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虹色の救世陣

 ――ついに邪神との最終決戦へと意気込む私達。優希ちゃんがこの局面で呼び起こした奇跡は、繋がれてきた私達の絆の結晶・セイヴァーグローブをみんなの数だけ増やした。


「みんなで、って。ははっ、物理的な意味すぎねえか」

「でもこれなら、確かにみんなセイヴァーになって戦えますね!」

「へへ、上手くいって良かったよー!」


 奇跡の属性というのはあやふやなモノだ。いくら神の力を得たとはいえ、こんな事が出来たのも正しく奇跡的な事なのだろう。

 みんなの想いが一つになったこの状況だからこそ、救世主の力がこの奇跡を呼び起こしたのかもしれない。


(……想いが一つに、か)


 れいちゃんには、本当に私の想いが通じただろうか。

 そんな不安が胸に抱きながら彼女の方を見る。彼女は自分の前に差し出されたグローブを見て戸惑っていた。


「救世主の、光。……私に、受けとる資格は」


 それを見て優希ちゃんは言った。


「あるよ。だからこそ、君の前にもそれが現れたんだ。今のれいちゃんなら、正しい心で戦えるって認められたんだよ」

「……正しい、心。……私が……?」


 彩音ちゃんとましろちゃんも頷いた。


「そうだぜ、きっと」

「まぁそもそも間違った心じゃ使えないシステムですけどもね」

「オイ水を差すな。んな理屈よりもそう信じた方が良いじゃねえか」

「理屈は大切ですよ!!彩音さんは屁理屈ばかりですけどもね!!」

「あぁ!?」


 そしてぶつかり合う二人にみんなが呆れ笑いを浮かべて。

 だけどれいちゃんはやはり悩み続けている。自分のやって来たことが間違っていたと、感じているからだろうか。

 優希ちゃんはそれを見て微笑んだ。そして私に視線を移した。


「鞘乃ちゃんだって、そう思うよね?」


 私は優希ちゃんの言葉に視線で返事した。私はそのままれいちゃんに尋ねた。


「ふさぎこんでいても何も変わらない。……れいちゃん、貴女が今やりたいことは?」

「……わた、しは……変わり、たい……変わりたい!このまま自分の不幸を呪い続ける生き方から抜け出したい!」

「だったらやることはひとつね」


 れいちゃんの心は確かに変わった。私達の想いが彼女に届いたのだと、実感した。

 だからこそ、不安そうに佇む彼女にこう言った。


「貴女は貴女の事だけ信じていればいい。大丈夫。貴女が挫けそうになったら、私達が支えるから」


 自分の心を信じること。そう出来たとき私は変われた。

 それを彼女に伝えていたからこそ、私の言葉をしっかりと受け止め、彼女は大きく頷いた。


 彼女は掴んだ。自分に与えられた、光の力。救世主の輝きを――。




 そして私達とイヴルの最後の戦いが始まろうとしていた。


 並び立つ私達の前に強大な力を解放した邪神・イヴルが世界を終末へと陥れようとしている。


「あの方、これまで本気を出さずにノヴァさんやカレンちゃんを圧倒していたのですね。……ってどれだけ強いのって話ですよね」

「奴が力を蓄えておったのは我々がノヴァを倒してからの事だと思っていたが、実際は我が友を殺害してからこれまでずっとだったわけだ。そりゃあこれほど途方もない力にもなるだろう。……こやつ本当に死ぬことを望んでおるのかね」


 カレンちゃんの呟きにイヴルはこう返した。


『言ったはずです。私は私の認める救世主にしか殺されることは望まない。貴女方が私という悪意を潰せたというならば、喜んで死を受け入れましょう』


 全く面倒なやつだ。救世主に対しての拘りが強すぎる。「ぼくが考えた最強の救世主」が見たいなら自分の妄想で勝手に終わらせて欲しいものだ。


 そんな奴に対しても真剣に悩む優希ちゃんは、奴でなくても救世主の鑑だ、とは思うが。


「……本当にこのまま倒すだけで良いのかな」

「奴は自分で死を望んでるとは言え、やってることは世界の滅亡よ。潰さなきゃ私達の世界が終わる。やるしかないじゃない」

「それはわかってる。けど、このまま倒してしまっても、ただアイツの思うままっていうか……。こんなことのために消されてしまったギョウマや、カレンちゃんの友達が、なんだか浮かばれないような気がして……」


 なるほど。奴に対して慈悲を持つ必要は今更ないが、このままでは確かに奴の思うまま。私達からすればどっちにしたってスッキリしない終わり方だ。


 だとしても、私達に出来ることは一つしかない。


「奴自身が言っていたこと……邪神という悪意を倒せばこの延長戦も終わる。私達は日常に戻れる。世界は今度こそ平和を取り戻すんだよ。だから……戦わなきゃ。それが出来ない人達の分も、出来なかった人達の分も。それこそが、私達(セイヴァー)じゃない」

