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交わりの否定

 異世界。使い魔と呼ばれる存在に、私はいまだ追われていた。


(……でも逃げっぱなしじゃ体力が尽きるのが先……)


 とは言え、今私はセイヴァーになることができない。果たしてそれで、敵うものか。友達も仲間もいない。独りぼっちの孤独。それを抱え、更に気持ちは深い闇へと堕ちていく。……そう、今の私は、絆を持てない存在。


「……違う」


 使い魔が襲いかかってくる中、私は逃げることをやめた。

 繰り出される爪の斬撃――それをかわして私は蹴りでカウンターを繰り出した。

 私はもう、のろまでダメな自分じゃない。今まで戦ってきた積み重ねが、そしてカレンちゃんとの修行の日々がこの身体を動かしてくれる。


 肉弾戦での攻撃が当たらない事を理解した使い魔は、攻撃を術へと移行させた。魔弾が私に襲いかかる。

 その瞬間、私は虹神鍵(こうしんけん)を取りだし、側面に備わったスイッチを押した。虹神鍵はセイヴァーグローブに装填しなくても一部の力を解放可能だ。その力でセイヴァーソード・アルティエンドを創造し、魔弾を全て斬り裂く。


「……例えセイヴァーになれなくたって……独りぼっちだって……私にはみんなとの絆がある!」


 離れていても、私はみんなとの絆を、そして、自分自身を信じてる!アルティエンドの斬撃で使い魔は大きく怯んだ。チャンスを悟り、深く構える。


「そう、身体がただの人間でも……この心は……想いは……!私は、セイヴァーだ!!セイヴァーゴッドフィニッシュ!!」


 神の光が使い魔に炸裂する。生身の身体では出せる威力も限られ、それなりに反動も生じるが、それに持ちこたえ、力一杯出しきったその攻撃は見事使い魔を粉砕した。


「……やった!」


 なんとかやりきれた……。だけどすぐに腰が抜けて崩れる。生身でギョウマとまともにやりあうなんて、成長したとしても恐いよ。


「恐いものは恐いよぉ!」


 一人で騒ぐも、誰もいない。……虚しい。早く帰りたいな。鞘乃ちゃんが恋しい。

 ……なんて考えているのは、私が呑気だからだろう。すぐにこの状況が面倒だということに気づく。誰かが気づいてくれないと帰ることが出来ないのだ。次元移動装置すら持ってないからね。

 たぶんましろちゃん辺りが見つけてくれるだろうからそれほど時間はかからないとは思うけど、誰もいない世界に一人というのは、どうも落ち着かない。


「……でも空は綺麗だな」


 見渡す限りの青い空。これがなかったかつての世界の事を思って見ると、少し気持ちが穏やかになれる気がした。


『のんびり日向ぼっことは、随分余裕じゃないか』


 と、声がして状況は一転。咄嗟に虹神鍵のスイッチを押し、地の属性を解放した。私の身体は硬質化し、その攻撃を防ぐことが出来た。


(痛さはあるけどね。やっぱり生身じゃ無理があるよ)


 そして私を襲ってきたのが……突如現れた白いギョウマ。


「……君かぁ。私が別の世界でギョウマを探していたとき、邪魔してきたよね?」

『私はイヴルだ。以後お見知りおきを。神の力を持つセイヴァー。その節は君の力を実際にこの身で試してみようと思った次第だ。……とてつもなく、勝てる気がしなかったがね』

「じゃあ何の用?」

『勝ちに来た。あの時はまだ邪神の力を使っていなかったからね。それならば君を凌駕出来そうだと踏んだわけさ。ま、それに念には念をという事で、君がセイヴァーになれない瞬間を狙って拐ったというわけさ』


 読み通り、こいつは私の隙を狙ってたわけか。あー、どうして外に出ちゃったかなぁ。けど、お腹すいてたし、マッツで満たしたかったんだよ。それなのに目の前にこいつが現れて……。


「あ、そうだ!君のせいでお昼食べれなかったじゃん!」

『……は?』

「だから!お腹すいてたの!!なんで食べ終わるの待ってくれなかったの!?……思い出したらお腹減ってきた……」


 そう言うとイヴルは腹を抱えて大きく笑いを挙げた。


『おもしろいな、君は。私を前にして余裕があるとは』


 言葉が通じる分、使い魔よりは恐さを感じないからね。それに余裕じゃない!空腹は私にとって脅威だよ!

