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プロローグ・1

 まだ少し冷える日もあるが、段々と緑の葉が茂り始め、蕾が開く花もちらほらと見られ始めた。日向ぼっこをするには早いが、何か運動をするには丁度良いくらいだ。

 成績が確定し、授業も無い。日を遮る物の無いグラウンドは暖かく、もうすぐ卒業を迎える生徒達は冬の間燻っていたのを発散するように子供の様にボールを追いかけて駆け回っていた。

 彼等は士官学校の生徒だが、この三月を持って卒業する。その後は、軍に入隊する事が決まっている者が殆どだ。鍛え上げられた者達同士が遊びとは言え少し熱くなれば、激しいぶつかり合いが度々起こる。

 当然、この中に女子がまともに混じれる訳もなく、殆どの女子は男子とは別のグラウンドでサッカーをしている。

 しかし、数人だけだが男子に混じってプレーする女子の姿があった。その内の二人は流石にプレーの真っ只中には飛び込めないでいる。専ら、出来る事と言えば、こぼれ球を拾って味方に渡すくらいだろう。後は、その場にいるだけで男子のテンションは高水準で維持される事だろう。

 そんな男子達の目を気にする事なく、全力でプレーする残りの女子二人の動きは見ているだけの二人とは反対だった。二人は男子達に負けないどころかむしろ、圧倒してしまっている。


「くっ! 躱されたっ! みんな戻れっ! これ以上取られるのは不味い!」


 赤いビブスのキャプテンが黄色のビブスの女子に一対一を挑んだが、全く歯が立たず彼女の相手にはならない。キャプテンの指示通りに赤チームは全員が自陣に戻り守備を固める。指示が出て迅速に対応出来るのは、これから軍人になる者達ばかりだからだ。……と言う訳ではなく、既にドリブルで赤のゴールへ駆け上がる彼女には四点も決められている。だから、彼女にボールが渡った瞬間に赤チームの全員はゴール前の守備を固める動きに移っていた。


「あははっ! 全員からマークされてるよ!」


 敵チーム全員から睨まれても彼女は楽しそうに笑って突き進む。

 常に半径一mの範囲に敵が三人と言う状況。それでも、焦る事なく細かいボールタッチと軽い身のこなしで、難なくタックルを躱して行く。一人、二人、三人……。勢いに乗って五人連続で抜き去る。

 そして、六人目が視界に入り、今回もさっきまでと同じ様に減速と加速の緩急で置き去りにしようとした。


「おっと、こりゃダメだ」


 そろそろ同じ手は通じないようだ。というよりも「この相手には通じない」か。


「そう何度も同じ手が通用するとは思わないで欲しいですわね!」


 向かい合う二人の女生徒。どちらもブロンドだが、ディフェンスの彼女は後ろで髪を二つに纏めている。その髪はグルグルとロールされていて、ディフェンスの動きの為に動く度にバネが伸び縮みする様にピョンピョンと跳ねている。


「う〜ん……。確かに厳しいかもね……」


 時間を稼がれてしまった所為で、さっき抜き去った選手達もその場所での攻防に参加し始めている。

 何とか横の動きでそれを躱しているが、サイドライン際にまで追い詰められてしまった。一対七、流石に四面楚歌のこの状況ではどうしようもない。ディフェンスから逃げ続けた彼女だったが、遂に足を止めた。


「フフッ、ようやく諦めたようですわね。さあ! 掛かりなさいっ!」


 何故、キャプテンでもない彼女が命令するのか? しかし、命令された選手達は、「喜んで」というように一斉にボールを奪いに向かった。


「あはは、私に拘り過ぎちゃダメだよ」


 そう言ってボールを蹴り出した先は、通常ならばディフェンスが待っていたであろうエリアだった。しかし、そこにいたのは彼女の味方だ。

 十一人中七人が一人の元に集まったらどうなるかなど、考えなくても分かるだろう。ガラ空きの敵陣に黄色チームの選手八人が雪崩れ込む。残り時間から考えても黄色に一点が入るかどうかという程のタイムしか残っていない。

