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健路くんの非日常~囚われし巫女編  作者: ネムのろ
三章 父から子へ(丸投げ)
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第十八話 引退した理由

 さも、彼らがそこに現れるのが分かっていたかのように。ごく普通に驚きもせず。普通に接している。廊下から居間へと入ったみんなは、一応そこに座った。

「…そ、それが命からがら帰ってきた瀕死の息子に言う言葉かよ…」

 と健路が文句を言うが、ハッと彼は笑った。

「瀕死の奴が、んなこと言う分けないだろーが…そもそも、お前があんな学校の捻じ曲がった世界で死ぬなんて有り得ないだろう」

 そう自信満々に言う真を見て驚いた顔のまま、ナオが口を開く。

「え…な、なんでそんなこと言い切れるんスか?」

「もしかしたらって、あるかもしれないのに」

「はぁ? んな事あるわけがねぇだろう」

 堂々と、彼は言い切った。

「俺と友恵の息子だぞ」

「わぁ…」

「…お前の親父さん、すっげぇなケン」

『愛されてるじゃないか主』

「ご馳走様だな」

 いきなりの賛美に、いたたまれなくなり、顔を真っ赤にさせて伏せる健路。これ見よがしに健路を弄る皆を見ながら、真はため息をはいた。

「で? どうしてお前までここにいるんだよ天狐の白雷」

「久しいな真。」

 スッと優美に立ち上がり、真へと近づいた白雷は、穏やかな笑顔のまま真のほっぺをつねった。

「あいでででででで?!」

「息子にいらぬことを言っていたのはどの口だ? ん、この口だな?」

「いってー!!何するんだいきなり!」

 そこでやっと真のほっぺを離した白雷が語りはじめた。


「あー…それはすまない…まさか健路が覚えているとは…それより、よかったじゃないか健路。記憶が少しでも戻って」

 嬉しそうに微笑む父親を見ながら、健路は意を決して口を開いた。

「親父…そろそろ語ってほしいんだ…俺に、何が起きたんだ?」

「あと、この街に一体何が起きているのかも含めて、伺いたい…」

 京助が言うと、ん? と彼へ顔を向けた真は、あからさまにマズイ! という顔をしながら、ゲッ…と言った。

「お、お前…まさかとは思うが…」

「その、まさか。」

 にっこりと穏やかに微笑む京助は、しかし目が笑っていなかった。

 ガッターン! と立ち上がりながら京助と距離を取る真。

「な、なななんでお前がここに…?」

「不思議なめぐり合わせだろう? 私も君の息子の名前を聞いたとき驚いて固まってしまったよ」

 ハハハ。そう笑う彼は、今度こそ愉快そうだった。

「え? 親父と京さんって知り合いなのか?」

 と健路が聞けば何故か妙に言葉を濁す真。そんな彼を見て、とうとう堪忍袋の緒が切れた健路は詰め寄って、強く彼に聞く。

「親父! もう隠し事はなしだ!」

『さっさと吐いちまえよ真』

「そうだな…俺も幾年か捕まっていたんだ…なにか知っているのなら隠さず洗いざらい吐いてもらおうか」

 その、弱点(ムスコ&ネコ)と天狐の白雷の迫り来る圧力に、とうとう手を上げ降参する真。

「わかったから、頼むから雷は落とさないでくれ天狐。あと、クロはあとで肉球さわらせて…京助とのことは…話す。話すからそんな怖い顔すんな」

 そう言うと、彼はため息をついて、しぶしぶ話し始めた。

「そうさなぁ…あれは俺達がこの街に引っ越して間もない時期だったな。この街には他と変わらないくらいの悪霊しかいなかった頃だ。俺は今の仕事、クラウドソーシングをやる前は霊能力を生かした仕事をしてた」


 おかしくなり始めたのは、健路が生まれて丁度の頃だった。ここの近所に、白霊廟ともよばれるその神社があった。仙石一家がそこを修めていてな。そこが悪霊に狙われたのが始まりだった。

