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第二十三話 行きます!

 駆け込み乗艦で飛び乗った私達は、ライザさんに艦内放送で名指しされて怒られてしまった。その時、周りにいた人達に笑われたのは言うまでもない。

 空を巨大な鉄の塊が飛ぶって何十年か前は考えられなかったらしい。今は魔法の石で空を埋め尽くすくらいビュンビュン飛び回ってる……ようにはならずに、空母が空を飛ぶようになっただけだった。


「こんなに大きな空母珍しいですよね!」


 艦の食堂で朝食を済ませた後、当てもなく艦内を歩き回っての素直な感想だ。


「うんうん、一隻しかない分サイズは最大級だ。このレベルは数える程しか作られてないね」


 以前にも空母には乗った事があるが、こんなに大きくはなかった。その時はまだお兄様専用の空母が建造中で、代わりの艦は今乗っている物より一回り小さかった。


「お兄様の艦って完成したんでしょうか?」


「アレね……まだまだなんじゃない? 僕が抜けたのは痛いと思うよ〜」


 完成すれば現存する物では最大となる程の巨大空母だ。二年も前から建造はスタートしていたからそろそろだろうかと思っていたけど……。

 あと、アーサーさんの話し方で気になった事が……。


「何だか嬉しそうですね?」


 常にニヤケた顔をしている人だ。しかし、何となくだが、今はいつもとは違った感じがした。


「あ〜あ、そう見えた? まあ、ちょっとだけ。ライナスには悪いけど、現場のスタッフは何かと僕に噛み付いてきてたから……ざまぁ見ろってね〜ふふふふふっ」


「あはは……」


 相当だね……これは……。


「じゃ、僕はそろそろ。用事があるから」


 アーサーさんは軽く左手を振ってから背を向け、長い廊下を歩いて行った。

 この場に残っているのは私、リリー、トニー。ウィリスは艦に乗り込む前からずっと見ていない。


「そういえば、二人は部屋決めたか? 決めてないなら今のうちに決めとけよ」


「部屋? どういう事?」


「一人一部屋好きに使えんだよ。まあ、寝るのに使うだけだけだと思うけどな」


「へぇ〜、なんか急に優しいですね」


 島ではボロボロの部屋が与えられるだけだったのに。


「他にも、参加した者には撃墜数に関係無く報酬が出たり、クレジットのレートは二倍、メシは食い放題、機体を修理する時のパーツもタダでくれるぜ」


「それなのにリリーはこれまで参加しなかったんだね?」


 二人の視線は少し低い所に向けられた。

 視線を受けて、重心を左足から右足に移して話し始めた。


「いくら稼げても帰って来られなきゃ意味ないよ。命あっての物種って言うじゃん」


「そういう考え方もあるよな。ってか、お前は外に出る気が無いじゃねぇか。それなら食い繋ぐだけでいいんだろうけどな」


「でも、みんなは気の遠くなるような額稼いで外に出ないといけない……馬鹿みたい……そんなに良いの? 外って……」


 納得のいっていない顔で私達の目を交互に見つめた。


「ハハッ! たしかに桁四つ五つ間違ってんじゃねえかって思うくらいだしな! でもな、だからって抗わずにあんな掃き溜めで死ねるかよ、それを止めた時は人じゃないって認めた事になる」


「……ふーん……、そうなんだ……」


 いつもとは違うトニーの真剣な言葉にリリーは少し戸惑った様子だ。私も普段とのギャップに驚いて言葉が喉に詰まってしまう。本人も熱くなり過ぎた事を自覚してか少し上を向いて、深呼吸して落ち着こうとしている。その後、しばらく誰も口を開かず気不味い空気が流れ始めた。

