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健路くんの非日常~囚われし巫女編  作者: ネムのろ
一章 どんなに嘆いても日常は戻りません
2/35

第二話 幻想の神社

兄は病弱な身体でも無理やり引きずり生きようとする。

己を食らおうとするものから、逃げ続けていた───…

 今…一体なにが起こったんだ…? キョロキョロと辺りを見渡すが誰もいなければ何もない。あの化け物をのぞいては…。

『? お兄ちゃぁあん…もうちょっと降りてきてよぅ』

「ッ! あいつまだ…っ!」

 優斗は恐怖で顔が青ざめている。また来るか? 来るのか? とワナワナ震えていたが、そいつがなにかに躊躇して近づいてこないことに気がついた。優斗はずいぶん階段を上っていたらしく…鳥居のそばにいたことに気がつく。

「鳥居…」

 ドクンドクンとまだ心臓の鼓動が早すぎて、動けない。息も苦しい。だが…アレがなにかに反応して躊躇している。ならなんとかしのげそうだと優斗が思ったその瞬間、悔しがってたアレが体を切り離し、そのまま突っ込んできた。

「っ…! きた…きたっ…!!」

 己の考えがどれくらい甘かったのか思い知らされた瞬間だった。

『うふふあははぁ! 私を拒絶するお兄ちゃんはねぇ、私がねぇ、食べちゃうの! それでねぇ、ずっとずっといっしょにいるの!!』

「何いってるんだ、あいつ…」

 今まだアレは懲りることなく突進してくる。しかし何かが拒絶するかのようにバチバチと空気中で弾かれる。まるでそこに見えない壁でもあるように…。

『なんでぇ…! なんでよぉ! ずっといっしょじゃなきゃ許さないんだからぁ!』

「なに言って…っ!」

『もう一人は嫌なのぉ! 嫌なんだからぁ!!』

「っ!」

 ひとり…そうか、あいつもずっと一人で…

 可哀想だな…と、アレに同情した瞬間、一気にアレの雰囲気が一変した。激しい音がし、衝撃が回りに響く。すると鳥居が跡形もなく消滅した。

「え…」

 ズシン…と音がする。きっとあの化け物だ…そう思ってはいても優斗には前を見る勇気が出ない。


 ズリ…

 ズリ…

 ズリ…

 ズリズチャリ……


 気色悪い音が聞こえてきて、先ほどの壁のようなものが消えているのだ…と気がつくのに時間はかからなかった。

まだ自分は危機的状況にいる…恐ろしい音や唸り声がし続ける後ろを振り向かずに、彼は息切れしながらも立ち上がった。

「な、なんか知らないけど…」

 ここにいたら…やばい!

 言いつつ優斗は今自分ができる限りのスピードで階段を登っていく。アレはまだ諦めていないと…未だに自分を殺しにかかっているような気がしたのだ。

 そしてその直感は当たっている。

 殺気を振りまき耳が痛いほどの雄たけびを放ちながら、巨体と顔だけになり巨大化した彼女がまたも迫ってくる。

「なん…なんだよ…! いい加減に…して…くれ…よ…っ!!」

 息も絶え絶えに叫ぶことすらままならない状況。ズキリ…ズキリと痛む胸、そしてうまく呼吸できない状況で、彼はひたすら登っていた。


 痛い…

 痛い…!

 苦しい…苦しい…!

 それでも登らなければ…

 登らなければ、足元に今にも追いつきそうなアレが…っ!


 見れば前のほうにもうひとつの鳥居があった。だがその前には永遠と続くかのような階段。登っても登っても登っても登っても登っても登っても…。

 一向に辿り着けない。

 息があがる。

 ドクン…ドクン…と脈打つ心臓の音が耳元まで聞こえるようで…ハァ…ハァ…っ。と息づく彼の苦しそうな吐息。

「……っ」

 ヒュッと喉が鳴る。…やはり病弱の優斗の息が続かない。

「誰か…助け…っ」

 足首がまた黒い手につかまれ、優斗がズルリと下へ引っ張られた。

「ーーー!!」

 彼の恐怖に染まった顔は思わず目の前まで迫っていたアレを直視するハメになり…優斗は声にならない叫び声をあげた。はたしてそれは音と呼べるものだったかさえ分からない。

 その時。


 シャラン…


 何処からともなく、いくつもの鈴の綺麗な音が響いた。

 そしてフッとそこに少女が現れる。きっと己の弟と同い年の…

 長いサラサラな黒髪に淡く光るような青色の瞳。白銀の生地の着物を着こなし、フワリと軽い動作で優斗の側を素通りした。

「この地に縛られし悪霊よ…」

 静かな声が響く。

 スッとその白い手を、その子が前へ突き出す。

『お姉ちゃん邪魔するの? お姉ちゃんの目はいらないや…だから死んじゃえ!!』

 悪霊といわれた半透明の子は体を引き寄せバウンドさせながらでかくなった頭と体を、その白い子へ体当たりで攻撃した。その瞬間―――…

「滅せよ」


 バシュッ!


