なんだよ…今度は何が来るんだよ…ともう精神的にも肉体的にも限界が来ていた健路は、辺りを見渡した。

 すると、自分の立つ方向の数メートル先に誰かが立っていた。段々近づいてくると、同い年の女の子だとわかった。うっわぁ…美人さんだ…と健路が思ってると…。

 その子が、健路の顔を見るなり酷く驚いた表情になった。

「けん…じ…くん?」

「え…?」

 そしてその子は彼へと駆け寄り、悲しそうな顔で、しかし若干どこか嬉しそうに微笑した。思わずその笑顔にドキリとした健路はバツが悪そうに、あー、えーっと…と言いながら彼女をチラリと見た。

「変な場所にきちまったみたいで…その、おかしな話なんだけど…しゃ、しゃべる黒猫…が」

「ああ、猫又のあの子…」

「ねっ…猫又?!」

 彼が驚いたのを見て、彼女はハッと何かに気づいた。

「やっぱり…忘れてしまったのね…」

「え?」

 そしてとても悔しそうな、悲しい顔をした。少し俯き、目を閉じて…また開く。先ほどと違って彼女の青い瞳が淡く光っているような気がした。

「あなたは…『死の異次元空間』に迷い込んでしまったのね…かつては人だったものが、食われ、さ迷う悪霊と化した元、人が…あなたの強い“力”に引き寄せられてあなたは魅入られた…」

 まるで何かを“視て”いるかのように…健路をジッと淡く光る青い瞳で見つめ、そしてたんたんと何が起きたのか説明みたいなものを言う。

「だけどあなたは無意識に“力”を発動し、呪縛から逃れた…だからその悪霊は反動で消えてしまったの…でも問題がその空間からどうやって抜け出すか…だからあなたと一時的に契約を施した霊獣、猫又が危機を感じて助けるために“ここ”へ道を無理やりくっつけた」

 彼女はゆっくり息をはいて、そして吸った。スッと前へ手を伸ばし、ふっと笑った。

「もう…戻りなさい」

「ま、待っ」


 ザァァァァ……

 風が吹く。突然きた強い突風で、思わず目をつぶった。

 シャラン…と鈴の音が寂しく鳴ったような気がした。

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