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儚き命の覚悟

 私達の危機にみんなが駆けつけてくれた。使い魔達は構わず攻撃を仕掛けてくるが、容赦がないのは奴等だけではない。


「どうやら私の可愛い弟子を随分追い詰めてくれたそうだな?……月光刃(げっこうじん)!!」


 先生の金色の剣が使い魔達を切り裂いていく。圧倒的不利だった流れを押し返すこの勢い。凄い、さすがは先生だ。

 と、感心していると、先生が攻撃を中断。私に迫ってきた。


「が、今回はそなたにも悪いところがあるぞ。何故戦えもせん身体で我々の元へ戻ってこなかった?」

「そ、それは……優希ちゃんの事で気をとられていて。急がなきゃって」

「この馬鹿者が。それでまた撤退したらただの二度手間ではないか」


 と、先生が私にげんこつを喰らわせた。……中々痛い。

 しかし葉月ちゃんがそれに割って入る。


「責めるなら私を。こんな時だからこそ落ち着いて、だなんて鞘乃ちゃんに諭して起きながら、自分もきっと心の底では冷静さを欠いていたんだと思います」

「葉月ちゃん……」

「……己の力を過信しすぎていたところもあります。その力も、勝手な独りよがりの力だった。……みんなを照らせる太陽だなんて、笑わせますよね」


 葉月ちゃんは責任を感じ、俯いてしまっていた。真面目な性格であるがゆえ、自分のミスを大きく責めてしまっている。私のせいでもあるのに……。

 そう思って私もいつの間にか心を沈ませてしまっていた。そんな中、私達を鼓舞するように輝く光があった。


『オラ!シッカリシロヨ!!』


 ……物理的な意味で。バーナの身体から発せられる炎だった。彼もこの状況を聞きつけ、来てくれたようね。


『ウダウダ言ッテル場合ジャネエンダロ?』


 そんなまともな正論を叩きつけられ、しんと静かになった場のなかで、彩音ちゃんが大きく笑い声をあげた。


「まったくだぜ。ボケッとしてんな!交代の時間だ」


 彩音ちゃんは葉月ちゃんを抱えあげ、グローブと鍵を受け取った。そして葉月ちゃんにニッと笑みをこぼした。


「みんなを照らせる太陽。……良いじゃん。アタシはそういうの、結構嫌いじゃないぜ」

「……でもそれは」

「間違った力だろうが一つだけ感じたことがある。アタシは戦いのプロってやつじゃねえから、自分の直感でしかモノは言えねえけど。お前の想いは本物だって」


 と、息をついて。

 次の瞬間に、周りが静まっていて。冷静になって彼女は顔を真っ赤にしていた。


「あ、アタシからすりゃ、生温すぎるけどな!」

「もう、そこは素直に誉めておけば良いのに。誰も彩音ちゃんを馬鹿にして黙ってた訳じゃないわよ。むしろ、優しいなって」

「あーもうそういうのほんっとやめて!アタシそういう目で見られんの一番嫌だから!!」


 はぁ、と大きくため息を付いた彩音ちゃん。それでも最後には、葉月ちゃんの髪を撫でてこう言ってあげていた。


「……まぁなんだ。お前は自分を責める事なんて無いんだぞ」

「彩音ちゃん……」

「……鞘乃だってそうさ。ダチのピンチに動揺しない人間なんかいない。カレンの言うことも正しいかもだけど、冷静でいれなくなるのは何もおかしいことじゃないってアタシは思う。……アタシだって一緒だからさ」


