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第八話 収容生活の始まり?

「ほら。あの左から二番目の機体がキミのだよ」


 ようやく格納庫へやってきた時、ライザさんは怒りを通り越して呆れているみたいだった。私が謝ると「もういい。これはお前の部屋のキーだ。失くすなよ」とだけ言って、私がキーを受け取るとどこかへ行ってしまった。


「わぁ〜! 良かったよぉ〜」


 跪いている機体の側に駆け寄り見上げる、整備されているおかげで損傷していた所が修復されている点以外は私が降りた時と同じだ。

 いや、あの時は装備の殆どを失ってた。けれど、今目の前にあるのは私達がカスタムしたパーツが全て装備されている。ここに運ばれる前に誰かがまた取り付けてくれたんだ。


「でも、誰が……?」


「どうしたんだい? 変な物でも付いてるかい?」


「誰が整備したり、パーツを取り付けてくれたんだろうって思って……。アーサーさん、知ってますか?」


 機体に登り、軽く各部のチェックをしながら疑問を尋ねてみた。何だか失礼な事をしているような気がするけど、彼なら許してくれるだろうし、私も何故か気を許してこんな事をしてしまう。片手で数える程しか会った事ないんだけどね。


「整備したのはボクで、パーツ取り付けはお友達だよ。あの子達、この機体も送られるって聞いたら徹夜で作業してたんだよ」


 彼女達……という事は、リアとヴァレンティナの事だよね……。視界が少し霞み、俯いたまま動けなかった。


「ありがと……大切にするよ……」


 目を掌でこすって、顔を上げるとちょうどカメラアイと目が合った。顔にも少し手を加えていて、他の人とは顔が違う。私はカッコイイと思うけど、二人とは意見が分かれていたなぁ。

 彼の頬を撫でるとピカピカに磨かれていて手触りが気持ちが良い。こんな事までしてくれてたんだ……。


「あ、これって……。あはは……、一緒に帰ろうね……絶対!」


 顔の隅っこ、ここまで近付いていないと気が付かない程小さく書かれていた。「絶対あの景色見に行こうね!」「決着を付ける時まで死ぬんじゃないわよ!」。こんな事されたらまた泣いちゃうよ……。


「ちょっと暑くないか〜い? 時間も時間だし、ランチにでもしないかい?」


 一人だったらまた泣いてたかもね。


「は〜い! あ、ちょっと待ってくださいね」


 最後にコックピットの中を確認するために首の付け根にあるボタンを押すと、背部の装甲が開いてシートが突き出してきた。お尻から飛び込み、左右の操縦桿を握るとそれに反応して機体が私を引き入れる。


「ついでに動かしてみよっかな」


 今まで毎日触ってきたのにここ数日は色々あってご無沙汰だった。感覚が鈍っていないか確かめておかないと。


「アーサーさ〜ん、もうちょっと離れてくださ〜い!」


 私が何をしようとしているのか察してくれたようで、声を掛けるとサッと避難してくれた。

 天井が結構高いからちょっとは飛ぶ……とまでは行かなくても、浮く事は出来そうだ。浮いているとどんな動きをしても振動は伝わらない、だから動作チェックするのに最適だと思う。

 という事で、空中でグリグリと動いてみたけど、以前と変わらずに問題は無かった。


「わぁ〜、私の感覚よく分かったなぁ」


 今の所はこれくらいにしておいて、細かい事はまた後で見ようかな。

 機体を着地させて、起動前と同じように跪かせる。この姿勢が待機中の基本姿勢だし、降りる時もこの方が良いんだよね。


「お疲れさま〜。どうだったかな? 良く出来てると思うけどね」


 自画自讃するなんて凄い自信あるんだなぁ。実際、文句の付けようは無かったけどね。


「ふぅ……。はい! 完璧です! 本当にありがとうございます!」


 お礼をしてから機体の腕を伝って飛び降りた。


「さぁさぁ、早くココ出よう。ただでさえ蒸し暑い所なのに何だいココは? ホントに蒸し焼きだよ……」


「そうですね……よっ……。よし! 行きましょうかぁ〜」


 コックピットの中はもっと暑かったんだよね〜。中は狭くて上着を脱ぎたくても出来なかったけど、ようやく脱ぐことができた。


「あら、それって軍指定のシャツじゃないか。君みたいな娘が着るんだねぇ」


「え? どういう意味ですか?」


「ダサいから若い子はみんな嫌ってるんだよ〜」


 そうなんだ……。あー……、だからリアもヴァレンティナも着てなかったんだ……。言ってくれればいいのに!


「あと、その首にかけてるのって……オルバナイトだよね。……かなりの上物だ、どこでこんな物を?」


「子供の頃に採掘場に遊びに行って掘り出したんです。すごく綺麗で欲しいってねだって、貰っちゃいましたぁ〜、えへへ」


「やっぱりガーランドは凄いね……。ふつうの人間だったら即没収、下手すりゃ檻の中だよ」


 何が凄いんだろう……?

 話はそこで途切れて、食堂へ向かう為に歩き出した。格納庫から出る扉はいくつかあるけれど、最短で外に出る事ができるのは階段を登り休憩室から出るルートだ。


「んん? きゃっ! ……いったぁ〜」


 突然何かがぶつかって来て倒されてしまった。足音が遠ざかって行くのが聞こえて、その方向を見ると小さな子供? が走って逃げて行くのが見えた。


「大丈夫かな? アレはワザとに違いないよ。何か盗られたりしてないかい?」


 そう言われてズボンのポケットを確認してみた。けど、そもそも盗られるための物が入って無かったんだ。


「何も盗られてない……ああ! ネックレスが無い!」


 足音はまだ聞こえている。なら捕まえて取り返さないと!


