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健路くんの非日常~囚われし巫女編  作者: ネムのろ
三章 父から子へ(丸投げ)
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第十七話 天狐

 そこで健路が待ったをかけた。

「普通よく聞くのが九尾の狐なんだけど…尾が多いほうが偉いとか強いとかじゃないのか?」

「最近ではそのように思われているが、妖狐の最終形態が九尾の狐。善狐に関しては話が違うんだ。」

「善狐?」

「早い話が良い行いをする狐ってこと。悪いほうのは悪狐と呼ばれるね。」

 そしてファサリファサリ優雅に動く四本の綺麗な真っ白く輝くモフモフの尻尾を見つめる。まさかとは思ったが…本当に…とか京助が語り始めた。

「天狐は尾が四本、空狐は零本というように尾の数が減っていき、最終形態が空弧になるんだ。その時点で尾はなくなる。神に近づくにつれて狐の姿を保つ意味がなくなったからといわれてるよ」

「京さん詳しいんだな…」

「そっちに関してベテランって言ってたもんね」

「へぇ~。てっきり尾の数が強さの証てきなものかと…」

 そこでワナワナと震え始める京助。

「お、俺はさっきまでそんなお方と…戦ってたのかっ…!」

「だ、大丈夫? 京さーん…」

「放心しかかってるぞ…」

「なんて…なんて…」

 京助はプルプル震えていた。そして上を向く。

「なんて光栄なことなんだろうかっ!」

 おもに喜びで震えていた。それを見ていっせいに場のみんなはコケた。

「恐れおののいて震えてたんじゃないんかいっ!」

 気持ちいいほどの健路のツッコミが冴え渡る。

 それに反してコテンと首をかしげた京助。

「え? だってこんな事滅多にないじゃないか?」

 もう好きにしたらええ。と半ば諦め半分になったナオとシュウだった。

 様々に感想をのべていると、相手の白い彼がニッコリ微笑んだ。

「人は見かけによらないなぁ。」

 さて…。と白い彼あらためまして、白い天弧の彼は話題を切り替えた。

「縛られていても伊達に神ではない。頭痛くらいは治してやれるぞ」

 言いながら健路の頭に神通力を使う。淡い白い光が輝いて―――…

「…治った」

 ふぉおおお! すっげー! と感動で目がキラキラ輝く健路。見るからに頭痛に悩まされていたようだ。

「で? この場の収集はどうするんだ? すでにお前に皆は丸投げたが…」

 長身の天弧がそう言いながら健路を見つめる。健路はうーん…と唸り、考えて考えて…そして、ハッとした顔になった。

「あ、そうだ。親父ならなにか分かるかもしれない!」

「…は?」

 あまりにも予想外の答えに、さすがの天弧も目を点にしてしまった。

「今、あんたが使った力…神様の力だろ? なんかそのおかげで…思い出せなかった記憶の欠片っつーの? それ、少し思い出したんだ! あんた、昔俺の親父と会ってるんだよ!」

 息つく暇もなくいっきにまくし立てるように言い切った健路。それに圧倒されて言葉も出ない天弧とその他多数。

「俺が…五、六歳ごろかな? 親父言ってた。『さすがに妻を持つ、しかもそこらへんを回ってる離れ神なんていう、気がコロコロ移り変わる奴とは契約したくはないしなぁ』って!」