「……そうだね。行こう!」


 私達は一斉にグローブを構え、セイヴァーへと変化した。

 救世主の光は無事れいちゃんをセイヴァーへと変化させる。そのセイヴァーは黒き姿をしていた。彼女の抱えてきた闇を光として纏っているかのように見える。


「なれた……!セイヴァー……これが……!」


 れいちゃんが掴んだ力。これまで世界を呪い続けた彼女が世界を救う救世主になったのだ。私はその喜びに微笑んだ。れいちゃんもそれを見て、笑った。そんな気がした。




 そして私はましろちゃんから手渡される。……修復された進化の鍵だ。


「急拵えなんでエネルギーがいつまで持つかわからないです。そこだけは気を付けてくださいです」

「わかったわ、ありがとう」

「どうやらこれで完全に準備完了って訳だな。……そんじゃっ、いくぜぇ!」


 彩音ちゃんは黄色の鍵をグローブのスロットに装填する。


「おっと!遅れは取らないですよ!」

「ふふ、戦う相手が違いますよ」


 ましろちゃんは重装鍵を、葉月ちゃんは緑色の鍵を。


「全力の力で行くよ!」

「えぇ!これが私達の本当の力!!見せてやるわ!イヴル!!」


 優希ちゃんは虹神鍵を、私は進化の鍵を、スロットに入れて起動。


 セイヴァーヘヴィメタル、セイヴァーツヴァイ・アナザー、セイヴァーサンシャイン、セイヴァーゴッド、そして私はネオセイヴァークロニクルへと変化。みんなそれぞれが持てる最大戦力で、イヴルに立ち向かう!


「みんな行くよ。チームセイヴァー……レインボーフォーメーション!!」


 優希ちゃんの掛け声と共に、私達は一斉に走り出した。


「先手必勝だ!!セイヴァーサウンダー!!」


 創造した武器から音の弾丸を放ちつつ近づく彩音ちゃん。そのまま両腕の拳でラッシュを放つ。

 だがイヴルもただ喰らい続けているわけではない。攻撃を弾き、反撃の閃光を放つ。


「やべっ……!」

「へへん、そうはいかないですよ!」


 彩音ちゃんの危機をましろちゃんが救った。そのまま重装鍵に『savior:masoujin』のコードを入れ、左手に魔爪刃を装着、そこから放たれる斬撃をイヴルに浴びせる。


「ただ突っ込むだけって馬鹿ですか貴女。あ、馬鹿でしたね」

「うるせえ!ちょっと良いとこ見せれたからって調子のってんじゃねえぞ」

「はぁん!?なんですかその言い分は!」

「ずっとそうだったろ。そんでこれからもそうさ。まだまだ行けんだろうな?ましろ!」

「……ふふん、ましろを誰だと思ってるですか!行きますよ!彩音さん!!」


 ましろちゃんは右腕にセイヴァークローを創造し、魔爪刃と合わせて二爪の斬撃を浴びせていく。その逆サイドから彩音ちゃんのラッシュが繰り出され、イヴルは両サイドから凄まじい勢いの攻撃を浴びせ続けられる状態だ。


『ぬっ……ぐっ……ふふ……流石は救世主』

「何喜んでんだ気色悪い!」

『貴女方の素晴らしい友情に感動しているのです。だがっ、この程度では我が試練を越える事は』


 そう言いかけたイヴルを緑の閃光が撃ち抜く。

 その威力に彩音ちゃんもましろちゃんも驚いて攻撃を中断した。それを繰り出したのは……。


「……うふふ、すみません、こんな奴にお二人の友情を語られるのがどうもイラッとしてしまいまして……」


 威圧的な笑みを浮かべた葉月ちゃんのセイヴァーライフルだった。……流石、変に拗らせてるだけに彼女の勘に触れるとヤバイことになるわね……。


 立ち上がるイヴルの全身をセイヴァーライフルで的確に撃ち抜く葉月ちゃん。意外にも冷静だ……。太陽の属性という巨大な破壊力に加え、それを一点集中させた弾丸の鋭い狙撃に、イヴルも怯ませられる。

