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第十七話 想いの力

「ここが座標の地点……」


 眼下に広がるのは小島が密集した海域。ここならば島から島へと飛び移りバグに気付かれずに撃ち殺す事が出来そうだ。当然、その標的が私だとしても有効に立ち回れるだろう。


『彼はこっちのレーダーにも映らないように細工している。なんとかして自力で見つけるんだ』


 と、言われても闇雲に動くわけにもいかないし……。あ、そうだ! 良い事思いついた!

 早速実行だ! この周辺ならどこにいても聞こえるように音声をスピーカー出力し、大声で叫ぶ。


「コォーラァー! 出て来い腰抜けー! 不意打ちしないと女一人倒せないのかー!」


 ………………何の反応も無い。やっぱりダメだったか……。


 《いや、かなり御立腹だ》


「何言ってるの?」


 《見えた! 右下!》


「わぁっ⁉︎ 本当にぃっ!」


 言われた通りの方向からの狙撃。確認する前に動いて良かったぁ……。

 しかし、安心するのは早かった。突然の爆発音が耳を刺す。


「ぐっ……! さっきと違う方向……!」


 私が一発目を避けている間に二発目を発射した場所に移動していたなら、今はもう次の狙撃ポイントに移動しているはず……。


「あぁっ!! 推進器が片方……」


 破損状況をチェックする為にできてしまった一瞬の隙。アラートが鳴り響き真下から急接近する物を私に知らせた。


 《下だ!》


「分かってるっ!」


 振り上げられたソードを咄嗟に左手で取り出したダガーで受け止めたが、圧倒的に分が悪い。


『受け止めるとは意外だったが、もう後は無いぞ』


「待ち伏せで罠まで仕掛けて……卑怯です!」


『アレは五分後にここを通るバグに対しての物だ。お前で試し撃ちさせてもらった』


「馬鹿にして……!」


 受け止めたソードを押し返し、右足を振り抜く。この動作間は一秒も無かったが、まるで分かっていたかのように擦りもせずにかわされてしまった。

 そして、踊っているかのような動きで私の背後に回り込み、振り返って視界に捉えた時には大きく右腕を引いて突きを繰り出そうという構え。殺す気だ……!

 今ここで逃げの動きをすればこの人が言ったような腰抜けだ。ならば、相手の裏もかけるし度胸を見せる為にも前に出る!

 ペダルを踏み込み、握り締めた操縦桿を前に押し出して迎え撃つ。致命傷を避ける為に相手との軸をずらしながらの接近。少しでも手足が狂えば海のもずくの仲間入りだ。


『くっ! 前に出て来るっ⁉︎』


「取ったぁ!」


『させんっ!』


 振り切った左手には確かな手応えを感じた。

 しかし、海に落ちたのはウィリス機の頭部アンテナ。私が命中を確信した瞬間に彼は機体の上半身を反らした。その結果、ダガーの切っ先が上半身に縦長の傷を負わせ、頭部アンテナまで切り落としたが、これではかすり傷程度だ。


 《代われっ! 押し切ってやる!》


「ダメっ! 殺すでしょ、あなたは!」


『俺が殺される? 舐めるなぁ!』


 反った勢いを使ってのサマーソルトキックで顎をかち上げられ、更に後ろ回し蹴りを腹に受けた。もし生身であれば完全にダウンしていた。

 頭を抑えたくなるような衝撃だが、歯を食いしばり堪えて霞む目でそんな事は御構い無しに接近する敵機を睨む。


「ぐぅっ……」


 衝撃を受けた時に体を支えようとついた右手がタッチパネルを押している。そして、無意識に、本能的に動いた指は一つのコードを打ち込んだ。


「リミッター……解除……!」


 負けられない……自分だけの為じゃなく、お兄様……ライナスの為にも絶対に!


『パイロットだけを……!』


 ウィリスはもう勝ったつもりでいる。後の事を考えて機体を売るために傷をつけないように私の気を失わせるつもりだ。体勢を見るに、膝蹴りをコックピットの位置に思いっきりぶつけるつもりだろう。

 だが、そうはさせない。ペダルを踏み込んで体が潰れそうな圧に耐えながら突進する。


『くっ! まだ動けたか!』


「勝つまではぁぁ!」


 互いの額がぶつかり合い仰け反る。しかし、そのまま無防備な姿を晒しているようではここまで生き残ってはいない。

 すぐさま右手にダガーを掴み頭を狙って突いたが、首をひねってかわされた。更に、回し蹴り、肘打ちと追い討ちをかけるも空を切り、反対に空いた脇腹に強烈な蹴りを食らってしまった。

 装甲は限界を迎えて激しく砕け、それは内側にも飛び散り小さな破片が降り注ぐ。


「がぁっ! ……まだぁぁぁーーー!!」


 破片が頭に刺さり、流れた血が滴り落ちる。けれども不思議な事に痛みは感じない。

 もう装甲は無くなり、コックピットを守る物は無いに等しい状況だが、引くという選択は無い。

 まだ両手には短刀が握られていて、他の武器もまだまだ残っている。勝てる……、勝てる、勝ってやる!


