第十三話 心臓の痣と覚悟
どんどん逞しく、そして力が開花していく健司。しかしそんな彼に突如、謎の痛みが襲う。親友は彼を少しでも手助けしようと頑張るが…?
「しょうがねぇな」
「ナオ…?」
バッと彼が立ち上がったかと思えば、妙な浮遊感がした。
そして気がつけばナオにおんぶされてて。
さすがに親友にコレは…と思った健路が慌ててナオへ話しかけた。
「いいってナオ! 俺なら平気だから」
「平気じゃないから、おぶってるんだろうが。いいからお前はそこで休んでなって。二回も守られたんだ。休んでいる間くらいは俺にもお前を守らせろよ」
その言葉が妙に温かく感じられて。己の限界も悟った。
先ほどから痛む心臓の部分は、小さい頃に怪我をしたのか痣になっていて。
そういえばその痣のことを聞いたことがあるが、両親は上手く言葉を濁して説明をしてくれなかったな…帰ったら、とっちめてやろう。健路は心に決めた。
それはそうと、その痣が霊力を使った途端に疼き痛み出して…身体の自由を奪ったのだ。なんとも不思議な現象だ。
まるで、健路が力を思う存分自由に使わせないかのような…。
深く考えてもサッパリなので、やはり後で父を問い詰めよう。
それに考えたら、さきほど一枚のお札と塩を使ってしまったからあとは最低二回しか使えない。
先ほどの行動を続け様にできるとも思えない。
ここは言葉に甘えて少し休んだほうがいいだろう。そのほうがこちらも後々ナオを守れる。
普段よりも冷静になっている頭に驚きながらも、彼はナオの背中でおかしな気配がないか探ってもいた。
何か感じたらすぐさまナオに知らせられるように。だが…。
「ね…むい……」
何故か異様に眠気が襲う。あまり集中できない。
なんだこの眠気? 尋常じゃないぞ…。
そう思いながら、彼は疲れと痛みと眠気と戦いながら、一生懸命意識を集中させて周りに異常がないか確かめていく。
ああ、でもやはり眠い。寝てしまいたい。瞼が重い。
少しだけ、少しだけ瞼を閉じるだけならいいかな。そう考えた時だった。
「ナオ…! 止まれ!!」
「……」
しかし彼から返事がない。彼は壊れたように走り続けている。健路は揺さぶった。
「おいっ! ナオ止まれって!!」
「…」
やはり様子が可笑しい。やばい。また何かが起こってしまったんだ。
咄嗟にポッケに手を突っ込み塩を取り出し、ナオの口の中へ無理やりねじ込んだ。
「うぐっ?! ゲホゲホッ!!」
「やっと…止まったかよ……」
「あ、あれ? 俺一体なにを……」
やはり操られていたか。それとも…何かに引き寄せられていたか。
とにかく、今は休んでいる場合ではない。
健路はナオの背中から降りると、お札の二枚のうちの一枚をナオに押し付けた。
「それ、持ってろ…」
「で、でもこれって…」
「また引き寄せられたら正気に戻せないかもしれないから、とっとけって」
そうか。自分は正気を保てなかったのかと、ナオは罰が悪そうな顔をし顔を伏せながら受け取った。
彼の足手まといにはなりたくないし、皆で一緒にここを出る。
そのために残り少ないお札を渡してきているのだと悟った。
それに…健路が相当疲れてきていることにも気がついた。
普段眠そうな眼で中々わからなかったが、目がもっと眠そうだ。身体も熱のせいでダルイだろうし…。
「あ、ああ。わかった」
さて。どうする。健路は必死に眠気さと戦いながら考えた。
そしてふと、思い出したのだ。自分の父が言っていたことを。
「もしかして…ここを牛耳るボス的悪霊って……」
「心当たりがあんのかケン?」
「…ああ。でも、だとしたら」
俺達でなんとかできるなんてレベルじゃ…。だが、ここまで来たのならば。
「俺達で、なんとかしなくちゃいけないかもな…」
「え?! に、逃げるんじゃなかったのか?!」
健路の突然の目標変更に驚き焦ってナオは彼へと振り向く。すると、先ほどの眠たい顔はどこへやら。
そこには、硬く決心した真の男の姿があった。眼は鋭く細められどこかをジッと見つめていた。
硬く閉じられた口は何も語ってくれないけれど、強い意思の宿った瞳が、赤い月を睨みつけていた。
「…逃げてどうなるんだ」
思い出すは、逃げようとしかしなかった自分。
「逃げたって、根本的な問題の解決にならないだろ」
守られてばかりの自分。
「誰かがまた迷い込んで、食われて、敵は力をつけて」
父にも。
「いつか俺達の世界に干渉してくるハズだ」
母にも。
「そしたらどっちみち、俺達はジ・エンド」
か弱い女の子でさえも。
「いま逃げたら……きっと一生後悔する」
それに、約束したんだ。
「誰も守れず、自分も惨めに、無気力に死んでいく」
父と、母と、愛美さんと、黒吉に。
「そんな生き方俺はまっぴらゴメンだね」
弱虫なままで、逃げたままで終わらせないってな!!
「…そう、だな」
ナオは困ったように笑った。お前、いつの間にそんなに漢らしくなっちまったんだよ? と言いながら軽く肩を組む。
「ここで逃げたら男が廃るよな! どうせなら…」
ニッと二人は笑った。
「「格好よく、ボス倒しちまおう!」」