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第十五話 ご飯を美味しくしよう?

 店内は外観とは違い、木造で落ち着いた内装になっていて外の派手さと釣り合いを取ろうとしているみたいだ。

 底が硬い軍のブーツは一歩一歩木の床を叩いて店内に軍靴を響かせる。その音を耳にした客達は私の方を見ると、それまでの話題から私の事を何か話しているようだ。リリーが店内をどんどん進み、飛び乗った椅子があるのは店の一番奥。テーブル席ではなく、カウンター席。……席の種類は何でも良いんだけど、店中で私の話されて凄く恥ずかしい。


「おっちゃ〜ん! 肉ちょ〜だ〜い! あとスープも〜!」


 店全体に響き渡る程の大声で注文したリリーは今か今かと脚をバタつかせている。


「ゴォラァ! カウンターを蹴るなぁ!」


 カウンター裏から出て来たのはエプロンを付けた筋肉……いや、筋肉増量中のエプロンを付けた……プロレスラー?

 彼はリリーの頭を小突いてバタバタするのを止めさせた。そして、腕組みをして私を見下ろし……。


「ネェちゃん、ガーランドのモンか」


「はい……。でも、どうして分かったんですか? まだ自己紹介してませんよね……?」


 筋肉さんは無言で私の右肩を指差した。


「あっ……」


 そこにあったのはガーランドの紋章。私はコレの存在を忘れていた。だからこの島に来てからジロジロと見られていたんだ。


「そんなモン付けてる奴がいたら間違い無く見ちまうよ。軍人ならな」


 そして、笑ってリリーの髪をクシャクシャして続ける。「わっ!」と驚いているようだが、嫌そうにはしていない。


「ま、コイツは生まれがこの島で軍人じゃねぇからなぁ。教えたはずなんだがなぁ……えぇっ?」


「あんなの覚えなくても良いでしょ。ボクは島から出るつもりは無いんだし。知ってて一文にもなりゃしない」


「そんなこと言うなぁ。外にはここには無いモン、面白れぇモンがバカ程有るんだ。母ちゃんの国に行ってみたくねぇのか?」


「別に……顔も知らないし……。もういいでしょ、説教とか止めてよね。ほら! アリシアも何か頼みなよ!」


「う、うん……」


 カウンターの壁にメニュー表が掛けられているが、半分くらい時が掠れて読むことが出来ない。その中で何とか読むことが出来たカレーとリリーが美味しいと言っていたトマトスープを頼んだ。


「おぅ! ちょっと待ってろ。直ぐに持って来るからよ」


 そう言って筋肉さんはメニューのカレーの所をコンコンとノックしてからカウンター裏へと消えた。

 前から見るとエプロンだけしか身につけていないのかのように見えていたけど、後ろから見るとちゃんとタンクトップとショートパンツを確認することが出来た。……当然だよね。


「いつもあの格好?」


「うん。料理してると暑いからって、冬でもアレだよ」


「わぁ……凄いんだね……」


 冬でもって……。私なんてどれだけ着込んで訓練してもブルブル震えてたのに……。

 そんな事を話していると背後から靴が床を叩く音がして、横目に見てみると私の二つ右隣の席に若い黒髪の男が座った。

 彼は筋肉さんを待っているみたいで、イライラしているのかカウンターの机を指でトントンと叩いている。

 私はその音が気になって、リリーとの会話中に何度もチラチラと男の方へと目を動かしていた。


「何だよ」


「あ、いや、ちょっと音が気になっただけで……ごめんなさい」


「……っ! お前……」


 彼はそこで言葉を切り、また机を叩いて筋肉さんを待ち始めた。

 何度もチラ見されてたら気になるよねやっぱり。それはこっちも同じなんだけどね。あと、やっぱり直ぐにガーランドってバレちゃうんだね。

 その後もリリーと少し話をしていると、カウンター裏から料理の乗ったお盆を持った筋肉さんが私たちの方へとやって来た。


「待たせたな、二人とも……おっ、ウィリス今日は遅いな!」


 筋肉さんにウィリスと呼ばれた男は机を叩くのを止めて、「いつものヤツでいい」というと。


「お前はいつも酒だけだなぁ! 偶には何か食ってけよ!」


「俺はここで死ぬ気は無いんだ。他の奴らと一緒にするな」


「ああ! ああ! それは悪かったなぁ! じゃあ、いつものヤツだな、ちょっと待ってろよぉ〜!」


 私達が料理を受け取ると直ぐに背後の棚から瓶を手に取り、氷を入れたグラスに注いだ。手際が良く数秒しか待ち時間は無かった。


「じゃ〜今日はアリシアの奢りでぇ〜いただきまぁ〜すっ!」


 目を逸らしているうちにリリーはナイフとフォークを手に取り、肉を口に運び始めていた。


「あんまり急ぐと喉に詰まるよ〜」


 という私の注意を綺麗に右から左に流し、凄まじい勢いで食べるスピードは衰えない。


「コイツが肉を頼むのっていつ振りだったか……。かなり長い間ありつけて無かったからいつも以上に美味そうな顔で食いやがる。ほらよ! オマケしてやら!」


「ホント⁉︎ やったぁ! ありがと、おっちゃん!」


「あはは、良かったね〜。じゃ、私も……いただきま〜すっ!」


 私が頼んだ料理はカレー。何だか普段食べてるカレーよりも赤いような気がするような、しないような……。でも、いい香りがしてすっごく食欲がそそられる!