 だがそんなことは知らないと、イヴルは笑みを浮かべたまま話を続けた。


『そうやって他のギョウマも手懐けてきたのか?あの王や神ですら、君に呑まれていった』

「……手懐けてなんかない。みんなとは友達になったんだ!」


 王とは結局そうなれなかったし、わかりあえなかったギョウマも沢山いる。それでも私を信じてくれたみんながこの世界にいた。だから最後まで戦うことが出来たんだ。


「君とだって出来ることならそうしたい」

『……私は既に多くのギョウマの命を奪っているぞ?』

「ぅ……っ。……だとしても、君が本心からそれを願ってくれるなら私は信じるよ。誰にだってやり直すチャンスがある」

『……クク、さすがは大罪人である王や神を受け入れようとした聖人……正しくセイヴァーの鑑だね』

「私はただ傷つけて、なんでも死で片付けるこの戦いが大嫌いだった。わかりあうことでそれを止めようとしたことは、そんなにおかしい事なのかな?」

『おかしいな。君と友達とやらになったギョウマも含め、非常におかしい』


 イヴルは魔弾を発射した。虹神鍵の力で風の属性を解放し、速度を上げてなんとかかわす。所詮は力の一端でも、車になら追い付くことも出来そうなくらい速く走れる。それでなんとかかわしているけど……相手はそのもっと上をいく能力を持ってる。


『根本からおかしいのさ。私達ギョウマは人を殺める本能を持っている。それはなぜか?殺したいから殺す。シンプルな答えがあるからだ。その本能に従い人間を殺す。それこそがギョウマとしての在り方なのだよ!』


 そんなの間違ってる。だけどどうやって止めれば良い?今の私じゃ戦うどころか、逃げ切ることすら出来そうに――。


「あぁっ……っ!」


 ついに魔弾の一発が私を捉えようとしていた。かわしきれない。ここまでか――そう思ったとき、空間が捻れ、魔弾は飲まれていった。

 そしてその空間の穴から飛び出してきた巨大な身体が、イヴルを吹っ飛ばす。


『ぐああっ!?なんだっ!?』

「……!ビヨンドくん!!」


 なんてベストタイミングで来てくれるんだ。強い意思に反応して動くってカレンちゃんは言ってたけど、最近はもう完全に自分の意思で動いている気すらする。


(それだけビヨンドくんも私達の事を大切に思ってくれてるってことなのかな)


 繋がりが起こす可能性というものを改めて感じた。絆は、わかりあうことは、無意味なことじゃない。


「よし、ビヨンドくん、全速力でよろしくね!」

『……クッ、やはり新庄優希……一筋縄では行かない奴だな……だがっ!そう易々と逃げられると思わないほうがいい!!』


 そう言うとイヴルは巨大な次元の穴を作り出した。そうか、いろんな次元に渡っているということは、奴も次元移動の能力を持ってるってこと……。逃げられない。次元の穴に吸い込まれてしまう。


「くっ……このまま……じゃ……!!」



 ***



 次元移動装置を使い、異世界へたどり着いた私達は優希ちゃんの捜索を行っていた。

 レーダーに優希ちゃんの反応がある。また、ギョウマの反応も。……恐らくはイヴルが接触したか。急がねば。

 しかし行く手を阻むは使い魔の軍勢。やはり私が生き延びる可能性も考えていたらしい。

 だが私は戦わない。いや、戦えない。只でさえ重傷だった身体を無理矢理動かしたのだ。今の私では足手まといにしかならない。

 だからこそ治癒の鍵で傷を回復している最中だ。その間はセイヴァーサンシャインの葉月ちゃんに使い魔を倒してもらっている。


 セイヴァーサンシャインは凄まじい力で使い魔を圧倒する。もはや並のギョウマクラスならば軽々しく消し去れるほどの能力を持っているようだ。


「さすがは彼女の絆の集大成ってところかしらね……」


 そう呟くと、れいちゃんがまたか……とつまらなさそうに私を見てきた。


「……絆。絆絆絆……わからない。私はそんなの持ったことがない」


 そういえばれいちゃんは人付き合いが苦手と言っていた。彼女も友達というものを知らなかったのかも。

 れいちゃんは苦しそうな表情で私に尋ねた。


「なんなの絆って……そんなに、大切なこと……?」


 彼女の心は再び揺らいでいる。今なら導けるかもしれない。真剣に言葉を繋がねば。


「……大切なことよ。少なくとも私はそう思う。誰かとの繋がりが、人を変えてくれる大切なことだって」

「……でも、貴女に何か変えれるほどの力があるとは、思えない……」

「うぐっ……!」


 くっ……中々酷い言われようね!でも確かにれいちゃんから見た私はそういう印象なのかもだし、実際私は、自分に自信というものを持てない性分だ。れいちゃんのようにズバッと言ってくるタイプには、正直、傷つけられるがままって感じ。

