英雄の甦る時
私の新しい力・ネオセイヴァーハートフレアの力を抑え込むため精神的ダメージを与えようと企んだイヴル。しかしそれを打ちのめしたのは生還し、新たな姿へと進化したましろちゃんだった。
「ご心配をお掛けしたです」
「……信じていたわ。ましろちゃんなら必ず生きて戻ってくると」
「ましろも皆さんとお別れなんて御免ですから。それに、ましろには操さんが付いていてくれますし!」
ましろちゃんは誇らしげに笑ってグローブのスロットに填まった大きな鍵に優しく触れていた。
白とピンクの二色の鍵が重なっている。そしてその力で誕生させたのであろう、現在の彼女のセイヴァーの姿からは、とても大きな力を感じる。
「その姿……ましろちゃんと操さんの力が、一つに……?」
「はいです。名付けるなら『セイヴァーツヴァイ・アナザー』とでも言うですかね」
ましろちゃんの首もとには、彼女が肌身離さず着けていた操さんの形見である桃色の結晶のペンダントがない。
……そう言えば、あのペンダントは操さんの力が変化したモノ。恐らくは、それがこの鍵に変化したのだろう。操さんというイレギュラーな存在がいれば、通常じゃ習得出来ないはずの、二本の鍵の力を融合させた姿への進化も、あり得ない話ではない。
なんて頼りになる戦士として戻ってきてくれたことだろう。そんなましろちゃんを見てイヴルはまだ余裕そうではあるが。
『……生き残る事は計算外だが、君程度のセイヴァーで何が……』
その余裕を打ち砕くように、ましろちゃんはイヴルをその武器・セイヴァークローで切り裂いた。
『ヌゥウッ!?』
ましろちゃんの能力は時間停止。時間を止めその隙に接近すれば、調子にのっているイヴルの鼻っ柱を折ってやる事など容易いだろう。
だが時間停止の能力は連続して使えるものではない。次はましろちゃんに隙が出来る。イヴルはましろちゃんの後ろに回り込んでその爪を振り上げた。次元を操る能力で瞬間移動したのだろう。
『下らん悪足掻きを』
勢いよく振り下ろされた邪神の一撃。だが、そこには既にましろちゃんはいない。
『何ッ!?』
「ほんと下らないですねぇ」
『ッ!!?』
イヴルは後ろを取られていた。瞬時に再び瞬間移動。だがそこに回り込むようにましろちゃんが出現する。
ましろちゃんの能力は時間停止。しかしそれは連続では発動不可。ならば何が彼女の次元移動を可能としたのか。それは操さんの能力、次元を司る力だ。
次元の属性を用いることで瞬間移動を可能としたのは、操さんも使っていた戦術だ。つまり今、ましろちゃんは時間と次元という、最強クラスの能力を二つも持ったセイヴァーという事になる。
焦って再びイヴルの瞬間移動。逃げ回るイヴルに呆れたように動くことをやめたましろちゃんへ、イヴルは魔弾を発射した。
ましろちゃんは鍵の側面のスイッチを入れる。恐らくは優希ちゃんの重装鍵と似たようなモノなのだろう。
コード『savior:stick』――左腕からピンク色のステッキが創造され、そこから放たれた魔弾がイヴルのそれを相殺した。
『こいつ……っ!』
「ふふん。案外たいしたことないですね」
そのままましろちゃんは翼を羽ばたかせ、イヴルに突撃した。イヴルももちろんそのまま攻撃を受けるつもりはない。反撃の爪をギラつかせた。
『クズがァ……!!たかが私の使い魔を倒したくらいで思い上がるな!貴様など取るに足らぬ……っ!?』
だがましろちゃんはイヴルを無視し、距離を空け、そのまま一直線に急降下する。
『何のつもりだ……!?』
「誰もましろが貴方に勝てるだなんて言ってないですよ。ましろはこれでも力の差については理解しているつもりです。だからッ!」
『!!』
最強クラスの能力を持ってしても、それはあくまでも囮。
ましろちゃんの前には……既に優希ちゃんがスタンバイしていた。
「ましろはあくまでも繋ぎ!!我らの救世主を甦らせる為の繋ぎなのです!!」
