第三十六話 嘘つきは泥棒の始まり
「うぅぅ……! バグみたいにどんどん湧き出る……」
夜襲を受けてからの私達には寝る間なんて無かった。退けても数時間で現れる。酷い時には一時間も経たないうちに新手が現れた事もあった。
『……弾切れか。アリシア、もう待てない。強行だ』
度重なる連戦に機体もパイロットである私達も消耗していたが、一番の問題はパーツや弾薬等の物資の不足だった。
当初は目的地までの道中にあるレジスタンスの基地は無視するつもりでいた。
しかし、この状態で海を進むのは不可能だった。そこで、残りの弾薬を全てつぎ込んでレジスタンスの重要拠点である沿岸基地に攻め込んだ。
「こっちは全然余裕ですよ?」
『ふざけるな』
「はぁ〜い、ごめんなさい、あはは〜。……コホン、出来るだけコックピットは避けて下さいね」
攻め込んだ目的は人殺しのためでは無い。最低限必要な物資を奪えればいいと思っていたのだが、想像以上の抵抗だった。私達がコフィンで敵の注意を引いている間に、トニー達が基地にあるトラックに物資を積んでずらかる手筈だったのだが……。
『そっちの状況は』
『もうちょい待ってくれ! 今積み込んでる所だ!』
通信越しからも銃声、爆発音が聞こえる。向こうも激しい打ち合いになっているようだ。
「もっとこっちに注意を向けさせないといけませんね。私が前に出ますから援護を……」
倉庫の陰から飛び出そうと一歩踏み出そうとした所をウィリスに遮られた。
『援護するのはお前がだ』
「あ……」
弾切れの事を忘れていた……。
この時の為に取っておいたのであろう二本の内の残ったブレードの柄を掴み飛び出して行った。
その背中を守る為に少し離れた位置からライフルで敵機を牽制する。牽制のつもりで撃たないと間違って急所に命中してしまいそうだ。下手な所に当たると一発で大爆発を起こしてしまうから、あえて少し外して撃っている。
ウィリスは敵機に囲まれてはいるものの、上手く立ち回って銃を撃たせずに接近戦で一方的な戦闘が繰り広げられている。常に目標を敵機との対角線の中に置いて盾として利用し、別方向からも誤射を恐れて彼を撃つものはいない。
「援護とか要らないんじゃないの……?」
そんな所に私を必要としてくれる人達が。
『スマンッ! 倉庫のシャッターが……邪魔で……』
端末からの通信ではノイズが混ざって聞き取りにくくなる事もある。しかし、複雑な連絡ではない単純な連絡だ。何が言いたいかは十分伝わった。
トニー達が向かった倉庫はこの基地の東端に位置しており、これからの進路と一致するという理由から基地からの離脱の際はこの倉庫を目印にするという計画を立てていた。倉庫のシャッターの前からは道が伸びており、先の見えない砂漠の中へと続いている。
肝心のシャッター周辺には、武装した歩兵が中からトラックが出て来るのを十人ほどで待ち構えている。外からでは中の様子は分からないが、銃弾が飛び交っているのは間違いないだろう。
「お前達っ! そこを退かないと撃ちますよ!」
スピーカーで銃を構えている集団に怒鳴った。彼等の注目を集めた私はライフルの銃口を向けてもう一度警告した。
しかし、彼等は私の言葉に従うどころかロケットランチャーを持ち出して狙いをつけている。
「バカな事を……!」
放たれた弾は躱しても向きを変えて追いかけてくる追尾式だった。しかし、こんな物はシールドで容易に防ぐ事ができる。すぐさま私は左手開いて突き出し前方にシールドを展開した。
「身を以て知れっ! 貴様等の無力さを!」
《やめてっ!》
注意を目の前の敵兵に奪われていたせいでコチラに対する意識が薄くなっていた。この瞬間を見て体を乗っ取った彼女は、まだ爆煙で照準もままならないだろうにライフルの引き金を引いた。煙を払いながら伸びた光は一直線に地上へ向かい、着弾した瞬間に地面を抉って土砂を撒き散らした。
「なんて事を……」
《代わりにやってやったんだから感謝しろよ? アハハハハッ!》
シャッターの前に降り立った時に辺りを見回したが、銃器の残骸以外は何も残っていなかった。
シャッターをナイフで切り刻み、ライフルを構えながら中に足を踏み入れる。中にいた敵兵はザインの姿が目に入ると銃を撃つのをやめて手を上げた。私がそう感じただけで、彼等が目にしたのはザインかその背後なのか本当の事は分からないが。
「助かったぁ! こんなトコとはサッサとオサラバだ! 飛ばすから捕まってろよぉ〜!」
トラックへと飛び乗ったトニーはトラックを急発進させて横をあっという間に通り過ぎて行った。
「こちらアリシア。トラックは出ました。私達も引きましょう」
『分かった……。くっ! 三機トラックへ向かった!』
倉庫の天井をぶち破って上昇してみると、たしかに三機こちらへ向かってきている。
「……コックピットは外して……っ!」
ライフルの照準をあえて少しズラして胴体には当たらないように調整した。そして、命中したのは頭部。私がどれだけ気を使ってもそれを知らない敵は勝手に動いて死にに来る。
とりあえずは一機戦闘不能にした。残りはナイフで確実に処理すべく、出力を上げて敵に反応すらさせない方法を取った。
衝突しそうな距離まで近づいても速度を落とさずに飛び、まずは一機。音速を超えたスピードに全く反応できない敵機の頭部を両手で掴み、これまでのスピードを乗せた膝蹴りを食らわせると首から上は風船のように飛び散った。そして、すれ違いざまにバックパックを斬りつけて次へ向かう。
もう一機はブレードを抜いていた。しかし、抜いただけで終わらせる。手にしていたナイフを肩関節に投げつけ、それが装甲の隙間に突き刺さると機能不能となった腕はブレードの重さでだらんと垂れ下がった。
「もう……来ないでっ!」
無防備な姿を晒しているところへ接近し、片手で頭部を掴む。そのまま地上へと腕を振り下ろして敵機を投げ下ろした。
「こちらは片付きました! 打ち合わせ通り合流ポイントで会いましょう!」
ここから私達は東へと向かう事になる。しかし、今回奪った物だけでは必要最低限でしかない。まだまだレジスタンスの基地を襲撃して色々と奪っていかなければいかない。それは敵の戦力を削ぐ事にもなるし、注意を本隊ではなく私たちに向ける事にもなる。
そういう建前ではあるが、心の中に略奪を楽しむ気持ちがあるのは否定できない。今までそんな感情を抱いた事は無かったのに……。