 そういう彼女の手は、震えていた。優希ちゃんがいつ殺されてもおかしくない状況に、凄く不安を抱いているのだろう。

 でもだからこそ、と彼女はグローブを左手に填めて続けた。


「だからこそ、みんな今出来る事に集中すんだ。鞘乃は傷の回復を急げ」

「急ごうと思って急げるものでも無いけど……順調よ」

「よし。じゃあ戦えるやつはアイツらぶっ叩くぞ」


 バーナと先生が頷いた。だが、一緒に来たフラッシュは俯いてその場に立ちすくんでいる。


「……確か温厚なギョウマだったっけ。ま、戦いたくない奴を無理やり戦わせんのも酷な話だ」

『……スマナイ。本当ハ君ノヨウナ少女ノ代ワリニ、私ノヨウナ化ケ物ガ戦ウベキダトイウノニ……』

「気にすんな。アタシはさっきも言ったが戦いのプロじゃねえ。けど……喧嘩なら慣れてっからよ!」


 彩音ちゃんはセイヴァーへ姿を変え、使い魔達にセイヴァービートを叩き込んでいく。


「好きなだけ暴れさせてもらうぞオラァアアアアアアア!!」


 同時にバーナも炎を纏い突撃、先生も月光刃を振るい、使い魔達を圧倒していく。いくら敵が大量の天使クラスとはいえ、あの三人ならそう簡単には負けないだろう。


 さて、こちらでもやれることをやっておかねば。

 と、ましろちゃんを見ると、彼女はガクガクと震えていた。


「……どうしたの……?」

「ま、ましろが優希さんに余計なことを言わなければ……こんなことには……」


 ……また一人、自分を責める者が。


「ましろちゃんは優希ちゃんの宝物をキチンと整備しようとしてくれただけでしょう?ましろちゃんのせいじゃないわよ」

「で、でも……」

「……心配することない。あの人ならきっと大丈夫」


 そう信じているからこそ、今もなんとか平然としていられるというのも確かな話なのだが。

 きっと優希ちゃんの事を心から信じていれなかったら、それこそ私はましろちゃんをどんな目に合わせているかわからない。矛盾しているような言い方だが……。


「とにかく、今は出来る事をやりましょう?大丈夫よ、みんないるから。みんなの想いを合わせれば不可能なんてない!……優希ちゃんならきっとそう言うわ」

「……そう、ですね。わかったです」

「うん。じゃあ、早速なんだけど、これ、直してくれない?」

「……また派手にやらかしたものですね」


 ぶっ壊れた進化の鍵。これを直さない限り、戦況は厳しいままだと思う。正直、前に進めたとして、クロニクルになれないとイヴルに対抗することは厳しいだろうし……。

 だがましろちゃんは天才だ。きっとすぐに修復してくれるはず。私の怪我も大分よくなってきた。じきに満足に動けるはずだ。


(あとはあの使い魔達を滅ぼすことができれば……)


 しかし妙だ。あの三人がもうすでに幾多の使い魔を消し去っているというのに、葉月ちゃんが力の限りで幾つかの使い魔を焼き付くしてくれたというのに。まだ奴等は襲いかかってくる。どれだけの数がいるというんだ……?