『!!させるかァ!!』
イヴルはましろちゃんを追って超スピードを発揮。更に魔弾を放射して優希ちゃんとましろちゃんの接触を阻止しようとした。
「ふふん……だったらこれです!!操さん!!」
ましろちゃんは鍵のスイッチを再び入れた。『savior:masoujin』のコードが浮かび上がる。ギョウマ・ピュゼロの爪を模した武器がましろちゃんの左腕に装着された。
『「魔爪刃!!」』
繰り出された爪の斬撃がイヴルの魔弾と衝突する。その爆風でイヴルはましろちゃんを見失った。
『チィッ……!小癪な真似を!!』
イヴルは爆風を貫きましろちゃんを追う。このまま優希ちゃんにグローブが渡れば流れが一気に傾くと、奴もわかっているのだろう。
だから優希ちゃんを危険視していた。だから優希ちゃんの力を封じた。
ここで優希ちゃんにセイヴァーになられては、やつの計画が全て台無しだ。
だが、爆風を突き抜け見た光景は――。
「ありがとうましろちゃん。私の宝物が、ようやく帰って来た……!」
『……!!』
「そしてもう傷つけさせない。誰も、悲しい想いをさせない。私が……みんなを……!」
『やめろォオオオオオオ!!!』
「守る!!」
イヴルが特大の閃光を放出した。だが、既に遅い。優希ちゃんの手にはましろちゃんから受け取ったセイヴァーグローブが填まっていた。
そして、身体を変化させながら紅き救世剣で邪悪な閃光を真っ二つに切り裂き、イヴルを真正面から威圧する。
みんなの想いが繋がり、そして今ここに、私達のセイヴァーが帰還した。
「久しぶりに……いっちょ頑張りますか!!」
優希ちゃんのセイヴァーとしての復活は、一気にみんなの心の希望を燃え上がらせた。彼女の存在は絶望という巨大な闇を打ち砕く特効薬のようなものだろう。
私も感動すら覚えていた。それだけ優希ちゃんが戦いの場にいるということは、心強いのだ。
「ようやく一緒に戦えるね!」
「……えぇ、ずっと待ってたわ優希ちゃん。この時が来ることを」
「そうだね!新しい鞘乃ちゃんのセイヴァーと私のセイヴァーの色!!お揃いだもんね!!並ぶと絵になるよ!」
「ぷふっ……そういうことじゃなくって」
「あれぇ?」
優希ちゃんが隣にいてくれるだけで笑顔が耐えない。この人が、私自身が前に進めたきっかけだから。この人が、私が私を信じることが出来るようになった心の始まりだから。
『貴様ら……!何を勝ったつもりでいる!!新庄優希を封じていたのはあくまでも保険にすぎない!セイヴァーに戻ったところで……この邪神の力には勝てるはずがない!!』
「そうかな?やってみなくちゃわからないよ!!」
「いえ、優希ちゃん。私はもう確信を持って言える。わからないじゃない」
そう、優希ちゃんが隣にいてくれるなら、私はもう――。
「負けない!邪神だろうが魔神だろうが、負ける訳がない!」
「だってさ。へへ、私も負ける気はハナから無かったけどね」
「じゃあ優希ちゃん……一気に行くわよ!」
「うん!!さぁ……!これからが本当の戦いだよ!!」
イヴルとダブルセイヴァーの決戦が始まった。
優希ちゃんは早速特攻する。イヴルに自慢のパンチラッシュを浴びせた。
元々パワーもスピードも凄まじかったが、先生との修行のお陰でその威力は更に巨大に、その速度は更に止められなくなっている。イヴルも思わず防御に徹してしまう程だ。通常形態のセイヴァーでここまで戦える事が、彼女が如何にセイヴァーとして相応しいかを物語っている。
(修行の成果だけじゃない。想いの強さがセイヴァーの能力を引き上げているんだ……。ここにたどり着くまで、葉月ちゃんも彩音ちゃんもましろちゃんも……そしてセイヴァーになった人だけじゃない、みんなが頑張って戦った。全力の想いをぶつけ合っていた)
そのみんなの想いを感じて彼女は戦っている。誰よりも真っ直ぐに、みんなとの絆を受け入れて戦う事ができる。だから彼女は、強いんだ。
「だけど私だって負けていないわよ!!」
