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前進への共振

 ――異世界。私は今、過去最大の危機を迎えている。


 私は野原を走っていた。異世界は、青空を取り戻した事によって少しずつ普通の世界へと近づいてきていた。今では生き物も生息しているようだ。

 そんな平和な世界ではあるが、私の形相は必死で、ひたすら走ってる。


 私は今、セイヴァーになることが出来ない。


 グローブをましろちゃんに預けてきた。グローブのメンテナンスがしたいのだと、以前から言われていたのでようやく渡したのだが……よりによってそのタイミングで敵に出くわした。

 いや、恐らくは私がグローブを外すタイミングを狙っていたのだろう。

 ギョウマとも少し違う存在――それを産み出した白いギョウマは、使い魔とか言ってたっけ。この世界に飛ばされてから、それから逃げてる。

 セイヴァーになれない私じゃ、どうしても敵いようがない。


「助けて……」



 ***



『鞘乃ちゃん』

「!優希ちゃん……?」


 幻聴か、彼女の声が聴こえた気がした。

 今の彼女は戦う力も無ければ、仲間という存在もいない。孤独。彼女は誰かを守るためにならどんな相手にでも立ち向かう勇気を持っている。……セイヴァーになれないとしてもだ。それは無鉄砲とも言えるが、実際、彼女の勇気には幾度も救われている。


 しかし、一人なら話は別だ。きっと彼女は今、恐くて堪らないはずだ。


「とは言え……手負いの私一人でコイツらを相手にするのは……っ!」


 目の前には残すところ二体の進化態使い魔。

 蒼龍と、私自身の力でなんとか二体は撃破出来たが、蒼龍は力の消費が大きい。今の状態で維持することは出来なかった。

 今私は、防戦一方だ。消費の少ない鍵でなんとか持ちこたえているが、追い詰められている。

 何より、チンタラしてる暇もない。どうすれば……。


 その時――ズドドドドドドドドッ!銃声が鳴り響き、使い魔達の視線は一点に向けられた。私もそれを視認する。


「葉月ちゃん……!」


 どうやら事態に気づいて駆けつけてくれたようだ。

 手には以前からギョウマとの戦闘のサポートの際に使っていたマシンガンが握られている。その援護射撃があれば、奴等にも隙が出来るかも。


「よし、葉月ちゃん、サポートよろし……」


 と、希望を抱いたところで何故か葉月ちゃんはマシンガンを地面に落とした。


「え、ちょっと……何のつもり……?」

「こういうつもりですよ」


 ご心配なくと言わんばかりの笑みで彼女はそれを取り出した。


「!優希ちゃんのグローブ……!」

「訳あってましろちゃんが預かってたのです。……どうやらそれが原因でまずいことになってるようですね。でもましろちゃんの用事も済んでいたので、優希ちゃんに返しに行こうかと」


 葉月ちゃんは表情を険しくして使い魔を見た。


「……その前に邪魔者を倒す必要がありそうですので」


 葉月ちゃんはグローブを左手にしっかり嵌め込んだ。

 ……なんということだ。優希ちゃんがセイヴァーになれない理由はこれほど至ってシンプルな理由だったとは。


 しかし起こってしまった事を後悔しても仕方がない。今は一刻も早く、目の前の敵を倒して優希ちゃんを助けにいく!


「鞘乃ちゃん、共に戦いましょう」

「えぇ。よろしく頼むわ!」


 葉月ちゃんはグローブを起動し、セイヴァーへと姿を変えた。これで二対二。勝機はぐんと上がった。今は私と葉月ちゃんでダブルセイヴァーだ。


 使い魔達が駆け出してきたのと同時に葉月ちゃんはセイヴァーマシンガンを創造、私は鍵装砲で、それぞれ敵の動きを牽制。その隙に葉月ちゃんの能力で草を操り敵を縛り付ける。私は希望の鍵を鍵装砲に装填し、救世主の力を一気にチャージする。


「イヴルから産み出された存在ならば対魔の力を持つこの鍵が効くはず!」

「存分に浴びせてやりましょう!私もお手伝いします!」


 セイヴァーマシンガンを乱射し、更に使い魔達を弱らせる葉月ちゃん。よし、ここで鍵装砲の一撃をかませば粉砕できる!


「いけ……!」


 ズドォオッ……その一撃は二体の使い魔を撃ち抜き爆散させた……。


「……いや、違う!まだ奴らの気配は消えてない!」


 いや、厳密に言えば、『奴』の気配だ。一体だけ。……もう一体は破壊することに成功したのか?

 ともかく、爆煙に敵は姿を眩ませている。油断はできない。

 そうして身構えていると、突然巨大な腕が私を吹っ飛ばした。


「あぐっ……!?」

「鞘乃ちゃん!!大丈夫ですか!?」

「うぅ……っ!ぐ……平気……それよりも、一体何が……?」


 尋常じゃなう速度、そして威力だった。先程までの使い魔じゃない。希望の鍵の一撃を喰らっておきながら、何故にそんな事が可能だというのか。

 困惑しているとそいつは姿を現した。先程よりも巨大化し、戦闘能力をパワーアップさせた使い魔が……。


「……?どうやってこんなパワーアップを……!?」

「身長二倍ですね。合体したのでは?」

「……なるほど。確かにそうかもね、なんの捻りもないけれど」


 攻撃を喰らう寸前で二体の使い魔が融合したのか。そういえばそもそも奴らは通常の使い魔が融合して誕生した進化態の使い魔だ。数がある限り、どんどん融合して進化する事が可能なのかも。