『チッ……しつこいっ!』


 ボロボロになった機体ではもう価値が無いと思ったのか、ソードを振りかぶって機体の破壊によって勝利を得ようとしている。

 しかし、その必要以上にオーバーな動きは、私に反撃のタイミングを与えた。

 もう頭で考えているのか本能的に動いているのか分からない。そして、今動いたのは右腕だ。


「これじゃ弱いっ⁉︎」


 私の予想は的中し、命中はしたものの装甲を貫く事ができずに浅く斬り込んだだけに終わった。そして、押す事も引く事もできなくなりダガーを手放すという選択を選ばざるを得ない。


『残念だったな! 俺の勝ちだぁっ!』


 勝ちを確信したウィリスの叫びと共に振り下ろされたソードを左手に握るダガーで受け止める。この状況はさっきと同じだ。そう、全く同じならばもう一度押し返し、今度こそ捉えて……。

 しかし、全く同じなんてあり得る事ではない。必殺の一撃を受け止めた小さな短刀はこれに耐えきれずに砕け落ちた。


『どうだっ! これで戦闘不能に……』


「なりませんっ! 私の勝ちだぁぁぁ!!」


 確かに短刀は砕け落ちた。しかし、ソードの軌道を逸らし、斬り裂かれたのは機体の左腕。

 ソードを振り切ったウィリス機は私にのしかかるような体勢であり、完全に密着した状態だ。これでは外しようがない。私は拳を叩き付けて手首から刃を突き出す。それは動力部のオルバナイトを砕き、背中側まで貫通した。


『負けた……? 俺が?』


「はぁ……はぁ……はぁ……そう……です。 私の……勝ちです……」


 ウィリス機はメインのオルバナイトを失った事で飛行する事が出来なくなり、今は私に担がれた状態になっている。


「そんな……機体状況なんですから、認めてくださいね……!」


『やあやあ! どうやら終わったようだね〜。ウィリス機の反応が消えたという事はアリシアの勝ちって事で決まりだね!』


 突然の通信で驚いたが、それよりもコックピットの半分くらいは無くなっているのに通信ができるという事への驚きの方が大きい。


『ああ……そうだ……。それよりも回収艇だ。もう、どっちもまともに飛べん』


「そうですね……私もいつ落ちるか……」


『えっ……君達そんな状態なの……? ヤバイよ!』


「何言ってるんですか? ……ヤバイ?」


『……っ! 熱くなり過ぎたか……』


 どうやらウィリスはアーサーさんのヤバイという言葉の意味が分かったみたいだ。私はまだ何の事か分からないけど……。


『ここで迎撃する。回収艇は直ぐに出せ、それまでに片付ける。アリシア、お前はどうだ?』


「えっ? えっ? 何がですか?」


『まだ分かってないのか! 後ろを見ろ!』


 言われて振り返ってみてみるとバグの群れがこんにちは〜……。どうしよう⁉︎


「でも……やるしかないよね! やります!」


 コックピットを守る装甲が無い? なら当たらなければいいだけの事!

 それに、この群れは小型しかいないし、この前のように特殊な個体はいないみたいだ。これなら今の機体状況でも大丈夫!


「アリシア、行きます! 援護頼みます!」


 担いでいたウィリス機を投げ下ろし、空いた右手でバスターソードを掴む。


『投げるなっ! ……少しは稼ぐ……』


 オルバナイトの浮力が無いと推進器の噴射だけで落ちる機体を支えなければいけない。

 それだけでもかなりの重労働になるのだが、その操作を行いながらロングライフルでの狙撃を行うというのはやはり島で一番の腕だけある。


「ああ〜! もう! お腹減って早く帰りたいのに……。今直ぐ回れ右するなら許してあげるよ〜……あっ、でもそっちって島の方じゃん! どっちにしろ戦わないといけないね……」


 ————


 回収艇は群れの殲滅後三十分程でやって来てくれた。船内では頭の傷に包帯を巻いて貰った直後に、結構な量の出血の為か気を失うように眠ってしまった。

 次に目が覚めた時には船の揺れは止まっていた。甲板に上がってみると工廠エリアの港に到着しており、ボロボロになった私の機体が運び出されているのが見える。


「お〜い! アリシア〜!」


 私を呼ぶ元気な声。誰か見なくても誰の声なのか分かってしまう。まず、あの年の女の子を工廠エリアで他に見た事がない。

 その横には筋肉……おじさんそして、パイロット用のヘルメットを抱えたウィリスが立っている。


「直ぐいくね〜! よっ! とっと」


 少し足が重くて船から降りた時につまずきそうになりながらも、三人の元へと駆ける。


「よく勝ったなぁ! すげぇよ!」


 おじさんは私の肩を叩きながら笑っている。

 リリーはその後ろで嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねて……多分、かなりの儲けが出たのだろう。


「……アリシア」


「えっ? あ、はい!」


 まさかウィリスから話しかけて来るなんて思ってもみなかった。普通に名前を呼ばれただけなのに聞き返してしまうなんて初めてだ。


「やはり、突然名前で呼ぶと驚くか」


「突然じゃないですよ? さっきも呼んでましたよね? バグの群れと戦う前に」


「ん……そうだったか……。なら、その時にはもうお前の事を認めてたという事か」


「私だけじゃないですよね?」


 そう、約束の内容はお兄様を馬鹿にした事を謝るという事だった。


「……あの時の発言は撤回しよう、悪かったな」


「じゃあ……!」


「だが、撤回はするが奴を認めるつもりはない。悪いがそれ以上は求めるな」


 謝罪はして貰ったし目的は達成された。けれど、お兄様の事は認めないなんて二人に何があったの……?


「はい……、分かりました……」


「これでもう用は無いな。俺は休む。じゃあな」


 ウィリスは私達に背を向けて居住エリアへと歩き出したが、私はそれを呼び止めた。


「ちょっと待ってください!」


 呼び止められた彼が振り返ると怪訝な顔をしていた。


「何だ。もう用は無いはずだ」


 私は二人の距離が十㎝くらいまで駆け寄り、背伸びをしてウィリスこ顔にググッと近付いて……。


「…っ、何だよ……」


「もう一つお願いしたいんですけど……いいですか……?」


 たしか男の人にお願いする時って、できるだけ上目遣い……甘えるような声で……ってリアが言ってた気がする!


「……早く言え」


「ふふ〜! ご飯奢ってください!」

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