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健路くんの非日常~囚われし巫女編  作者: ネムのろ
三章 父から子へ(丸投げ)
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第二十一話 最悪の事態

真、健路の父は走っていた。

そこらへんにうじゃうじゃと沸くように出てくる悪霊やら妖怪やらを退治して回る。

目的地から随分と遠ざけられてしまった。

しかたなしに契約している二人を呼び出し、一人は健路の友達へ。

もう一人は自分を手伝うために。

街は邪気や瘴気で充満し、息苦しく、普通の人たちは気絶しているか弱っている状態。

こんな危機的状況のなかでも、真は希望を捨てなかった。

「俺の倅が頑張っているんだ」

親の俺がここで折れてどうする。

はびこる周りの妖怪や暴走した土地神を睨みながら真は不適に笑ったのだった──…

 街にはびこる幽霊たち。

 そこらに溢れかえる地縛霊や怨霊や悪霊たちを、霊力で捻じ伏せては走り、また捻じ伏せては走りを繰り返していた真は苦笑した。

「まさかこんな事態に陥るとはな…」

 右から左から化け物や、凶暴化した物の怪や土地神なんかも混じっているため、見極めなければいけなかった。

 中には妖怪までもが紛れている。

 間違って土地神を殺すと、その土地や、殺した本人に呪いがかかってしまう。

 そんなのは避けたい。

 真はため息を吐きながら駆け足のまま印を組んだ。

「また使う事になろうなんてな…」

 苦い顔で彼は印を組み終えて、親しい古い友の名を呼んだ。

「来い…!『如月きさらぎ』」

 彼がそう呟くと同時に背後から大きな巨体を持った鬼が金棒を真の頭上へ振り下ろす。

「天邪鬼…いや、普通の鬼かっ!」

 真は咄嗟に避けようとしたが、仲間を呼び出すために霊力を使い、その前も悪霊を浄化するために使っていたので体力が消耗していた。

 動きが鈍くなっていてとても避けられる状況ではない。

「しまっ」

 金棒が彼の脳天へ振り下ろされる―――…

 その時。


「まったく…毎度手を煩わせる…」


 旋風が巻き起こり、次いで小さな竜巻が真の体を瞬間的に持ち上げて鬼の攻撃から彼を救った。

 竜巻が止み、真の足が地面へつくと爆風が巻き起こり、その荒々しい風の中から現れるのは鬼。女の鬼である。

 黒の美しい波立つ相当長い髪。

 その美しい髪に同じく長いまつげに、真っ赤な紅を引いた唇に、涼しそうな目元にはうっすら化粧があった。

 髪は右のほうに少しゆるくお団子をし、それをなんとも大きく派手な髪飾りで縛り、花のカンザシをつけてそしてゆるりと先っぽを下へ垂らしている。

 さらに両側に三つ編みがあり、それが端から真ん中へ続いて中央で重なっている。

 その三つ編みを黄色の水晶の髪飾りで留めている。

 着ている服は着物のような和服の上から少し鎧の部分を取り付けた女武士のようで、下は動きやすいように一分丈の黒のスパッツみたいなのを彼女は履いていた。

 半分しか着物を着込んでないような格好で、わざと着崩しているようで肩は丸出しだが、胸のギリギリで引っかかって取れない仕様。

 なんとも艶かしい色気がある鬼だった。

 その鬼が、綺麗に整っている顔を少し強気に笑い、睨むようにして真を見つめる。挑むような彼女の態度に真は苦笑した。

「正式な呪文で呼び出しな」

「すまんな…咄嗟で思い出せなかったんだ」

「言い分け嫌いだっていったろ。咄嗟で言う暇もなかったとさっさと言えばいいものを」

 スッと真の前に立つ彼女の背丈は百九十七センチくらいはある。

 体格は女らしく出る所は出ているのでナイスバディの美女だ。

「相変わらずの美人だな」

「嫌味かい?」

「…いや、褒め言葉だが」

「不思議とお前が言うと嫌味にしか聞こえない」

「ハハッなんでだろうな」

「私と友恵を比べたら?」

「そりゃ友恵さ」

 女鬼は呆れた微笑で肩をすくんだ。

「ほらね。」

 冗談はさておいて…と彼女は華奢な身体で金棒を持ち、敵を見据える。

 美人で顔も身体もいう事なしの彼女だが頭の綺麗な波立つ黒髪の中に見える二本の両側に生えてる角が、攻撃的な鋭い視線が、口の中にある二つの牙が、やはり彼女が鬼だと知らせていた。

