第十六話 約束は守ろう?
「えぇっ⁈ 直ってないんですか⁉︎」
「い、いや、通常の運用に関しては大丈夫なんだよ」
「じゃあどこが問題なんですか?」
「君、昨日の戦闘でリミッター解除したじゃない。そのせいで関節やらエンジンその他諸々に無理をさせるとヤバイ事になる可能性がね……」
「それって全然大丈夫そうじゃないですよね?」
朝起きて格納庫にやって来るとなんだかアーサーさんが慌ただしく走り回っていた。更に、まだ話した事もない人も数人いて、私の機体の修理を一緒にしているようだ。
その状況を見て不安になった私がアーサーさんを引き止め、理由を聞いたのがこの会話だった。
「無理と言っても、またリミッター解除するくらいじゃなきゃ問題は起きないよ。それよりも、動作の確認してくれないかい?」
「はい!」
整備の度に動かした時の感覚は変わる。大きくは変わらないが、ミリ単位での誤差が生じてそれが命取りとなる事もあると聞く。
急いで肩に乗り、ハッチ開放スイッチを押して乗り込んだ。
「アリシア〜オハヨ〜。調子どう〜?」
「ゴメン! 今ちょっと余裕無いかも!」
「あ〜……大丈夫かな……。アリシアに賭けたんだから勝ってよ〜!!」
「言われなくても……」
そういえば昨日のリリーの時にされた賭けってどうなったんだろ。勝負に勝った私には何にもご褒美とか無いのかな。ちょっとくらいくれてもいいよね!
《手、動かせよ。お馬鹿さん》
「むぅ! じゃあ自分でやりなよ!」
《ヤダね。準備はお前の仕事だろ?》
も〜ワガママ!
急いでタイプして、動かしてを繰り返し時間は過ぎていく。
「時間見て!」
《あー、あと十分》
『どうだい? こっちの作業は終わったよ!』
「もう少しです! ウィリスさん来てますか?」
あと三ヶ所。なんとか時間までには完了しそうだ。
自分に少し余裕ができると相手のことが気になってしまう。今は格納庫の中にその姿は見られない。
『うーん……僕、その彼を見たことないんだ……うわぁ!』
モニターの中の小さな画面ではリリーがアーサーさんを押しのけて映り込んでいた。
『ウィリスはまだ来てないよ。あと、ついでに賭けの状況を教えると、アリシアの倍率の方が高いね。……馬鹿にしてる奴らをびっくりさせてやろう! じゃ、頑張れ!』
そう言うとすぐに私の邪魔をしないために通信を切ってくれた。気を使ってくれるのはありがたいけど、くだらない話をしてリラックスしても良かったんだけどなぁ。
「そういえば、何であの子が応援してくれるんだろ?」
《こっちに賭けてんだろ。それより時間だ、終わったか?》
言われて時計を見ると丁度長針が左向きに九十度……九時だね。
「ギリギリだったけど終わってる。……それよりあの人来てないじゃん……」
カメラで格納庫内を確認してもその姿を確認できない。見えるのは今回の話を知ってやって来たのだろう野次馬とこっちには目もくれずに作業しているメカニックだけ。
「アーサーさん、そっちから見ても来てないですか?」
『……彼は来ないよ』
「えっ……それってどういう……」
『格納庫の景色が何か気になってね、出撃記録を調べて見たんだ。そしたら、驚いた事に彼の機体は今から六時間前に出撃している事が分かったんだ』
「何してるの……? あの人……」
『丁度その時間帯にバグの群が観測されているからそれを狩りに行ったんだろうね。熱心な事だよ……』
約束ほっぽり出して何やってるの! ましてや初対面だよっ!
あぁ〜もう! 怒った! メッタメタにしてやる!
「あの人のいる座標分かりますかっ!」
『あ、ああ、その事なんだけどね。暗号つ……』
「そんなのどうでもいいですから座標を教えてください! 撃ちますよ!」
バズーカのグリップを握り休憩室に銃口を向けた。この通信を聞いていない野次馬達は、どういうことか分からずに慌てて逃げ出した者もいる。
『わぁ! 分かったからそれを下ろして……ハイ! 送ったよ! 行ってらっしゃい! バイバイ!』
右のモニターに表示された座標は島から結構離れている所だった。と言っても、かかって一分くらいだろうか。
人型から戦闘機へと変形させてカタパルトに機体をセットした。この後の操作は自動で行われて、格納庫から滑走路のスターティングポジションへと運ばれる。
運ばれる途中、外の景色を見ていると海が見えた。そして、ふと浮かんだ疑問。
「海の生き物ってどんなだったんだろ……?」
もちろん何度かは過去の資料でその姿を見た事はある。しかし、その数は少なく、保存技術も今と比べてかなり劣っていた時代の物でありはっきりした鮮明な記録は残っていない。
『発進準備完了したよ〜』
「ん……? 帰ったら一緒にご飯食べようね」
『えっ⁉︎ 今日も奢り?』
「勝ったらね……あ、そうだ! あの人に奢らせよっか!」
向こうが勝てば機体を売った金を得られるのだから、ご飯奢らせるくらいなんともないよね。
そこで通信を切り、背もたれべったりだった背中を離す。両手は操縦桿をしっかりと握り直すと、体が自然と前傾した。
《同じ条件にすりゃいいのに》
「あはは、それは可哀想かなって。戦う以外に何もできなさそうだし……ふふっ。……じゃあ、行くよ!」
推進ペダルに右足を乗せ、大きく息を吸い込む。
「アリシア・フェザー・ガーランド、行ってきますっ!!」




