第二十話 烏天狗と仲間探し
そう言って、真は驚愕したまま固まってしまった。それを見ながら端っこで様子を伺っていた健路たちは、意を決して質問してみることにした。
「親父…いったい何が起こっているんだよ…」
「京さんも固まっちまったし…」
「何か新たな新事実が発覚でもしたんですか?」
すると、白雷がふむ。と言いながら話に割って入ってきた。
「どうやら皆は気がついてなかったようだな…」
『俺の神通力が弱まっているせいでそう感じていたと思ってたが…どうやらそうでもないみたいだな?』
白雷と黒吉はどうやら何が起こっているか理解しているらしい。
「説明してくれよクロ! 何が起こっているんだ?」
サッと黒吉にあだ名をつけた健路にびっくりしていたが、まぁ悪い気はしないなと、我らが猫さまはそのまま答え始めた。
『つまり京助は本家で幽体離脱し、生霊のままこっちまで来てしまったのだな』
「生霊?」
首をかしげた健路へ、白雷が簡単に説明した。
「生きたまま魂の一部が体の外に散歩のように出歩くのを生霊とよぶんだ」
「「「はぁぁぁあああ?!」」」
「しかも、誰かの体に憑依している状態だな…」
「ちょっ…え? まっ…えぇぇぇぇ…」
健路も何をどうすればいいのか分からなくなった。
「今回だけで何度びっくりさせられればいいのかなぁ…」
シュウは遠い目をした。
「なんか、体制ができつつあるな…」
ナオもどことなく諦め半分な顔をしている。
『またやっかいな奴を仲間にしたもんだな健路』
「いや、それ俺の意思と関係なく勝手に俺が巻き込まれていく系だからな?!」
俺は一切悪くないから! と声を出す健路。
そして、ようやく固まっていた真が自分の座っていた場所へと戻った。
「…友恵!」
「なぁに? 真さん」
「俺は実家に連絡する。お前は優斗のところへ電話してくれ」
「ええ。」
驚くでもなく、何かを聞くわけもなく、友恵は指示されたとおりに電話をかけた。その間、真も実家に電話をかけて―――怒鳴りあいがしばし続いたが―――電話を切って、少しため息をした。
「どうやら兄貴が実家で倒れて意識不明状態らしい。ここにいる兄貴は生霊と見て間違いない。しかも、ご丁寧に長南家の家宝でもある二つの霊刀を持ち出すたぁ…」
真は頭をカジカジとかきむしった。
「面倒なことがおきるぞ…ああ、それはもう本当に面倒くさいのが!!」
わなわなと両手を抱えていた頭から離す。
「それは…今はいい。家の問題なんて今は気にしない。気にしないとやってられん!」
ああ、これが世に言う開き直りなのか…と皆は暖かな目で哀れむようにして見つめていた。
「さきず、今は…愛美さんを助ける事が最善策。そのためには黒吉の猫神だった神通力を取り戻して、人型になれるまでにしないといけない」
「ええ?!クロって人型になれんの?!」
「当たり前だろうが。猫神だったんだぞ? ただ、俺が神社出て行くときに『俺も出て行こうとしてたんだ。こっから出るために協力しろ』って言われてな? それで家出したわけなんだ」
その時すぐにでも契約しておけば、力は衰えずに永続していたのだが、黒吉は頑なに契約しようとはしなかったと言うわけである。
『猫神として祭られていたときにすでに、健路のことは生まれる前から予知で見ていたからな…当然、どんな奴かもわかっていた。だからたとえ力が衰えようとも、かまわなかったんだ』
「クロ…」
その彼の言葉に、若干感動した健路だった。
「で、黒吉と契約した健路は、黒吉が神通力回復するまでに、全ての元凶である悪霊…いや…邪神と戦うための戦力を集めないといけねぇ」
「邪神と…戦うための仲間探し?!」
「ああ。今、戦力として生霊の京助、猫又であり、猫神だった黒吉、離れ神の天狐の白雷とがいる。相性とかもあるし、それぞれコントロールするのが難しいが、今のお前は上手くいってるようだな。」
