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到達への覚醒

 進化の鍵のエネルギーが尽き、鞘乃の敗北で戦いが終わる……はずだった。


『ナンダ……!?一体何ガ起コッテイルトイウノダ!?』


 その出来事に、イヴルは戦慄する。


「……みんなが生きるこの世界。お前には渡さない……!」


 莫大な輝きの中で、鞘乃は再びその姿に覚醒した。ネオセイヴァー最強の形態・ネオセイヴァークロニクルへ。

 既に始まりの救世主の力は尽きていた。それゆえに、鞘乃にはもう、その姿になる術は残されていなかったはずだった――それまでの、鞘乃には。

 先ほど鞘乃は、通常形態でイヴルの魔弾を全て欠き消して見せた。いくらイヴルが本気でない魔弾を打ち出していたとしても、通常形態ならば簡単に吹っ飛ばされる。

 この状況に至った理由を、カレンは見抜いていた。


「進化の鍵に再び力が宿ったのではない。あれは、あやつ自身の力で再び進化の鍵に救世主の力を注ぎ込んだのだ」


 ましろはそれは不可能なはずだと異論を唱えた。


「あの鍵は通常の救世主の力を注ぎ込むだけでは動かないものなのです」


 そう、不可能なはずだ。だが、カレンと同じく、理由を見抜いていた優希は驚いて笑みを浮かべた。


「さすがだね。やっぱり……凄いよ、鞘乃ちゃんは……!」


 訳がわからないという風にする他の面々にカレンは言った。イヴルの攻撃を通常形態でくぐり抜けた理由を。進化の鍵を起動させられた理由を。


「あやつ……とうとう自力で登り詰めよった。始まりの救世主の域へ……」


 これまでも力は使ってきた。だが、それはあくまでもカレンからの借り物の光。鞘乃はそれを自身の力で呼び覚ましたのだ。


『馬鹿ナ……!自力デ領域ヲ超エタトイウノカ……ッ!』

「私自身驚いている。……けれど、不可能な話じゃないとも言える。何故ならかつての始まりの救世主は、人々の想いあう心が生み出した光なのだから」


 鞘乃は思い返す。

 自分を信じて共に戦ってくれた仲間の事。自分にしか出来ない事があると教えてくれていた人がいた事。自分が心から信じて助けたいと願った大切な人の事。そして、自分とぶつかり絆を分かち合うことが出来た存在の事を。


「私の周りには、強い強い想いが溢れている。その想いを繋いで進化する!それが今の私……」


 何度馬鹿にされたって、何度突き放されたって、何度否定されたって、何度絶望に曝されたって。それで終わりじゃない。想いを信じて、諦めない限り、再び輝ける。


「そしてその力で新しい明日へ進む。お前という絶望を乗り越えた先に待つ、その先……私達の新しい『始まり』。それを切り拓く救世主よ!」


 新たなる『始まり』の救世主へと進化した鞘乃。その莫大な力に、イヴルは戦慄した。そして同時に、大きく牙を剥いた。


『黙レ……ッ!黙レ黙レ黙レッ!!!認メン……認メンゾ……ッ!!想イトイウ戯レ言ガ生ンダ力ナド!!!』


 イヴルは拒絶する。そうしなければ、益々意味がなくなる。否定される。心を捨て去り世界を変えようとした己自身が。だからこそイヴルは、鞘乃の進化を否定する。そして滅ぼそうとする。だが、鞘乃は向かってくるイヴルに対して冷静に対処した。


「セイヴキャリバー……!」


 いや、冷静なようでその斬撃には鞘乃の秘めたる情熱の炎が込められていた。セイヴキャリバーにより繰り出される重い一撃が、イヴルを吹き飛ばす。


 その光景に、チームセイヴァー全員に力を与える。


「あいつにばかり良いところを取られるわけにゃいかねえな!」

「ましろ達も一気にやっちゃうですよ!」


 彩音はセイヴァービートを創造し、その拳に力を一点集中させた。

 続いたましろはセイヴァークローと魔爪刃――ましろと操、二人の力を融合させ、セイヴァークロー・エタニティを創造した。操との途切れない絆を宿した必殺の一撃を繰り出す。


「ならば我々もいきましょう!」

「あぁ。たたっ斬るぞ、この呪われし過去を!」


 葉月はセイヴァーマシンガンを呼び出し、太陽の属性をその銃口一つ一つに集める。

 その横でカレンは金と黒、両方の刀に力を注いでいく。


『俺達モ続クゾ!』

『アァ』

『私達に出来る事を成し遂げるときだ……!』


 ノヴァ、バーナ、フラッシュの三体は力を重ねて巨大な閃光を放出する。


「いくぜ!ヘヴィメタルシャウトォッ!」


 彩音の一直線に響く一撃が!


