第三十一話 弟VS兄と見極める者
決して諦めることはしないその場の皆。青い空を、平和を取り戻そうと頑張る健路だったがとうとう力を使い果たしてしまう。周りを見るが誰も手を貸せる状況ではなく───…「消えろ!」健路へと迫りくる刃を止めたのは──…。
この物語はホラーでバトルものっぽくてコメディ要素ちょびっとある、前途多難、波乱万丈奇々怪々な人生の主人公、健路と愉快な仲間達の物語です。
「ちっ…これだから天才さまは…」
健路の父、真はそう疲れたように、しかし目の前の相手を睨みながら言った。
足元の浅い水たまりのようなモノのせいでピチャリと水が跳ねる。
「てめぇの攻撃、いちいち防御できない死角だから面倒くせぇ!」
「…」
ガキン! と折れた刀の代わりに氷の刀を使って相手の刀を受け流す真。もちろんその刀は今となりでフヨフヨ浮いている霜月が出してくれたものだ。
「くっそ、本気でもねぇのに何なんだよこの危ない攻撃は!!」
うつろな瞳で攻撃を仕掛け続ける京介。
そんな父と京介を遠くでチラ見し、相手の攻撃をいなしているのが健路だった。
「主!」
天狐の白雷が間に入る。
「俺が引き受ける。その間、本体を見極めてくれ」
「わ、わかった」
コクンとうなずいて距離をとる。そして。
「見極める、みきわめ…見極めるって何?!」
頭を抱えた健路。
『主』
「クロ!」
猫耳と猫しっぽだけ残して人型になっている黒吉が傍による。
『見極めるとは、十分に確認、確かめる、真偽を検討し、判定することだ。』
「…マジレスありがとう…クロ。」
「まじれす??」
「…いや、いいや。忘れてくれ」
そして改めてキッと愛美を視る。
黒く腰以上の長い髪に、血のように不気味に光る瞳はかわらず。
その長い髪には蝶々の紺色に光るカンザシ。
衣装は和装ワンピース。黒い生地に紫のオトギリソウの花模様。
「…やべ。あの衣装…ちょっとドキドキする」
『…』
呆れたような黒吉の瞳。
「な…なんだよクロその眼!」
『…いや? ただ、主も男の子なんだなぁと思っていただけだが』
「…絶対他の事も思っていただろ」
『いやいや。助平だなんて思ってないぞ。目がいやらしい。鼻の下伸ばすな。だなんて…思ってないですよ。滅相もございません』
「ほらみろ! やっぱ思っていただろ沢山! しかも敬語?!」
はぁ…と溜息をしてからまた、健路は真剣に愛美を見つめた。
上空には赤い月が光っている。
神社の敷地内が変貌していて、彼らの足回りに浅い池のような水たまりが。その水たまりは宇宙のようで。鏡のように姿を映していて。
「…あれ?」
よくよく見るとまったく同じのはずの現身が…違う?
「く、クロ! クロ!!」
ガックンガックンとクロを見ずにゆする健路。
『ゆ、らす、な、あ、るじ…!』
「あ、ご、ごめん」
『それで? なにが言いたかった?』
「あ、うん。あれ! あそこ見てくれ。愛美さんの足元!」
黒吉は健路の指さすほうを眺めてみた。
「…鏡のように反射しているはずなのに、愛美さんの姿みたいで…顔、違うんだ! 男の顔してるんだ!」
『なるほど?』
ニヤリと黒吉は不敵に笑った。
『…どうりで見つけにくいわけだ』
「なぁ、あれってもしかして」
ポフンと健路の頭に黒吉は手を置き、一撫でする。
『でかしたぞ主』
今度は印を組んで、足元に神通力を溜め込む。そして呪術らしき紋様が地面に光輝いた。その異様な力を感じ取ったのか健路が恐る恐る黒吉へ近づく。
「だ、大丈夫…なのか?」
『…少し時間を稼いでくれ。これは集中力が必勝になってくる術式でな…大がかりすぎて神通力のほとんどもってかれる上に時間もそれなりにかかる。』
健路はジッと黒吉を見つめた。黒吉もジッと見つめ返す。
揺るがない強い眼光。絶対やりとげてみせるという、強い意志が垣間見える。そんな黒吉を見て何を言っても無理だと悟った。
フッと微笑し、肩を上下させる。
「まったく…猫って飼い主に似るのか?」
『おや、自覚はしていたのか。自分が結構な頑固で石頭だと』
「誰が親父とそっくりだって?」
カラカラと笑う黒吉。
『俺はそんなこと言ってないぞ。脳内変更か主?』
「…うるさい」
ふてくされている健路を見ながらフッと笑った黒吉。
「まかせたぜ」
『任された』