 パスを受けた味方は悠々とペナルティエリアまでドリブルでボールを運び、後はディフェンスが戻る前にネットへとボールを突き刺すだけだ。

 しかし、自陣ペナルティエリアに砂煙を上げながら戻る姿が。


「シュート、シュート!」


 もう勝負は決まったような状況だが、遊びであるこのゲームでは最後まで全力だ。

 敵味方両方から急かされて狙いも決めずに放たれたシュートは勢いはあるが、キーパーが少し飛べば余裕を持って弾き出せるような物だった。

 案の定、キーパーが両手で弾き、シュートは防がれた。これを見て誰もが


「これで終わりかな……」


 と、呟き、または心の中でそう思っただろう。それまで忙しなく動いていた選手達の足は止まり、後は時計の電子音を待つだけ……。

 では終わっていない者もいた。それは、今日の五点目を狙おうという彼女だ。センターライン付近からパスを出してから、五十m近くをダッシュでゴール前まで駆け上がり、こぼれ球を頭で押し込むつもりだ。

 それを追いかけているのは一人だけ。これも、さっきからよく動いている女子だ。

 二人はそれまでのボールの動きなど気にも留めずに、あるかも分からないこぼれ球にだけ的を絞っていた。


「もう取らせないっ!」


「勝負は決まってるのに……ダメ?」


「ならば、貴女も止まりなさい!」


「あはは! 最後まで全力だよ!」


 そう言って、大きく飛んだ彼女からワンテンポ遅れてもう一人の女生徒もボールをクリアしようと飛んだ。

 周りは予想外の展開に驚き、キーパーはまだ立ち上がっていない。もう、どちらかが決めるか、クリアするのかの二択となった。

 誰も一言も口に出せずに静まり返ったグラウンド。そこにボールを叩く音が鳴る。とても小さな音だが、今ならばグラウンドの反対側に立っているキーパーにも聞こえているだろう。

 空中でぶつかり合い、バランスを崩した二人は手から落下して膝をついてボールの行方を追っている。

 掠ったような当たりだった所為で点々と力無く転がって行くボール。だが、誰にも触れられずにボールはラインを越えた。と、同時に時計の電子音が大きく、その場の全員に聞こえるように鳴り響いてゲームの終わりを告げている。

 倒れ込んだ女子の一人は、仰向けで大の字になって寝転び、胸を上下させながら声を上げて楽しそうに笑っている。もう一人は、歯ぎしりして拳を地面に叩きつけていた。


 ————


「はぁ! スッキリ!」


 久し振りに砂にまみれて汗をかいた後のシャワーは最高だった。今は髪をゆっくりと拭きながら、親友のリア、エリカ、ヴァレンティナとダラダラしている。

 あ、でも、ヴァレンティナだけは何故かイライラしていて、必要以上の力でゴシゴシとタオルで髪を拭いている。


「どうしたの? 髪、全部抜けちゃうよ?」


「そんな訳ないでしょ!」


 突然立ち上がり、持っていたタオルを力任せに投げてしまった。狭い更衣室に四人固まって座っていたから、投げられたタオルは隣に座っていたリアの顔に叩きつけられた。


「イタタ……、なんで私に⁈」


 口調は強いが怒ってはいない。ヴァレンティナの短気はしょっちゅうだ。そのせいで私達が痛い目にあって来た。

 リアはタオルをそのまま投げ返して、ヴァレンティナの頭に被せた。


「別に! 何でもありませんわ!」


「なんて酷いこと……あっ、アリシア様、まだ髪が濡れてますわよ。失礼しますね」


 エリカは関心なさげに呟いた。それもそのはず、彼女の視線は常に私に向けられている。その成果として、私がリボンを結ぼうとしたのを見ると、まだ髪が濡れていることに気がついた。

