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健路くんの非日常~囚われし巫女編  作者: ネムのろ
二章 悪夢再び
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第十四話 出会い~本物の強者~

彼らの目の前に現れたのは、敵か味方か。一人の着物を着こんだ刀を腰に差した男だった。ニコリと微笑みながら彼は言う。勇敢な若者たちだと。そして彼らは気が付く。彼が背中に背負っているのは、まさかの…?

「おお。威勢がいいなぁ」

「「?!」」

 第三者の声が聞こえて、すぐさま身構える二人。

「あはは。そんなに警戒しなくてもいい。私は君達の味方だよ」

 優しげにニコニコ笑う、どこか暖かな雰囲気を醸し出す、二十代半ばの着物を着た男―――…

 瞳の色は緑色。着物は紺色で白い狐模様で、妙に彼の雰囲気に似合っている。

 身長は百七十八くらいだろうか。

 セミロングっぽい黒髪を後ろのほうでゆるくしばっており、顔は整っているが優男な感じだ。物腰もやわらかい。温厚な瞳が場を和ませる。

 彼は穏やかに笑いながら口を開いた。

「私の名前は真田京助(さなだきょうすけ)

 君達は? と聞いてくるが、一向に二人は警戒心を解かない。

「まいったなぁ。へんな歪みが発生しているから、わざわざ人がいるか確かめにここまで来たんだけどなぁ…」

「え?! あなたは故意にここまで?」

「そうだよ。」

「戻れなくなるかもしれない場所になんでまた…」

 すると、京助はクスリと笑った。

「いやいや。戻れるから入ったんだ」

「「へ?」」

「でなければ応援を呼ぶさ。そうでなければこんな場所へ一人で乗り込むなんてしない」

 ニッコリと、フワリと言う様はその場にはとても似つかわしくなく、怖がっていないことが分かる。余裕? それとも。

「もしかして…誰かに頼まれた…とか?」

「いんや? 私の単独行動だが」

 ガクッ。と健路とナオはコケた。

「そ、それで…ここまでよく無事にこれましたね…」

「ん? そうさなぁ。道中色んな連中が襲い掛かってきたが、ちぎっては投げ、ちぎっては投げたな」

「え、ええぇぇぇ…」

「俺達、一匹一匹倒すのに、ギリギリの命がけだったのに…」

「ハハハ! 経験のたまものだな」

 そこで、ナオはハタと気がついた。

「あの、その背中にしょってるのってまさか…!」

「ああ、絵から半分飛び出した悪霊に食べられそうだったから、助けたんだ。知り合いかい?」

「シュウ!!」

「親友です!」

 よかったぁ! と言いながら涙ぐむ二人を見て、暖かく見守る京助。すると、ほどなくしてシュウが身じろぎをし、うっすらと眼を開けた。

「あ…あれ? ナオに、ケン!!」

「シュウ! 本当にお前なんだよな?! 本当に生きてるんだよな?!」

 ペチペチシュウの頬を軽く叩くナオ。

「よかった…本当に…っ!」

 シュウの頭を軽く叩く健路。痛いよ二人とも! と言いつつも再会を嬉しそうに喜ぶシュウ。

 詰め寄る二人をパニックになりつつ、京助と健路の説明で状況を把握したシュウは、一つ大きく深呼吸をした。そして、京助のほうへ深くお辞儀をした。

「なるほど…助けてくれてありがとうございました京助さん! 僕、上春州太って言います! シュウって呼んでください」

「俺、中松尚輝! ナオでいいぜ!」

「…岡本健路です」

「岡本?」

 それまで静かにニコニコ聞いていた京助が、健路の苗字を聞いた途端に一変した。複雑そうな顔をしながら、うーん…と唸っている。

「あの…?」

「あ、いや…少し考え事を…私のことは好きなように呼ぶといい」