「なんにせよ不味いわね。こんな時クロニクルの力を使えれば……いえ、せめて万全の状態なら太刀打ち出来たのだけれど……」

「弱気になっていては勝てません。こんな時こそ笑顔、ですよ」

「ふふっ、そうね」


 そうだ、状況が悪かろうと、葉月ちゃんが付いていてくれる。二人でこの状況をなんとか打破するんだ。


 葉月ちゃんは草の力で様々な攻撃を開始。葉を刃にして飛ばす攻撃、蔦の鞭で打つ攻撃……どれもあまり効果は無いようだが、その間に私は敵の後ろへ回り込む事へ成功した。


「でかくなって足元がお留守って奴よ!」


 変剣の鍵でセイヴァーソード改を、いくつもの節を持って伸びる伸剣に変化させた。それを敵の足へ巻き付け、勢いよく引っ張る。バナナの皮で滑ったかのようにずっこけさせてやった。


「今よ葉月ちゃん!」

「了解です!」


 地面から成長させた蔦が敵を地面に縛り付ける。倒れた状態でだから完全に地面に磔だ。


「今の間にとどめを」

「オッケー。二人で一気にいきましょ!」


 セイヴァーマシンガンと鍵装砲で必殺の一撃を放つ。使い魔は爆風に包まれていった。


「……一件落着ですね」

「こいつらはね。……けど、それどころじゃないわ」


 そう。早く優希ちゃんを助けにいかなくちゃ。


「優希ちゃんをもし失うなんて事があれば……後悔なんてレベルじゃ済まない」

「……それが、鞘乃ちゃんの戦ってきた理由ですものね」

「えぇ。だからこそ守る。……そうね、私が、戦ってきた理由だから……」


 そうだ。答えはとっくに出ていたんだ。私は優希ちゃんの模造品なんかじゃない。もっとも私が私として戦いに望んでいた理由は……優希ちゃんを守りたいからという、他でもない自分の気持ちがあったからだ。


(そうね、難しく考える必要はなかった。私はただ、私がこれまで歩んできた事を続ければ良かったのよ。……そしてきっと、れいちゃんにもわかってもらえるはず)


 その為にも急ごう。次元移動の装置を起動しようとした。

 だがれいちゃんの様子が変だ。顔が青ざめている。……まださっきの私の行動にドン引きしてるのかしら。


「……れいちゃん。もう済んだことなんだから、そろそろ機嫌を直してくれても……」

「……ち、がう……!あれ……!」

「え……?」


 次の瞬間、何かが私に接近していた。


「鞘乃ちゃん危ない!!」


 葉月ちゃんが私を庇ってくれた。しかしそのせいで葉月ちゃんが、引きずりこまれた……生きていた、使い魔の巨大な拳に。


「……そんな!二人の全力でも勝てなかったっていうの……?」


 それよりも大変だ。葉月ちゃんが奴の巨大な拳に全身丸ごと握りしめられている。助けなきゃ。でも一人で?太刀打ちできないのに?それにこうしているうちにも優希ちゃんが……。


「考えろ。考えろ……どうすればいい?私はどうしたら……」

「お……ちついて……っ!鞘乃ちゃん、心を乱せば……それこそっ……あぐっ……!!」


 締め上げられる葉月ちゃん。そしてもう片方の腕の攻撃を受ける私。

 絶体絶命だ。私は……もうボロボロで……。


「だけど……っ!!」


 私は攻撃を開始した。今出来ることはこれしかない。超化の鍵を使い、敵の動きに食らいつく。吹っ飛ばされようが再び立ち上がり攻撃を再開する。

 それを見てれいちゃんがまた、信じられないというように声をあげた。


「そんな事……無駄……。逃げなきゃ……死ぬわ……!」

「そうかもしれない!でも葉月ちゃんを置いていけない!そしてこいつを倒さなきゃ、優希ちゃんの元へ迎えない!」

「……無理よ。相手が悪すぎる。貴女は本領を発揮できないんだし……それなら少しでも生き延びる事を……」

「諦めたくない!!」

「……っ!?……やっぱり、頭、おかしい。やりたいやりたくないじゃない。無理なの……!やめなきゃ、逃げなきゃ死ぬ!」


 そうしてれいちゃんは頭を抱えてしゃがみこんだ。

 人々がギョウマに惨殺された事がフラッシュバックしているのかもしれない。

 ……そうだ。彼女だって、ギョウマの脅威はよく知っている。そして実際、逃げることしか出来なかったのだろう。いや、それが当然なのだ。立ち向かうなんて、きっと簡単には出来ないことなんだ。


(だけど優希ちゃんは……!)


 彼女は、私を助けに来てくれた。力もない。ギョウマの事だって何も理解しちゃいない。それなのに彼女は、立ち向かった。その結果、今も私の命はある。


(出逢って一日だけしか経っていない私の為に……あの娘は……!)


 守りたいと思ってくれた。今の私もそれなんだ。いや、共に歩む時間のなかでもっともっとその気持ちは大きくなった。


「私は……諦めたくない!!無理でも不可能でも!知ったことじゃない!!それが私達の歩んできた道だ!!」


 その想いが救世主の力を呼び覚ます。使い魔を大きく仰け反らせる一撃へと進化させる。


 ――瞬間、葉月ちゃんの身体が緑色の閃光に包まれた。


「……っ!?この光は……!」

「――そうですね鞘乃ちゃん。みんながお互いを大切に想っていたから……絆があったから、私達は不可能を越えてきた。私も守りたいです。優希ちゃんを……そして、彼女を守ろうとする貴女を!」


 緑色の閃光が弾け、使い魔を吹き飛ばす。そして立つ葉月ちゃんの手の中には……覚醒した緑色の鍵が輝いていた。

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