 すぐさま、彼女は立ち上がって私の背後に立ち、タオルで濡れている部分を丁寧に拭き始めた。私としてはさっさとリボン結んでしまいたいんだけどなぁ……。


「ありがと〜。でも、別に乾いてなくてもよくない?」


「ダメですよ、髪が傷んでしまいます! それに、ヴァレンティナみたいに禿げてしまいますよ?」


「禿げてないわよ! 貴女は髪くらい自分で乾かしなさい!」


 ちゃんと自分で拭いている人が言うと説得力がある。まあ、面倒だからやらないけどね。


「あー、それはやだね。エリカさんお願いしまぁ〜すぅ〜……ふぁ〜ぁ……眠くなってきたよ……寝ていい?」


 背後のエリカに振り向かずに聞いてみる。普段から私には甘々な彼女の事だからダメとは言われないだろう。


「はい! もちろんですわよ、……さぁ、どうぞこちらへ」


 張り切って返事をしたエリカは立っていたその場に椅子を動かし、座って準備が出来たと両手を広げて私を待つ。その空いた胸に私は遠慮無く身体を預けた。彼女は私を優しく受け止めてから、タオルを手にしてまた手を動かし始めた。


「ふふふふふ……おやすみっ!」


 全ての体重を預けて、両手両足をだらしなく投げ出す。頭も両手で支えられていて、今は体全体の力が抜けている状態だ。

 エリカとリアはそんな私を見て気の緩んだ笑顔を見せているが、ヴァレンティナは呆れ顔でテレビのリモコンを手に取った。それまで誰も見ていなかった真っ黒なテレビの画面に光が灯る。


「時間丁度ですわね……」


 テレビに映っているのはよく知っている人の写真だ。その人は三十年以上前からイギリスに忠誠を誓って戦い続け、英雄と呼ばれていた人だった。常に戦場では最前線に立ち、凄まじい戦果を挙げていたという。噂話だが、昇進の話は常にあったらしいが、出撃して自ら戦うことが出来なくなるからと、辞退していた変わった人である。


「……あれからもう一年だったんだ……」


「今でも信じられません……あの御方が戦死されたなんて……」


 テレビから流れる音声を聞いた二人からは笑顔が消えて、この場の雰囲気は重々しいものとなった。エリカはテレビの画面をじっと見つめて、髪を拭く手が止まっている。まあ、もう乾いていると言ってもいいくらいだから別にいい。

 故人と私達は祝勝会として催されたパーティーで、何度も遊んでもらった思い出がある。気さくで優しくて、今思い出すとなんて事をしてしまったんだという事も笑って許してくれた。最後に会った二年前にはこれから士官学校に入学する私達に激励の言葉を掛けてくれて、共に肩を並べて戦おうと約束したのに……。

 気が付くと私は立ち上がっていた。

 映像は彼の経歴の説明を終えて、広い会場に移り変わった。何百の軍服が並んでいるのか、テレビでは潰れてしまって数えきれない。

 その大勢の前に向かい合い、一人立つ若い青年は大きく息を吸い込み演説を始めた。


「ライナス……お兄様……思い出したくない筈なのに……」


 今、演説をしているライナス・ノース・ガーランドは、元々はノース家の長男だったが、ノースの名には殆ど力が無かった。しかし、才能溢れる彼を埋もれさせるには勿体無いと考えたお父様が、ガーランド家に養子として迎え入れた。

 その選択は間違いではなく、彼は瞬く間に昇進して行して行った。そして、艦隊司令となった二年前、この出来事が起こってしまった。

 何気無い一言だった。「じゃあ、今日は偵察頼みます」たったこれだけで英雄と呼ばれた男が死んでしまった。

 演説は二十分にも及び、ライナスはその途中、感極まって涙を流していた。その後、演説が終わると、会場には国歌が流れ、それが終わるとそこで放送は終了した。


「貴女達、覚えてますわよね? あの方に最後に掛けられた言葉を」


 みんな立ち上がっていて、一瞬でヴァレンティナとは目があった。みんな忘れている筈がない。世間では英雄と呼ばれていても、私達からすれば優しい叔父さんみたいなものだった。そんな親しく、尊敬していた人の最後の言葉を忘れなんてありえない。


