第二十七話 命ある限り
終わりそうにない戦いに次いで、健路とその守護者たちはとうとう邪神と激突する。皆の技を受けてもなお立ち上がる愛美もとい、邪神。そこで黒吉と白雷が何かに気づく。呪いに苦しむ健路をかばい、手助けする月夜と黒吉、光葉に白雷。秘儀を放つが邪神はというと…?そしてその場に集うのは──……。
この物語はホラーでバトルものっぽくてコメディ要素ちょびっとある、前途多難、波乱万丈奇々怪々な人生の主人公、健路と愉快な仲間達の物語です。
なのにこの戦いで命を落としてしまったら。愛しい愛しい、儚くも強い清き心を持つ子を今失ってしまったら。
また全て失うのは…───耐えられない。
だから彼女は叫ぶ。やめてくれと。たとえ及ばずとも一体だけでも呼び出して、徐々に倒せる可能性を見出せばいいと。
しかしその一生懸命な声を遮ったのは言わずもがな、健路だった。
「これくらいしなけりゃ…こいつには勝てないだろ!!」
覚悟を決めた男の顔で、その声もその瞳もどこまでも力強くて。キラキラ光るようで、とても…漢らしくて。
『しかしっ』
「頼むよ…月夜」
『っ』
フッと急に弱々しく、困ったような苦笑い。
ああ、そうか。主も怖いことは怖いのか。
自分に迫る死が怖いわけではない。しかし彼は何もできないで終わりを迎えるほうがよっぽど怖い。守りたかったモノ全て失うほうが…彼は何倍も怖いのだ。
『ずるいぞ主…』
その顔にわらわは弱いのに…。
その顔でお願いされてしまっては…。反論する気が失せてしまう。
『わかった。』
ならば、そんな主をわらわが守ろう。我らが守ろう。
「ありがとう月夜」
だから主は思うがまま──
『フッ。もともとお前が主なのだろう。従うまでだ』
──己が信じる路を突き進め。
「させるわけがな…『邪魔はさせぬと言ったぞ!!』…ちっ!」
顔を真剣なものにさせて健路は続きを唱える。
「この身に宿る全ての力と、魂に刻みし絆の刻印により…」
前に風が吹き、左に白い雷が走り、右に炎の渦ができ始める。
風圧と何かしらその部分にかかる重力。それらに耐えながら痛み始めた心臓あたりを手で押さえる。
はっ…と苦しく息を吸ってはいた。
苦しい
苦しい…
くるしい……。
息がうまく吸えない。
吐き気がする…。
心臓辺りが痛い。
痛くて痛くて仕方がない。
目眩がする…。
それでも。
それでも健路は踏ん張る。
息を思いっきり吸い込んで彼は声を高らかに発した。
「出でよ! 我が信じる守護者たちよ!」
瞬間、雷が鳴り響き閃光があちらこちらで飛び回るように出ては消える。風は一層増していって物を吹き飛ばす勢いだ。
炎はいわずもがな、燃やすようにとめどなくその場から吹き出る。そうして出てきたのは。
『まったく…本当に無茶な主だ』
嵐のような銀色の竜巻の中からは猫又猫神の黒吉、通称クロ。
「まぁ、こんな主だからこそ、契約したくなったのだしな」
雷が落ち、光が閃光をばらまくその場には天狐の白雷。
『むしろこんな主だからいいんだよ! あたしはどこまでもついていくよ!』
炎の渦の中から現れたのは烏天狗の光葉。
そして、今召喚されている刀神であり九尾の狐でもある月夜とで、計四体呼び出している。
『『「主の命により参上した」』』
呼び出された三体は威風堂々、そこに君臨するかのごとく覇者のオーラを漂わせて背筋をピシッとしながら、邪神をにらむ。
『『「絆の刻印により馳せ損じた! この目、この耳、この足、この力…」』』
クロは巨大化と尻尾に銀色の炎をともし、瞳も銀色にした。白雷も刀を静かに手にする。光葉は錫杖をくるりと回した。
『『「われらが命ある限り、すべてが主とともにあれ!!」』』
四体もの守護者を目にしても、邪神は怖気づくどころか、笑ってさえいた。
「ククク…」
刀を肩に乗せながら、見下すように顔を上げ、笑う。笑う。
「アハハハハハハ!! 笑わせる…数が増えたとしても俺には勝てんぞ!!」
「…ハァ…ただ数が、増えただけだと思うな、よ…」
『主!』
今にも肘を地につけそうな勢いの健路を慌てて支える月夜。
そしてその健路の肩に軽く乗ったクロは、そっと前足で健路のほっぺをトントンと優しくたたく。
その時「肉球…」と健路が呟いた。どうやらクロの肉球に不覚にもときめいたらしい。
『主…集中できそうか?』
「今は、ちょっと…」
『わかった。無理はせずに時が満ちたときやろう。』
クロとの会話についていけない他の守護者たちはなんだなんだと疑問を出すが、クロはもちろん、健路も苦笑するだけで言わない。
「ナイショだ。ただ、俺とクロとの連携プレーっていっておくぜ」
弱く言いながらニッと笑うその彼を見て、彼らはもっと覚悟を固くなものにした。
きっと痣が疼くのに。きっと呼吸するのも苦しいハズなのに、彼は笑いかけてくれる。生命の強さを感じる。まるでこちらが守られているような錯覚に陥る。
魂を…守られているようで。
だが、少しのことで限界の域を超え無茶の領域を飛び越え、さらに無謀をロケットパンチで粉砕しかねない彼はやはり危なっかしい。
だから、絶対に守ると決めた。何があっても。
「クロ…」
『満月か…』
一人と一匹は空を見つめる。瘴気にまみれたその街は空、雲が不気味な紫色に変わってしまっている。
そして、赤い月が一層怪しく輝く。
『赤い月…そうか。』
月夜が建路の傍に寄る。
『お前、力を使って月を赤くし、お前自身の力を高めて…』
「気づいたか…さすがは俺が盗んだ神通力の持ち主。」
『ちっ…』
そこでいきなり炎が邪神へと飛んできた。荒狂う竜の形をし、相手を上空数メートル運んでから体に巻き付き燃やす。
もちろんその炎の竜を出したのは…。
『秘儀・炎竜爆炎!』
錫杖を掲げながら背中の翼を使って空を飛び、見事技を当てたのは光葉だった。
「ふん! こんなもので俺がやられるか!」
少しダメージが入ったが、落ちながら邪神が刀を振り回し空間を割いた。瞬間そこからすごい数の骸骨やら手やらが襲い掛かってくる。
「壊れてしまえ!!」
なにもかも! そう叫ぶ邪神。健路だけではなくその場の皆に攻撃が届きそうなほどの広範囲の攻撃。このままでは被害が大きなものに…。健路が何かを考えようとしたその、コンマ一秒。
『「させないさ」』
そんな静かな、しかし確実に地に足をつくような力強い声が二つ感じられた。瞬間、銀色の光と白い光が交互に動いてすべてを倒してしまった。
「白雷? クロ?」