 その隙に黒き斬撃がイヴルを吹っ飛ばし、岩壁に叩きつけた。


「まったくそなたは恐ろしい奴よの、葉月」


 先生の黒の剣・陽炎刀によるモノだった。先生は葉月ちゃんの力に笑みを溢して言う。


「太陽の属性か。……ふっ、面白い。我が陽炎刀も似たような性質でね。どちらの太陽が強いか試してみるか?」

「手加減はしませんよ」

「あぁそれで良い。あんな奴に手加減する必要はない、存分にやろう」


 セイヴァーライフルに集められた巨大な光の砲撃、そして陽炎刀から繰り出される漆黒の光が重なりイヴルに着弾する。それは大きな爆発となりイヴルを包んだ。


「とんでもない火力です」

「……もうアイツらだけで良いんじゃねえかな」


 だが、イヴルはその爆発を裂き、立ち上がってくる。そこへ間髪入れずにノヴァが突撃した。


『!!元神かァ……貴様などお呼びじゃないんだよ!!』

『私が憎いか?……そうだろうな。お前の事も、元はと言えば私に責任がある。だからこそ、止めなくてはならない』

『ククク……思い上がるなよ。救世主様に破れたお前の事など、ハナからどうでも良いのだ!!』


 イヴルはノヴァに拳を振り上げた。が、高速で動く何かに翻弄される。


『チィッ!なんだこれは!?』


 更にそこへ、巨大な火炎弾が放たれ、イヴルを地面に叩きつけた。


『!?これは……』

『助太刀ッテ奴ダ元神様』

『お前達……!』


 バーナとフラッシュがノヴァに並んだ。ノヴァは驚いたように表情を変える。


『お前達だって私が産まれなければそんな身体にならずに済んだのだぞ。そんな奴を助ける義理はないはずだ』


 その問いにフラッシュは答える。


『ダガ、コノ存在ニ成ッタカラコソ、人間ノ強サヲ真ノ意味デ理解出来タト感ジル』


 彼はれいちゃんを見て言った。最初はフラッシュに殺意すら抱いていた彼女が、共に戦うところまで来た。人は変われる。成長する。それを理解し、フラッシュは嬉しそうだった。


 その隣でバーナはこう答える。


『俺ハ元々憎ンジャイナイ。ムシロ感謝シテル。色ンナ出逢イヲクレテ。……エレム、ルシフ……ミンナ……』


 バーナは誰よりも仲間想いのギョウマだ。だから散っていった仲間も今いる皆の事も、大切にしているんだ。

 だから、ギョウマという存在として生きること自体を、彼は嫌だとは思わなかったのだ。


『生キ残ッタ俺ノ務メダ。想イヲ、絆ヲ、繋グ為ニ戦ウ!!』


 ノヴァは益々驚愕の表情を深める。


『お前達……』


 そして静かに笑みをこぼした。


『理解不能だ。お前達のその、真っ直ぐな心がどうやって作られたものなのか、それを考えるには、私もまだまだ未熟。だが、感謝する。私も全力で、奴を止めてみせよう!』


 繋がりは人間だけではない。

 私達はギョウマという存在とわかりあうために戦ってきたのだから。

 人間だけじゃない。どんな化け物だって光輝くことが出来る。


 人間とギョウマは実際に繋がりを作れる。

 人とギョウマの力で誕生したセイヴァーゴッドや、私達の仲間になってくれたノヴァ達……そして、それを証明する存在がこの場にもう一人。


『クズが何匹束になろうが同じ!!ギョウマは死すべき!!』

「……そうはさせない」

『!!』


 イヴルの前に立ちはだかったのは、セイヴァーとなったれいちゃんだった。


『自ら死を望んでいた小娘が、ギョウマを憎んでいた奴が……守る為に戦うというのか』

「……それが、セイヴァーの役目、だから」

『クククッ……自惚れるな。貴様のような今この場で偶然誕生した存在をセイヴァーなどとは認めん!』


 イヴルの攻撃がれいちゃんを襲う。

 邪神の攻撃を受けてもれいちゃんは簡単には絶命しなかった。理由はイヴルがわざと決定打を外しているから。要するにいたぶっているのだ。


「……!れいちゃん!」

「来ないで!!」


 彼女は走り出した私達に大きく声をぶつけた。

 彼女は前に歩めたはず。それなのに、私達を遠ざけようとしている。何故?やはり彼女は人を信じることなど出来ないというのか。


 ――いや、そうではない。

 少なくとも、彼女の想いは、死んでいない。


『ギョウマどもは滅ぼすべき存在。しかし、お前のような資格のない人間がセイヴァーを名乗ることが一番腹立たしい!我が理想に貴様は不要だ!死ね!!』

「れいちゃん!!」


 とどめの一撃。イヴルの特大魔弾がれいちゃんを襲った。


 その時だった。魔弾はれいちゃんに炸裂する前に何かによって串刺しにされ、空中で爆発を挙げた。


 鋭く魔弾を貫いた棘は、れいちゃんの全身から出ていた。


「……だから来ないでって、そう言った」


 そう吐き捨て、れいちゃんは力を静めると彼女の身体は元に戻る。

 今のがれいちゃんの特殊能力ということなのか。彼女はイヴルを強く睨み付け、一つの巨大な鎌を創造した。


「……そうかもしれない。私に、誰かを救う資格なんてないのかもしれない。だけど――!!」


 鎌を構えて彼女は言い放った。


「必要なのは、資格じゃない。私が誰かとの繋がりを守ろうとした、自分自身を変えようとしたこの想いがそうさせる。それが、私が戦う理由、だから!」


 そして彼女は立ち向かう。圧倒的な闇にも屈さず突き進んでいく。その彼女の背に、私は、力強い希望の光を感じでいた。


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