「私はそれが現実のものとなるよう、努力して来ましたわ。けれど、貴女達はどうなのですの?」


 ヴァレンティナのは隠す気は無いようだ。剥き出しの悪意に始めに反応したのはリアだった。


「どういう事⁈ 私達が遊んでばっかりだったって言いたいの!」


「違いますの? ……今は、貴女の事はいいですわ……。一番の問題はアリシア、貴女よ」


「私? そんなつもりは無いけど?」


 遊んでばかりと言われた私達だが、やる事はやってきた。だから、みんな成績上位に入っている。なのに、それのどこに不満があるのか私には分からない。


「『ロンドン卒は使えない』何て言われているのに悔しく無いの? 他に勝つ為には与えられた課題だけではいけないの。だというのに……主席の貴女が遊んでばかり、ふざけてばかり。トップの貴女が駄目なら、その世代全体が馬鹿にされるというのを理解しなさい!」


「そんなの……分かってる……。私もそうならないように頑張るよ!」


 私だってその話は知っているし、見返してやろうとは思っている。 だから、他所との合同訓練では、全て勝利を収めてきた。私達が世代トップなのは間違いない筈だ。

 その事を出してもヴァレンティナは揺るがない。


「あれからあれから入隊までの二ヶ月間、彼等は更に厳しい訓練に取り組んでいるのよ。なのに、私達はそれ以降遊んでばかり。これでは簡単に追い抜かれてしまうわ」


「……ヴァレンティナは私にどうして欲しいの? トレーニング再開して鍛え直せばいい?」


 彼女の言い分は分かった。だから、私がもっと鍛えて他校出身の同世代に負けなければいい、という事なのか。


「ええ、そうですわね。ただ、貴女の事だから、手を抜く事も考えられる。そうね……、二週間後、私とシミュレーターで戦ってその成果を見せてもらうわ。いいわね?」


「二週間後だね……。うん、いいよ、やろう。代表決め以来だね、今回も負けないよ!」


 合同訓練の代表を決める時に戦ったのが三ヶ月前。その後すぐに合同訓練があってから、私は何もしていなかった。

 ヴァレンティナと戦う時はいつも勝つのだが、辛勝というような内容ばかりで気持ちよく勝てたことがない。また、今回も厳しくなりそうだ。


「今度こそ貴女に勝ちますわ。……では、そろそろ私は失礼しますわ」


 もう、彼女はここに用は無いだろう。言いたい事は言い切っただろうから。ロッカーに入れていた荷物を持って、私の前を通り過ぎて更衣室を出て行った。

 残された私達は、何と言えばいいのか分からずに互いの目を見合っていた。初めは、ヴァレンティナが作り出した重い雰囲気に飲まれていた私達も、だんだんと目をパチパチさせたりして相手を笑わせようとふざけ始めた。そして、無言の戦いに敗れたのはリアで、エリカの変顔が決まり手だった。


「もぉ〜! その顔は反則だよ〜! お腹痛いからもう止めてぇ〜!」


「フフッ、他愛もないですねぇ〜。まだまだ、こんな顔も……」


「やめいやめい、エリカ。リアが窒息死するから。それよりも、リボンお願いしていい?」


 リアは笑いのツボが浅すぎてすぐに笑い転げてしまう。笑い声の無いというのは寂しいから、この笑い上戸っぷりは私としては好ましい。だけど、あまりにも笑い過ぎて過呼吸になってしまい、保健室に運ばれた事もあって、笑わせ過ぎには注意しなければならない。

 エリカも少々悪ノリする癖があり、私が止めなければ更に酷い顔でリアを笑わせにかかっていただろう。


「はい! お任せを……はい、どうでしょう?」


 赤いリボンを手渡して背を向けると、手際よく髪を纏めてそこにリボンが結ばれて行く。いつからエリカにお願いするようになったのか忘れてしまうくらいに馴染んでいる。本当は自分でしろと言われてもおかしく無いのに、嫌な顔一つせず、むしろ私の髪にリボンを結ぶ事を喜んでいるように見える。


