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健路くんの非日常~囚われし巫女編  作者: ネムのろ
最終章 終わり良ければ全て良し!!
34/35

第三十四話 やはり己の両親は唯者じゃなかった件について

「させないわ」

 そんな声が聞こえた。聞き覚えがありすぎる、優しくて暖かい、それでいて凛としている声。

 相次いでパンッ! という風船が割れたかのような音。

『ぎゃぁぁああああ?!』

「たった三本消しただけでなんて煩いの…まったく、腰抜けね」

 恐る恐る目をあけると…。

「母…さん?」

 軽くウェーブがかったストロベリーブロンド(金髪と赤毛の混じった珍しい)色の、背中の真ん中くらいの長さの髪を持つ人。目はグレイ。

 日本人離れした髪と瞳の色。三十七だというのに二児の母でそう見えない美貌の女。

 にっこりと健路に笑いかけ、ギロリと邪神へ睨みを聞かせる己の母、友恵がそこに…邪神の拳の間と健路との間にいた。

 友恵は手を邪神へかざしていて、見れば邪神の三つの手と腕が破裂し消えている。

「遅くなっちゃってごめんなさいね?」

「…え、ちょっとまっ…え、ええぇぇぇぇ…?」

 親父に飽き足らず、母親までもが不思議能力持ってたぁ…と健路は気が気ではなかった。

 友恵はニコリと微笑み、スッと目を細めてその場所をぐるりと視線だけで見わたした。ふむ。なるほどと呟いてから、結論を出したらしい友恵が言った。

「まずは…生霊となってる京介さんね。今どうにか身体に返してあげないと…そのままだと身体が死んでしまう。」

「え?! そんな危険な状態だったのか?」

「ええ。ちょっとついてきて? 大丈夫。しばらく邪神は動けないから」

 じつは遠くで吹き飛ばされた月夜もクロたちのところに置いてある。彼らを見つめてから健路は母を見つめた。

「どうして邪神が動かないってわかるんだよ?」

 すると母はまるで二十代のようなきれいな笑顔でクスクス笑った。

「貴方って物覚え凄くいいでしょう?」

「…うん」

「私もそうなのよ?」

「え」

「一度読んだり聞いたりしただけで記憶しちゃうのね。なんていうのだったかな…瞬間記憶…? まぁそんなわけよ」

「えぇぇえええ?!」

「逆に真さんの物覚えの悪さ、優斗がちょびっとだけ受け継いじゃったのよね~。私の能力も半分受け継いでいるからめったなことじゃそうはならないけど」

「…」

 そしてよく見ると邪神の足元に見慣れない術式とお札が。それに気が付いた友恵はニッコリ笑う。

「真さんが私を助けてくれた時に覚えちゃったのよ♪」

「ハハッ…」

 自分の母親が実は最強なんじゃ…そう思えてきた健路は乾いた笑いしか出せなかった。

「友恵?! 何で来た?!」

 遠くから走ってきた息切れした真は、妻の加入でなぜか必要以上に激怒している。それを見ながらすまなさそうに笑う友恵。

「ごめんなさいね? でも、私が来ていなかったら…健路、どうなってたかしら」

 煽るようにそう言われても、愛妻家の真は強くあたれない。

「うぐっ…そ、それは…」

 ふふん。そう鼻で笑った後、友恵はねぎらうように真の頭を撫でた。

 その手は慈しみある、愛情深い手つきだった。

「くっそ…その手に弱いってわかっててやってるだろお前…っ!」

「あら? 嫌ならいますぐ止めるけれど」

「もう少しだけ撫でてください!」

 その速攻な答えにクスクス笑う友恵。しばらくして彼女はそっと京介へ移動した。そして手をかざす。するとバシュッ! という音とともに京介が消えた。かわりにそこに倒れていたのは───…。

「兄ちゃん?!」

「なるほどな…たしかに、優斗なら兄貴の魂の器になれるほどのチカラの持ち主だ」

「…そうね。」

「ちょっと待ってくれよ!! 色々聞きたいんだけど?! まずなんで母さんが戦える力持ってんの?!」

「この力は戦える力じゃないの」

「え?」

「殺す力よ」

 母のその悲し気な声と、深刻な顔つきに絶句した健路。

「コントロールできなければ…すべてを“消す(バニッシュ)”する事ができる能力なの」

「消す…?」

「そうよ。この世に存在すら残さず、一欠けらもなくなるほどの。ある時目覚めてしまって、手遅れになる前に真さんが封印してくれたの。今ではもう大丈夫なんだけどね」

 そして頬を染める。

「あの時の真さん…恰好よかったわぁ」

「…よ、よせよ友恵」

「…惚気てるところ悪いんだけどさ、もう一つ。なんで兄ちゃんがここに? 京介さんはどこに」

 すると真っ赤な顔を気合で普通に戻した真が説明する。

「兄貴は魂だったからな。優斗の力を一時的になくして元の身体に戻れるようにしただけだ。たしかにこの方法なら時間も手間もかからない。」

「へぇ…」

「優斗の力はね、もう本人には話してあるんだけど、強い霊や精霊、付喪神、九十九の神々を憑依させ、その能力を引き出せる才能があるよ」

「うっわ。面倒くさそうな能力」

「「面倒くさいわよ/ぞ」」

 そろった二人の声に、やっぱり? と聞き返す健路。父と母が笑いあった後、母である友恵は、スッと顔から笑顔を消した。


「…私ができるのは多分ここまでなんだけど」

「…え? アレ、倒してくれないのか母さん」

「言ったでしょ。私は…“倒す”んじゃなくて、“消し”ちゃうの。アレは力を奪った邪神といっても神様よ? 神殺しになっちゃう。」

 それは、人の理から外れてしまう可能性がある事を示す。神殺しは…重罪だと友恵は目を伏せながら言った。まるで何かをしっているかのように…。

 友恵は、意を決したように、ギュッと健路に色違いの黄色い透き通った鈴を持たせた。

「それは、私が家を出る前にお母さんからもらったもの。お清めの鈴。それをつかって、あなたの刀神の力を、邪神からとりもどして。そうすればアレは神ではなくなる。そこからいっきに浄化してあの世に送るのよ」

