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第七話

二人が最後に並んだのは、この遊園地の中でも有名なお化け屋敷の列だった。

通常のお化け屋敷では人間がメイクをし、お化けに扮して来園者を驚かすが、このお化け屋敷は違う。

儀式によって呼び出された、本物のお化けが来園者を襲う。

民間人もいるため、魔よけの札を渡されるようだが、正直、安心できないというのが本音だった。

そんな朱鷺の心配なんて知るはずも無い琴羽は、まだ列に並んだだけにも関わらず一人テンションが上がっている。

「みんな、もの凄く楽しそうね! 早く入りたいわ!」

普段の(生徒会長としての)彼女からは全く想像出来ないほどのはっちゃけぶりに、少々ひき気味の朱鷺。

「どうしたの? 暗い顔して。楽しまないと損よ!」

「お、おう・・・・・・」

やけにテンションの高い琴羽を横目に、朱鷺は遊園地には似合わない真面目な顔で、不吉なオーラが漂うお化け屋敷の入口へ脚を進めたのだった・・・・・・


お化け屋敷の中は本当に真っ暗だった。

非常口のランプだけが、光々とついていてより一層「お化けが出てきそう感」が倍増していた。

「こ、怖いわ、朱鷺くん・・・・・・」

初対面の時に、

「へぇ~ わかったわ。この()に及んでまだ生徒会である私に楯突(たてつ)こうって言うのね。しかも、副会長の分際で生徒会長である私に「お前」っていうの? 貴方、なかなか度胸はあるじゃない。その度胸だけは認めてあげるわ。でも、ただじゃおかないわよ・・・・・・」

と言っていた奴とは、到底考えられないなと、少々呆れ気味に笑う。

ゆっくり、殊更ゆっくり進む朱鷺たち後ろの来園者には悪いが、琴羽の速度に合わせるとこうなってしまう。

一番目の角を曲がり、(医務室)と書いてある部屋を通る。

「ねぇ・・・・・・」

「ん?」

青ざめた顔で肩をたたく琴羽。

その視線の先には・・・・・・

「なにもいないわ!☆」

・・・・・・

「お前な・・・・・・」

物凄い形相で、にらみ倒す朱鷺を尻目に、

「ま、まだこないのね・・・・・・」

完全に自分の世界に突入してしまった琴羽。

本気で怒りたい朱鷺だったが、先ほどから左腕にしがみついて震えている琴羽を見ると何故かそんな気持ちも失せた。

なにより、さっきから腕に思い切り密着している性で当たっている胸が気になって仕方が無い。

意味不明なドッキリや、鬱陶しいくらい高いテンションをかましてくる彼女に大概苛立っていたが、「まぁ、許してやろうか・・・・・・」とそう思う。

医務室を無事乗り越え、廊下へ出る。

儀式によって召喚された(ゴースト)の為、いつ何処で現れるか分からない。

ある意味、何度でも楽しめるようだが、序盤からずっと感じているこの嫌な空気は何なのだろうかと心配する朱鷺だった。

 

