第十話 ヤなタイミング?
「どう? これで諦めてくれるよね?」
『んんっ……約束だから……仕方ないよ……』
戦闘からの帰り道。思ってたよりも遠くに来てしまっていたみたいで、非戦闘時のスピードで飛んでいると来た時と同じようにはいかないようだ。
でも、この間に色々な話ができるって考えれば、この時間も悪くない。
「ねぇねぇ、キミの事教えてくれない? これからは仲間になるんだし仲良くしたいな」
いつまであの島にいるかは分からない。けど一緒に過ごす間、良い関係で入られたら嬉しい。
『ボクの事なんか聞いてどうするの。あの島では個人情報に価値なんかないよ』
「売ったりするわけじゃないよ。本当にただ仲良くできればなって……あっ! そういえば名前! まだ聞いてなかったよね? ……って、人に聞く前に私が名乗らないとね。私はア……」
『アリシア・フェザー・ガーランド、でしょ? さっきオルバナイトに書いてあるの読んだよ。ボクはリリー・ホーキンス……他に話す事ってあるの? ボクは思いつかないよ』
「何かあるよ〜……じゃあ家族の事とかさ」
『家族なんていないよ、そんなの』
「あっ……ごめんなさい……」
そういえば自分で稼がないといけない子は戦闘にも出るって長官に聞いたばかりだった。
このままだと気不味いな……。何か和むような話題に切り替えないと。
「なら、島から出たらしたい事って何かある?」
これなら何か会話が広がるような返事が返ってくるだろう。
『別に無いよ。今のままで満足してるし』
「えっ? でも、外には島には無い物もいっぱいあるよ……?」
『そもそも、ボクには帰る所がないんだよ、島を出ても。だから出るつもりは無いよ、あれだけのクレジット稼げる筈もないしね』
「そうなんだ……」
もう今は何か話しをするのはやめて外の景色でも見ていようと思い、シートに深く座って右手のモニターに小さく映るリリーから目を逸らした。
互いにしばしの沈黙が続く。しかし、風を切る音がコックピット内で響き、完全な無音では無い。アーサーさんも通信で話ができるんだから何か言ってくれれば良いのに……。
『たい……んだよ! きみ……早く回避……とる……』
「何言ってるんですかアーサーさん。回避って言ってもバグの反応なんてありませんよ……?」
突然の通信でリリーのびっくりした声が聞こえた。それに途切れ途切れで要点を掴むのがやっとだ。
『そうだよ〜びっくりするな〜。折角今日の儲けを計算してたのに今のでまた一から……って……このエネルギー反応……! うわあああっ!』
「リリー⁈ 機体の左腕が無くなってる……。どこ……?」
確かにレーダーにはバグの反応が無い。しかし、現実にリリーの機体は攻撃されて左腕が消し飛ばされている。レーダーの有効範囲は約十㎞。この範囲に反応が無いという事はその外からの狙撃?
『や……り君達から……ないのか! ……今は……とだけ……』
アーサーさんからのここで通信は途切れた。
「どうして通信が……? 違うっ! リリー! 生きてる⁈」
『当たり前だよ! このまま稼ぎをパーにしたヤツを殺してやりたいけど……』
「逃げて。私が引き付けるから」
『引き付けるってバグはどこにいるんだよ! レーダーには何の反応も無いっ……!』
人間は機械に頼り過ぎてるのかもね。私もその一人だけど。
実際に見てみなければそこに何があるのかも分からない。十㎞離れた所からの狙撃をバグが行なったなんて事例は今まで報告された事は無いし、それどころかバグに数㎞離れた所からの攻撃手段が存在するという事も確認されていない。
という事は目視できる範囲にいる筈だ。
「でも、あんな距離からの攻撃なんて……新種?」
モニターに捉えたバグの姿がズームされて大きく映し出される。かなり離れていて少し粗い。見た所は以前から確認されている中型だと推測でき、データに照合した結果もそうだと言っている。
しかし、見慣れない突起物が付いているのは初めてだろう。恐らく、あの先端からコフィンの腕を消しとばした何かが放たれた筈だ。
『……仕方無いからアレは譲ってあげる。じゃっ、頼んだよ!』
片腕を失ったコフィンは私に背を向けて離れて行く。
「うん。もし……失敗したらゴメンね」
『おいっ! 言った事に責任……』
言葉はそこで途切れた。互いの距離が開いた事が原因だろう。
「やっぱりジャミングされてる……バグのせいだよね……」
狙撃する個体もジャミングする個体も聞いた事は無い。そういえばこの間は連携を取る個体とも遭遇していた。まだ二回しか出撃していないのに私は厄介を引き寄せる体質なのかな……?
「ま、偶然だよね」
今モニターに映る敵はズームではなくそのままの状態だ。そして、何かを放ったと思われる突起物は私を捉えようとしている。
敵からの殺意を感じているからか体温が上がっているような気がして、頭の中も戦闘態勢へと変わった。
「見逃してくれないならやるしかない……!」




