激戦下の再会
――ズドォオン!ズドォオン!
大きな音がぶつかり合い、私の目の前で力と力が大きく弾きあっている。
神――いや、ノヴァと、イヴルの戦いはまだ続いている。お互いに下がらず、ただひたすらに拳をぶつけあっている。……正しくは、少しノヴァの方が、劣勢か。
『ククク……この程度か……やはり弱くなったのでは?』
『そんなはずはない。……そうだ、私にはまだ秘策がある』
そんなノヴァの希望をくだらないと吐き捨てるようにイヴルは拳を突き出す。それを受け止めたノヴァによる逆転の一手が発動された。
――『解析』能力。ノヴァはありとあらゆる存在の能力を瞬時に解析し、それを上回る力を呼び出すことが出来る。……かつて神という存在だった彼の圧倒的、脅威的能力だ。
それさえ発動できれば、勝ったも同然。
だが、しかし……。
『……解析、不能……?』
発動できない。何故?
――私と鞘乃ちゃんは、彼が解析した数値を上回る進化を遂げ続け、ついに彼を倒すことが出来たが……イヴルもそうなのだろうか?
いや、そうではない。解析できないのは、ノヴァ自身に問題がある。
『やはりそうか。……ククッ、元神様ァ。あんたは今、心というものを持ってしまったせいでちゃんとした解析ってのが出来なくなってしまっているのさ』
『……どういうことだ?』
『別の可能性だよ。解析に出た結果で満足できていない。『これで本当に良いのか?』という別の選択肢を考えるようになってしまって、結局解析結果を出せずにいる』
それを嘲笑いながらイヴルはノヴァに蹴りを叩き込み吹っ飛ばした。
『そういうのを迷いって言うんだけどな』
さらに追い討ちに衝撃波を発する。ノヴァは岩場に叩きつけられ、崩れたそれの下敷きになってしまった。
『クハハッ……!心……心ねぇ……立派な建前を語っていたようだが、それを得て何日が経ったというのだね?……赤子同然なのだよ、君の心ってやつは。どれが正しいものなのか、まだ上手く自分で線引きできない。だからこそその能力はもう使えないのだよ』
心を得たことが仇となってしまったというのか。せっかく彼は、人間を信じる事が出来たのに。私を助けに来てくれたのに。
「……とにかく助けないと」
『人の心配をしている場合か?』
私の隣の地面が弾けとんだ。そうだ、神クラスの戦いを見せられて忘れていたが……元々こいつの狙いは私だった。
そしてもう私を守ってくれるものはない。
「いよいよ、万事休す……か」
ここまで頑張れたが、もう虹神鍵の力を発動しても防げそうにない。イヴルは完全なるとどめを指すため、全力の一撃を放とうとしているからだ。
『もっと早く決着をつけるはずだった。しかし、ここまで持ったのは、さすがは新庄優希と言ったところか。だがこれで貴様は終わる』
「……!」
『さらばだ、希望の象徴・セイヴァーよ』
漆黒の閃光が一直線で私に伸びる。その勢いはまるでこの世界そのものを滅ぼすかのように、荒々しく、凄まじく……。
「ってえ!?ほんとに世界が捻れてる!?」
私の目の前の空間が歪んで、閃光を吸い込んでいく。
『何ィ……!?いったいこれはなんの冗談だ……?』
「こういう冗談よ!!」
歪んだ空間から矢が飛び出した。それはイヴルの閃光を削るように押し返し、イヴルに突き刺さった。
『ぬ……ぅ……っ!?なん……だと……!?これは……次元を操る能力か……!?』
炸裂した矢がイヴルを飲み込もうとしている。私への攻撃が一旦止んで、安心して力が抜け、私は地面に座り込んだ。
そしてすぐに私を助けてくれた先ほどの声を思い出す。
凛とした声。私をいつも想ってくれる彼女の声。彼女は来てくれた。次元を越え、ここまで助けに来てくれた。
「鞘乃……ちゃん……」
「……待たせたわね、優希ちゃん」
***
ようやくこの時が来た。
私が放った矢は、優希ちゃんの元に届いた。優希ちゃんと離ればなれになって、ほんの数時間。だけど、本当に不安の絶えない長い時間だった。彼女の顔を見てようやくつっかえがなくなって、心からの笑顔が溢せた。本当に……良かった。