セイヴァーソード改に炎を宿してガードがお留守なイヴルの背中を切り裂く。救世主の力がこもった絆の炎をまともに食らえば奴といえども只では済まない。
「今よ優希ちゃん!」
「うん!!セイヴァーソード!!」
「「ダブルセイヴァーフィニッシュ!!」」
二つの紅い斬撃がイヴルに炸裂する。
吹っ飛ばされたイヴルだが、すぐに体勢を立て直し、閃光を放った。
「だったらこれだ!!」
優希ちゃんは重装鍵をスロットに装填する。そしてセイヴァーシールドを創造し、蒼き救世主・セイヴァーブレイブに形態変化した。
セイヴァーシールドは相手の攻撃を吸収して撃ち返せる万能武器。閃光を飲み込み、お返しする。
「このまま決めるぞ!」
イヴルが怯んだ隙に優希ちゃんは重装鍵のスイッチを押した。コード『savior:zwei』――このコードを打ち込み、グローブを再起動することで、優希ちゃんは私との絆を重ねた究極形態・セイヴァーツヴァイに形態進化する事ができる。
「よっし!セイヴァーソード・エヴォルヴ!!」
セイヴァーツヴァイの特性である二つの武器の創造。それにより創られた二本のセイヴァーソードを融合させて誕生するエヴォルヴが、邪神に鋭くダメージを負わせていく。
「そしてこれでフィニッシュだ!鞘乃ちゃん!」
「うん!」
私は剣に炎を集中させ、優希ちゃんは剣に光を集め、共に必殺の一撃をイヴルに放つ。これでとどめだ!
「ネオセイヴァー……フレアブレイク!!」
「セイヴァーツヴァイ!フィニーーーッシュ!!」
重なりあう二つの必殺がイヴルに炸裂。それは巨大な爆発となってイヴルを包みこんだ。
『グワァアアアアアアアアアッ!!』
吹き飛ぶイヴル。完全に勝利はこちらのものとなったように見えた。
だが、さすがに邪神といった存在か。まだ立ち上がってくる。その執念深さは巨大。これまで散々様々な世界を巡り力を蓄えてきたのだ、ここでやられるわけにもいかないというところだろう。
もっとも退けないのはこちらも同じだ。平和を乱すような悪は容赦なくとどめをさすべき。
「みんなの絆の力で、終わらせよう……!」
優希ちゃんは虹神鍵をスロットに装填し、起動する。
その鍵に宿された優希ちゃんの絆の全てを解放し、最強最後の神の姿・セイヴァーゴッドへと形態神化した。
その巨大な力を前に、イヴルはついに戦意を喪失する。全身を震わせ、膝をつき、目は大きく見開いていた。奴自身が敗けを確信したようなものだ。
「これでわかったでしょう、イヴル。みんなが繋いで産み出した希望はけして、お前という身勝手な絶望に屈する事はない」
『希……望……』
そう、これで終わりだ。だが、勝利を確信したと同時に、何か違和感を感じた。
奴自身の強さが変貌したわけでも、妙な動きを見せたわけでもない。単純に、違和感。口ではそう説明する他ない。強いていうならば、狂気、だろうか。王を始めてみたときのような恐怖は、正直言ってイヴルからは感じなかった。
だが、何故だ。何かが、奴から感じ取れる。奴から滲み出している。
そうしてその妙な感覚は、形となって姿を現した。
『……ハハッ、希望……ッ!君の言うとおりだ……希望とは……素晴らしい!!』
「……!?」
『ウ……クク……ッ!ハハハッ……!!私の信じた通りだ……!君達なら、私が振り撒く試練を乗り越えてくれると思っていたよ……!本当に信じて良かった……!!セイヴァーとは……人間とは……なんて素晴らしい存在だろう!!』
「……???何を言って……?」
そこにあったのは、敗北の恐怖ではなく、喜びに身体を震わせ、心からこの瞬間を待ちわびていたと言わんばかりの、笑みを浮かべる怪物の姿だった。
私達の絆や希望を下らないと踏みにじり、消し去ろうとした者とは思えないほど、私達に向けるその目は優しく、幸福に満ち溢れている。
言っていることが無茶苦茶だ。一体奴は何がしたいんだ?奴の目的は、一体……?