「う、ん…わかった」

 スッと立ちあがり、真っ直ぐに邪神へと歩く。そして彼は鈴を投げつけた。すると鈴が光り輝く。邪神は雄たけびを一層増したが、だんだんと小さくなり…気が付けばそいつは人型になっていた。

『く、そがぁ…っ!』

 そしてそのままその鈴は光続けて。

『ぐが、あああああ! 俺は! まだ…あの世なんぞぉぉおおおお!!』

 苦しみもがく悪霊の前に健路は立った。

「もう、いいだろ」

『くそがぁぁお前さえ! お前さえいなければぁぁあああ!』

「疲れたんじゃないのか悪霊…ソレを繰り返すことに」

『…っ!』

「なぁ…」

 ふと、健路は目を閉じる。様々なことがこの二か月起こった。色んな出会いがあった。色んな怖い目にもあった。

 でも、結構楽しかった…のかもしれない。

「もう、いいんだ。もうお前は」

 ふっと瞼を開く。その眼はどこまでも真っ直ぐで。

「赦されても、いいと思うんだよ」

『っ』

 苦しんでいた悪霊が、少し戸惑った顔をした。

「どんなに悪かろうがさ…同じに苦しんで悩んだんだから、結果がどうあれ」

 ニッと健路は無邪気に笑った。

「最後くらい、誰かに人の尊厳されてもいいんじゃないか?」

『!!』

「人間だれしも過ちを犯すからさ」

『…お前は、変なことを言う…おれが…人?』

「うん。元は人だったっていうなら人じゃん? 後から別のものになったって、元は人だったなら人間だよ…」

『だから、お前は殺そうとした俺さえ赦すって?』

「うん」

『だから…そんな言葉をくれて、このまま…休めって言ってるのか?極楽浄土に行く事を赦してくれるっていうのか?』

「んー、実を言えばそのまま消えるか、永遠にもがき苦しめって思ったりもした。でも、それじゃいつまでたっても争いなんて終わらねー…そもそもお前も恨みとかでそんなんになっちまったんだろ?十分に苦しんだなら、もういっかなって!」

 その健路の馬鹿正直で真っ直ぐな言葉に、へへっと笑う健路に、悪霊…今は浄化されて、ただの浮幽霊と化している彼は、フッと軽く笑った。

『アホだなお前』

「んだと?!」

 そして、ふっと空を仰ぎ見る。

『…そうだな。もう疲れた』

 ポツンと呟かれたその声に反応して、ポツ…ポツポツと、浮遊霊は光に包まれていく。

『最終的に、お前達と出会えてよかったかもしれないな…今までお前たちには色々迷惑かけた…すまなかった』

 浮遊霊は、また天を仰ぎみた。

『ありがとう…』

 まったく。俺みたいなどうしようもない奴まで赦すなんて、大バカ者だなお前。

 そう愚痴るように、しかし弱々しく呟いた亜悔丸(あぶまる)

『だが、それはお前の長所でもあるらしいな。大切にしろよ?』

こうして、光に包まれた元・悪霊の亜悔丸は、健路の真っ直ぐな心と言葉で、無事に成仏することができたのである。

 これで一件落着。かと思いきや…大変だったのはそのあとだった。

 次々目覚めた守護者たちや友に現状を把握できるように説明をした。

 その際、上級悪霊を弱っていたとはいえ言葉だけで成仏へ導いたお前って何者? とナオとシュウに言われ、父と母からは褒められはしたがしたたかに無茶しすぎだと怒られたりした。

 兄、優斗が起きたさいには、健路はボロボロの状態で兄へ詰め寄り完璧なお辞儀をし、兄へあの時言えなかった仲直りの言葉を送った。

 自分の状況がうまく呑み込めてなかった優斗だったが、彼も仲直りはしたかったので喜んで弟を受け入れた。

 愛美は涙を流しながらお礼を言い続けて、終いには健路に抱き着いて「大好きです!!」と告白してしまったほどで。

 それに慌てふためいて照れて、からかわれて、居ても立っても居られなくなりそこから逃走してしまったのは健路で。

「待って!! 置いてかないでー!!」

「ぎゃー! ついてくんな!!」

「邪見にしないでよ健路くーん♡」

「お前、最初出会った頃と変わりすぎだろぉおお?!」

 とまぁ、そんなこんなで愛美は普通に神社をそのまま管理し、神社の中では巫女姿で、学校(意地で健路のいる高校へ通えるようにした)へは制服姿で健路にアピールしまくることになった。

「どうしてこうなった」

 あ、俺が原因だった。

 そういいながら屋上で空を仰ぎ見る健路の眼はどこか遠い。

「でも、ま」

 ニッと笑い、背伸びをする。清々しい青い空をまぶしく見つめて深呼吸した。

「後悔はしてないから、いっか!!」

 ガタン!

「誰だ?!」

「…けんじ、くんが…爽やかにわらっ…わらっ…」

「…わかった。愛美、わかったから出てこい。隅っこで式神使って隠れながらぶつぶつ言われたら怖いから」

「健路くーん!」

 数メートル走って抱き着く。

「大好き♡」

「…っ」

 問題はコレだよなぁ…と頬を赤くしながら眠そうな目をもっと細めた健路だった。

次回予告~


後日談

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