「鞘乃ちゃん……」
彼女は嬉しそうに私に歩み寄る。一番不安だったのは彼女だろう。きっと凄く恐くて恐くて堪らなかったはずだ。しっかり受け止めてあげなくちゃ……。
「何その姿!?カッコいい!!」
「あー……そっちかー……」
私の新しい姿・ネオセイヴァーディメンションを指しての事だった。……まぁ、優希ちゃんに通用する不安や恐怖も中々無いわよね。
そして次には私から視線を移して、れいちゃんに釘付けだった。
「わー!君が噂の?ほんとだ!美人さんだ!」
「な、なに……貴女は……?」
「私は新庄優希だよ!あ、鞘乃ちゃんの親友やらせてもらってます。よろしくね!」
と、元気よく挨拶。
……私への対応が結構あっさりだったのは寂しいけれど、優希ちゃんとの出逢いがれいちゃんにとって良い刺激になってくれると嬉しい。そう思って微笑ましく見ていた。
しかし既にれいちゃんは、優希ちゃんを心から軽蔑するような目で見つめていた。
「貴女がこの人の……。……そう。つまり貴女が下らない理想を並べているつまらない人間って事ね」
私はその言葉に心底苛立ちを感じた。私の事は馬鹿にしてくれて構わないが、優希ちゃんの事ばかりは、許せない。思わず強く言葉をぶつけようとした。
それを止めたのは優希ちゃん自身だ。
「良いよ鞘乃ちゃん、大丈夫。それよりも聞かせてくれないかな。私のどういうところが気に入らないの?」
「……人とギョウマの共存。人と人との繋がり。友達。絆。……貴女の並べるそのくだらない綺麗事が、私を苛立たせる……!」
「綺麗事でも良いと思うんだけどなぁ。実際、みんなと一緒だと楽しいよ?」
優希ちゃんはパッと笑顔を咲かせた。れいちゃんはそれを見てますますくだらないと反発する。
「それで……その友達が何の役に立つの?」
れいちゃんはフラッシュを睨み付けてこう続けた。
「……特に、ギョウマ。私達を傷つける、敵……。こんなやつらとわかりあって、それが何の役に立つ。怪物なのよ?こいつらは人間じゃない、化け物……!」
それに対して優希ちゃんはうぅむと頭を抱えていた。
そりゃ、どう返して良いかわからないだろう。何を答えたって、れいちゃんはきっと納得してくれないだろうから。
しかし優希ちゃんが悩んでいたのはその事ではなかった。
「……うーん、答えならとっくに出てるんだけどさ、どうも質問の意図とは違う感じになっちゃうから」
「……どういうこと?」
「前提が違うというか。私は鞘乃ちゃんと仲良くしてみたいって思ったから友達になろうって頑張ったし、ギョウマだってただ喧嘩するよりも平和に解決できれば良いなって思っただけ。だからつまりその……役に立つとかどうとか、考えもしなかったよ」
れいちゃんは困惑の声を漏らした。
「そんな無価値なものの為に頑張ろうとしているの?」
「無価値ではないかな」
そう言って優希ちゃんはれいちゃんを思いきり抱きしめた。れいちゃんは焦って逆に動けずにただ口を動かしている。
「ちょちょちょちょっと何やってるの!!?」
「こうするとホラ~あったかいよ~」
「あったかくなんて防寒着を着れば良い話よ!別に友達が必要なわけじゃ……」
「身体だけじゃないよ。心もあったかくなれるんだよ~。ほら、れいちゃんだってさっきまでのツンツンした表情や喋り方よりも、可愛くなってるよ?」
「かわ……っ!?な、なにいって……やめて……見ないで!!」
なんと大胆な行動か。しかし、そこが優希ちゃんらしいというかなんというか……。
(……あれ、たぶん優希ちゃんがれいちゃんに抱きつきたいからやってるだけね)
……嫉妬の感情が私の中で渦巻く。
もっとも、すぐにれいちゃんはぐったりと身体の力を切らしてしまったので優希ちゃんも解放してあげたのだが。
しかしお陰で場の空気は和んだ。さすがは優希ちゃんって感じね。そして、その上で優希ちゃんは彼女に告げた。