 ————


 足音を追って工廠を出て居住区へとやって来たけれど……知らない場所でどこをどう探せば良いのだろう……。仕方無く勘を頼りに進んで行くことにした。

 さっき歩いた時は表側しか見る事ができなかったけど、裏側は表以上に荒れて汚れている。本当にこんな所で人が生活しているのかと思う程に。

 今私が歩いている道は広くは無く、車が二台横に並ぶ事ができるかどうかの幅しか無い。だというのに人の往来は激しく、道の脇では何やら怪しい物を並べて商売をしている人もいる。


「こんなので見つけられる気がしないよ……」


 弱気になってしまうけれど諦めるわけにはいかない。自分で見つけて、自分で加工して、いつでもどんな時でも肌身離さず身につけてきた大切な物なんだから!

 もう一度駆け出して、人混みを掻き分けて進んで行く。肩がぶつかって怒鳴られたり、吹っ飛ばされたり、殴られたり……。ボロボロになっても諦めずに立ち上がって走り続ける。

 すると、この狭い道を完全に塞いでしまう程賑わっている露店を発見した。その人集りの中心からは子供の声が聞こえる。声の感じからすると女の子だと思う。


「さあさあ! こんな珍しいもん滅多に手に入らないよ! この大きさなら予備パーツにも使えるオルバナイト! クレジット五百から始めようか!」


 いた! 『オルバナイト』なんて通常なら出回るはずが無い。ここが特殊な環境だからと言っても、周りが海に囲まれている人工島で貴重な鉱物であるあの石がこんなタイミング良く売られているなんてありえない。

 見物客の間をすり抜けて最前列へと顔を出すと、もう競りが始まっていた。五百から始まった値段は七百まで上がっている。そんなのは御構い無しに私は大声で競りを仕切っている少女に詰め寄った。


「これってさっき私から盗んだネックレスだよね⁉︎ 返してもらうからね!」


 地面に敷かれたシートの上に置かれていたネックレスを掴んでポケットにしまう。


「お前! 何するんだよ! それはボクが仕入れた……」


「じゃあこの石の裏に彫られてる文字は何?」


「え……アリシア・フェザー……ガーランド……? 何これ?」


「で、これを読んでみて」


 私が見せたのは軍の身分証。顔写真付きだから私だと証明するのも完璧だよ!

 これだけ証拠を揃えられてしまうともう何も言えなくなる。この少女も例外ではなく、目をキョロキョロ動かして挙動不審になってアワアワしている。泥棒さえしなければ可愛いものなんだけどなぁ。


「て、事でコレは返してもらうよ」


 ここに長居する必要は無い。早足でここを離れようと歩き出す。さっきまで周りにいた見物客はほとんどいなくなっていて、楽にこの場を離れる事ができそうだ。

 ポケットから石を出して見つめてみる。あるのが当たり前だと思ってたから無くなると不安になってしまった。自然と顔が笑ってしまっている。なんでかな?


「そこのお前ちょっと待てー!」


 さっきの少女の声が私の背中に刺さる。

 振り返るとビシッと指を突き付けられていた。


「盗んだことは謝るよ……。だから、ボクが勝負に勝ったらその石ちょうだい!」


 何て強引な話を……。こんな勝負に乗るほど私はバカじゃないんだけど……。

 少女の大声に反応してさっきの見物客がまた再集合して二人を囲んでいる。その中には勝負を煽るような事を言っている人もいて、勝負をする事が決まったような雰囲気が作られてしまった。私かこの子のどちらが勝つかという賭けも始まり、今更しないとは言い出しにくい。さっきの競りを邪魔されて何か騒げるイベントが欲しいのだろう。


「はぁ……。うん、いいよ。でも、方法は?」


「今ちょうど、『バグ』の群れがこの島に接近してるって情報が入って来たんだ。もう分かるよね? 多く仕留めた方が勝ち、単純だよね」


「あなたコフィンに乗るの⁈ まだ小学生くらい……だよね?」


「どこに目付けてるのさ! ボクは十四だし、コフィンに乗ってもう四年経つんだ。お姉ちゃんってまだ新兵だしキャリアはボクの方が上だよ!」


「あ……さっき聞いた話、本当だったんだ。大変なんだね」


 これから勝負だというのに気がひける。


「そんな顔して……憐れみは要らないよ。そんなのよりも金くれってんだ! さあ! 行くよ!」


 少女は私を置いて駆け出して格納庫へ向かった。私もそれに遅れて、後に続いて走った。


 ————


「すみません、アーサーさん。突然お願いしちゃって」


『いやいや、気にしないでいいよ。僕がここに来た目的はキミに興味を持ったからなんだし。だからこういう事なら気にしないでどんどんお願いしてね〜』


「私に……? ま、いっか。ジェネレーター出力安定、各部センサー正常確認」


『通信状態良好、フライトシステムプラス三、ちょっと機体を軽く感じるかもね。ま、よい空の旅を〜』


「はい! アリシア・フェザー・ガーランド、行きます!」

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