 まぁ、唯ではやられないのが仙石一家だったんだがな。悪霊と、仙石一家は長年戦い続けていた。そうして幾年かがすぎた。

 白霊廟の神社は仙石一家の一番霊力の強い奴が白霊子となり、霊を治め清める仕事をしていたが…次世代交代になったんだ。

 いつもは強靭な結界も、次世代交代の時だけ弱まる。そこを悪霊はつけいれようとしたんだ。

 もっとも、仙石一家と縁のあった霊能力者たち全員が収集をうけてな。準備は万端だった。しかし、誤算があった。

 悪霊の力を甘く見すぎたんだ。悪霊は、そんじょそこらの悪霊ではなく…一種の邪神…神が堕ちて邪悪になったものだった。

 壮絶な戦いだったよ。色んな力ある霊能力者たちが次々倒れていく様はある種のホラー映画だったな。

 あ、ちなみに、俺も呼ばれてそこへいったんだ。昔っから面倒ごとに首つっこむ癖があってな…。

 本当、自分の甘さゆえにその先、悲劇が起こるなんて、思いもしなかった。

 そこに、俺の後をこっそりついてた奴がいただなんて…思いもしなかったんだ。


「…」

「親父…?」

 急に深く顔に影を作り、ゲンドウポーズをとりながら、深く反省したような顔をし、押し黙った真に、疑問を持ちつつ呼びかけてみると、真はため息を吐いた。

 深い深い、ため息だった。

「後悔してる。だが、それは俺の過ちであって、誰のせいでもない…」

 そして彼は続けた。


 優斗は十二、健路が十歳の時だ。その日が一番危ない日、結界が弱くなる日だった。

 俺はいつものように泣き喚く健路を優斗に押し付けて、仕事中の友恵に連絡をし、神社へ走った。

 そこそこ霊力のあるおかげで、色んな事が起きても対応できた。そもそも長南一家の中で神社を受け継ぐはずだった俺がいたんだし…悪いようにはならないハズだったんだ。だが…俺は自信過剰すぎた。

 悪霊と対等に戦ってたから、あの場に…優斗と健路が迷い込んでたなんて…思いもしなかったんだ…。気づいて守って、戦って…。

 俺は悪霊と戦いながらお前達を守るのに必死だった。他の仲間へ援助として差し向けた霊獣たちがいなかったらきっと全滅だったな。

 そして…焦り始めた俺に隙ができちまった。本当、油断した…。攻撃を受けて少しお前達から離れた瞬間に…事が起こっちまった…。優斗が…悪霊に体を乗っ取られちまったんだ。

 悪霊は歓喜した。霊力が溢れる身体を手にしただけでなく、その場で一番強かったおれ自身が攻撃できない。まさに最強の盾。

 優斗は生まれた時から特殊な体質でな。身体が弱く霊など憑依しやすい身体なんだ。鍛えればそんじょそこらの悪霊なんて乗り移れない。

 そもそも本来その力は、神や精霊をその身に意図的に宿し、力を借りるときに使う能力だ。

 だが、優斗は身体が弱くてな。あまり厳しく修行させることができなかった。

 そこをつけ込まれた…。俺は、手も足もでなかった。そんなとき、健路が…。まだ十歳だった健路が泣きながら兄にすがった。

 吹き飛ばされて、あいつは気がついた。兄の中に“何か”がいると。

「兄ちゃんの中から出てけ…」

『ああ?! 貴様になにができる小僧?! 今ここで、兄の手で八つ裂きにしてくれるわ!!』

「やめろ! 逃げろ健路ぃぃいいい!!」

 俺がそう叫んだ直後、健路はまだ習ってもいないはずの、自分の霊力をつかって…悪霊を兄の身体から出した。

 それだけに留まらずに、あの悪霊へ、とんでもない霊力をぶつけた。怒りがトリガーとなったんだろうな…。

 なんせ、子供の癖に異様に高い霊力。荒作業で兄から悪霊を取り出すカリスマ性。なによりそれら全て、“無意識”で成功させちまったんだから…。

 悪霊は恐れおののき、恐怖した。もしかしたらこいつは将来自分を消滅させるんじゃないかってな。

 だからこそ、健路を集中的に抹殺するために、攻撃し、死の呪いを…心臓に…。

 それがきっかけで、健路は記憶がぶっ飛んで、霊力も殆ど封じられた。身体はどんどん冷えていき、お前は死へと進んでいった…。

 俺はどうするかオロオロするしかなかった…自分を責めて、責めて…気がつくと、周りの皆はすでに、ほとんど息がなかった。

 絶望的だった。俺の精神は繊細な術を操れるほど回復してなかった。もう駄目だと思った。そんな時だった。あの子が…親から受け継ぐはずの家業を、受け継ぎ終わって出てきたんだ。

