第二十四話 正体
『わらわの力を奪った悪しきものの気配だ…』
「マジで?!」
「じゃあ、まさか邪神の正体って…」
「神の力を奪った何か?」
上から順に、健路とナオとシュウが言い放った。そこに一緒にいた真は嫌な顔をした。
「…そうだったのか…だから邪神の呪いも半分解けたのか…って、まてまて! だとしたら今さっき健路が呼び出そうとした刀に宿る神の名で…邪神が」
そこまで言うと、爆発的に幽霊やら妖怪やらがあふれ出てきたらしい。
「くっそ…邪神が銀月夜に反応して暴れだしやがった!」
「ちょっと待て親父…! それってあそこに一緒にいる愛美さんは…っ」
「かなり危険な状態になっていることはたしかだ!」
「そ、そんな…」
絶望寸前の顔をした健路へ、真がニヤリと不適に笑った。
「おい。なんて顔してやがる?」
「だ、だってっ…!」
「不可能を可能にしてきた俺と、天才肌の伯父に、暖かい優しさと愛で包み込んでくれる妻が家族にいて、子供の頃から何かと奇跡を起こしてきた俺の息子が」
真はお札を何枚か取り出した。
「んな、情けない顔するんじゃねぇよ!」
あらよっと! という声とともにお札を宙にばら撒き、真は呪文を唱え始める。
「今のお前は仲間がいるじゃねぇか」
少し少ない気もするが、たしかに今、健路は仲間に恵まれている。
無理やり引き込んだ形の友人二人(ただし二人はそんな悪く思ってない様子)に、元、猫神猫又、天狐、烏天狗。
そして霊刀であり、契約したおそらく妖狐、九尾の狐であり、神の座につきながらも刀に封印されし、九十九神の一人。
彼は銀月夜を手前に持って行き、握る。その彼の瞳にはすでに迷いはなかった。その強気な瞳を見て、満足そうに真はニンマリ笑った。
「契約に従い、我の問いかけに応じよ! 出でよ! “刀神の月夜”!!」
瞬間、爆発的な何かがその街全土を覆い、一層息苦しくなる。
「瘴気が渦巻いてやがる…やはり、あいつの正体は神の力を盗んだ悪霊…それが邪神へと変わったか」
「マジかよ親父」
「刀、鞘から抜いてやれ。刀はそのままに、姿が具現化されるはずだ」
コクリとうなずいて健路が刀をシャン…とぬくと、とても綺麗な音とともに、健路のいるやく三メートル範囲にあった瘴気が消し飛び、雪のようなホタルのようなフワフワな光が漂い始めると。
『主の命により参上した』
銀色のツインテールを優雅に光らせて。その目は鋭くしかし、優しく暖かく健路を見つめて微笑んでいた。
『この目、この耳、この足、この力…そして刀神として』
紅葉があたりに舞う。
『すべてが主と共にあれ』
彼女がそう言いながら出てきた瞬間、真がポツリ呟いてしまったのだ。
「月夜に…銀月夜…そうか! 昔くそ爺が言ってた歌の中の悪霊の名前って、もしかしなくてもここの悪霊のことだったのか!」
その言葉に敏感に反応したのは月夜だった。
『お前、しっておるのか! 言え! それだけでもわらわの力を奪ったうつけ者には多大なダメージを与えることができる!』
えっと、そうそう。と真は考えて呟いた。
『亜悔丸』
言った途端に何か亀裂が走るような音。空に響いたこの世のものとは思えない喉が裂けるような、耳の膜が破かれるようなつんざく声が聞こえた。
それを聞いただけで足元がすくんで、震える。
「行け健路!」
地響きがすごくて身動きが取れない。しかしお札を貼った地面―――健路の足元―――だけは揺れていなかった。
「おやじ…?」
瞬間、苦い顔をした真は、黒い霧に襲われた。
「やっぱ名前を言い当てた俺を狙ってきやがったかっ!」
「おや…」
手を伸ばして父の手をつかもうとした。
しかし、はじかれる。ふっと笑った真を見て、事前に結界をはったのだとわかった。
目の前で飲み込まれていく真を見て、健路は恥もなく、昔おいてきたはずの父の呼び方で呼んでいた。
「父さぁぁあああん!!」
それは己が幼く感じるために無理やり変えた呼び方だった。
兄と一緒になるのが嫌で、男らしく、親父…そう呼び始めた。
その懐かしい呼び方を聞いて、真はフッと、こんな状況下なのに優しく笑った。
「心配するな…俺にも仲間は―――」
いるんだ。