 では一口、とスプーンで掬って口へと運ぶ……。


「…………んっ⁈ か、辛ぁぁぁいっ!! 水ぅ!」


 こうなる事が分かっていた、という顔で筋肉さんは水の入ったグラスを差し出してくれた。それをひっ掴み一気に口の中へ注ぎ込んだ。氷も入っていたけど、ガリガリと噛み砕いて一緒に飲み込む。


「うっはぁ〜〜、辛いから気を付けろ〜、とか言ってくださいよぉ」


「ガハハッ! いつも新入りをちょっと脅かしてやってんだよ」


「ひ〜ど〜いですよ〜。……はむ…………でも、凄く美味しいです! 家にいた料理人が作ったのよりも凄く!」


「ほぉ、貴族様の食ってる飯よりも美味いって、嬉しいじゃねぇか。よし! スパイスオマケだ!」


「えぇっ⁈」


 目の前のカレーがさらに赤く染まる。目と鼻がヒリヒリしてきたよ……。


「おじさんってここに入る前は料理人だったんですか? 辛い……」


「そんなわけねぇだろ。料理は……まあ、趣味みたいなもんだった。パイロットになってからも部隊の奴等に作ってやってたら今みたいになったんだよ。そういや、ネェちゃんの親父にも作ってやった事があるぜ」


「お父様にですか⁈ じゃあ、お姉さまとお兄様にも食べてもらわないと不公平ですね!」


「そんなにおだててもスパイスしか出ねぇぞ! ……ん? お兄様って兄がいるのか? 親父さんからは聞いた事ないが……」


「えっ? ライナス・ノース・ガーランドって知らないんですか?」


「ああ、そいつは知ってる。連戦連勝の大将様だろ」


 連戦連勝と言ってもお兄様が指揮している戦場だけだから、結局は膠着状態が続いているのが現状だ。


「はい! で、そのライナスお兄様はガーランドに養子としてやって来たのです!」


「ほぉ、全然知らなかったな、それは。ガーランドが養子を取るなんて大ニュースを知らなかったとはな。もうとっくに時代遅れだなぁ」


「アリシアのにぃちゃんってどんな人?」


「わぁ、もう食べ終わったんだ」


「静かだと思ったらずっと食ってたのか!」


「へへっ。で? どんな人?」


 本当に十歳くらいに見えちゃうくらいに可愛い! もう、何でも答えちゃうよ〜!


「お兄様はねぇ〜、まずカッコイイ!」


「かっこいいって、顔が?」


「それもそうなんだけど、性格とか振る舞いとか仕草とか行動とか……もう全部!」


「う、うん……なんかよく分からない……」


 リリーは苦笑いで困り顔だ。具体的な内容を伝えないとダメか。

 頭の中にあるお兄様との思い出を掘り返し、話す順番を決めていく。初めて会った時は外せないよね、後はこの間の卒業式の事も良いよね……よし! 決めた!


「じゃ、ライナスお兄様のカッコイイ話をするね! まずはぁ〜」


「黙れっ!」


 突然の背後からの怒声に言葉は遮られた。振り返るとさっきの黒髪の男立ち上がって私を睨んでいる。


「おいおい! 突然どうしたウィリス」


「オヤジは口出しするな。おい、お前。これ以上あのクソ野郎の話はするな」


 クソ野郎? それってお兄様の事?


「お兄様の事を言ってるんですか……?」


 思わず声に力が入ってしまう。

 男は私の言葉に頷き私を睨み続けて続けた。


「アイツがかっこいいって? 腰抜けの間違いだろ?」


「何を! あなたが何を知ってるんですか! お兄様の!」


 二つ離れた席に座っていた私と男の間の距離はもう一mも無い。互いに睨み合い、男は今にも拳を振り上げそうだ。


「何も知らないさ! クソ野郎って事意外はなっ!」


「また……あなたが黙ってください!」


「調子に乗るなよ……! お前も逃げ回って隊が全滅したんだろ?」


「違います! 戦いました!」


「家柄だけの人間のくせに何を」


 もう我慢できない! 散々人を馬鹿にして……。こんなのを許せばお兄様が腰抜けだと認める事になってしまう。

 お兄様が腰抜けではないと認めさせる事と私が戦ったという事を証明するための方法……。


「私と戦ってください!!」


 お腹から全力で張り上げた大声に店内は静まり返り、全ての人の注目が私たちへと集まる。男が腰抜けでないのならこの状況で私の申し出を断る事が出来るはずがない。


「俺と戦う? どうやって?」


「コフィンです」


「ハハッ! いいぜ、やってやるよ」


「では、明日の朝九時に来てください。……謝ってもらいますから、お兄様の事……!」


「勝てたらな。俺が勝ったらお前の機体をバラバラにして売っ払う、いいな」


 男は私の返事を待たずにカウンターにお金を置いてこの場を立ち去った。

 店内ではまた賭けが始まっている。

「ウィリスに喧嘩売るのかよ」「どっち勝つかな」「そりゃウィリスだろ」「でも、さっき港に運ばれてきたヤツって」「ああ、あのガーランドの奴が殺った奴だぜ」「もしかしたら……」「いやいや、ねーよ。俺はウィリスだ」


「は〜い!! 賭ける奴はボクの所を来てよ〜!」


「ネェちゃん……、あの男……ウィリスはこの島で最強の男だぜ……。大丈夫か……?」


 最強……だからなんだ!


 《ああ! それでいい。私にも途中で替われよな!》


 それはどうかな? 替わる間も無く終わらせちゃうから!


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