 すぐにパッと笑顔になった彼を少し怪しいとは思ったが、シュウを助けたし…。

 この彼のなんとも無視できないのほほんオーラが場を和ませて恐怖を感じなくなっていたので、一応信用することに決めた。

「じゃあ、京さんで」

 ズバッとあだ名を決めた健路に、あっけにとられてポカンとしてしまった京助を、シュウとナオが笑った。

「やっぱり最初はびっくりするよなー!」

「ケンの、人にあだ名つけるスピードは学校一なんだよね!」

「誇らしく言うことでもないけどな…」

「えー? ドヤ顔で京助さんのあだ名言った人が、それ言っちゃう?」

 そうシュウが言えば、照れながらもムッスとした健路が口を尖らした。

「うるさい」

「自覚はあったんだな!」

「だから、うるさいって!」

 ギャイギャイいつもの調子で話して、ハタと三人は気づいた。

 先ほどから京助が動かない。

「京さん? どうかしましたか…?」

 彼を心配してシュウがいち早く顔を覗き込む。

「あ、ああ、いや…その…」

 ハッとしながら、照れくさそうに頬をかいた京助。そっと眼を逸らした。

「あだ名…つけてもらった事なくて…一瞬頭が真っ白に…」

「「「え?」」」

 そのあまりにもの予想外の反応の彼を見て、今度は三人が固まった。

「ありがとう。私も君たちのこと、あだ名で呼んでもいいかな?」

「あ、は、はい!」

「お、おう!」

「そ、それが普通…だろ?」

 ぎこちなく答えた三人にまったく気づかず、そうか…あだ名かぁ。などとお花をまわりにフワリと浮かせながら、彼は嬉しそうに笑っていた。

「で、君達はここのボスを退治しにいくんだろう?」

 いきなり変わった空気。それを感じ取り、張り詰めた緊張感が漂い始めた。

「え? 本当にいくの?」

「うん。わりとマジで行く気みたいだぜ?」

「逃げてもどうせ同じことの繰り返しだ。それなら俺達でその因果を終わらせたほうがいいだろ?」

「で、でもケン…今、立ってるのもやっとなんでしょ?」

「気にするな」

「熱も出てるんだぜ。こいつ」

 すかさずチクるナオを肘でつっついた健路。

「ナオ…言うなよ」

「言うよ何いってんだ。」

「いや、君らが何言ってるの…ハァ…わかったよ。一度言い出したら聞かないよねケンは」

 そうシュウが言うと、照れながらえへへと言う健路。

「それほどでも」

「褒めてないからね!?」

 そしてまた軽くため息をするシュウ。

「勝ち目あると思うの? ここを牛耳ってる悪霊だよ? 雑魚一匹倒すのに命がけだった僕達だよ? 敵うとでも思ってる?」

 というと、うんうん。と賛同しながら京助がにっこり穏やかに言う。

「うん。ハッキリ言って無謀すぎるよね」

「正気の沙汰じゃねぇよな」

 二人の容赦ない正論に、ダメージを受けた健路。

「言いたい放題だな?!」

 でも。と健路は顔を真剣なものにさせた。

「俺達がここへ来たのも、京さんと出会ったのも…偶然のような気がしないんだ」

 ちらりと京助の様子を伺えば、彼は真っ直ぐに健路をみつめていて。

「…」

「それに…」

 左胸のほうの服をぎゅっと握る。

「何か…思い出せそうなんだ…さっきから、この痣が疼いてしかたがない」

「…痣?」

 京助が難しい顔をした。

「見せてもらっていいかい?」

「あ、どうぞ」

 健路が服をめくって痣を見せる。

 その痣をまじまじと見つめて、京助はため息をした。

「…君は、何者だ?」

「え?」

「これは呪いの傷跡だ。これをうけて死なず、しかも平気に動き回って霊力つかってるって…君は、化け物か?」

 追求する彼から冗談なんて微塵も感じられない。

 だから余計に焦った。そんなに大そうな傷っつーか痣だったのかコレ?!

