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知る為の一歩

 ギランカを後にした私は、自分の世界に戻ってきた。

 私の部屋へと次元移動装置を起動し、くたびれた身体を励ますように伸びする。


「お疲れ様ですー」


 と、ましろちゃんの労いの言葉。彼女には次元間のレーダーを見てもらっていた。

 私達が別次元のギョウマを探し当てられるのは彼女が新たに造ってくれた新型レーダーがあるからだ。まだ探索できる範囲は限られているが、これまで以上に広範囲を探知可能だ。


 相変わらず恐ろしい技術力で驚くしかないけど……当の本人はこちらを見てビックリしていた。


「ふえっ!?誰ですかその人!?」

「え?あぁ……」


 私の後ろに付いてくる少女を指差してましろちゃんは目を大きく開いていた。

 やはり向こうから戻ってくる前にキチンと説明すべきだったか。そんな後悔を振り払い、改めて少女を前に出して紹介した。先ほどギランカで出逢った夜咲れいという少女を。


「この娘、色々と大変な目に遭ったのよ。それがどうしてもほっておけなくてね……」


 この少女はギョウマの魔の手の被害者だ。両親ともはぐれ――恐らくは死んだ、と彼女は言っていた。

 私と境遇が似ている。だからかもしれない、私は彼女を平和なこちら側へ連れてきた。


「何日も大変だったろうから、お風呂に入れば良いわ。ゆっくり浸かって疲れをとって」

「……」

「そう警戒しないで大丈夫。何か企んでいる訳じゃないから」


 そう言って半ば強引に彼女をお風呂へと誘導した。

 すぐにましろちゃんが私のもとに駆けて言う。


「ちょっと無愛想ですけど、綺麗な人ですねぇ」

「そうね。歳以上に大人びてる感じ」

「それ鞘乃さんが言いますか……?」

「?」


 そう言ってましろちゃんの視線はぐるぐると回った。

 まず頭。胸。腰。胸。足。胸……。


「ってあまりじろじろ見ないでよ!」

「だって鞘乃さんはデカいです。身長と……ある部分が」

「……ましろちゃんもその内大きくなれるわよ」


 保証は出来ないけれど……。


 ……話を戻そう。夜咲れいという少女は、確かに暗い性格のようだ。アレだけの事があったのだ、無理はない。歳も私より下のようだしね。

 でも無愛想というのは少し違う。話しかければゆっくりとだがちゃんと言葉は返してくれるし、さっきはさすがに警戒されたが――別段私達を敵意しているというわけでもなさそうだ。


 彼女は言っていた。両親の事は平気だから気にしないでほしいと。私に気を使っているのかどうかはわからないが、なんにせよ、生きることを諦めている眼ではなかった。


「だけどここで彼女を独りにしては、いずれは折れてしまうかもしれない。だから私は少しでも彼女を元気付けてあげたいの」

「それで連れてきたんですね。わかったです、ましろも協力するですよ!」

「ありがとうましろちゃん。……じゃあまずは、服ね。彼女のはボロボロだし……私が昔着ていたものをとりあえず着てもらおうと思うのだけれど……」


 そうして二人でコーディネートを考えていると、彼女は戻ってきた。


「……上がったわ」

「ちょうど良いタイミング!ねぇ、貴女はどれが良いかしら!?」

「へ……?」

「さぁさこっちに来るのです」

「ちょっと……え、な、なに……?」


 裸を見られて恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染めて困惑する彼女。しかし私達は気にせず身体に服を合わせていく。


「……とりあえず、これで良いんじゃないかしら!」


 動きやすくかっこよくて気に入っていたパーカーを中心に纏めてみた。


「よく似合ってるです!あ、そのまま横に並んだらなんだか姉妹みたいですね!」

(……姉妹、か)


 お姉ちゃんの事を思い出す。剣の腕は私よりいつも上で、いつも引っ張ってくれて――そして世界のために身を捧げた勇敢な人だった。それほど立派には出来ないかもだけど……。


