第二十一話 頑張ろう!
「うへ〜吐きそ〜」
滑走路に不時着したような体勢で着陸し、コックピットから転がり出た私は目が回って酷い吐き気に襲われていた。
『他にも着陸する機体があるからさっさとどいてくれないかな〜?』
「あー……ごめんなさ〜い……」
後ろを振り返るともうウィリス機の姿は無くなっていた。
私もここを動こうと歩き出したが……吐きそう……!
「ほらほら、アリシア! 肩貸すよ」
「あれ……、リリー? 何でここに?」
「アリシアがここにいると邪魔だから、さっさと引っ張って来いってさ」
「あはは……ごめんね〜、すっごく吐き気が酷くて……」
リリーは私の肩を持とうとするが、背が低くて全く補助になっていない。仕方なく私が後ろに回り、両肩に手を置いて電車ごっこをしているような形になった。
「ちょっ! なんか違うよこれは!」
「違わない〜違わない〜。さあ、行った行ったぁ〜」
この方が肩を持たれるよりも私としては凄く楽だと思う。あ、でも、リリーにかかる体重がこっちの方が重いかな……? ま、大差無いかな。
私は頬を膨らませたリリーに助けられながら格納庫へ向かった。
————
「その血どうしたんだ?」
「……気にするな。来たか……」
「おっ! こっち来いよ〜!」
格納庫の空いたスペースには三〜四十人くらいの人集りができている。その中にウィリスともう一人の助けに来てくれた人がいた。
「は〜い! 今、行きま〜す!」
歩いているうちに酔いも治っていて、もう私がリリーを後ろから押して歩いている。
「アリシア〜! これ止めてよ!」
「ひゃぁ!」
リリーに半分くらい体を預けていた私は、その支えが無くなったせいで前に倒れそうになって手を鉄の地面についた。リリーはさっさと呼ばれた所へ走って行って私の方を見ている。何でちょっと怒ったみたいに睨んでるんだろ?
私はのんびりと歩いて三人の所に到着した。
「さっきは助かりました! ありがとうございました……えっと……」
まだ名前も知らない人にさっきの礼をする。ついでに名前も聞いておこうかな。わざとらしくぽけ〜とした顔をして彼の反応を待った。
「トニー・ヘイズだ。よろしくな。トニーでいいよ」
「じゃあ、よろしくトニー。……あ、指輪」
握手しようと差し出された右手の薬指には光る物がはめられていた。
「ん? 良いだろ〜、こっから出たらな……ふっ……」
私が手を掴む前に右手を顔の高さまで上げ、指輪を見つめ何やら思いを馳せ始めた。
「えー……どうしよ」
「さあね? ほっとけば?」
「そうしろ。こうなったら当分まともな会話はできん」
《変なヤツだな》
確かにそうかもしれないけど、ああなる気持ちも分からなくは無い。私もお義兄様の事を語れば朝から日が暮れるまで続いてしまう。
「よぉぉし! 時間だ! 今回もまずまずと言ったところか。では、説明を始める」
いつの間にか集団の前に現れていたライザさんが大声を出して注目を集めた。
「目的は北アフリカ基地の奪還だ。我々はまず本隊到着までの一時間に可能な限り敵の数を減らす。本隊到着後は基地に突入して内部の敵を掃討。これが完了次第帰還する。二日後の0600にここを発つ。今回こそは作戦成功に貢献できるよう奮起せよ!」
————
ライザさんの話はあれだけで終わり、直ぐに解散となった。
「で、ウィリスは私をさっきの作戦に連れて行くために助けに来たの?」
「ああ、信頼出来る奴にしか背中は任せない」
信頼してもらってるって事は素直に嬉しい。けど……素直に喜べないなぁ!
