第三十九話 光
「また、か……。一体何なの……?」
以前にもアフリカで同じ事が起こった。オルバナイトが光って、気が付いた時にはザインカナートのコックピットに座っている。
「っ! みんなは⁉︎」
スクリーンから見える景色から、集落の上に浮かんでいる状態のようだ。地上をレーダーでサーチしても崩れた建物や、どこから湧いて出たのか分からないほどの反乱分子のせいで全くみんなの居場所が分からない。戦闘状態である事からこちら側の人間が生きていると思われるが……。
「んっ……! レーダーに……何これ……バグってんの?」
突然レーダーに現れた反応は生物ではないと言っている。分類は建造物だ。しかし、視界で捉えられるモノは明らかに生物だ。白い犬っぽい見た目をしている。
「でも、あんなにデカイ犬はおかしいよねっっ!!」
レーダーによる推定では全長約二十メートル。何か周りにモヤモヤとオーラみたいなのも纏っていて神々しさまである。
そいつはこちらを睨むとやっぱりと言うべきか、威嚇し、空を駆けて襲いかかって来た。
「今は来ないで、あ……三分で殺すぞぉぉ!!」
《また勝手に……!》
「アハハッ! 今は互いの利になるだろ?」
《それは……そうだけど……》
出来る事ならみんなを探す事を優先したいけど、この白犬が邪魔になる。一方で、ただ戦いたい人もいる。ならば、今は任せて捜索に集中できる状況にするしかない。
私は腰に収納されている大きめのナイフを手に取り、噛み付いてきた犬に振り下ろした。ただ勢い任せに突撃しただけの攻撃は容易に躱して、ナイフは犬の脳味噌を抉る事ができる完璧な一撃だ。
「取ったぁぁっ!!」《取ったっ!!》
…………。
「なぁっっ⁈」
《ふぇっ……? ああわっ、次躱さないと!》
「ちぃっ!! 何だこいつはぁっ!」
とっくに脳味噌が飛び散っていてもおかしくなかった。なのに、白犬は当然のように空を駆け回り噛み付いてくる。
「何で当たってねぇんだ! 完全にヤったはずだろっ!」
確かにその通りだ。しかし、信じられないがナイフは頭をすり抜けて手応えなく空を切った。
《何動揺してるのっ⁈ 来てるよっ!》
「分かってらっ! ぐぁっ!!」
動揺している隙を突かれて左腕を噛みちぎられて持っていかれてしまった。こちら側は触れる事すら出来ないのになんて不公平な!
「ライフルならいけるか……?」
この機体に搭載されている武装はナイフ、ライフル、大鎌くらいしかない。これでダメなら逃げながらみんなを探してサッサと逃げよう。
とは言ったものの、駆け回る犬に照準を合わせるのも一苦労だ。本当に空を駆けている動きと、予備動作の無い方向転換。更には左腕を失ったことによるバランスの不安定化もそれに拍車をかけている。
それでもなんとか機体出力を上げてスピードで上回り、動きの先を読みきって頭を抑えた。その時には余剰エネルギーが機体の関節部から電撃となって溢れ出していた。
「どうだっ!」
期待を込めて強く引いた引き金だったが……結果は……。
《……駄目っ……。もう、こいつは相手にしないでみんなを探さないと!》
「いいや! まだこいつがあんだろうがっ!」
そう言って鎌を手にした横一線に振り抜いたがやはりすり抜けてしまう。
が、今回は違った。私は忘れていた、余剰エネルギーが溢れ出している時に鎌を振るうと雷撃を放てる事を。
光速で走る雷光は即、目の前の敵へと迸った。雷光は敵の体をすり抜け……る事は無く、その体の中に入り込んだようだ。なかなかのダメージを与えられたと思えるくらい苦しみが感じられる咆哮が耳を刺す。
「アハハっ!!」
《効いてる……当たったじゃんっ!》
彼女は予想通りの展開になった事で相当気分を良くしたらしく、かなり危ない叫びを連呼して雷光を何度も何度も振り下ろしていく。
「アハハハハハッッ!! どうダァ? 痛いかぁぁ!!」
状況は完全に私達が優勢となり、今は完全な動物虐待が繰り広げられている。
《ちょっと! 余剰エネルギー使ってるって事分かってるよねっ⁈》
この雷光はあくまでアーサーさんがおまけ的に付けた機能だ。だから余ったエネルギーを使うように設定されている。いくら無尽蔵な動力であるオルバナイトでも、消費に供給が追いつかない可能性が考えられる。だから、ここは早く優勢な内にトドメを刺してしまいたいのだが……。
「わあぁったよっ……じゃ、これでいいだろ?」
ささっとタッチパネルを操作して、何をしたかはシステムが読み上げてくれた。
『機体各部ノリミッター七十パーセント解除。ソレニ伴イエネルギー生成速度ヲ上昇シマス』
《何馬鹿な事やってんだぁぁ!!》