朱鷺の心配を肯定するように、事は起こった。

「キャァァァァァァァァァァァァァ」

前方から、アトラクションの一部とは到底考えられない断末魔のような叫びと、生々しい鮮血の匂いがしてきた。

「おい・・・・・・ やばいんじゃないか?」

「う、嘘・・・・・・」

暗がりなので鮮明ではないが、20代ほどの女性が腰の辺りから血を流し倒れ伏せている。

幸い、朱鷺の【特性】を使い暗闇の中でも明瞭に見ることが出来た。

「すぐに係員を」そう言おうとした刹那―

「ヨブナ・・・・・・ ヨブナ・・・・・・ ヨブナ・・・・・・ ヨブナ・・・・・・」

何処からとも無く聞こえる、か細い声。

「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

琴羽の指差す方向へふり返った朱鷺は、生きた心地がしなかった。

何十、否、何百単位という数の悪霊がいる。

蟲のようなもの、人の形をしたもの、牛や豚のどの家畜、骸骨、ゾンビまで、形は多種多様。

それらが、地を這い蹲るように蠢いていた。

気付けば匂った事の無いような異臭がし始めている。

体内から止めようにも出てしまう嗚咽。

異臭による吐き気。

そして何より、目の前に広がる光景への恐怖感。

先ほど(お化け屋敷に入る前)までの遊園地での楽しい思い出は一切消え失せ、ただただ、来るんじゃなかったと後悔する。

こんなことが起こったのは朱鷺が嫌な予感を察知するからだと言えばそうなのだが、何も今起こらなくてもいいだろうと、考えても仕方がないことに働く頭。

しかし、そんなことを言ってられないと理解している自分が居ることも朱鷺は理解していた。

「お、お前らなんなんだよ!」

何故、なんなんだよ! と叫んだのかよく分からないが、正常に頭が働かないので、感覚だけで喋っている状態だ。

「我々ハ冥府ヨリ召喚サレタ【悪霊(ヘルブレイムゴースト)】デアル。愚カナ人間ハ本来呼ビ出シテハナラナイ我々ヲ現世ヘト導イタ」

【悪霊】、それは冥府に巣喰うモンスターの一種。

かつて現世で生活していたもの(人、動物問わない)が何らかの理由でモンスター化した姿である。

「な、何で貴方たちのようなモンスターがこの遊園地にいるのよ!」

恐らく、目の前の状況の変化速度についてこれていない琴羽は、正気を保つ為、態々、敵自らから説明してくれた内容の質問をする。

「我々ハ、貴殿ヤソコニ倒レテイル女ニ、危害ヲ加エル為ニ冥府カラ来タ訳デハナイ。半強制的ニ召喚サレタノダ。ソシテ、出現シタノガ丁度コノ場所。偶然、突ッ立ッテイタ女ガ悲鳴ヲ挙ゲルノデ、ソレヲ黙ラセタニスギヌ。本来、我々ハ、現世ノ者ニ、存在ヲミラレテハナラナイ。黙ッテモラウシカナカッタノダ」

要するに、攻撃しようとしてしたわけではないらしい。

何だかんだで、この女性が不運なだけなのかもしれない。

そもそも、調子に乗って普通の幽霊や妖怪だけじゃなくて、本物の【悪霊】を召喚する遊園地が側に責任があるのだ。

結局、お札の効果も発揮していないし、客に怪我させているし、問題だらけではないか。

流石に、会話しているうちに落ち着きを取り戻した朱鷺。

「なら、この女性を回復させて、お前たちを冥府に帰せば、問題は解決するんだな」

「全クソノ通リダ」

それなら話は早い。

回復魔術を使用し女性を回復させ、跡形もなく傷を無くした朱鷺は、この何の罪もない【悪霊】をどうするか頭を抱えていた。

一度召喚されたモンスターは、消滅するまで冥府には帰ることはできない。

「霊媒師でもいたらなぁ・・・・・・」

そんな都合のよい人間はこの場所に現れるはずもなく・・・・・・

「おう、不知火くんではありませんか!」

「「いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

超ジャストタイミングで登場したのは偶々遊園地に遊びに来ていた【聖職者】―葛城原だった。

まるで、小説の【ご都合主義】のようなタイミングのでの登場である。

朱鷺と琴羽は葛城原に事情を説明した。

「わかりました。私が神の祝福をして差し上げましょう」

そういうと葛城原は十字架のペンダントに触れながら、呪文を唱える。

「【神の祝福=消滅】」

見る見るうちに、【悪霊】は姿を消していった。

今回の件を遊園地側に報告したところ、謝罪の意をこめて晩御飯を遊園地側が提供してくれることになった。


「ん~ 美味しぃ~」

太くて大きい肉棒を咥えながら琴羽は言った。

「はぁ・・・・・・この、口の中でとろけて舌に絡みつく液体も、なかなかの味だわ・・・・・・」

「美味しいだろ」

「うん・・・・・・」

「特に、先っぽとか・・・・・・」

「いいわぁ~・・・・・・こんなに美味しいの初めてぇ・・・・・・」

「・・・・・・モグモグ」

「・・・・・・ゴクン」

太くて大きい肉棒―フランクフルトはとても美味だった。

この遊園地一押しってだけあるなと納得する朱鷺だった。

しかし、何故ここまでフランクフルトを食べる琴羽にエロスを感じるのだろう? 

男の性なのだろうと、割り切ってしまいたいところだが、今晩のおかずには丁度良かった。

ちなみに、この時、葛城原はトイレに言っており、席をはずしていたため、このなんとも卑猥な空気を感じることは無かった。


「ところで、君たちは何故、二人で遊園地に来ていたのですか?」

葛城原の唐突な質問に困る朱鷺。

よく考えてみれば、どうして遊園地に二人できているのかわからない。

琴羽は何故か隣で赤面している。

別に付き合っているわけでもない。「デート」なんて微塵も思ってはいない。

偶々、下宿所が同じで委員会が一緒で仲がよくなっただけ。

それだけ。

それ以上でもなければそれ以下でもない。

ただ、それだけの関係だ。

「休日だし、久しぶりに遊びに行こうかなって、思った。それだけだ」

「ふーん・・・・・・確か君たちは下宿所が一緒でしたね」

「ええ」

どこか不満そうに、葛城原はハンバーグを口に運ぶ。

「お前の方こそ何で一人で遊園地に来てるんだよ?」

「一人じゃなかったですよ。途中で分かれただけです」

どうやら、友人と二人できていたようだが途中で友人に急用ができた為、最後に一人でお化け屋敷に入ったところで朱鷺達と遭遇したらしい。

「まぁ、そこそこじゃないですか?」

「何が?」

葛城原は席を立つと帰る用意をし始めた。

「ちょっと待てよ!」

まだ質問に答えていない葛城原を引き止めた朱鷺は質問の答えを聞き出しその場で固まった。


「デートスポットには丁度いい」。葛城原はそう朱鷺だけに聞こえる声でそういい残すとそそくさと帰ってしまった。

全く、そんな気は朱鷺にはない。

そんな気はないはずなのだ・・・・・・


琴羽は、自分お気持ちに向こう側が一切気付いてないことを知っているが、自分の気持ちにも正直になれない部分があるということは理解していない。

これは(この気持ち)、一体なんなのだろうと、手探りに当てもなく答えを探しているだけ

だった。


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