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第二十六話 北アフリカ基地奪還・前

「援護します! ウィリスは大きいのだけに集中して!」


 私の放った弾丸は三発全てがバグに命中した。撃たれた小型は体の一部が弾け飛び、飛行状態を維持できずにアフリカの砂漠へと落ちて行く。

 アフリカ大陸の北にはサハラ砂漠が広がっている。そして、サハラ砂漠よりも南側には熱帯雨林、草原と様々な植生が存在しているはずだった。

 現在は上空から見下ろして確認できる植物は皆無。植物だけでなく動物も一匹たりとも見当たらない。生息しているのは目の前を埋め尽くしている不快な蟲。これでは死の大地と呼ばれるのも当然だ。

 このような状態になったのは私が生まれる数年前、二十年程前だそうだ。三大洋に突如出現した大穴の中の一つはアフリカ大陸のすぐ西に出現した。現在、バグに奪われているアフリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、インド半島、この中で一番最初にイギリス軍が撤退したのがアフリカ大陸だ。撤退する頃には、既に大陸の砂漠化は八割方進行していたという記録が残っている。

 私のような若者にはバグに奪われた土地に人が住んでいたと言われてもしっくりこない人が多いらしい。他人事みたいだけど、私もその中の一人なんだよね。ウィリスとトニーはどうなんだろ? 二人ともバグが現れたのとほぼ同時期に生まれてるから私達と同じなんだろうか?


『そうさせて貰う……!』


 この間言っていたように背中は任せたという事だろう。すると、突然ウィリス機のバックパックから四つ、両足から一つずつ小さな何かが飛び出した。それは不規則に蛇行しながら小型の間をすり抜けて中型へと向かう。

 小型はその道を阻もうと何かに群がる。自らを殺そうとする敵の中から生み出されたモノが親を襲う。それを守ろうとするのは少し人間と似ているのだろうか? あんなのと似ているなんて虫唾が走るけど。

 自分が何故こんな事を考えているのか理解が出来ない。考えるにしても今はそんな暇は無い。帰ってから……も、多分こんな事忘れているだろう、たわい無い事だ。

 無駄な思考の後に残ったのは、無駄な不快感。どうすればこれを消し去ることが出来るか、なんて考えてしまえばまた無駄の連鎖だ。

 それに、考えなくても方法は目の前に大量に浮かんでいた。


「あはは! 考える事が似て来たのかな?」


 《良い傾向だな。もっと私に染まればいい人生になるぜ?》


「や〜だよっ! 今のままでいい!」


 今の自分で十分満足しているし……こうはなりたく無い、という部分が集まっている性格だしね……。

 ブツブツ独り言を言いながら大剣を振り回して、バッタバッタと切り捨てて行く。今の私の働き振りならウィリスが向こうに集中する為のサポートは十分出来ている筈だ。

 しかし、当のウィリスは私のサポートなんて無くてもいいんじゃないかと思うくらいに、中型から生えてくる砲身を潰すついでに小型もガンガン撃ち抜いている。本当に私のことを信用してるのか怪しいなぁ……。

 そして、さっき飛ばした物体をズームで確認すると、それは小さな砲台だった。ズームの倍率からして三、四十㎝ぐらいだろうか。長方形の箱のような砲台から突き出た二連装砲、そこから放たれる弾丸は命中するとバグの体表を覆う硬い甲殻の内側に入った瞬間に弾ける。内側が脆いバグには効率的な武器だ。

 あれをどのように操作しているのかまでは見ているだけでは分からない。ただ、小さな推進器がいくつか付いているだけで、あんなに素早く飛べるということは内部にはオルバナイトが搭載されているのは確かだろう。


「……遅い、リリー……まさか……!」


 私がウィリスに追い付いたのがもう十分前だ。そんなに距離は無かったからもうそろそろ合流してもいい頃合いなのだが……。

 来た方向を見ても影も形も無く、切り開いた道は小型の群れによって完全に塞がれてしまっている。これではリリーがもしこの場へやって来ても私の目の前でやられてしまう。


「ウィリス! リリーが来ない!」


 そんな事はウィリスも分かっているだろうが、彼が中型を相手にしている内はサポートしなければいけない。という事は引き返したくても出来ない。もし、ウィリスが撃墜されたりなんて事があれば、次は私がやられる番になってしまう。


『チッ! ……確実に仕留めたかったが……!』


 今の言葉でも「さっさと片付けて」という意味を理解してくれたようだ。

 ウィリスは既にロングライフルを機体の右手に持たせていたが、バックパックにマウントされていたもう一丁を左手に持たせた。


『頭を潰す! お前はそのまま雑魚の注意を引いていろ』


 ウィリスは自身の進路を確保する為に砲台を使い雑魚を蹴散らしながら、中型の下方から懐へ潜り込んだ。

 双方の間は十mあるか無いか。中型からすれば腕を伸ばせば届く距離だろう。しかし、この特殊な中型はビームを放つ事が出来る。この距離ならばビームの雨を降らせば命中させる事は容易いだろうに。そんな状況でもこの巨大な羽虫は何mもある腕を振り下ろすという選択をした。勿論そんな攻撃がウィリスに当たるはずも無く、難なく躱されて腕の付け根に弾丸を貰っている。

 下方から接近したウィリス機は中型を中心に螺旋を描きながら高速で頭部まで上昇していく。その際には当然ただで周りを飛んでいるわけでは無く、両手のライフルから絶え間無く弾丸を放ち、生えてくる砲身を潰している。

 そして、後頭部を飛び越えて正面に両者が向かい合った時には、もう一方的な図が出来上がっていた。コフィンの何倍もある巨体は腕一本動かすのも出来ないくらいにボロボロにされて、ただ浮いているゴミと化している。


『これで終わりだ……!』


 最後の一撃を撃ち込もうとウィリスはライフルの銃口をバグの頭部に向けた。これでこの戦いはウィリスの勝ちに終わる。後は、リリーを探してこの先の基地の中に逃げ込めば本隊を待てる……。


『……そ…………け……』


 突然、砂嵐が混じった通信が聞こえて来た。この砂嵐はジャミングの影響だろうから、それなりに離れた場所からだろう。

 しかし、それは段々とハッキリと聞こえるようになり……。


『何で………ねぇん……おい!』


「あの! 本隊の方ですか⁈ こちらはラ……って! ウィリス! 避けて!」


 私が叫ぶ前にウィリスは超高速で接近する何者かに気が付いていた。それでも、静止していた状態から急に回避するのは難しいが、ウィリスは何とか機体を捻って難を逃れた。

 そして、スピードを落とさずに、更に加速していたように見えた何者かは中型の腹部に激突し、大爆発が起こった。

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