9話 「ここが宿です!
「ここが宿です!モンスターのいる位置からかなり離れてるのでここを使って下さい」
俺達が最初にあったアラガキという案内人はさっき連れてこられた施設からこの宿まで案内してくれた。
何故かこの宿だけ明かりが付いている、とても明るくて、さっき歩いた道と違い気を張る事もなくゆったり出来ることに安らぎを感じていた。
「ありがとうアラガキ、あんたがいてくれて助かったよ」
笑いながら応えるとアラガキは両手の平を前に出して……
「いやいや!カルファさんにはクエストとは違う事をして貰うんですからこれくらいは当たり前ですよ……これじゃあ足りないくらいで……ほんとにいいんですか?」
さっきいた古い小さな施設とは少し良くはあるが、狭い畳の部屋に布団が2枚のかなり寂しい空間であることに満足しているかと言われるとそうでもないが、
この状況の中俺達の配慮をしてくれた街の人の事を思えばとても有難い事なのだと実感している。
多分この光も、少ない中切り詰めてくれたのだ、感謝しかない。
本当にいいのかって事はやはり敵は強いんだよな……レベル1に頼むクエストではないことはカルファにも理解出来る………それでも。
「いいよ、こんな事して貰っているんだ頑張んないとな!」
そう言って、アラガキは少し笑ってから。
「分かりました……僕はここで、まだ時間はあるのでゆっくり休んでください」
そう言って引き戸の先にある暗闇へと消えてった。
それを確認して、何かが切れたように──
「だぁあ疲れたぁ……」
「そうだね〜」
一日の疲れもあったんだろう……大の字になって倒れる─────ことは狭い部屋なので無理なため布団の1枚に転がる、とても柔らかい。
ククルも隣の布団に座って、布団を撫でる。
柔らかく気持ちいいのか頬が緩んでいるのが見てわかる。
「色々あって疲れちゃったね」
ククルがカルファに微笑みかける。
「………だな」
天井に見える光は少し眩しいため、顔を横に向けククルを見る。
宿の部屋は布団2枚より一回り大きくなっている、窓際の台には花瓶が置かれていて造花が刺さっている。
ククルはずっとそれを見て少し怪訝な顔をする。
「花……嫌いなのか?」
ククルは少し意外な顔を向けて、それから花に視線を戻してから。
「花は……好きだよ、大好き」
続けて
「だけどきっと花に嫌われているの……物凄く恨んでると思う」
なんがなんだが分からないのを感じたのかククルは困ったように頭を撫でる、短い髪だがストレートでとても綺麗だ。
「………………………」
沈黙の時間が続く
……会話が続かない
どうしようかな……これ
1人でいるより息苦しく、グーにしていた手が汗ばんでくのを感じている。
2人っきりって……やばくね?
冷静に考えて女子と2人でいることに焦りを覚える……
「えーっと………あの時はありがとね」
自身の身体が目に見えるようにビクンと跳ね上がってしまった。
ククルと一緒にいることに緊張してるのか?
あんまり意識しなかったけど……うーん。
会話を切り出したククルは、顔を逸らしつつ目はカルファを見て微妙な表情で呟いていた。
というよりあの時?
「あの時というのは?」
冷静に言えたよし!
………なんかカッコ悪ぃな
「…………探索してた時」
「洞窟の時になんかしたか?」
洞窟探索の時に何かした覚えはない。
「そっちじゃなくて!あの丘の時に……」
「あー」
助けた訳でもないし、ただ消える部分に飛び込んだだけのあれか。
別に被害のある訳でもなかったし感謝されるほどではないと思っていたが。
「あの時は怖かったから……うん、それだけ……」
「………そか」
ぎこちない空気……意識していない時はもうちょっとマシな事が言えてたのかなと後悔もあるが、この空気も悪くは無いなと思ってしまっていた。
少し経つと引き戸がガラッと開いてアラガキが顔を出した。
「食事………というにはあれですが、どうぞ」
そう言って非常食のような物を食べた、パサパサした乾パンに水というなかなかにひもじい食事だが。
「本来食事などは別世界で仕入れてくるのですが……どうしても供給源が途絶えてしまって」
「あそこの扉からは来れないのか?」
「あぁ、あそこはクエスト専用扉なのでそういった仕入れ品は通れないんです」
そう思うと変わった扉だな、冒険者ですら入ったら市街地1つ跨がないと帰れないなんて随分面倒だ。
食事を終えると、寝る準備に入った
「明日早く起きるから早めに寝ておいて下さい」
そう言ってアラガキは去っていった。
やっと今日が終わった……のか。
振り返れば今日のことは色々と疑問だらけだった。
最初の緑の丘はなんだったのだろうか、
どうしてモンスターが市街地を襲っているのだろう……人が減ったからってだけなのか?
そもそもこの世界はなんなんだろう?
ドアに紙を入れて行き先が変わるなんて正直意味不明だ……
意味不明………か
俺達が産まれた世界……じゃあないんだろう……
何となくだが感覚がそうだと言っているようで
じゃあ別の世界があるって事だろうか……
みんな同じ感じにここの世界に来た……っと言うことは、みんなは同じ世界から来たんだろうか……
カード……ハンマーか……なんなんだろう……武器を持てば何か分かるんだろうか……
「まだ知らないことだらけだ……当たり前なんだろうけど……」
そう遠目にボヤく。
「もう寝ようよ、明日は早いらしいし」
ククルは布団に横向きになって眠る様だった。
「…………そうだな」
とにかく今日は疲れた……また明日考えよう。
そう思い明かりを消して目をゆっくり閉じた。
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カルファ達が眠りについた少し後のある施設……
「……寝たな」
「あぁ明かりも消えてるし大丈夫だろう」
「それでは!」
ギルド長レジスタのその言葉を合図に周りの気が締まる。
「この世界から離脱する為の作戦会議を始めよう」
ロウソクの明かりを真ん中に置いた机を囲んで20人の人達が立ち並んでいた……