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第五話 長話は好きじゃない?

 ミラー長官は自ら私の座る椅子を用意し、更に紅茶をいれてくれた。


「私……ここに収容されるんですよね?」


「はい」


「でしたら、このような扱いはおかしいのではないでしょうか?」


 普通はこれから支配する対象に頭を下げたり、お茶をいれたりはしない。この行動には何か意味があるのかと疑問に思った。


「それでも貴女はガーランド家の御息女です。それ相応にお持て成しさせて頂きます」


「それは……ありがとうございます……。でも……失礼かもしれませんが、私は国に帰りたいのです! 方法はあると聞きました。どうすればよいのでしょうか!」


 歓迎していると言ってくれた人にこんな事を言うのは気が引けるけれど、私はこんな所に長居をするつもりは無い。早くイギリス本土に戻って隊に復帰しなければ。

 しかし、長官は困ったような顔をして立ち上がり、背後の窓から外を見た。


「ここを出る方法は……あるにはあるのですが……。不可能に近いと思われます」


「ど、どうしてですか⁈ 出る方法があるのなら、それに成功した方がいたのでは……?」


「いえ、成功したから方法ができたのではなく、上層部によって設定されたものなのです。その設定された条件というのはここ『ラビリントス』のシステム……単純なものですが、それと併せて説明させて頂きます」


 こちらを振り返り私の眼を見た後、部屋の隅に沿って歩き始めた。手を後ろで組んでゆっくりと一歩一歩と進む。その早さに合わせるようにゆっくりと私に語り始める。


「まず始めにここでの暮らしについて説明します」


「えっ……? それとどう……」


 長官は黙っていられずに口を出した私を掌で静止して話を続けた。


「ここで使用される通貨はポンドではなく、専用のクレジットが支給されます。クレジットは無条件で皆に同額が支給されるわけでは無く、出撃した際の撃墜数等によって額が決定されるのです。そして、さっき貴女が抱いた疑問の一つ。何故、何も知らせる物が無いのか、という事についてですが、それはここが弱肉強食の世界だからと言っておきましょうか」


 と、言われても説明になっていないから、当然理解ができない。私が首を傾げて頭上に? を出していると、長官は更に説明してくれた。


「ここへ収監された者はもう人間では無いとして扱われています。なので、役に立たなければ生かしておく必要がありません。そこで、それぞれで競争させて優れた者だけが生き残るようにしているのです。ですから、アラートが鳴らないのも、自ら周辺の敵影や戦闘を掴むためなのです」


「そんなところから競争が始まっているのですか……」


 しかし、この話を聞いてまた一つ疑問が浮かび上がって来た。

 ここへ来る途中、どう見ても軍人には見えない人達があの汚れた所で生活をしているように見られた。女性、子供、老人……彼らは何をして命を繋いでいるのか?

 思ったことが口に出やすいタイプの私。疑問に思った時にはとっくに口から発せられていた。


「ああ、彼らですか。競争と言っても戦いばかりだとは決まっていません。女性ならば、稼ぎの良い男を捕まえたり、自らの体を使い。男ならば、商売人としてこの島の流通を支え、メカマンになる者もいますね。そして、最後に子供ですが……悲しい事です。親が生きていれば養ってもらえますが、そうでなければ幼い頃から戦いに赴くしかありません」


「そんな……酷い……」


「仕方ありません。そうしなければ死んでしまいますからね。おっと、話が逸れてしまいましたね。後は……そうでした、ここから出る方法でしたよね」


 まだ、納得できてはいない。けれど、長官は御構い無しに話を進めて行く。


「先程説明したクレジットですが、レートについては変動するので換金する際に確認して下さい。そして、その用途は本土でのポンドと変わりません。ですが、異なる点が二つ存在します。一つは、身分を買うというものです」


「身分を……?」


「はい、ここへやって来たばかりの貴女のような方々は最低のコモンと呼ばれます。その上がアンコモン。更にその上、最高位がユニークと呼ばれているのですが、現在はユニークの位に就いている者はおりません」


「……ゲームのような感じがしますね」


「ここを作った人間にとっては、キャリアの可能性が有ればただの駒、という扱いだからでしょう。位が良くなれば当然ラビリントス内での待遇は良くなります。多少ですがね」


 長官の口から発せられる言葉には不快になる要素しかない。ただ、その言葉は私への説明の為に発せられているのであって、彼の思想は混ざってはいない。今の感情を表に出すのは間違っているだろうから、抑えようと努力はしているけれど多分隠しきれていない。


「もう一つの用途は脱出する方法に関係しているのですよね?」


 話を遮るように尋ねた私の声には、少しの怒りが籠っていた。

 私の口調から長官は気を使ってくれたようだ。カップに口を付けた後、さっきまでの話題から切り替えて、速やかに質問の答えへと移ってくれた。


「まず、先に貴女の質問に答えますと、答えはイエスです」

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