「れいちゃんがどうして、そんなに友達や絆を嫌うのかはわからない。でもね、私は役に立つとかじゃなくて、一緒にいたいから一緒に居るんだよ」
れいちゃんはやはり腑に落ちないという表情だった。それでもれいちゃんはそれ以上言葉をぶつけようとはしなかった。……まぁ、また抱きつかれるのを恐れてのことかもしれないけれど……。
しかしこの話はここまでだ。私は敵意を察知し、矢を構える。
……イヴルが平然と立っていた。どうやら、空越弦の一撃を与えてもこいつには大して効果はないらしい。それもそうか、こいつは、次元を越える力を持っている。私の次元を射ぬく矢を、自身の次元属性の力で相殺して無効化させたのだろう。
『話は済んだようだね?丁度良かった。じゃあ、今から君達にはまとめて死んでもらうよ』
「せっかく良い雰囲気だったのに邪魔しないでもらえるかしら」
『私には関係ない話なんでね。続きは天国でやったらどうだい?』
私は矢を連射した。しかし、イヴルは軽く弾き飛ばす。もう同じ手は通用しないか……。
紫の鍵をスロットから抜き、通常のネオセイヴァーに戻る。そして希望の鍵を装填して、対魔の能力を身に宿して構える。進化の鍵が使えない今はこれが最善の策だろう。
しかし……。
『まさか生き伸びてここまでたどり着くとはね。どうやら私は君を甘く見ていたようだ。無礼を許してくれ。……これから全力で始末してあげるから』
……まずい。はっきり言って力の差が大きすぎる。いくら対魔の効力を宿しても通用しないだろう。相手は邪神と呼ばれる存在なのだ。所詮通常のネオセイヴァーでは敵いっこない。
(……くっ、このタイミングでこの鍵さえ発動してくれれば……)
ましろちゃんに貰ったもう一つの鍵。これの可能性に懸けてみたいが、形態変化の鍵は一人では開くことはできない。どうすれば……。
もはや万事休すかと思ったその時、突然イヴルが体制を崩した。
『……な……?貴様……いつの間に……!?』
「それがましろのセイヴァーですから……!」
ましろちゃんだ。彼女のセイヴァーの能力は時間を操る能力。時を止めて、イヴルに接近していたのだ。
「今です鞘乃さん!」
「ネオセイヴァーフィニッシュ!!」
必殺の一撃を叩き込む。イヴルは勢いよく吹っ飛んでいった。もっとも、大して効いていないだろうが……少しは時間稼ぎが出来ただろう。
「助かったわましろちゃん。ところで、進化の鍵は……」
「あともう少しの辛抱です。カレンさんに分けてもらった始まりの救世主の力を完全に注ぎ終えるまであと数分ってところですかね」
それは葉月ちゃんがやってくれているのだとか。それほど難しくない作業なのでましろちゃんがセイヴァーとしてこっちに来れたのだろう。咄嗟にグローブを彩音ちゃんから受け取ったのだとは思うが、邪神を怯ませるとはさすがだ。
「この調子で粘っていくですよ!」
「えぇ。……しかし妙ね、イヴルの奴、動きがない……」
私の必殺がそれほどの致命傷になったとは考えにくい。すぐに立ち上がって来ると予想していたのだが……。
私は鍵装砲を取り出して超化の鍵を装填し、必殺の砲撃をイヴルが飛んでいった岩場に放った。しかし、岩場は吹き飛んだがイヴルはいない。
「おかしい、何が起こって……?」
「うあぁっ!?」
「ましろちゃん!?」
ましろちゃんの方を見ると、次元の穴がぱっくりと空いていた。ましろちゃんはここに吸い込まれてこの次元から別の世界へ飛ばされてしまったのだ……。
『その先には私の使い魔がうじゃうじゃと待ち構えている』
「!お前……!!」
イヴルはニタニタ顔を歪ませ私の前に立っていた。
『今の小娘、何をやったかはしらんが妙な能力の持ち主と見た。邪魔されては面倒なので追い出させてもらったよ』
「くっ……!」
『助けに行くか?ククッ、だが君がここを抜ければ後ろの連中も、最愛の新庄優希も守れないぞ?』
「……っ!」
『まぁそれ以前の話だがね。私は元神すらも倒した邪神だぞ?さて、君は何秒持つだろうか……?』
絶体絶命のピンチは続く。私たちの命運は……?




