事の発端は、まあこんな感じです。
二作目です、よろしくお願いします。
「ああ、異世界に転生したい」
放課後のファーストフード店。テーブル席。目の前にはソフトドリンクのLサイズが二つ。
目の前の友人は、いつものようにスマホでネット小説を読みながら、そんなことをほざいた。
「しつこいな、お前も。いい加減他の話題はないのかよ。他のジャンルの当たりのネット小説とかさ」
ああ、彼女が欲しい。そんな愚痴ならまあ聞いてやらないでもない。しかし、さりとて、どう考えても現実には起こりえないことを悩んでいても、悩んでいる方だって永遠に解消されないし聞いている方だって余り面白くはないだろう。
それが毎度のこととなれば、なおのことである。目の前の友人は、学校で嫌なことがあるとそのたびにそうつぶやくようになっていた。もう少し、マシな方向に愚痴を話してほしいものだった。
「……だってさあ、最高だろ異世界?」
「あのな、ぶっちゃけそんなこと言ったって、異世界に召還されるなんてありえねーだろ」
「現実なんてクソだろ」
「いや、だから……異世界に召還されたって、そこが現実になるってだけの話だろ」
「最高だよなー」
オレは頭を抱えた。拗ねたように、ネット小説の登場キャラクターの設定集を読んでいる友人は、余りにもみっともない。
ネットの書き込みでそれをするならまだ分かる、というか理解を示せる。ネットの匿名の書き込みなんてそんなものだからだ。だが、実生活で、友人を相手とはいえそういうのは余りにもどうかと思う。特に、公衆の場で。このままだと奴隷が欲しいとか言い出しかねないので、ネットと現実の境界があいまいな奴は大変に危険だ。
「あのなあ、異世界に転生って言ったって、そんなの異世界しだいだろ。第一、実際に異世界に召還されたって小説の主人公も、大抵異世界よりも日本に帰りたいって言ってるじゃねえか」
「俺そんなこと言わねーもん。ぜってー帰ってこない」
という友人が飲んでいる炭酸飲料は絶対に異世界では味わえない飲み物で、彼が愛用しているスマホも地球にしか存在しないものだ。
仮に、ジュースやスマホがお手頃な異世界があったとして、そこは日本とどう違うのだろうか。求められえるスキルも、この現実世界と大して変わらないのではないのだろうか。
「異世界で、俺ツエーして、やれやれまいったなして、ハーレムが増えすぎて困ったなして、皆にちやほやされてー」
すごい、言葉の一つとっても最悪だし、羅列されるともうどうしようもない。
早めに強制してあげるのが友人としての使命だろう。このままではキモオタヒキニート一直線である。偏見が入っている気がするが、概ね間違ってはいないだろう。
「あのな……そもそも、異世界に行っても、チート能力があったとしても、多分お前は絶対活躍できないぞ」
「なんでだよ」
「お前文句しか言わないじゃん」
というと、友人は黙り込んだ。
「大体さ、お前の言う異世界ってぶっちゃけ『RPGゲームの世界』じゃん。仮に異世界があったとしてさ、魔法とかいろいろあったとしてさ、そう都合よく『序盤から終盤まで都合よく適正レベルの敵しか出てこない』なんてことがあると思うか?」
「そ、そうじゃない世界だってあるかもしれないだろ」
「そうじゃない世界があったとして、お前さ、ぶっちゃけ努力なんてしたくないし苦労なんてしたくないんだろ? 特に脈略もなくパワーアップして、そのまま一生楽して生きていきたいだけなんだろ?」
「そんな、踏み台みたいなことなんて考えてねーよ!」
「だってお前、筋トレもテスト勉強もすぐさぼるだろ。続ければいいのに……」
「うっせー! 魔法とか剣の修行なら、続くに決まってるだろ!」
「……言うけどよ、お前チート、チートってよく言ってるだろ。チートってぶっちゃけ違法改造だろ? ネットの対戦とかでもチートなんてめっちゃ嫌われてるじゃん。お前自分がちゃんと努力するつもりなら違法改造なんて言わないだろ」
「チート能力ってのは、普通のチートとは違うんだよ!」
怒って立ち上がった友人。こいつと目が合う。明らかに顔は真っ赤で、興奮していた。だが、それでもオレだって鬱憤はたまっているのだ。この際論破してやろう。
「チート能力ってのはな、この世界から異世界に行ったときに、特典として与えられるすごい力なんだよ!」
「それがなきゃ、お前なんて踏み台にしかならねーだろ。だったらお前じゃなくてもいいだろ」
