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第二十四話 危険は承知?

 私よりも先に出た三人はもう交戦状態に入っていてもおかしくなかった。数秒の間があるだけで、数キロの距離が開いてしまう。

 だから、全速力で追いかけたのだが、三機は思っていたよりもずっと近くで私を待っていた。


「焦っちゃダメだろ? 今は慎重に行こうぜ」


「海側には既に味方が向かっている」


 レーダーに映る味方機の動きは大陸側何て興味が無いというように偏っている。


「いつもこうなんですか……?」


「まぁな、みんな死にたくないんだよ」


 それもそうだけどこの偏り方は酷い。私達含めて三十機以上は出撃した筈なのにこちら側に来ているのは四機だけ。作戦を成功させるつもりなんてないのだろうか……?


「ちょっと! 何でボク達大陸側に向かってるの⁈」


「文句があるなら帰れ」


 こう言われてはどうしようもない。ここに来ているのは金を稼ぎたいからだ。より敵が多い場所を選ぶのはもっともな事である。さらに、作戦が成功すればボーナスも出るとあれば、ウィリスが大陸側を選ぶのは明らかだった。


「最近失敗ばっかで割りに合ってねぇから、アリシアがいる今回は攻めていかねぇとな」


 リリーはウンウン唸りながらブツブツ言っている。ただ、帰ろうという動きは見せていない。

 先頭を飛んでいるウィリスがスピードを上げた。これ以上話す事は無くなったという意味だろう。向かうのは死の大地と化したアフリカだ。


 ————


「うわぁぁぁ!! 助けてぇぇ!!」


「えっ⁈ また⁈ 今行くから!」


 さっきから何度もリリーが集中的に狙われている。その度に私は群がる敵を片っ端から落としているのだが……。


「どうしてボクばっかり⁈⁈」


 半分涙声で叫ぶリリーだが、原因は彼女にある。


「嫌なら色を変えろ!」


 と、ウィリスが言ったように問題は機体の色だ。白や黒のモノトーンをベース色にしている私達の機体の中に、一機だけ全身黄色の機体が飛んでいれば当然目立つ。


「ハハハッ! ……ウィリス! 後ろだ!」


「見えてる!」


 ウィリスは振り向きざまに手にしていたライフルを突き出した。背後から飛びかかったバグは長い銃身によって串刺しとなり、次の瞬間吹き飛んだ。


「冗談を……どうする? このままじゃジリ貧だぞ」


「そうだよっ! 一旦退いた方が……」


 戦闘が始まってから二十分弱。当初の予定では一時間待てば本体が来るはずだったが、想定よりも早く状況が動いてしまった。そして、時計はようやく本来の作戦開始時間を指し、これから一時間ここで戦い続けなければならない事を告げている。


「艦からの援護は依頼できないんですか?」


 空母だから本格的な兵装は無いものの最低限の物はある。それがあった所で効果があるとは思えないけど……。


「無理だ、今は耐えるしかない。極力無駄弾を撃つな……いいな、トニー」


「お、いつものやつか! 今回は勝たせてもらうっ!」


 戦闘中だというのに嬉々とした声を出している。しかし、楽しそうな声を出していても、トニーの放った弾丸はバグの頭を貫いて行く。


「いつもの、って何の事ですか? 賭け……?」


「簡単な遊びだよ。命中率が低い方が相手に奢る、それだけ」


「へぇ〜、トニーはともかく……ウィリスもそんな遊びするんだぁ……へぇ……」


 出撃した時の映像や撃墜数、命中率、被弾数はコックピットに内蔵されているレコーダーに記録されていて、後で見返す事ができる。帰還すると同時にこのデータが換金所に送られ、レートに撃墜数が掛けられて報酬が決定されるという仕組みだ。


「何か文句でもあるのか」


「あはは! 無いです無いです! じゃあ、私もお願いしますね!」


 私も便乗してみる。


「未成年は飲んじゃいけないだろ〜?」


「あはは……一杯くらい……ね?」


「余裕がありそうだな。どうだ? 基地までの道、お前らで開くか?」


 少し調子に乗り過ぎたかな……? モニターを見ておらずどんな顔から発された言葉なのか分からない。声の調子から推測するとちょっと怒ってそう、かな?


「あぁ〜ヤダヤダ、大人しくしてますよ!」


 無茶な要求にトニーはノータイムで声を上げた。

 しかし、私はウィリスの言った事を悪くは無いと感じて、どうしようかと迷っていた。


 《どうして迷う?》


 ……自信無いかなって。でも、どうせそうしないと押し潰されるよね?


 《ああ、推進剤が切れた時にな。自信無いからってやらないままだと死ぬだけだろ?》


 そうだよね。援軍は期待できないし、逃げようにもこのまま逃げたら艦まで誘導する事になるし。


 《ああそうだ。やるぞ……!》


 うん、やろう!