「ええ?! い、いや、え?! これ呪いの傷跡だったんですか?!」

「…まだそこまで聞かされてないのか? それとも記憶がぶっ飛んだ?」

「あ、多分両方だと思いますよ。俺の親父、少しずつ話すって言ってたし。呪いにかかって記憶ぶっとんだって聞いたし」

 それを聞くと京助は、渋い顔をしながらそうか…とだけ呟いた。

「もしかしたら、勝機はあるかもしれない」

「マジっすか?!」

「やったね!」

「だが…今の君には武器がないしなぁ」

「…武器?」

 ああ。と京助は自分の刀を見せた。そこにあったのは…刀。昔の侍が使ったかのような、しかし豪華な装飾品やらがまるで中国の作りのようで。

 本物の刀…と思って三人は唖然と見つめた。

「武器といっても、生身の人間は斬れない。悪霊を斬って浄化するんだ。」

「へぇ…まるでエクソシストみたいだね!」

「えくそしすと?」

「本略すると、陰陽師みたいな」

「ナオ、そのたとえもっと分かりにくい。いうなら悪霊を退治する職業の人」

「そうか。まぁ、そんなわけで、これは霊刀といって、霊的なものしか斬れないんだよ。」

 シャン…と鞘から出したその切っ先は真っ直ぐで。刀身も薄い銀色で不思議と綺麗だと健路は思った。何故かその刀に惹かれる。

「この子の名前は『銀月夜』…主を求めている刀だ」

 刀を人のように扱うんだなぁ…と健路は京助が取り出した刀を見つめながら考えていた。

「ぎんづきよ?」

「ああ。」

 優しく細められた瞳に、刀が映る。何かを、思い出しているかのように。

「ふさわしい主を求めている刀だったから、一緒に持ち歩いているんだ。ちなみにこっちが私の愛刀『白ノ狐』だ。」

 刀が…主を求めてる? それはまるで―――黒吉のようだ。

「わぁ。鞘も白いけど、刀身も真っ白…あ、鈴がついてる。狐の絵が刀身の部分に刻まれてるんですね。だから、しろのきつね?」

「ああ。この子はじゃじゃ馬でね。長い間誰の手にもなじめなくて…折られそうだったのを私が貰い受けたんだ。まさか私が彼女のパートナーだったとは思いもしなかったけどね」

 ハハハと笑う京助。え? 彼女って…まるで…。

しかしそんな健路の考えを一気に奪ったのは、ゾクリと、嫌な寒気が体中をかけめぐったからだ。

 そして、それを察知してなのか、屋上に着いた途端に、纏うオーラを一変に変えてきたのが京助。

「着いたぞ…気をつけて…」

 そしてそっと、銀月夜を健路に渡した。

「え、ええ? なんで俺にわたすんですか?!」

「念のためさ。もし何かあったら刀身は抜けなくても、そのまま殴れるから。」

 でたよ。謎の幽霊に対しての物理攻撃OK発言。

「そ、そうなんですか?」

「ああ。その刀自体が、強力な霊力を持ってるからね…。魔除けや、霊体自身を殴り倒す事くらいは可能になるよ。まぁ、並の人間じゃ扱えすらできないどころか、刀身すら鞘から出せない。まさに、刀自身が主人を選ぶんだけれどね」

 刀自身が主人を選ぶうんぬんは横に置いておくことにして。大切なのは…。

「殴れるんですね? 霊体を」

 物理攻撃できるのか、否か。

「うん」

「じゃあ、ありがたく受け取っておきます」

 これなら。なんとか…皆を守れる。一応お札も塩もあと一回きりなんだ。それ以外で戦える術がある。ならば使うしかないだろう。

 ここを、全員無事に出るんだ。絶対に。ギュッと渡された刀を握った健路だった。

「ああ。そうしな」

 この時、京助さえもどうして健路に、大切な霊刀をあずけたのか分からなかった。しかし、彼ならば…という期待が心の奥で疼いていたのを、感じてもいた。

 だから京助は賭けにでたのだ。

 運命というやつを信じて―――家宝の霊刀を彼にあずけた。あとは…。

 君しだいだよ…健路くん。

「さぁてと?」

 四人が屋上の真ん中へと移動した。赤く不気味に輝く月は、まん丸で。一層輝きが増している。

 スッと京助が目を細めながら、ニッと笑い、相手を威嚇するように月に向かって真っ直ぐ刀の刀身を空に向けた。

「そこにいるのは分かっている! 姿を現せ!」

 京がそう言うと途端に鳴り響く地響き。そして雷。

「うわぁ!」

「なななんだ?!」

「…っ」

「動じるな」

 静かな、芯の通った落ち着いた声が響く。

「私がいるのだから」

 それは―――何を確信して言ったのか。しかし、妙に納得できてしまった。この人のことを何も知らないハズなのに。

 ひょっとしたら、心のどこかで皆すでに知っていたからかもしれない。

 彼が“ミテクレ”の強さではなく――本物の強者であると。

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