 ***



 使い魔とかいうワケのわからん連中との戦いは、はっきり言うと結構キツいもんだった。あのカレンも、まだ完全に力を取り戻せている訳じゃない。

 けど、流石は始まりの救世主って感じか。使い魔どもの勢いを削ぎ落としていってる。

 アタシだって負けてられない。自慢の拳で、奏でる音の属性の力で、使い魔達に着実に攻撃を喰らわしていく。


「なめんじゃねえぞオラァ!!」


 そうさ。ましろの手助けはあったが、アタシはあの神に一矢報いた人間だ。こんなやつらごときに負けてたまるかってんだ。

 だが、いまだ攻め続けてくる使い魔の勢いに、ついにバーナが崩れ始めた。


『燃料ガ尽キル……クソッ……俺ノ炎ノ再生速度ガ追イ付カナイ……』


 それをカレンがサポートする。


「無理をするでないぞ。こやつらは知能こそ無いが、その力はそなたには厳しいものだ。下がっておれ」


 カレンは金色の剣・月光刃で敵の攻撃を防ぎつつ、更に黒い剣を展開する。


陽炎刀(ようえんとう)!……力を貸せ!」


 黒い炎が使い魔達を引き裂く。あのカレンがギョウマであるバーナを守りながら戦っている。……アイツも、立派に自分の過去と向き合ってるって訳だな。


「よし!!このままいくぞカレン」


 アタシはカレンの姿を見て、不利な状況にも関わらず希望を抱いていた。しかしカレンは、アタシを戦いから遠ざけるように前に出る。


「……彩音、そなたも下がれ」

「何言ってやがる!一人でこの数をやるなんざ無理だぜ」

「一人だから出来るのだ」


 カレンは思い詰めたように陽炎刀を見つめて言う。


「私には取って置きの必殺というものがあるのだ。それはそなたらが傍にいては安心して使えぬ。何せ、とてつもない威力なんでね」

「必殺……?」

「それほどの威力を誇るモノでなければこやつらは倒せん。アレを見ろ」


 カレンはあちこちに指を指した。グルグル視線を変えていくと、その答えがわかった。

 使い魔は分裂して新たな個体を産み出している。しかも戦っててわかるように、強さはそのまま。一体でも残っていればまた増殖し、アタシらを狙ってくるって訳か。


「こんなおぞましいモノを造り出せるとはな。延々と増殖する分、神が産み出したネフィエルよりもたちが悪い」

「だから全部いっぺんにぶっ潰さなきゃ、勝ち目はねえってか」

「そういうことだ。彩音、そなたもバーナと同じであろう?もう限界近いのではないか?」

「そ、そんな事……」

「強がるな。そなたは確かに経験数以上の活躍を見せてくれている。だが、これほどの数の天使が相手では分が悪すぎる。バーナを鞘乃達の元へ送り届けるのだ」


 そう言ってカレンは陽炎刀を構え、何かを唱え始めた。

 凄まじく巨大な力が陽炎刀に宿っていく。何をしでかすつもりかはわからないが、確かにその必殺とやらなら、まとめてコイツらを消し去るのは簡単だろうな。


 だからこそ、アタシはそれを止めた。セイヴァービートで殴りかかり、陽炎刀で防御させ、力の解放を止めた。


「何をするこの馬鹿者!」

「てめぇこそ何やってんだ馬鹿野郎。何が取って置きの必殺だボケェ!どうせくっだらねえ自爆技なんだろ」

「なっ……?」


 図星、と言った顔だった。予想通り過ぎるというか、なんというか。


「そりゃそんだけ『これしか手はない。私が犠牲になっても……!』みたいな顔をして剣を握ってりゃわかるっつーの」

「……事実、これしか手はないのだ。この場でこやつらを消し去れるほどの力を持てるのは、私しかいない」

「……ま。確かにそうなんだけどよ」


 現時点では少なくともそうだ。しかし、現時点じゃなければ、話は別かもしれない。アタシは黄色の鍵を取り出した。


「諦めんのはまだ早い。賭けてみようぜ、こいつによ」


 この世界に来たときに一瞬見ただけだが、葉月は鍵の力でとてつもない力を発揮した。そして鞘乃がその理由を語っていたのを聞いた。自分自身の信じる絆の全てを注ぎ込んだからこそ、優希のセイヴァーブラストを遥かに凌駕する力へ昇華したのだと。


「……ま、葉月のやり方で使えば負担が頭おかしいレベルで降りかかってくるらしいけどよ、お前が犠牲になるよかマシな結果になるんじゃねえかな」

「……そなたは、優希のやつに負けず劣らず無茶する馬鹿だと聞いている。実際、最後の戦いでは一歩間違えれば死んでいたのだぞ。そんな奴に任せられると思うか……?」

「ありゃ。そこ突かれると痛いな」


 カレンが周りの多くの人間を失った話は、神との戦いが終わってからアタシ達も聞いた。数多くの仲間を、大切な人を、失った話を。だからこそ、アタシには任せられないと拒絶する。だけど……。


「だけど生憎、そう簡単にくたばるほど柔には出来てねえんだ。無理したって、ホラ、結局ピンピンしてんだし」

「現実を甘く見るな。人の命など呆気ないモノなのだぞ」

「それじゃあ代わりに自分がくたばるのは良いっていうのかよ。お前を信じた人間の気持ちは平気で裏切るのか?友達になりてぇってお前に手を伸ばした優希や鞘乃の事はどうでも良いっていうのか?」

「っ……」


 カレンは黙りこんだ。やるせないという感じだ。

 ま、気持ちはわかってるよ。目の前で多くのものを失って、だからこそ、今度こそ、命に変えても守りたいって思ってくれてるんだから。

 だがそこで、グローブに通信が入った。


『カレンさん。一旦戻ってきてくれるとありがたいです。進化の鍵を起動させるには、貴女の力が不可欠ですから』

「……だってよ。お前を必要としている奴がいる。だからはよ行け。あ、バーナの事もよろしく頼むわ」


 アタシは鍵をスロットに装填して、思い切り笑った。


「心配すんな。アタシは絶対しなねえ。まだまだみんなや、カレンと一緒にいたい」

「彩音……」

「だからカレン。アタシを、みんなを、セイヴァーを……信じろ!」

「……」


 カレンは黙って頷き……バーナを連れ、その場から去った。


「さてとォ……これで心置きなくやれるってもんだぜ。こっからがアタシの本当の見せ場だァ!!」


 セイヴァービートを使い魔に叩き込んでいく。しかし一人になったから、敵の勢いが一気にアタシに降りかかってくる。手も足も出せないって感じ。


「けどアタシには(こいつ)がある!!」


 音の属性を一気に解放し、弾丸として放った。アタシの周りにいる使い魔は音の振動圧で動きを封じられる。そこへすかさず力を込めた超必殺の一撃をぶちこむ。


「喰らいやがれ!『最終楽章』!!」


 その一撃に弾かれた使い魔達。そして最終楽章の衝撃を上手くかわしたアタシは、そのまま怯んだ使い魔達に攻撃を浴びせていく。


「まだまだ止まんねえぞオラァ!!アタシは……アタシは絶対勝たなきゃいけねえんだ!アタシを信じてくれる奴らのために……信じてほしい奴のために……そして……アタシに大切にしあう事を教えてくれた友達の為に!!」


 するとグローブに填まった黄色の鍵が呼応するように輝き始める。そうだ、輝け。


「まだだ……!もっと輝け……!アタシの想いを繋げぇええええええ!!」


 そして鍵は、アタシの叫びと共に巨大な光を放ってアタシを包んだ。オレンジを基調とした衣装が黄色に染まり、凄まじい衝撃を放って使い魔達を弾き飛ばしながら、新しいセイヴァーが誕生した。

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