 しかし、それは長くは続かず、不愉快な音がこの空気を吹き飛ばした。この音は戦闘態勢に移行する事を知らせる物。いよいよ作戦が始まる。


「行こう!」


「おっし! やってやるか!」


「……うん! ……バァちゃん、絶対帰るからね」


 ————


 私達が着替えて格納庫へ着いた時には既にパイロットが乗り込み、出撃準備を済ませた機体がカタパルトへ運ばれていた。

 私も遅れは取るまいと機体の手、腕、肩と駆け上り、開いているコックピットに飛び込んだ。もう、事前にする事はしていたから、今する事といえば外の状況の確認だけ。機体の移動、カタパルトへの設置は勝手にやってくれる。


「アーサーさん、どういう状況なんですか?」


『どうやらこっちの動きを察知されてるみたいだね。正面から突っ込んでくる集団と、海の方から回り込んで本隊に向かう集団。本隊からはどちらも相手をするようにだってさ〜、無茶言うねぇ』


「だから想定よりも早かったんですね……」


『遅いぞ! お前ら何をしていた!』


 突然通信に割り込んできたのは顔を赤くして怒っているウィリスだ。何をしてたか聞きたいのは私もなんだけどな……。


『食後の散歩だよ。そう言うお前はなんも食わずにコックピットで寝てただろ? 腹減ってミスったりすんなよぉ〜』


『余計な事を……。リリー! 後はお前だけだ! 早くしろ!』


 いつもチョコチョコとすばしっこいリリーだが、出撃前後は少し様子が違う事が多い。今回も例の如く四人の中で最後に準備を済ませた。


『ゴメン! 終わったよ!』


『ウィリス機とアリシア機をカタパルトに回すよ〜』


 床がスライドしている。今までとは違う空気に心臓の鼓動が早くなっている。これは緊張なんだろうか……? そういえば、こんなにちゃんとした出撃って初めてだ。


 《緊張してんのか?》


「そうかもね。悪い?」


 《それで死なれちゃかなわねぇな。私の言いたい事、分かるよな?》


「うん、出撃したらか……ううん、危なくなったら、お願い」


 《初めからじゃないってのはつまらねぇが……まあ、いいか。絶対呼べよな!》


 床のスライドが終わり、機体の下部がカタパルトにセットされる。


『ウィリスの小隊……って事でいいのかな? ま、一番機から出ちゃって』


『よし、出る……』


 と、ウィリスが呟いてから五秒十秒……。彼の機体は微動だにしない。


『くっ⁈ なぜ動かん⁈』


『あー……ちゃんとフルネーム言ってからじゃないと動かないよ。安全と出撃管理システムへの承認の為にね』


『馬鹿な事を……ウィリス・リヒター、出るぞ!』


 今度はちゃんとカタパルトは動き出し、ウィリス機は飛び出して行った。


「ふぅ、アリシ……」


『ゴメンッ! 二番機は俺だわ! トニー・ヘイズ、行ってくる!』


『君は四番機ってなってるからまだ待っててよ』


「何で先に私をセットしたんですか!」


 二つしかないカタパルトの片方を埋めるなんてもったいない。時間の無駄だし、今は焦らされたく無い。

 トニーが出た後、直ぐにリリーの機体が隣にやって来た。


『アリシア……』


「ん? 何?」


 モニターに緊張した顔が映し出された。


『ボク、帰って来られるかな……』


 弱気になるのも仕方ない。こんな所にいても、十四歳の子供なんだから。


「大丈夫、私が守るから。帰ってお礼もしないといけないしね。無理はしちゃダメだよ?」


『うん……! 頑張る! リリー・ホーキンス、行くよ!』


 リリーの黄色い機体も外から刺す光の中へ飛び込んで行った。

 そして、残されたのは私だけ。


『新型が間に合わなかったのは残念だけど、一度戻って来てくれたらその時に渡せるように僕も頑張ってみるよ』


「はい! ありがとうございます! あはは、もう少しだったんですけどね〜」


『君が寝落ちなんてするから〜。ウィリスも怒ってたよ? 手を動かしながら』


「後でお礼しないといけませんね……」


『じゃ、四番機行ってみようか』


「はい! アリシア・フェザー・ガーランド! 行きます!」


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