5話 「とりあえずこっちに座って下さい」
「とりあえずこっちに座って下さい」
ハナはそう言って向かい合うように椅子に座りカルファ達も座る。
「えっと……ここは何処なんですか?」
「ここは応接間です、さっき案内したじゃないですか」
ふふっと笑うハナさんは幼く見えるのに、どうも姉さんのような雰囲気だ。
「そうじゃなくて……うーんとこの世界の事です」
大雑把過ぎたか……首を傾げて「?」とするハナさん。
「まるで何処か別の世界から来たというふうな口振りですね……」
「そういう訳じゃないんです、なんというかしっくり来ないというか……」
息を1度深く吸い込んでから
「おかしいんです、自分の名前も年齢も覚えているのにどうしてかあそこにいた理由も、その前の出来事も、自分が……生きてきたはずの10何年かが……空っぽに……なってしまったような……そんな……」
「大丈夫?」
ククルの声が響く……キーンと響いていた頭が冴えていく。
ハナさんは深くため息をついて。
「やっぱりみんなそうなのですね………」
と、頭を少しかいて向き直る。
「君らの反応は間違ってない、と言うよりここまでにあってきた人達……もとい私もこの世界は不思議と違うと言っていたんです」
不自然に高い椅子を降りて、不自然に低い窓に近寄ってから、
「ここは私達の世界じゃないんです」
深くため息をついてから。
「ここに最初に来たのは私だったんですけど」
ハナさんは小さいのに雰囲気は大人びている。
「10年位前ですかね……ここに初めて来た時は何も考えず親切だと感じたんです」
ゆったりと歩いてから不自然にハナさんにピッタリな椅子を触る。
「異変を感じたのは1年経ってからですかね、今も変わらずに使い続けてる椅子もいつも見ている窓も何も変わってないんです」
「それって……」
未だに座ったままでいるカルファ達に向き返り
「私は10年経ってもこの違和感は取れないんです」
「だからこの世界の事を少しでも集めるために皆に尽力して貰っているんです、はいどうぞ」
2枚のカードをカルファ、ククルに差し出す。
「これは?」
ククルが聞くと
「これはこの世界での証明書です、あなた達には色んな世界で活躍してもらいますからね、そこでの証明書です」
差し出したカードを受け取ると……
「うわっ!?」
「ふぇ!?」
真っ白だったカードは黒く染まり、
カルファは赤く染まった後
ククルは黄色く染まった後
その染まったカードに文字が浮き彫りになっていった。
「離したり落とさないで下さいね」
ハナさんは何事もないように掃除を始めた。
5分後
「はい!おしまいです、拝見しますね」
2枚のカードを読んでいる。
カルファ達は文字が書いてはあったが何が書いてあるかは読めないためハナさんに渡した。
「何が書いてあるんだろう……意味あるんだよね?」
ククルが息を呑んでハナさんを見つめている。
「だろうな」
ハナさんは微動だにせずに読んでいる、たまに目を見開いたり目を細めたりする以外は。
少し経った時、「ふー」と息を吐いて、カルファには赤いカードを、ククルには黄色いカードを返す。
「ありがとうございます!確認終了しました」
そうして再びカードを見ると
「……読める」
「おー」
カルファには
【カルファ】Lv.1
ハンマー
上の端に小さく書いてあった。
ククルには
【ククル】……
魔法
これも同じ場所に小さく書かれている。
「……まじか」
結構びっしりと文字が連ねてあったのに、これだけとか。
「……………」
ククルはカードをむむっと睨みつけていている
……なんか可愛い
「はいこれでおしまいです、今度はこっちに来てください」
そう言ってさっき入っていったドアに歩いて行く。
「なぁククル、なんて書いてあった?」
カルファが聞くと。
「…………内緒」
そう言って歩き出してしまった。