 そこを突かれたのは痛い。しかし、そこに葉月ちゃんから、グローブを通じて言葉があった。


『そんな事はないですよ。鞘乃ちゃんは少なくとも短期間で人を変えました』

「……誰の話?」

『私です。私のこの力は、確かに皆との絆で目覚めさせたもの……。だけどそれが起きたキッカケは、鞘乃ちゃんなのです』

「へ?私……?」

『えぇ。優希ちゃんを助けたい一心で、ボロボロの傷を気にせずに貴女は使い魔に立ち向かった。その姿に私も動かされたんです』


 葉月ちゃんの絆を束ねる鍵は私だった……。進化の鍵を壊し、使い魔にすら勝てないほど弱ってしまった私でも、彼女の心を動かすことが出来たのだ。

 そう、力が無ければ何も守れないのではない。誰かを想う意志が、人を強くするのだ。その事は、今も、そしてかつての戦いでも、強く感じている。


 そして葉月ちゃんはもう一人の名前を挙げる。


『れいちゃん。貴女もそうでしょう?』

「わ、たし……?」

『こっちに来る前の会話で確信を得ましたが、貴女はこの世界に絶望している』

「……そうよ。その通りよ」


 れいちゃんは相変わらず無表情だが、うつむき顔に影が濃くなったことで落ち込んでいるように見える。実際、そうなのだろう。

 しかし葉月ちゃんはそんな彼女の言葉を否定した。


『……してませんね。貴女は私達の絆について尋ねた。知りたいと思った。……貴女はこう思ったんじゃないんですか?それを持てば、自分も変われるかもしれないと』

「な――!?」


 れいちゃんは思わず立ち上がって表情を露にした。ここまで大きく感情を露にする事はそう無かった。それが意味することは……。


「違う!!私は……そんなんじゃない……!ただ、興味本意で……っ!」

「違わないわ」

「……!?」

「それを尋ねたときの貴女の表情は、苦しそうだった。貴女も少しづつ、わかりあうことに憧れを抱き始めているんじゃないかしら」

「……ちが……っ。ち、ちがう……っ」


 彼女は拒絶する。何故?どうしてそこまでして自分の気持ちを隠そうとする?それを知るためには、言葉と言葉でぶつかりあうしかないだろう。今の彼女は好都合だ。なんせ今にもその感情を爆発させようとしているのだから。


「……うるさいんだよ……!私は!!そんな――!!」


 しかしその寸前――異変が起こった。


 ズドドドドドンッ!大きな爆発音が鳴り響いた。

 突然、敵の攻撃が勢いを増したのだ。これは一体――?


「何があったの葉月ちゃん!?」

『……敵がまたパワーアップしたみたいです』

「……っ!?」


 使い魔の軍勢が融合し、更に強大なパワーアップを遂げたと言うのか。視認できたそいつらは……巨大で、一体一体が天使に近いレベルに達する力を持っていた。


『でもご安心を。私のこの力なら!』


 セイヴァーサンシャインの周囲に振り撒く熱戦が、一気に多くの使い魔にダメージを与え、焼き付くしていく。

 ただなにか様子が変だ。葉月ちゃんの光が少しづつ弱まっていっている。


「……!デメリット……!!」


 負担が大きすぎる力だ。それを放出し続けるのは、彼女の身体にも大きなダメージとなって降りかかる。


「ダメ!葉月ちゃん、それ以上の無茶は!」

『……でもっ』

「とにかく後退して!」


 声を荒らげると葉月ちゃんは攻撃を中断し、戻ってきてくれた。

 しかし同時にセイヴァーの状態を解かれる。かなりの負担が伺えた。


「ぐっ……私の力では、やはりこの程度しか……っ!」

「十分よ!葉月ちゃんは良くやってくれた。だからもうこれ以上はダメ!本当に死ぬわよ!」

「……っ!」


 そう、セイヴァーサンシャインは、鍵の本来の使い方で生まれたものではない。


 鍵の力というのは言わば『契約』に近い。

 一対一……使用者とそれを支える者の絆が重なることで効果を発揮する。しかし葉月ちゃんの力は、その場にいないものや、まだ仲良くもなっていないれいちゃんという存在への想いも注ぎ込んでしまったもの。

 葉月ちゃんのみんなに対する想いは本物だ。その証拠がサンシャインのとてつもない力。だけどそれを支える力が弱すぎる。絆の力を正しく一人で背負った状態と言ってもいい。不安定な状態なのだ。

 セイヴァーツヴァイやゴッドのように、キチンと手順を踏まずに多くの想いを鍵に注ぐのは危険だということ。ここで取れる手は一つ。


「……一旦引きましょう」

「……!良いんですか……!?優希ちゃんはきっと待ってるんですよ……?」

「ぅ……っ」

「鞘乃ちゃんはそれが本当に正しい選択だと?」

「……思ってる」

「……!」

「葉月ちゃんに死んでほしくない。それにそうなってしまえば、それこそ優希ちゃんは哀しむ。私には貴女を行かせる選択は、出来ない……」


 正直に言うと、嫌だ。これ以上の時間のロスは、本当に優希ちゃんを見捨てることになる。だけど仕方がない事なのだ。

 この状況でれいちゃんは笑い声を挙げていた。狂ったようにだけどどこか悲しげな表情で。


「だから言ったのよ。……貴女は何も変えられない。そして力を使ったらこの様……絆なんて持つだけ自分を苦しめるだけなのよ!」


 言い返す言葉が出てこない。私達はもうここで、止まってしまうのだから……。

 そうして諦めかけていたその時だった。


「まーだ終わりじゃねえ!!」


 灼熱の炎が使い魔に炸裂し、金と黒の剣が使い魔を切り裂いていく。

 視線を上げると私達の前には彩音ちゃん、ましろちゃん、先生、バーナ、フラッシュが立っていた。

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