「黙れっ! 頭の中でキンキン声が響くっ! まあ見とけ、光になってやるよぉっっ!!」
体があればポカポカと叩いていただろう。叩いた程度で止まるか分からないが。
五割でも体が潰れそうになるというのにそれ以上の圧がかかる。まず、ここまでのGがかかって意識が飛ばないなんてどういう精神力をしているのか。
そして、本来の目的であるエネルギーはというと……。
「アハハッ! どんどん溢れ出てきやがるッ! 散々痛ぶった後に首かっ切ってやる……っ!」
余裕から生まれた隙で反対に首を噛みちぎられそうになったが、既の所で柄を噛ませて食い止める。そのまま押し返すと口が開き、機体を後退させながら雷光をぶつける。
全身白かった犬の体毛は雷光に焼かれて所々黒味を帯びてきた。それほどダメージを与えたという事になる分かりやすい指標になる。
それでも手を休める気は毛頭無い。痛みで怒りが頂点に達したらしい犬が一直線に後を追ってかけて来る。こうなればもう何の苦労もいらない。リードを繋いだように後をついて来る所に雷光を飛ばしてやるだけだ。
「へぇ〜、いつの間に黒染めなんかしたんだろうなぁ! アハハッ!」
《ふざけてないで早く終わらせて!》
「はいはい……! これで最後だぁっ!!」
後退するのを止め、急停止して頭上で鎌をぶん回してから前方で構え直す。いつのまにか鎌は雷光を纏い、黒い大鎌は紫白に変わる。
《あいつの口……ビームでも出すの……?》
「そんなの出す前にコイツなら叩っ切れるっ!」
そんな事を理由もなく思い込んで……なんて言っても遅いし、言って聞くとも思えない。もう、出す前にけりをつけてくれるのを祈るしか無い。
光速に迫るスピードで斬りかかって犬の首を狙い、雷光の刃を振り下ろす。ズンッ、とした手応えが操縦レバーにも伝わり、それは勝利の確信をもたらす……はずだった。
「ぐぅっぁぁ!! 押し切れねぇぇぇっ!!」
手応えを感じたのは一瞬だった。その後はコンクリートを剣で切ろうとしているように、どれだけ強く押しても全くビクともしない。紫白の刃は犬の首には届いておらず、見えない壁があるかのように押しとどめられている。勝利からは一転、敗北……死への焦りが生まれる。
そして、犬の閉じられた口から漏れ出す黒い炎が私に向かって放たれた。
「っ! 間にあわねぇ……」
《動けぇ!! ザインカナートォォォ!!!》
どれだけ必死に叫んでも体は取られて声が出せない。そんな叫びで何ができるのか……。
……いや、胸の石っころ、オルバナイトを少し光らせる事はできたようだ。私の叫びに答えて光出したオルバナイトは段々と光を増していき、視界を白く染める。これは一瞬のうちに起こった筈なのに、そうは思えないほどに時間がゆっくりと進んで行く。広がった光はとっくに私の視界を真っ白に染めて、ただの感覚でしかないがこの周囲全てを染めて行っているように感じた。
「この感じ…………もしかして……」
私が何かを察した瞬間、大きな爆発音と共に意識を失った。
ーーー
「うっ……うぅぅんっ…………ここは……?」
意識が戻った時、私はコックピットの中では無くどこかの路地で塀にもたれて座っていた。陽は落ちていて星が輝いており、道路を街灯が照らしている。あの街灯の形を見た限り、私の知っている土地ではなさそうだ……。
「あぁっ! センセーイ!! ターゲットって、彼女の事じゃありませんかぁ?」
声のした方を見るとアイリスより少し小さいくらいの女の子と、何処かで見たような戦闘服を着ている男が目に入った。
二人は急いだ様子で私へと駆け寄り、私と目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「突然こんな事を言われても驚くかもしれんが、君は我々が保護する。付いてきてくれ、話は後でするから」
「えっ、ほ、保護っ?」
「まあまあ! 心配しないでっ! 先生の所なら安全だからねっ? はい、立って立って」
今は私の意思は関係無い状況なのかもしれない。見知らぬ場所と見知らぬ人、むやみに敵を作る事は避けたい。私は少女に言われた通りに立ち上がって次の指示を待った。
「よしっ、じゃ、事務所に行こっか! ここから歩いて十ぷ……」
「とは行かないみたいだ……走れば三分。一気に駆け抜けろ。俺はガキどもの相手をせにゃならん。ただのガキと舐めたら痛い目見るアイツらだ……」
「はいっ!! では、サッサとトンズラですっ! 行きますよっ!」
「わわっ! 手放して下さい!」
こうして私は何も分からないまま彼らの事務所へと一旦身を寄せる事となった。