「『アナザーツヴァイ・ディザスター!』」


 ましろと操の絆の刃が!


「ぶち抜きます!サンシャインブレイザー!」


 葉月の照らし出す乱砲が!


「友よ、力を貸してくれ……陽炎月華(ようえんげっか)!」


 カレンの友を想う心が!


『『『これが我々の光だ!』』』


 三体のギョウマの繋いだ閃光が……!


 それぞれの想いを込めた一撃が、使い魔を粉砕する。これこそが彼女達が戦いのなかで辿り着いた絆の一撃。彼女達が歩んできた道だ。


 残された僅かな使い魔は合体し、抵抗を見せようとした。だが、それを阻止する一閃。

 れいの黒い鎌が、合体使い魔を怯ませる。その隙に、優希の神の力による重力操作が行われ、使い魔は地面に磔になった。

 そこへ必殺の一撃が叩き込まれる。


「よーし!行くよ!セイヴァーゴッドフィニッシュ!」

「えっ!わ、私……も……?……せ、セイヴァー……鎌斬り!!」


 虹色の神の一閃と、最後の黒き刃が使い魔にとどめをさした。と、すぐにれいのネーミングセンスに突っ込みが入る。


「お前……流石に鎌斬りはねえだろ」

「可愛らしくて良いじゃないですか、ぷふふ……」


 そういう葉月が一番馬鹿にしているように見えるが。

 恥ずかしそうにするれいに首をかしげ、優希は彼女の手を握ってこう言った。


「え?とってもカッコよかったよ、れいちゃん!私ちょっとドキッとしちゃったかも!」


 ……悪意の無いのが一番堪えたりする。れいは恥ずかしさのあまり爆発しそうだった。


 ところで今は戦いの最中なのだが。

 彼女達が余裕を持って笑っているのも、既に鞘乃の勝利を確信しているからだった。


「それじゃ、後は任せたよ、鞘乃ちゃん!」



 ***



 始まりの救世主に覚醒した私は、イヴルを圧倒していた。

 確かに、力だけならば邪神には遥かに及ばない。だが、力の質が一段階上がった今、ギョウマの力しか持たない奴にとって私は天敵中の天敵と化しているわけだ。そしてこの力に覚醒した理由――想いが、心が、セイヴァーの最大の武器。今の私の心に溢れる想いが、邪神ごときに負けるはずがない。


 私は紅の鍵をセイヴキャリバーのスロットに装填する。すると紅蓮の剣が創造された。


「ハートフレア・ブレード!」


 ネオセイヴァーハートフレアの状態で私はセイヴァーソード改の鞘を炎の剣に変え、二刀流で戦っていたが、あくまでもあれは能力で剣を増やしたにすぎない。

 つまり、セイヴァーが形態変化によって新たな武器を創造可能になるという機能は、まだ使っていないのだ。


 このハートフレア・ブレードはその機能で創造した新たなる武器だ。セイヴキャリバーに紅の鍵を装填する事で鍵の力を引き出し、ハートフレアの能力、武器を、ネオセイヴァークロニクルの状態で使用可能とする事が出来る。


 私はセイヴキャリバーとハートフレア・ブレードの二刀でイヴルを追い詰める。二つの剣の乱撃に加え、ハートフレアの持つ想いの力を高める能力が、イヴルに強大なダメージとなって襲いかかる。

 イヴルはもはや虫の息だ。だが、イヴルは都合良く笑みを浮かべていた。


『ふ、ふふ……勝ったつもり、ですかな……?だが、本望だ。忘れましたか?私の本来の目的は、貴女方の手によって消されること。しかも貴女はこの戦いの中で始まりの救世主に覚醒めた……私の計画以上の事が起こってくれた!何の悔いもなく死ねる。感謝していますよ!!』


 そう、都合の良すぎる理由を作って、奴は笑った。

 何が救世主を崇拝しているだ。何が自分の理想とする救世主が世界に必要だ。何が心を捨てるだ。

 奴の言ってることには一貫性がない。それこそ、自分の都合の良いように屁理屈を並べ、自分の思い通りに事が済んだのだと納得しようとしている。


 このまま奴が笑ったまま決着をつけるのは癪だ。しかし、倒さねば、世界が危険だ。こいつはノヴァのように言葉の通じる相手ではない。下手に生かせばまた何か良からぬ事を起こすはず。


 そう悩んでいたが、そこでお姉ちゃんに言われた言葉が頭をよぎった。

 お姉ちゃんは言った。私にしか出来ないことがあると。そして、その言葉が、私に何をすべきかを教えてくれた。


(……やることは、一つ、ね)