 白い子の広げた手前に当たり、そのまま跡形もなく消えてしまった。

「…もう、大丈夫」

「っ」

 彼女はポツリとそう呟くと上へと登り始める。優斗は一生懸命息を吸い込み吐いてを繰り返して少し整えてから声を発した。震え声だったが今度は上手く出てきてくれた。

「っ…まっ…待って…!」

 ピタリと止まった彼女は振り向きもしなかった。しかし意図的に聞く気はあるらしく、優斗が息を整え終わるまで待っていてくれた。

「た、助けてくれてありがとう…えと、さっきのは」

「悪霊」

「あ、あくりょう?! 俺、はじめて見たんだけど…」

「正確には地縛霊…あなたのマイナスエネルギーに同調してしまい、あなたが拒絶反応を起こしたために自我が保てなくなり、暴走…あなたの目を狙ったの…」

「そ、そうか…」

 きっと、彼女が言っていることは正しい。何故なら先ほど、あの悪霊が言っていたことがひっかかったからだ。

 彼女の説明を元に簡単に言えば、あの悪霊は戦後まもなく亡くなったおかっぱ頭の女の子の霊で、孤独の中、寂しく亡くなってしまったのだ。

 迎えに来てくれなかった兄への親愛がいつしかひん曲がり、恨み憎しみへと変わり、彼女は悪霊へ変貌しそれ以来、兄と同じような年齢の男子を迷わせ惑わせ、精神的に弱らせてから身体も魂も食っていた。

 あのままだったら確実に優斗も食われていたのだ。彼はあらためて背筋が凍ったのを感じた。

「あの、と、鳥居が壊れてしまったけど…いったいどうしてなんだ? それとさっき、鳥居の側にいたらなんかこう、助かったんだけど…それはどうして」

「鳥居は…結界の働きもしているから…邪悪なものだったら弾かれるの」

「そ、そうか…だからあの時…」

 彼女はもういいだろうと言うかのように歩を進めた。

「あ、あのっ! 立派な鳥居が粉々になっちゃったけど…!」

「気にしないで…」

 彼女はフワリフワリと、重力に逆らうかのように上へ上へ登っていく。

「後でまた…修復するから」

「っ! ま、待って…! 君は誰なんだ? この神社はなんの神様を祀ってるんだ?!」

 そこで彼女は振り返る。青い瞳が―――…淡く光ったような気がした。

「ここは普通の人が見つけられるような神社じゃない」

 風がザァァアと吹く。すると、彼女の身に着けている着物が揺れて、アクセサリーとしてつけているような金属音とともに、シャランと鈴の音が聞こえる。

「この神社へは二度と来られないようにする…」

「ま、待って! 君は一体なにもの…!」


 シャランシャラン。


 鈴の音が響き渡る。


 ザァァァアアア…と木々が揺れる。


「私は…白霊子(はくれいこ)の役割を担うはずだった者…」

 彼女がそう言った途端に風が吹き荒れて思わず目をつぶった。

 そして急に静かになり、目を開くと…

「あ…あれっ?!」

 そこには神社へ続く階段も、鳥居も、道も、あの女の子さえ見当たらなかった。綺麗サッパリ全て幻のように消えてしまったのだ。

「幻…」

 そこで優斗は思い出した。母親の知り合いが話していた都市伝説を。

「幻のように消える神社…【幻想の神社】?!」

 まさか自分が体験しようとは…一瞬ゆめだったのでは? とも思ったがどうやら違う。何故なら心臓はまだ鼓動が早かったし、なによりもの証拠が…。

「…!!」

 つかまれた足首や手首に思いっきり誰かの手で握られたかのような青い痣があったからだ。

「マジか…マジなのか今の出来事…」

 グルグルと考えても、分からない。理屈が現実に追いつけない。はぁ…何かを食べよう…。優斗はフラリと弱々しくカフェへ入って、とりあえず甘さ控えめの抹茶ゼリーとかぼちゃクッキーと野菜ジュースを頼んだ。


 その出来事の後、妙に体が軽くなった優斗は、落ち着いてから少しお買い物をした後で、まっすぐに家へ帰っていった。もちろん変な視線や気配は感じられなかった。

 さて? どうする自分。親に話すか? いやでも信じないだろ。と自問自答に明け暮れてしまい、気がつけば知り合いのおばさんで、家の主でもある、水梨(みずなし)国子(くにこ)さんが帰ってきていて、夕飯を作り終えて優斗を呼びにきていた。

~次回予告~


やっと物語の主人公である、健路にスポットライトが当たる。

何かを知ってそうな両親とは裏腹に、何も知らない彼が買い物に行くと、どこかに迷い込んでしまって…?


次回、『サラバ日常』

涙目の主人公にこうご期待!

主人公「ふざけるなぁああああ!!!!」

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