第三十三話 解放
『うぎゃぁぁぁああああああ!!』
そんな叫び声とともに邪神が水たまりの中から出てきた。その姿は黒く淀んでいて、うまく人の形を成していなかった。
蜘蛛のような手を何本も生やし、三つの頭どれもすべて苦しそうに歪み雄たけびを上げていた。
「なん…だこりゃ…」
憎悪しか感じられないその声。その姿。
『…』
「クロ、あれが邪神の実体なのかよ…クロ?」
『すまん主…今の力では…あいつを追い出し、女の魂を清めることしか…邪神を滅することが…でき……なかった…』
ガクッと落ちそうになったクロを抱きとめると、彼はそのまま元の猫の姿へ戻ってしまった。
「神通力…空っぽになるほど無茶しやがって…」
軽く笑った健路はそっとクロを白雷のそばに置く。
「あとは、なんとか俺が…」
そういいつつ飛び立とうとした瞬間。バシィイ! という音とともに光葉と健路が分かれてしまった。
『ごめん主。あたいも…力が…』
パタリ倒れる光葉を、クロたちのそばに。
「大丈夫だ。あとは任せろ」
遠くでは邪神の力が切れて倒れた京介と、その兄の前で片膝ついている真。真の召喚した守護者たちはそれぞれその場にまだ現れる妖怪や悪霊と対峙している。
「…わぁ、俺もしかして超ピンチじゃね?」
今更である。
「なんでこうも俺の人生って波乱万丈なんだろ…」
少し遠い目をしつつ現実逃避したって許されるはずだ。だって今まで頑張ってきたもん。そしてあらためて目の前のカイブツと化した邪神を見つめる。
「お札もうないし、お清めの塩なんてずっと前につかっちまったよ…」
あ、目から海水が出てきた…。そういいながらぐしぐし袖で目元を吹く。
『ゆる、さないぃい! おま、え、ぜった、い、ころ、すぅぅうう!!』
「ひっ…!」
そして自分はふらついている。鈴も今は役目を終えたかのように動かない。戦える力はもう…健路には……ない。
『ああぁぁあぁあああぁぁぁぁぁああああ!』
いくつものでかい邪神の手が拳となって彼へ降り注ぐ。
「っ!!」
もう逃げる体力もない健路はギュッと目を閉じ、来るべき衝撃に備えるしかできなかった。
『しねぇぇぇぇええええええ!!!』