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健路くんの非日常~囚われし巫女編  作者: ネムのろ
第四章 愛しい人の子
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第三十話 集う者たち

 一層赤く不気味に輝く月。その光に照らされながら足元に広がった池のような宇宙のような水面。そこに映し出されるのは自分たちの姿。

「今度は俺からいくぞ」

 そう彼女が言ったと、みんなが認識した直後。

『ふぁ?!』

『烏天狗!?』

 光葉が吹き飛んだ。

「人の心配するより」

「?!」

「自分の身を案じろ」

「ぐあぁあ!」

 今度は白雷が、大きく振りかぶられた刀で、へこみ、ひび割れた地面へめり込む。

『天狐!!』

 ニヤリと嫌な笑顔を浮かべつつ、「こんなものなのか」と邪神は問う。

「ほらほら、よそ見していると」

 またも、邪神が消えた。

「大切なものを失うぞ」

 その声がするほうを見ると、健路に向かって邪神が刀を振り下ろそうとしていた。健路も反応しきれず、驚いたままで。

 シュッという風を切る音だけがした。

『『あるじぃぃいいい!!』』

 ニヤリと邪神が笑う。

 やめろ

「しまっ」

 やめろ…

「俺の勝ちだな」

 やめてくれ!!

『逃げろ主!!』

 もう失いたく…ないんだ…っ!

 そう思っても、その言葉も、救おうと伸ばすその手がとどくはずもなく。

健路も伸ばされた手を掴もうとするがそれより先に邪神のスピードのほうが速かった。

「これでお終いだ」




「どうでしょうね?」

 瞬間、そんな声が聞こえた。穏やかな、それでいて妙に力強い声。その声がしたと同時に空間が裂ける。その衝撃で邪神の注意が逸れた。

 しめた! と言いながら白雷が動けないでいる健路を小脇に抱えて少し距離をとる。しかし邪神はそれどころではなく、己の空間を割いた人物が相当気になるようで。

「なっ…この閉ざされた場所へ亀裂を作り、入り込んだだと?!」

 邪神が驚きの声を発した。

「俺の作った空間をあっさりと…あり得ん…お前は何者だ?!」

「何者? そんな大層な者でもないのだけど」

 女性だった。腰に手をついて、ふふんと強気にニヤリと笑っている。

 衣装は軍服風の黒と赤のワンピースを着こなしていた。その眼は赤く、黒いマントを外すと現れたのはプラチナブロンドの美しい長い、長い髪。

「ただ道をつくった(・・・・)だけよ。ねぇ? 主」

「よくやってくれたな、皐月(さつき)

 その女の後ろに見える影。近づいて来るうちに建路と他の四体の守護者たちは目を見開いた。

「また、お前か」

 憎々しく吐き捨てるように邪神が言う。

「悪ぃな邪神」

 優斗と同じ色の青緑色の瞳、ストレート短髪の濡烏色の髪。紫色の袴を着こなしながら不敵に笑う男性。

「あいにく、俺の辞書に“見殺す”っつー言葉は存在しねぇんだ」

 そこに立っていたのは。

「親父?!」

「よう。苦戦しているみたいだな?」

 彼の後ろから続々と現れるのは、彼が契約している者たちで。

「健路には紹介してなかったな。この亜空間を切って道をつくってくれたのが」

「皐月。白蛇の化身よ。」

 そしてその後ろに、鬼神の如月。そしてその次に現れたのは師走。そして最後にもちろん、ナオとシュウだった。

「「無事かー! ケーン!!」」

「ナオ…シュウ!!」

 来てくれた…こんな中、無事にここまで…っ!

『…主は良い友を持ったな…』

 月夜が目を細めて微笑ましく彼らを見渡す。

「ああ…っ!」

 袖で目を覆い隠しながら健路は震える声で、しかし嬉しそうに言った。

「おれ…恵まれてるよ…っ」

 クロは己より背の高い健路の頭を優しくポンポンとたたきながら、にやりと不敵に笑った。

『感極まるのはまだ早いぞ主』

 優しく健路の背中をさすり、少しだけ回復させる天狐も、眼を鋭くし前を…邪神を見つめる。

「そうだ。その涙は最後にとっておけ」

 最後のhappy endのために。

 ぐしぐしと袖で乱暴に目元をこすって、やがて健路は顔を上げた。

「ああ…」

 そしてそこに集まった仲間たちを一人ずつ見つめる。


 父

 如月

 皐月

 師走

 ナオ

 シュウ

 黒吉

 白雷

 光葉

 月夜


 みんな、健路の元に集まってくれた。邪神を今度こそ倒すために。今度こそ本当のハッピーエンドにするために。

「お前を…倒してやる!!」

 不思議と負ける気がしなかった。それは仲間たちが集い、健路に勇気を与えたからなのか。それともたんに、みんなの元気な顔が見れて嬉しくなったからなのか。

(どっちでもいっか。だってなんか、皆がいるってだけで、力が湧いてくるんだ)

 刀を構えなおしていざ、攻撃を仕掛けるその直後。

 ニヤリと…不気味に邪神が笑ったのだ。

 途端に健路の刀が手からはじけ飛んだ。わけが分からないと前を見るとそこにいたのは。

「京介…さん?」

 いつからか、はぐれてしまった彼がそこにいた。手には彼が大切に扱っている刀。

「なにやってんだ! 刀を拾えぇぇえ!!」

 真が張り裂けんばかりの大声を出しながら霊力を解き放つ。その瞬間出てきたのが美しい水色の長髪の女性。着物は白と青。

霜月(しもつき)!! 出てきて早々わるいんだが俺の兄貴の足止め頼む!」

「…またあなたは正式な呪文なしで霊力の力技だけで呼び出しましたね?」

 フゥウウウと息を吹きかけて彼女は京介の足を凍らせた。

「霊力の物理暴力ですわ…まぁ、あなたでしか成り立たないのですが…で? この状況はなんなんですか?」

「うん、じつはだな…」


「あらまぁ。それはそれは。ご子息様、ご愁傷さまですわ。」

 と言いながらまったくそう思ってないらしく、コロコロと笑っていた。解せぬ。

「…親父、この人(?) は?」

「ああ」

 守るかのように健路の前へ出て、キッと兄をにらむ真。

「俺の契約守護者。雪女の霜月だ」

「雪女?! 雪女ってあの雪女?! 親父どんだけの奴と契約してんだよ?!」

「そんなのはどうでもいい。今は…」

 真は溜息を吐いた。

「間抜けにも敵に操られてるあのバカ兄貴を、何とかしなくちゃだめだな…あいつは俺に任せろ。お前たちは邪神の本体を見つけて粉々に粉砕しちまえ」

 ギラギラと輝く瞳は、怒りも含まれていて。

「邪神なんかに操られるバカ兄貴もそうだが…もっと腹が立つのは…」

 スッとお札を取り出して霊力を込めた。するとたちまち刀に早変わり。

「兄貴を操って俺の倅に攻撃しかけた邪神だ!!」

 言いながら彼は京介へと刀を振りかざした。清んだ金属音のぶつかる音が響く。

「目ぇ覚ましやがれバカ兄貴!!」

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