「正確な呼び出しじゃないのに私を呼ぶなんて、あんたくらいさ」

 そしてペロリと舌をだし、引っ込める。

「久方の登場だ。存分に暴れてもいいんだろ?」

「ああ…神以外は頼む」

 そしてすぐさま、真は印を組んだ。

「おや。もう一体呼び出すのかい? 私じゃ役不足ってわけか」

「いやいや。如月は天下の鬼神さまじゃないですか」

「じゃあ何故もう一体呼ぶ必要が? 」

「息子の友達がピンチなんでね…」

 なるほどと、鬼神、如月はあたりを見渡しながら呟いた。

「そういえば…なんでこんな危機的状態になったんだい?」

 タラリと真の額から汗がにじみ出た。

「ちょっと…ドジった」

 ニッと悪気のない、しかし力なく笑う主を見ながら、如月は何かを悟って綺麗な整った顔を少し歪ませた。

 すかさず、真はもう一体呼び出すためにその名を呼ぶ。

「来てくれ…っ『師走しわす』」

 地響きが鳴った。周りを取り囲んでいた妖怪たちがバランスを取ろうとする。

 するとその輪をなぎ倒して真たちの前に現れたのは軽く二メートル半は超えているであろうガタイの良い大男。

 額に三つ目の瞳があり、ギョロリと妖怪たちを睨む。

「来てくれたか…」

「ガハハハ! やはりお前だったか真! まったく、正当な呪文でないのに呼び出せるのは指折り数えてもお前しかおらんわ!」

 そいつは豪快に笑い、あたりを見渡す。

 そこに鬼神である如月を見つけ、好戦的な笑みを浮かべながら真を睨んだ。

「相変わらずの無茶か? 今度は何やらかした?」

「お前も…俺を叱るか」

 こりゃちょっとヤバイな。と真が内心焦っていると、三つ目入道はまた豪快に笑う。

「今更叱るなんてしねぇよ。お前のそれはもはや切っても切れないだろうからな!」

「悪かったな…」

「んで? どんな状況だこれは」

「ほれ。伝達用式神。これ持ってちょいと俺の息子の友達の手助けに行ってくれ」

「また面倒な説明はコレにさせるってか。無駄使いが」

「無駄使いじゃない。時間短縮と言えよ。」

 ため息をした後、真は少し硬い表情で、意を決したように言った。

「頼んだ」

 あまりの深刻な彼のその表情を見た師走は、ハハッと笑った。

「お前の頼みを断る馬鹿は仲間にはいねぇって昔いったろうがよぉ。」

 フッと何かを思い出して、真は憂いを帯びた瞳で微笑した。

「そうだったな…」

「…倒れるんじゃねぇぞ真。最後までしっかり支えられんのはお前ぇくらいだ」

「褒め言葉ととっておく」

 そうして、厳つい師走は敵をなぎ倒しながら――少しでも敵を蹴散らして真の消耗を最小限に留めながら――その場から疾風のごとく速度で走り去っていった。

 それを見て呆れながら、如月はため息を吐く。

「まったく。相変わらず礼儀を知らない奴」

 普通、私と会ったら一言褒め言葉や挨拶くらいはしな。

 そんな不満げな彼女を見て苦笑しかこぼれない真。

「じゃあ、行こうか」

 俺達のやることは唯ひとつ。

「一匹でも減らして、健路への負担を削ることだ!」

 言いながら彼は袴の懐から長い黒い数珠を取り出す。

「そんなこったろうと思ったよ」

 流し目で見つめながら如月は好戦的な笑みで敵を睨んだ。

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