第三十四話 ふわふわとした戦い
「注文通りそこら中から刃物が飛び出るようにしといたから、自傷行為にならないように気をつけるようにね〜」
「はい! では行って来ます!」
搬入口が開き、足場がスライドしてそこから船外に出された。
『敵はレジスタンスだからこの船を沈める事は無いはずだ。船から離れないように迎撃してくれ』
さっきの水柱が上がった時、水面に着弾したのはビームでは無く実弾だった。実弾を使うバグは今の所確認されていない。新種の可能性もあるが、まずは大きな可能性を優先して考えれば今回の敵はレジスタンスだ。
「卑しい賊……。もし危なくなったら呼んでください!」
レジスタンスに手を貸す組織や団体は大小様々存在するが、それだけでは物資の供給は十分では無い。自ら製造するにしてもコフィンのパーツ全てを完全にコピーするのは不可能だ。そこで彼らは輸送船を襲ってその積荷を奪い、無駄な反抗を続けている。
主な活動地域は中東辺りだが、海沿いにも潜伏しているらしい。今回もその一部だろう。上手く追い返して後をつければ奴らの拠点を見つけられそうだ。
「ウィリス、コイツらの拠点も潰しますか?」
『……いや、その必要は無い。末端をいくら潰しても無駄だ』
「了解です。私は伏兵に備えるので、前の三機は任せます」
私は船と一定の距離を保ちながらウィリスの援護でライフルを撃つ。調整された事で狙った所へ撃てるから誤射は無さそうだ。
一対三でも危なげの無い動きでダメージを与えている。援護の必要なんて無いかもしれない程だ。それでも、仕事したというアリバイ作りの為に撃ちますよ!
『撃つな邪魔だ!』
「おっと……すいません……」
間違いは起こらないんだけど邪魔なら仕方ない。船との距離を縮め、操縦はオートに設定してウィリスの戦いを見て待っていることにした。
シートにもたれ掛かり、ちょいちょい周囲を確認する。ウィリスは優勢ではあるが、人が乗っているコフィンが相手となるとやり辛い所があるのだろうか。
それが数分続いて、ようやく一機仕留める事が出来そうな状態まで持ち込んだ。動きの鈍くなった敵機を他の二機から離して、銃弾を撃ち込む。爆発寸前の敵機は飛行能力を失い、フラフラと戦闘域から離れて落下していく。船の正面で行われている戦闘だったのに落水したのは船の右手側だった。
「これで後二機……こんな所で死ぬなんて無駄って事が分からないのかな……」
《ま、押さえつける奴に反発したくなるってのは分からなくもないぜ。無能な奴に偉そうにされるのはムカつくしな!》
この考えを私との会話でしか話さないなら良いんだけど、間違って外に出してしまったら本当に困る。さっきの事もあるからしっかりと気をつけてほしい。
「だ〜か〜ら〜そんな口調やめてよね! あと、分かる〜だなんて口に……」
《ちょっと待て!》
「はいはい、私の話が終わるの待ってね〜」
《ふざけるな! さっきの爆発で海が照らされた時、何か見えなかったか……?》
「海……? 水中って事?」
基本的に宙を浮いているコフィンは水に潜る必要は無い。昔は少数が実戦に投入されたらしいが、すぐに無駄だと判断されて製造はストップされた。そんな物をレジスタンスが所持している……? 横流しでもあったのだろうか……。
「トニー! レーダーに反応ある?」
『ああっ⁈ レーダーには何も映ってねぇ! リリー! 目視は⁈』
トニーに言われてリリーが船の右側に設置されているライトへと走った。手動で向きを変える大型の物で、数百m先も照らす事ができる。その光が水面を照らして動くが、それらしい影は見当たらない。
リリーがライトから手を離して操縦室に向かって怒鳴っているように見える。多分、何も見つからなかったと言っているのだろう。
《いや、そんなわけねぇ。撃ってみろ》
伏兵に備える為に引いた位置にいる。ここで撃たないという選択は私には無い。
手にしたライフルをさっき何か見えた気がする方へと向けて引き金を引いた。実弾兵器と違い、撃った瞬間に着弾しているように見えるくらいの弾速で見てから躱すというのは不可能だろう。
海にビームが着弾して数秒後。海の中から何十もの小型ミサイルが飛び出した。
《ほーらな! やっぱり当たりだ!》
「ひゃぁ〜本当だったね〜!」
幸いな事にミサイルは目標の私に一直線で密集して飛んでいる。これならば一つ潰せば誘爆で迎撃できるはずだ。
腰部装甲に新しく装備されたナイフをミサイル群の中心に投げ込み、私はその下方に潜り込んだ。
一本のナイフで全てのミサイルは迎撃され、爆発の炎によってまた暗い海が照らされる。今度は海中の敵機がハッキリと二機確認できた。そいつらは懲りずに私に向かってミサイルを撃とうとしている。
「もう無駄なのに……死んじまえよ!」
外しようのない距離に位置するならば速やかに片付ける。銃口を向けて引き金を引く動作の間に逃げる事もミサイルが撃たれる事もなく、ビームが敵機に着弾した。
「えっ⁈ 何で落ちないの……⁈」
二機とも直撃を撃ち込んだはずなのに、損傷してはいるがまだまだ戦闘が可能に見える。そこへ通信で説明が入った。
『水の中だとエネルギーが減衰しちゃうからねぇ〜。言ってしまえば水中にいる敵を相手にする時は余り役に立たないんだよね、それ』
「始めに言ってくださいよ! そんな大事な事!」
文句を言っている間に次のミサイルが目の前に迫っており、咄嗟にレバーを前に倒してペダルを踏み込んでいた。機体とミサイルとの間は考える間も無く詰り、気が付いた時にはミサイル群の狭い隙間をすり抜けて逆手にナイフを持って振り下ろした。海面に頭だけ出していた敵機に覆い被さるように飛びかかり、首元に深々とナイフが突き刺さっている。私が上に乗っていても全く動きが無いという事は、この一撃で内部が逝ってしまったのだろう。
「ふぅ〜……ちょっと気温下がった……? もう一機は……!」
回避からの攻撃を行った一連の動作は無意識の反応から起こった事だと思うと、暑苦しいパイロットスーツを着ていても涼しく感じた。
もう一機は、と周囲を見回しても見当たらない。足場にしていた敵機を蹴って空中から改めて確認するが、それでも見つからない。そこへウィリスからの通信が入った。
『無駄に動くな。逃げて行く影を確認している』
「はい……すいません……」
『なーに、気にするこたぁねぇよ! こっちが不利な状況だったんだ、十分よくやったよ』
落ち込む私を慰めてくれたトニーの言葉に続けてウィリスが間髪入れずに続けた。
『だが、逃してはならなかった事実に変わりはない。今からこの任務終わるまで、夜の見張りはお前の担当だ』
『ハハッ! 寝ずの番よろしくなっ!』
「ええぇ〜! 酷くないですかそれ⁈ リリーとロシュに任せればいいじゃないですか!」
『……アイツらは信用できん』
『確かに……ロシュはともかくリリーはな……』
さっきまでの担当が誰だったのかなんと無く察しがついた。レーダーに頼れない今は目視での警戒も大事だ。
私はせめてもの抵抗とコックピットの中で警戒に励もうと甲板にコフィンを下ろそうとしたが、『敵を呼び寄せたいのか!』と怒られてしまった。
双眼鏡片手に甲板に座り目を凝らし、暗い海を睨み始めて一時間程経った後だろうか。私の目に複数の小さな光が目に入った。




