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第九話 事故には気を付けよう?

 滑走路から飛び出すと周囲は一面の海。でも、ここの海は生き物の気配を感じない。それもバグが海の生き物を絶滅に追い込んでしまったからだ。しかし、この景色は凄く綺麗で中々良いと思うなぁ。


「海ぃ〜! すっごい綺麗ですね! ここって大西洋……ですよね?」


『確かに良い景色だろうねぇ……僕は御免だけどさ』


「どうしてですか? こんなに綺麗なのに……」


『高い所苦手なんだ。それは置いといて、敵は約四キロ先、このままだと十秒後にはこんにちはだろうね』


「ええっ⁈ 十秒ですか⁈ 速ければいいってものでも無いですね……」


 慌ててレーダーの反応を見て見ると確かにそれくらいで遭遇しそうな距離だ。それに、もう薄っすらと見えている。音速で飛んでるんだからそりゃすぐだよね。

 アーサーさんの話はそこでは途切れずに、違う話題が始まった。


『君の相手は直接何か言ってきたかな? 発進してから何にも言ってこないんだ』


 発進後は実際の機体状況や周辺の情報を報告するのが当たり前なのだが、あの子は今回それをしていないらしい。

 その事は私も気になったから、こちらからも通信をしてみようと考えた。


「そちらにも通信して無いんですね。なら、私から声かけてみま〜す」


 たしかに、あの小さい盗人はどうしているのだろう? 自分の機体に搭乗してから女の子にしては低い声が聞こえてこなかった。あ、あと男の子か女の子か聞いてなかった……。


「おーい。気絶してたりしないよね?」


 もう余裕のある時ではないが、戦闘が始まってしまえばそれが終わるまで軽いお喋りの通信は出来ない。終わった時にあの子が生き残っているとも限らない、聞きたい事は今聞いとかないと。


『っ! してない! それより何の用? 怖気付いたから引き返すの?』


 馬鹿にされたと感じているのか眉間にシワがよって、モニターの向こうから私を睨みつけている。そして、仕返しのつもりなのかな、私を煽り始めた。《アハハ、先にこいつを殺してやろうか……》


「……違うよ〜。君って男の子? それとも女の子? 」


 何だろ……、一瞬意識が飛んだような……。少し気になったけど……、大丈夫、久し振りのGでクラっとしただけだよ、多分。

 モニターの向こうの子には私の状態なんて知った事ではない。眉間に跡が出来るんじゃないかというくらい深いシワを作っていて、目の前にいたら飛びかかってくるんじゃないかと思う程怒っているように見える。

 しばらく沈黙が続き——と言っても二秒くらい——、接敵まで一秒となった時だった。


『ボクは女!』


 コックピットの狭い空間で何度も反響して、頭の中にまで響く程の大声で答えが返ってきた。思わず耳を手で覆ってしまい、機体のバランスが崩れて明後日の方向に飛んで行ってしまいそうになった。

 このせいで私は完全に出遅れて、おまけに今はバグの群れの中に飛び込んで完全に囲まれた状態だ。


「邪魔するなんてズルイ!」


『馬鹿なこと言うから……だよっ!!』


 あの子は早速、機銃をバグに命中させてワンダウン、私はもう一つ差をつけられてしまった。


「もう一体……負けられないっ!」


 戦闘機形態ではこの囲まれた状況では不利だ。しかし、コフィンには人型へ変形する機能がある、いや、正確には戦闘機に変形する機能があるだったっけ。

 変形する方法は簡単。足元に二つあるスイッチペダルを両足で同時に強く踏み込むだけ。すると、あっという間に変形が完了して人型形態となる。もし勝手に変形していたら気が付かないと思うくらい早く、パイロットへの影響は無い。

 詳しくは知らないけれど、変形している間はコックピットの位置が変わらないらしく、そのおかげでパイロットへの負担が無いらしい。


『ちょっと、ちょっと! この状況で接近戦なんて……!』


 アーサーさんは常に機体状況をモニターしている。だから変形した事も実際の映像が見られなくたって分かっているし、私が何をしようとしているのかも分かっているはず。


「大丈夫です! 当たらなければ良いんですっ!」


 私の機体に装備されている近接戦闘用の武器は、背部のバックパックにマウントされている大剣のバスタードソード、腰部に内蔵されているダガー、そして最後に普段は手首に隠された状態になっている隠し武器の三つ。

 この中から私が選択したのはバスタードソード。バグは普通の虫と似た構造をしていて堅牢な外骨格を持っている。それを一撃で砕くには手持ちの武装の中で一番適した武器だ。


「これで……!」


 頭部の横に突き出てきた柄を掴みそのまま振り下ろし、硬い甲を叩き割り真っ二つに斬り捨てた。飛び散る体液が返り血のように降りかかる。


「アーサーさん! あの子のスコアは⁈」


『四……いや、五だ。残りは約十六、早くしないと負けるよ!』


『へへっ! これだけ差があればボクの勝ちは決定的! ……よっし! これで六だっ!』


 たしかにこの差は厳しいかもしれない……あれ……?


 《右のやつから殺れ!》


 やった! ちょっと言葉遣いが乱暴だけど……。


「うん! もうキミには一匹もやらないから!」


『な〜にバカな事言ってるのさ……えっ……な、何⁈』


 余裕をかましていた声は驚きの後、一切聞こえなくなってしまった。

 あの子はどの時点を見て驚いたのだろうか? 四体目? それとも五体目かな? 突き刺した大剣を引き抜きながら考えてみるが、それが分かったところで何だというのかと乱暴な声で指摘されて考えるのをやめた。その後も言われるままに飛び回りバグを海へと沈め続けた。

 その結果、この勝負は私の圧勝で終わった。

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