 親が死に掛けてたが、決死の想いで彼女に最後の業を受け継がせることに成功したらしかった。親の命と引き換えにな…。

「我が名は『仙石愛美』我の名を聞きし悪に染まりし神よ踏み止まれ」

 その子が言霊で悪霊を縛り、意を決した顔でこちらをちらりと伺った。青い瞳が光って、俺に意思を伝えた。

 俺は、健路と同い年のあの子がそんなことを覚悟するなんて…信じられなかった。あまりにも過酷な運命を背負った小さい身…。

 いつかかならず、彼女を助けることを決意し、俺はひとまずお前達を連れてそこから脱出した。まぁ、それは叶わなかったが…後で健路に丸投げした。


「ちょっと待て親父! 俺に丸投げってどういうことだよ?!」

「…そのまんまの意味だが?」

「はぁ?! ふざけんな!」

「話を戻そう。」

「無視すんなっ!」


 彼女がしたことは…白霊子の最終奥義とでも言えばいいのか。自分の中に一時的に悪霊を封じ、その間に素早く神社への道そのものを現世から切り離すこと。

 空間を捻じ曲げたんだ。誰でもできることじゃない。ましてや十歳の、女の子がすることじゃない。一時的に悪霊を身体の中に入れるということは、魂を少し汚すことと同じだ。

 よって、神社自体が悪霊を封じる巨大な封印になったはいいが…。愛美さんの魂の汚された部分により、霊力が弱まり結界が衰える時期があるんだ。

 そのせいで悪霊の力は他の悪霊を呼び、引き寄せ、負の連鎖が起きて…。俺達の住む街はその悪霊がいるかぎり…奇怪な出来事が起こり続ける呪われた街と化したんだ。

 俺は自分の未熟さを思いしった。あんな幼い少女にあんな重たい重荷をかせて…一緒に戦ってきた仲間達はほとんど死に絶えて―――…。

 目の前が真っ暗になりそうになったときに、腕に抱きかかえた健路の息が弱くなっていることに気がついた。

 それを心配そうに眺めていたのは俺の背中にひっついて、泣きながら健路に一生懸命話しかける優斗の姿。

 弱々しく、細く目を開けて、うっすら笑いかけてくれた健路を、それを見ながら、「今度は俺が健路を守るからね! だから早く元気になってね!」と言って笑いあうお前達を見て…親の俺が今、しっかりしないでどうするって思った。

 できなかった事をいつまでもクヨクヨしている暇なんてない。俺は…せめて守れた命を―――繋ぎ止めなくちゃいけない。

 死の呪いからなんとしてでも、健路を救う。今できることを…やるんだと。お前達兄弟を見て思ったよ。決心がついたんだ。

 自分の息子達に、俺が励まされた。前を向けさせられた。

 だから俺は、俺の犯した過ちを認め、霊能者家業から手を引いた。それでも霊獣たち…俺の相棒達は俺についてきてくれると言ってくれた。

 それからは仕事探しと、むりやりこじ開けられた優斗の能力の制御の修行と、お前へ霊力の殆どを毎日身体へおくり、傷を癒しつつ、能力も封じていた。

 もし治療している間に何かあったら命の保障はないからな…。繊細なコントロールが必要だったなぁ…。

 結果的にその間に健路は逞しく育ってくれたし、優斗も心優しい立派な青年へ育ってくれた。俺としては万々歳だ。

 ただ、この土地が呪われている以上、悪霊がうじゃうじゃいることには変わりない。俺はお前達の治療と修行+目に留まる人々をそっと影から助けることにした。

 悪霊がいて、身体が弱い優斗にはキツイと思ったから、信頼ある場所へ引越しさせた。少しでも身体がよくなるようにな。

 最初のころ、お前の治療や、優斗の修行を同時進行でやり始めたときはキツかったなぁ…なんせ三日たつと霊力が零にちかくなるほどだった。それでも頑張れたのは…お前達、家族のおかげなんだ…。

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