「私、やります! 基地まで私が引っ張ります! 付いてきて!」


「はあっ? オイオイ!」


「何馬鹿なこと言ってんの⁈ アリシア!」


 驚きの声を上げた二人に対して、ウィリスの私への言葉はこうなる事が分かっていたというような口ぶりだった。


「なら、俺がトニーの代わりで前に出る。そこのガキ、死なないように付いて来い」


「お前ら止めとけ! ここで粘って本隊を待てばいいだろうが!」


「あんな大群に突っ込むなんて正気じゃない……」


 たしかに正気ではない選択だろう。しかし、ウィリスは二人の言っている事を気にも留めていない。


「どうせ撤退は不可能だ。このままここで粘ってもバグが集まって、俺はともかくお前ら……特にそこのガキは確実に死ぬ」


 これに私も続いて話を続ける。


「それにバグはこの大陸に侵入した私達だけを狙っているみたいだから、ここを離れても艦の方には向かわない」


 レーダーに映る敵の反応は交戦状態になってからは動かずにこの場所に留まっている。そして、大陸の中央からはどんどん新手が接近している。


「……それでも、やっぱり駄目……ボクは……」


「大丈夫、絶対守るから。リリーの事が最優先だよ!」


「……ん? ちょっと! 余所見しちゃ駄目だってアリシア!」


 本気だって事を分からせる為にもしっかりと目を見て伝えたかった。すぐに気付いてくれなかったら危なかった……。

 目が合った事を確認してから、目を前に向ける。私は手の届く所まで接近していたバグを真っ二つに叩き斬って、リリーに確認した。


「ダメかな?」


 リリーからの返事は言葉ではなく、大きな溜息だった。音声だけで表情は分からないが、もう諦めたという感じだ。


「さぁっ! トニーも腹括って!」


 今回は目を見ている余裕も必要性も感じなかったから剣を振るう片手間で声を掛けた。大人なんだからこの状況を受け入れてくれなければ困る。


「はぁ……。これも仕方無いか……」


 私達を引き止めようとしていたトニーだったが、反対派が彼一人ではどうしようもない。


「……分かった、前は任せる。ケツは俺がやるからチビは前の二人について行くことだけを考えろ」


「うん! ありがとね、オッサン」


「誰がオッサンだ! まだ二十五だっつーの! お兄さんだろうが!」


「チビチビ言うからだよ!」


 確かにリリーが怒るのも分かるけど、トニーをオッサンと言うのは無理があるよ……。ウィリスもトニーも結構若く見える。もし、年齢を聞かなければ二十くらいかと答えていたと思う。


「へぇ〜! 意外と歳行ってるんだ〜」


「あぁ……出る時は幾つになってるか……」


「早く出たいなら手を動かせばいい。行くぞ、アリシア」


 私の返事を待たずにウィリスは敵のど真ん中へと突っ込んで行く。


「はい! リリー、離れすぎちゃダメだよ」


「頑張るよ……」


 自信なさげな声に不安が募る。後ろ髪が引かれるような思いだが行くしかない。


「安心しろ! ケツを蹴っ飛ばしてでも付いて行かせる!」


「お願いします! じゃ! 行きます!」


 先行しているウィリスの開いた道はすぐに虫《バグ》によって消えてしまいそうになっている。このままではウィリスは孤立して集中攻撃を受けてしまう。彼はそんな状況を作らない為に私を呼んだ。ならば、その信頼に応えなければ。

 音速で飛ぶことはできないが、それに近いスピードで小さくなっていく隙間をこじ開け進む。

 しかし、切っても切ってもキリが無い。どれだけ殺しても次々と間髪入れずにバグが襲いかかってくる。確かにこれなら凄い金額の報酬になりそうだ。……無事に帰還できれば、だけど。

 先行しているウィリス機を視認することはできないが、この物量にしては不自然に一本の道が続いている。この道が続いている限り、ウィリスは無事だという事だ。


 《……おい、見えてるか》


 高速で飛び回っているから常に視界は移り変わる。それでも、声が言いたい事は分かる。ウィリスはとっくに気が付いているだろうし、もう交戦状態に入っているだろう。その証拠に、赤い閃光が四方八方に伸びている。


「うん……! 他にもいたんだ……」


 後方の二人に伝えようにも、とっくにジャミングの範囲内に侵入してしまっていたようだ。流れてくるのはザーっというノイズだけ。

 通信ができないとリリーの状況が分からない。助けに戻りたいけれど、今戻ってしまうと折角開かれた道が閉じられてしまう。


 《リリーが来る前に殺る。それしか無いだろ》


「ウィリスもいるんだからリリーが来る前になんとかできるよね」


 これは約束を破るわけではない。リリーの事を考えての選択だ。

 私に追い付くまでの三分間であの中型を無力化する。でなければ、あのビームの雨からリリーを守る事が出来ない。

 私は機体の左手にシールド、右手にソードを持たせて、ペダルを全開まで踏み込んだ。

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