第四話 失礼しました?
言われた通り突き当たりまで歩くと「長官室」と書かれた札が付いた扉が現れた。
「ここだよね」
扉の横のスイッチを押すと小さく電子音が鳴り、その音に続いて自らの名と階級を述べて入室の許可を待つ。
「アリシア・フェザー・ガーランド少尉であります!」
五秒ほど待つと、さっきの電子音が鳴った後に続いて掠れた男の声で「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」と入室を許可された。
突然、目の前の扉が横にスライドした。そして、さっきの掠れた声が聞こえてきてもう一度「お入り下さい」と私を招いている。
部屋の中に入って正面には勲章や楯が並べられた棚が目に入った。そして、右手にある窓からは滑走路が見え、続々と『コフィン』が発進して行く。
「アラートも放送も無かったよね……?」
普通、敵が接近している時は基地全体にアラートが鳴り響き、敵の数、種類、距離がオペレーターによって伝えられる。
しかし、今はコフィンの発進以外、何の異常も無いのどかな雰囲気が窓の外に広がっていた。
「私の機体……どうなったのかな……」
今起こっている異常も気になる。けれども、コフィンを見ていると、私がここに連れて来られる前に乗っていた機体。リアやヴァレンティナ、アーサーさんに手伝って貰って私の為にカスタムした大切な機体。その行方がどうなっているのだろうか。考えたくは無いけれど……壊されてるのかな……。
「あなたの機体なら、ここにありますよ」
「えっ⁈」
ぼんやりと外の景色を眺めていて、背後の事を忘れていた。慌てて振り返ると、私から十メートル程向こうに痩せこけたおじさんが座っている。長官室にいるという事はこの人が長官なのだろう。さっきから私に話しかけて来ている掠れた声の主はこの人だったのかぁ。って! そうじゃなくて!
「し、失礼しました! アリシア・フェザー・ガーランド少尉であります!」
頭を下げて謝った後、もう一度名前と階級を言って敬礼した。
「ああ、謝る事は無いですよ。楽にして下さい。私はアルバート・パーシー・ミラー、このラビリントスの長官を務めさせて頂いております」
ミラー長官は何故か立ち上がって私に頭を下げて礼をして、私の目の前へとやって来た。そして、右手を差し出して私がそれに応えるのを待っている。
私もすぐに右手を差し出してその手を掴んだ。大きい手だが、潤いが無くてパサパサ、シワシワで長官の年齢がなんとなく予想する事ができる。
長官は私が手を握ると、少し手に力を入れて握り返して笑顔で言った。
「ようこそ、ラビリントスへ。歓迎しますよ、アリシア様」