 興奮冷めやらぬ態度で、健路は一気に言った。今の健路は己の父はやはり凄い霊能力者だったと気持ちが高ぶっている。

 あの父が…こんな神様と面接があったとは驚きとともに凄い事なのだと、彼でも理解した上での、反応だった。

「契約…? まさかお前は、あいつの…息子か?」

 吃驚しながら聞き返す天弧を華麗に無視して、健路は興奮したそのままの熱で、続行した。

「あんたの名前、聞いたことある! 親父が何回か言ってた!『気にくわねぇ奴だった』とか、『すかした無駄な美人やろうが』とか!」

 ピキッと青筋が天弧の頭に。

「ほう…?」

 健路は今ので完全に自分の父親にフラグが立ったのに気づいていない。

「是非とも、お前の父親に会いたいものだなぁ…?」

「ああ! 解放されたら会いにいってくれよ! きっと親父も喜ぶ!」

 それを少し後ずさりながら聞いていた残りの三人はというと。

「ねぇ、あれってもしかして…ケンのお父さんが天弧さんの怒りに触れたって気づいてないパターン?」

 そっとシュウが耳打ちすると、ナオがコクリと頷いた。

「ああ…絶対気づいてねぇ。」

「あれで気づかないのか…なんというか…たいした者だなケンくんは」

 驚く京助と、ひそひそ会話を続ける。

「ケンのやつも合わせて俺達がバカトリオって呼ばれてんの…なんか納得しちまったよ俺。悔しいけど」

「僕も痛いほどわかったよ…嫌だけど」

「なるほどなぁ…」

 そんな三人を横に置いて、急にウキウキし出した健路はニッコリ笑う。

「これで、きっと自由になれるぜ。」

「ああ…では、頼もうか」

 穏やかに天弧は笑い返した。何故か二人の間にほのかに友情が芽生え始めたような気がするのは、きっと気のせいではない。

 急に、赤い月が一層深く赤く輝く。

「早くしたほうがいいぞ。あの悪霊の奴が気づいたら、皆死ぬ」

「そ、そこまで凶悪なのその悪霊?!」

「詳しいことは後だ」

『そうだな…色々とあの真バカにも聞いておいたほうがいい事もあるしな…』

 いつの間にか普通の猫サイズになって、尻尾の炎も消え、普通の黄色の目をした黒吉がポツリと呟いた。


「では、いきます!」

「ああ…」

 最後の塩を全員天弧に吹きかけて、残ったお札を地面に貼り付けた健路は、手を見よう見真似で組んだ。

「ん? その組手は…」

「親父のを見よう見真似で!」

「はははっ! つくづく…お前は若い頃のあいつに似てないな」

「へっ?」

「あいつは物覚えが極端に悪くてな…まぁ、霊力は普通の人間より十数倍あったから見込みはあったんだ。色々教えたなぁ…懐かしいものよ」

 それを聴いた瞬間、健路はワナワナと震えた。

「…おやじ…自分はさも優秀でした感出してたくせに、ドベだったのかよ!」

 ちっくしょ! 俺の感動返しやがれ! と健路は空に叫ぶ。彼が抱きかけていた父への尊敬の念は消えてしまったみたいだ。

「親の威厳を保ちたいのだろう? 今はよしとして、さっさとしないと時間切れだ」

「そ、それもそうだな…じゃあ、あらためて!」

 健路は集中するために目を閉じた。

「汝の囚われし身を、囚われし力を解放し、汝の名を今一度、再び解き放つ」

 天弧の周りで空気の渦が発生し、後に静まると何処からともなく地響きと雷が鳴る。

「天弧さんが現れたときと同じだ!」

「囚われの身だったのか…」

 京助が難しい顔をする。

「しかも、誰かに名を言ってもらわないと解けない強力なものだ…こんな呪縛、半端なものが解けるわけないじゃないか…」

『そうだな…しかもあいつほどの力の神を簡単に絡めとる悪霊…アレしか思い当たらないな…』

 そう黒吉が呟くと、そういえば! とシュウが気がついた。

「結局ここを支配している悪霊ってここにいないんですか?」

『ああ。いない。あの天弧にまかせっきりにしてたんだろうな。どうせ解けるハズがないと』

「で、でもよぉ…そんなに強力な呪縛を…さっきまでフラフラだったケンに解けると思うか?」

 心配そうにナオがそう聞くと、フフン。と黒吉は鼻で笑った。

『俺が選んだ主だぞ?』

 自慢げに、誇らしげに黒吉が言う。

『あいつはやりとげる』

 そう彼が言うと、復唱が終わった健路は声高らかに叫んだ。

「我、健路の名の下に、天弧、『白雷はくらい』を解き放たん!!」

 そう聞こえた瞬間、地震が起こり、天が割れ、赤い月が光を失っていく。

「うわわわわぁ!」

「世界が…崩壊している…?!」

「いや、これは…」

 京助が天弧のほうを見る。彼は宙に浮きながら、まっすぐ嬉しそうに健路を見つめていた。天弧の周りは白い花弁が舞っていて。

 彼の周りが神々しく光っていて。

 綺麗な宝石のようにキラキラ光る黄色い目を細め、天狐、白雷は口角をあげながら微笑んだ。


「見事なり。人の子よ」


 そう、嬉しそうに、そして辺りに静かに響く声が聞こえた。それにより、成功したのだと確信した京助が、説明を続ける。

「天弧が呪縛から解放されたために起こった現象だ…歪んだ空間が消滅する。」

「それって、学校でおかしなことが起こらなくなるってこと?!」

「元の場所に帰れるってことか!!?」

 二人の質問に、力強くコクリと頷いた京助。

「だが、このままだと落ちて呑まれる…そうしたら一生元の場所に帰れない!」

「ええ?!」

「どうすりゃいいんだよ?!」

『慌てるな』

 あわてふためく三人だったが、黒吉の声にシン…と静まり返った。

『俺の主を信じろ』

 その声は決して強くなく、弱くもなく。ただ、シン…と場を静まりかえすような威圧と、黒吉の健路への信頼が感じとれた。

 猫又で、かつては神と祭られていた黒吉の信頼を得てしまった健路。そしてきっと、今度は狐神…天狐の白雷の信頼さえも会得してしまった。

 本当に、何者なんだ…。

 そしてその健路を見れば、天弧と手を取り、その天弧が近寄ってきていた。そして皆を浮かせて、空に亀裂を生むと、颯爽とその場から姿を消した。

 皆が気づけば、どこをどうしたのか健路の家の中にいて。ドタドタドタと狭い廊下にぎゅう詰めになって現れた。


 居間にお茶を飲んでいた健路の父親、真は本をパタリとしまって、机に置いた。

「まったくお前達は…」

 眼鏡を外し、それを本の上に置くと、ずずっとお茶を啜った。

「場所を選ばんか」

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