「うん、いつもありがとね。じゃあ、帰ろっか?」


 振り返って礼を言うと、彼女はやはり、嬉しそうな顔で頷いた。


「そうですね、時間もいい頃ですからね」


「ほ〜ら、リアも立った立った。ここに置いてくよ〜?」


 流石にもう、声を上げてはいないが、お腹を抑えて笑いを堪えているようだ。そんなゲラな親友の鞄をロッカーから取り出す。私のロッカーはその隣で、自分の鞄も掴んで引っ張り出した。振り返るとリアは立ち上がって、私に謝りながら鞄を受け取った。

 ドアに一番近いリアを先頭にエリカ、私と続いて部屋を出た。廊下には夕日が差し込み、白い壁と床はオレンジ色に染まっている。この時間では一つ下の学年は寮に帰っているし、もうすぐ卒業する私達は自宅に帰っている時間だ。こんなに閑散とした廊下はいつ以来だろうか。


「アリシア〜、ヴァレンティナの言ってた事どうするの?」


 私を中央に置いて、左右を二人が挟んで歩いている。この声は右側を歩いているリアからだ。


「やるしかないよね。売られた喧嘩は買わないと! じゃないと女が廃る!」


 鼻息荒く自分の腕を叩いて、やる気満々だと見せつける。……あれ? なんだか違和感……?

 この様子を見た二人は笑って納得している。

 校舎の外に出ると、遮る物の無い夕日が直接私達を照らす。思わずその眩しさに目を細める。


「綺麗な空だね〜。コフィンに乗ってもっと近くで見たいなぁ」


「そのような目的で使用許可は下りませんよ?」


「はは、そうだよねぇ〜。って、アリシア? どうしたの?」


 突然立ち止まったのだが、私は真ん中を歩いていたから二人ともすぐに気が付いた。立ち止まった理由はさっきの違和感だ。その違和感の正体は……。


「ごめん! ちょっと待ってて!」


 私は待っていて欲しいとジェスチャーして、踵を返して更衣室へと駆け戻った。先生に見つかれば即刻懲罰だが、今は先生も他の生徒も全く見当たらない。

 更衣室にはやっぱり誰もいなくて、さっき私達が出た時と同じだった。という事は、私の使っていたロッカーもそのままの筈だ。急いでロッカーを開けて中を確認してみる。


「あった……!」


 ロッカーの奥に立てかけていた物を取り出す。それは鞄に入れる事は出来ない形であり、忘れてしまったのもこれが一度では無い。大事な物の一つだから何とか今日まで無くさないように頑張ってきた。

 細長い忘れ物を今度はしっかりと脇に抱えて更衣室を出た。数分しか経っていないのに夕日は少し暗くなって、さっきは窓から見えていた太陽も落ちて見えなくなっている。


「ごめんね〜、待たせちゃって。忘れ物しててさ〜」


「あー、ボードかぁ〜。気になってたんだよなぁ、何か足りないって」


「そうですね、私も気になってましたわ。そのボードとネックレスはアリシア様のトレードマークですから」


 二人共気になってたなら言ってくれればよかったのに!

 まあ、文句を言える事では無いから黙っている事にして私達は歩き出した。そのまま何も起こる事はなく、門を出て家路に着いた。

 その道中、談笑しながら歩いていると大きな広場に差し掛かった。そこでは、地元の若者達がスケートで自らの技術を見せ付け合っていた。


「おっ! 今日もやってるねぇ〜、ちょっと混ざろうかなぁ〜」


「ええっ! 疲れてないの? 今日はもう帰ろうよ」


 リアは反対していて帰りたがっているが、エリカは何も言わずに微笑んでいるだけ。でも、リアも必死で止めようとはしない。それは、私が言葉で言ったくらいでは止められないと分かっているから。

 私は鞄をエリカに渡して、ブレザーを脱ぎ、シャツを捲った。スカートは……まあ、いっか。


「おーい! 私も混ぜてよ〜!」


 ボードを持った手を大きく振って彼等に呼び掛ける。私に気が付いた彼等は歓声を上げて私を受け入れてくれた。


「本当に遊ぶのが好きだよね」


「はい……本当にヴァレンティナに勝てるのでしょうか……」

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