だが、あの邪神相手では…まだまだ仲間が足りない…。と真は言った。
「それに、お前の友達…巻き込まれて“力”に目覚めたようだしな…」
「「ええ?!」」
真は続けた。
「ふむ。お前達は俺ができる限り鍛えてやる。」
「え…拒否権が存在しないパターンですか」
「問題は、健路が来るべき日までいったいどれくらいの出会いがあるか。」
「そうなんですね…わかってましたが…」
「仲間になるか…最終的に運まかせか…」
そこで、フリーズしていた京助が復活した。
「そういえば…私をあの学校まで導いてくれた物の怪が、今度遊びにくるといっていたぞ?」
「え? そうなんすか。その物の怪って?」
「うん。何でも…ケンくんがあの学校から抜け出せたら…契約してもいいとか言っていたなぁ…」
「マジかよ京さん!」
「その物の怪って?」
ナオとシュウが身を投げ出しながら聞くと。
『あたしよ』
バサリ…そんな羽音が聞こえた、そしてその場に舞う黒いカラスのような羽。
いつの間にか、その子は窓枠に座りながらこっちをにんまりと笑いながら見つめていた。真っ黒い髪の毛は両端だけが凄く伸びていて、他の髪は後ろで束ねて三つあみにし、髪のてっぺんには髪飾りとカンザシがあった。
薄く化粧をしており、唇に紅も引いていた。そしてその深緑の瞳はじっと健路を見つめていた。
体は人間。しかし、真っ黒い立派な翼が背中から生えている。齢十二歳に見える少女は微笑んだ。
『あんたたちがヤバイと思ったから、わざわざ強そうなそいつを持ってきたのはあたしだよ。あたしは光葉あんたと契約しにきたんだ。けんじ』
「なんで俺の名前…」
光葉は微笑んだまま言った。
『あんたの母さんの母さんが、あんたを守ってくださいって、ずっと願ってたからね…それに、あんたの母さんもずっと祈ってたんだよ。で、大天狗さまから直属であるあたしが言い渡された。ついでで根性あるかテストさせてもらった。』
「てすと?」
『そうさ。あの学校から無事出られただろ? テストは終了。』
トン。と彼女は家の中に入った。
『無事、合格さ。だからあたしの“名前”を言ったろ? さ、契約しようじゃないのさ!』
いきなり現れたチャンスを見ながら呆然としていた皆の中で、いち早く硬直が融けた真が呆れ気味に苦笑いした。
「つくづく、変なもんに好かれる体質は…友恵に似たな…」
「え?! 母さんそんな体質持ってんの?!」
そこに、あわてた様子で友恵があなた! と言いながら走ってきた。
「大変よ! 優斗が行方不明になってるって!」
「なっ!」
さすがの真も、こればっかりは平常心を保つ事ができずにうろたえた。そこで友恵が一発カツをいれて大人しくさせた。
「とにかく、優斗のことは心配しないで。私達にまかせて。健路は今、あなたにできることをやるのよ。」
その母の力強い言葉に、健路はコクリと頷いた。
「俺が今、しなくちゃいけないことは…」
改めて、そこにいるみんなを眺める。
「仲間を集めて…邪神を倒して街の呪いを解いて、愛美さんを助ける」
揺るぎないグレイの瞳が、淡く輝いたような錯覚がした。
次回、急展開!健路の父、真が怪奇化した街中を走り回る!除霊する!召喚する!
走れ真!急げ真!己の息子である健路の元へ!!
次回予告!『更なる深みあるチョコと生クリームの世界へレッツらGo!!』
こう、ご期待あれ!!
健路「ちがわい!」
真「途中までよかったんだがなぁ。」
健路「なんだよあれ!せっかくいいとこまでちゃんとできたのに!」
真「まぁそう言ってやるな。こいつはこいつでシリアルいれようと必死なんだ」
健路「…まじか?」
次回をこう、ご期待あれ!!!!
健路「ちょ…マジなのか?おい、その変な汗はなんだ。おい、おいったら!」
ご き た い あれ!!!!!!!!
健路「必死かよ…」