「ねぇ、これからはれいちゃんって呼んでもいいかしら」

「……構わない。呼びやすいように、呼んで……」


 私は私なりに、彼女と向き合ってあげたい。そう思った。



 ***



「――で。鞘乃とその……れいって奴は出掛けちまったって訳」


 彩音ちゃんが心配そうに頭を抱える。


「あの修行脳の事だ、何するかわからんぜ」


 そう言うと葉月ちゃんは苦笑した。


「さすがに初対面の人間にあんなことさせないでしょう。……出来ることならあの鞘乃ちゃんの眼はもう見たくないですね」


 ……一理ある。

 ただ、私はそんな事よりもそのれいちゃんって娘がどんな娘なのか気になってしかたがなかった。


「鞘乃ちゃん似の美人さんかぁ……きっと素敵な娘なんだろうなぁ!……今から自分が抑えられるか心配だよ!」


 可愛いものを見たら飛び付かずにいられない。それが私・新庄優希の悩める(さが)だ。


「やめとけよ。相手はまだネガティブな心境だろうから」

「う、うん、だから、良い具合に、ちょっとだけ……」

「優希さんのちょっとはちょっとじゃないです」

「ヴっ」


 ……いきなり釘は、刺されてしまったんだけど。


「でも残念。私も鞘乃ちゃん達と遊びにいきたかったよ」

「思ったより時間がかかってしまったので仕方ないですね。思わぬ邪魔が入ったので」

「……うん」


 葉月ちゃんが今言ったのはギョウマの事だ。私達も鞘乃ちゃん同様、他の世界でギョウマの居場所を探っていた。

 そこで妙なギョウマの妨害を受けた。明らかにいなかったはずの場所から突然現れたソイツに襲撃を受けた。返り討ちにしたけど……でもその間に元々その世界にいたギョウマの反応が消えていた。

 何かの間違いじゃないかとその周辺を探ったけど何も発見できず、時間だけが過ぎちゃったってとこかな。


(消えたギョウマの行方も気になるけど、急に現れたアイツは結局何者だったんだろう……)


 募る謎。こういうのを考えてると、なんかセイヴァーやってるなって感じになるよ。……全然嬉しい実感じゃないけど。


「ところで、それを考えるのも良いですけど、優希さん、ちゃんと約束は守ってくださいですよ」

「あーもうわかったよぉしょうがないなぁ」


 少々気は進まないところだけど、仕方がないか。私はましろちゃんと約束したある事柄を実行した……。



 ***



 れいちゃんと私は色んなところを歩いた。些細な事ではあるが色んな事を知れた。


 ペットショップを横切る際、犬をよく見ていた。きっと好きなのだろう。

 レンタルビデオ屋を横切る時には推理モノの物語が好きだと言っていた。

 服屋ではあまり女の子女の子している服は好まないと言っていた。選択は正しかったようだ。

 人付き合いは苦手だと言っていた。ギョウマの事があったからだと思っていたが、性格は元々明るい方ではないらしい。


 私からもいくつか質問をした。その度に不器用な返答が微笑ましかった。


「……さっきから、質問ばかり」

「だって絶対答えてくれるし」

「……じゃあ、次は答えないわよ……?」

「それは困るわ」


 そう言って私は笑った。不思議そうにれいちゃんは私を見た。


「おかしい、の?」

「ふふ、そうね。それとれいちゃんと話していると楽しいわよ」

「……そんな事、はじめて言われた」


 れいちゃんはちょっぴり頬を染めていた。喜んでもらえているのだろうか。


「……私もね、人付き合いが大の苦手で。けど、大切な友達が教えてくれたから。相手を知ることが仲良くなるための近道だって」

「友達……仲良く……」

「そ。私はれいちゃんと友達になりたいよ?れいちゃんは、どうかな?」

「私は……」


 れいちゃんは少し難しそうに表情を曇らせた。が、不穏な空気になる前に一つの音が場を和ませる。

 ぐぅううう……と、大きな音が。


「あっ、ご、ごめんね、何かご馳走する為に歩いてたのにまだ何も出来てないわね!」

「……恥ずかしい」


 少々可笑しな空気で私達は飲食店を探す。

 ……焦る必要はない。彼女が心を開いてくれるまで私が傍にいよう。優希ちゃんがそうしてくれたように。


(それに食べることは生きること!食事はキチンと摂らなくちゃあね!)


 そんな妙な気合いを入れて踏み出すやいなや、ネオセイヴァーのグローブに通信が入った。


『鞘乃さん、出番です。ギョウマを発見しました』


 相変わらずギョウマという奴らは悪いタイミングでばかり現れる。それは別の世界でも同じようね……。


「仕方ないわね。とりあえずコンビニの食べ物で我慢してくれるかしら?」


 目に見える距離にコンビニがある。それを買ってあげるくらいの時間はあるだろう。本当なら最低でも喫茶店辺りのランチセットでも奢ってあげたかったのだが……。

 そんな事を考えていると、れいちゃんはこんな事を言ってきた。


「……待って。私も、連れていって。貴女の、戦いに」

「え……?」


 何を意味しての事なのかはわからない。だが、迷っていては時間がすぎるだけ。とりあえず私はれいちゃんを連れ、再び私の家へと戻った。

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