「なんだと!?」
「オレが神様だったとして、日常に不満しか言わない奴なんて絶対召還しないな」
「お、お前が言うなよ、リアルハーレム野郎!」
「てなことがあってな、結局ケンカしちまった」
翌日の登校中。オレは一緒に歩く彼女たちに失敗談を語っていた。そう、彼女たちにである。
単数ではないし、同時に彼女たちというのは三人称でもない。個人的に付き合いのある女生徒四人を指した言葉である。
「ばっかじゃないのー?!」
と、オレを罵倒してくるのはエスカ。名前は明らかに日本人のそれではないが、ただのキラキラネームであり純粋に日本人だ。肩までの髪を金髪に染めている彼女は、明らかにこの面々の中では浮いているが、名前負けしない容姿の持ち主ではある。
なんというか体も一番ワガママで、服装も派手なものだからいつも目のやり場に非常に困っている。
「あのキモいのもアレだけどさぁ、ぶっちゃけアンタが一番悪い。そんなのキモッとか言って無視してやればいいんだよ!」
と、ごもっともな意見をいただく。まあ、確かにキモい話だ。この調子では進路相談で異世界に行きたいとか言い出しかねない。マジで。
オレだって、他人事だったらそう勧めていただろう。実際、最近のアイツは実にキモい。ただその理由の一端が、今の自分の境遇なのだと思うと微妙にやりきれない。
「それは言いすぎだろエスカ。第一、そんな風に友人を切って捨てる君は見たくないしな」
と、実に気取った言い方をするのは葡萄である。名前の響きからはありえないほどにすらっとした体型と容姿をしており、多分顔はこの場でも一番の美人だ。
身長が高いこと、中性的な顔であることも相まって、女子人気は半端ではないらしい。
「彼がそんな風になったことに、なにかきっかけとかはないのかい?」
「この場の四人と付き合い始めてからだな」
常に格好をつけている葡萄は、実に気取った口調と所作でオレの顔を立てようとしてくれる。ただ、あいにくと原因ははっきりしている。君達です。
友人がこれだけの美人さんに囲まれていれば、そりゃあ嫉妬だってするし現実逃避だってするだろう。
「そうですか、私たちと一緒にいるせいで、嫉妬してしまったのですね」
他の女子と違って所作に気品があるのは、地元の名家のお嬢様竜奈である。腰の近くまである黒髪も手入れが行き届いており、男の俺でもその苦労には想像がつく。
ため息をつくあたり、自覚はあるようだ。実際のところ、この五人が並んで歩いていると周りの視線が痛い痛い。
「ご負担をおかけして申し訳ありません」
「いいって、気にしてねーから。それにまあ、役得というかなんというか……」
「うわあ、エロいこと考えてる眼だね!」
とかこっちの顔を見上げてくるのは元気いっぱいの桜。この中では一番普通の女子高生で、それだけに高嶺の花扱いの竜奈よりも男子の人気は高いらしい。
まあ、確かにエスカや葡萄には、一般男子としては中々声をかけにくいだろう。オレとしてもその意見には同感だ。
「勇は本当に正直者だね、このこの! こんなかわいい子に囲まれてるんだからさ!」
と、腰のあたりを肘でどつかれる。少し痛いが、まあ内心そう思っているので笑ってごまかす。
さて、いい加減オレの話をしよう。
オレの名前は雷電勇。らいでん、いさむ、だ。特徴としては、まあでかいことだろう。身長が190ぐらいある。筋肉も付きやすいので、つまりはガタイがいい。日本では頭一つ抜けてでかいので、とにかく目立つ。
とはいえ、世の中にはもう少しぐらいでかいのもいるので、少し目立つ程度に収まっている。顔もまあ、そこそこらしい。
そんなオレが一時とはいえこんなカワイイ女の子に群がられているのだ。昔からの友人であるアイツが、多少現実逃避したとしても不思議ではないだろう。
とはいえ、オレだってこの場にいる四人と一生イチャイチャできるとは思っていないし、そもそもハーレム系ラノベのヒロイン達ほど彼女らはオレに依存もしていないし執着もしていない。
そのうち、卒業とかで自然消滅する、一時のモテ期。
とはいえ、この瞬間だけは優越感とか幸福感に浸れる、そんな時間だ。そう思っていた。
そう、思っていたんだ。
「ああ、勇者よ! どうかこの世界をお救いください!」
マジで異世界に召還されるとは、思ってもいなかった。
今後もお願いします。