「へぇ〜、お前がそこまで言うなんてな。じゃ、俺はリリーと後方で遊んどこうかね〜」
トニーは丁度隣にいたリリーの髪をわしゃわしゃして笑う。当然、リリーは嫌がってその手を叩いて、脛を蹴り返した。軍用のブーツはかなり丈夫で硬い。威力もかなりのものだろう。蹴られたハンサムは、その外見からに似合わないみっともない声を上げて苦悶の表情を浮かべている。
「お前もこれまで通り俺のフォローだ」
「じゃあ、リリーも私のフォローよろしくねっ!」
「ボクッ⁈ 何でだよ!」
飛び上がる程驚く事かな……。
「止めておけ。足手まといだ」
「確かに、チビには悪いが邪魔かもな」
「酷いなお前らっ! うぅ……やってやるよ! お前らよりも稼いでやるからなっ!」
そう吐き捨てるように言うと走って格納庫から出て行ってしまった。
これを見た二人は特に変わった反応は無く、トニーが一言二言何か言ったくらいだった。
私達はそれぞれ自分の機体を整備をする事になったが、私はそのほとんどをアーサーさんに任せている。それに、整備は済んだと朝に言われたばかりだ。
「あ、そういえば新しい機体を作るって言ってたっけ……」
さっきまではこの辺りにいた気がしたけれど、今彼の姿はここには見当たらない。自分の開発室で作業しているのだろうか? 何度かお邪魔しているから場所は知っている。アポ無しでも大丈夫かな?
————
工廠の中は入り組んでいて、気を抜くと迷ってしまうと言うのは経験から理解している。
今回も多少危なかったが、迷う事なく目的の部屋まで辿り着くことができた。
「アーサーさ〜ん。アリシアです〜」
インターホンを押して中からの反応を待つ。しかし、なかなか返事が返ってこない。
時計を持っていないからどれだけ待ったか確かでは無いが、十分は待ったと思う。今は留守なのかと諦めて格納庫へ戻ろうとした時、突然首にかけたネックレスの石が光り出した。取り出してみると眩しすぎて直視出来ずに反射的に両手で握り締めたが、それでも手の隙間から光が溢れ出す。
「どうして⁈ ……アーサーさん! 中にいるなら出てきてくださいよ!」
理由は分からないけれどアーサーさんは部屋にいる。早くこの状況をなんとかしてもらおうと大声で名前を呼ぶけれど、やはり何の反応も無い。
もう自棄になってドアを叩いたり蹴ったりして開けようと試みた。結局、それも効果は無く、私は暴れるのを止めてドアにもたれて光を抱いた。
「あっ……元に戻った……?」
何で戻ったのかも分からないし、さっきの私の行動も理解出来ない。もしこの石が爆発でもしたら間違いなく木っ端微塵だった。……この石と死ぬならまだマシかもしれないけど……。
「誰だ〜僕の部屋のドアに暴力を振るったのは〜……って、君かい? ドアを凹ませたのは」
「それは謝りますっ! ごめんなさい……。で、で、私すっごく慌ててててですね……」
「なるほど、僕も面白いことがあってね。この前回収した新種から採取されたオルバナイトをアクティベートさせようとしてたんだけど手こずってねでも突然光り出したと思ったらアクティベートが完了してたんだよ〜面白いこともあるもんだ。おっと、それで君は何で慌ててたのかな?」
早口なのは見たこともない現象を目の当たりにして気分が高ぶっているからだろう。
「私の石も突然光り出したんです! 爆発するんじゃないかってハラハラしました……」
「それも面白いねぇ〜。けど、今は新しい君の機体を組み上げる方が先だ。もちろんその石も調べさせてもらうよ、またの機会に」
「組み上げるってもうですか? さっきこの話ししたばかりなのに……」
「ハハハッ! 僕、暇だったから。数日前から準備はしてたんだ〜。って事で、君は格納庫に行ってて。直ぐに僕も行くから」
「はいっ! 明後日に間に合うように頑張りましょうね!」
私がそう言うと彼の表情は少し曇り、数秒の間の後に口を開いた。
「それは無理かな」