 そう、わかったのだ。すべてが繋がった。私が持つ力が何故これらなのか。それはきっと、この瞬間のためにあったのだと、私は感じた。


 ハートフレア・ブレードには鍵を装填する為のスロットが備わってある。そこへ紫の鍵を装填する。これで今の私は始まりの救世主の力・ネオセイヴァーハートフレアの力・ネオセイヴァーディメンションの力、全てを纏っている状態になる。


『全能力解放の全力の一撃で私を消しに来ますか……ククク!面白い!さぁ来い!私という悪意を消し去り、世界を救ってくれ!セイヴァー!!』


 ケタケタと狂気染みた笑い声を挙げる。私は構わず二刀の剣を振り下ろした。


「ネオセイヴァー・エンドオール!!」


 三つの力を宿した剣が、ついに邪神を打ち砕いた。この長きに渡った延長戦も結末を迎える。私が出した答えは――。






『……何の……つもりだ……?』


 私は、イヴルを生かした。完全に命を奪うことはしなかった。

 そう、かつて優希ちゃんがノヴァを救ったように。……当然、イヴルは納得しないはずだ。実際、私に向かって攻撃を繰り出そうと駆け抜けてくる。


『貴様……私をあの脆弱な元神と同じだと思っているのか!?私はイヴル。私はギョウマ!!人間と分かりあう意思など持たぬ!!』


 と、勢いよく突きだしてきた拳を、私は、軽く小突き返す。するとイヴルは勢いよく吹っ飛んでいった。立ち上がろうにも、身体を上手く動かす事すら儘ならないようだ。


『……?一体何をした?あの程度の攻撃で私がこれほどのダメージを受けるはずが……』


 そして奴は自分の身体の異変に気づき始める。


『……馬鹿な……力が……ッ!?私の力が、失われているというのか……ッ!?』


 私はとどめはささなかった。だが、ある意味とどめをさしたも同然の事。

 生かした。ただそれだけ。むしろ死ぬよりも辛い地獄を奴に背負わせてやった。


 奴の持つ邪神の力は他のギョウマから奪った力を組み合わせて造った後天的なモノだ。元々奴に備わっていたモノではなかった。ゆえにそれを奴の体外へ弾き出すのは簡単だった。

 ハートフレアの対魔の力で邪神の力と反発させ、体外へ出たそれをディメンションの力でどこか彼方の次元へ消し去った。


 要するに奴は本来のギョウマの力しか使えない状態になってしまったということ。ただのギョウマでは私達には到底逆らえない。


「『お前を殺さずに』世界を救わせてもらったわ。これが私の答えよ」

『そ、そんな馬鹿な……ふざけるな……ッ!こんな……ッ!こんな……ッ!!!』


 怒りで真っ赤に燃え上がるイヴルに、ノヴァが軽く小突いた。結果は言うまでもない。


『諦めろ、これが現実だ。お前はもう邪神ではない。一つの命として罪を償っていくのだ。私がもう神ではないようにね』


 そう言い終えるとノヴァは笑みを浮かべていた。


『さて、散々虐めてくれたな?これからどういう仕打ちを重ねてやることにするか……!』

『な……ッ!や、やめろ!それが正義の味方のする事か!?』

『正義の味方なら他に適任な奴らがいる』


 ノヴァは私達を見つめて優しく笑みを浮かべた。そしてまたイヴルに視線を向け、再び小突き始めた。


『お前の性根はこれから私が正してやる』

『た、助け……ッ!!ヒィイイイッ!!』


 そんな先程までとはうってかわって微笑ましい光景を見て、私達は笑みを浮かべていた。


「……ふぃ~やーーっと、終わったんだな」

「優希ちゃんの奪還も無事成功しましたし」

「いやぁ、心配を御掛けしました!」

「気にすることはないわ優希ちゃん。全部アイツのせいなんだから。ノヴァにとことんしごいといてもらいましょう」

「相変わらず優希さんの事には怖いですねぇ、鞘乃さんは」

「そんな奴が私を完全に越える日が来ようとは……全く恐ろしいものよ」


 ようやく戻った私達の日常。そして――。


 私達の後ろで、一人俯き考える少女が、一人……。


「……正義の、味方。セイヴァー……。私は……」


 私達は手を差し伸べた。


「今ならなってくれるわよね?友達」


 れいちゃんは笑顔を浮かべた。


「……うん!」


 繋がる私達の新しい絆。こうして一つの大きな戦いは、幕を下ろした。


 そして始まる、私達の新しい日々。

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