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カシミールの王様

作者: 柳 一庵

-1-

今は昔、カシミールに王様がいました。

王様は なんでもできました。


王様が料理人に命じれば どんな食べ物も作ることができます。

王様が仕立屋に命じれば どんな服も仕立てられます。

王様が家来に命じれば  どんなものでも手に入ります。


王様が命じれば どんなものでも手に入ります。

王様は なんでもできました。




-2-

ある日王様は料理人に命じました。


「今日はほうれん草とポテトのサラダ と、

 骨付き肉のカレースープ、

 それに ふかふかの大きな玉子焼きが食べたい。」と


料理人は なんでも作れます。




料理人は市場に行きました。

料理人は王様のために食材を買います。


料理人はお肉屋さんで骨付きの羊の肉を買いました。

料理人は青物屋さんでほうれん草とポテトを買いました。


だけど、卵が手に入りません。


料理人はなんでも作れます。




もう日が暮れる頃です。

料理人は王様のために食材を探します。


料理人は市場の端から端まで歩きました。

料理人の足はもう棒のようでした。


料理人はなんとか 小さな小さなうずらの卵 を買うことができました。


料理人は なんでも作ります。




料理人は 一生懸命作りました。

料理人は王様のために一生懸命作ります。


美味しそうな ほうれん草とポテトのサラダ、

カレーのとても良い香りのする 骨付き肉のスープ、

それに とても小さな小さなうずらの玉子焼き。




王様は 怒りました。


とても小さな、それは小さな玉子焼きを見て怒りました。

王様はふかふかの大きな玉子焼きが食べたかったのです。


王様は料理人をクビにしました。



-3-

ある日王様は仕立屋に命じました。


「冬に着るための新しい服が欲しい。

 ヤギの毛皮で仕立てた暖かい服が欲しい。

 胸に青く大きく綺麗なサファイヤを仕立てた服が欲しい。」と


仕立屋は なんでも仕立てられます。




仕立屋はヤギの毛皮で暖かい服を仕立てます。

王様のために服を仕立てます。


朝から晩まで毛皮を織ります。

王様のために それはそれは暖かい毛皮を織ります。


だけども仕立てた服を飾る サファイヤが手に入りません。


仕立屋は なんでも仕立てます。




仕立屋は寝る間も惜しんでサファイヤを探しました。

王様のために探します。


市場を歩いて、旅の商人を訪ねて。

それでもサファイヤは手に入りません


それでも仕立屋は頑張って代わりのものを探します。

仕立屋はとても綺麗な赤いビードロを手に入れました。




仕立屋は王様の服を仕立てました。

王様のために仕立てました。


それはとてもとても暖かい、

ヤギの毛皮で仕立てられた、白く美しい服です。

胸には赤く綺麗なビードロが光っています。




王様は 怒りました。


王様は赤く光るビードロ見て怒りました。

王様は大きく、青く、美しいサファイヤが輝く服が欲しかったのです。


王様は仕立屋をクビにしました。



-4-

そんな調子で王様の生活が続きました。


料理人が一人去り、仕立屋が一人去りました。

家来がまた一人。


王様の周りから誰もが去っていきます。

王様の周りにはだれもいません。


お城には王様以外だれもいません。


-5-

いくばくかの日が流れました。

カシミールの国にも冬が訪れます。


家来が一人去り、また一人去り、

王様の周りは火を絶やしたかのように静かです。

王様の周りにはだれもいません。




ある日 王様は命じました。


「今日は9つの野菜を煮込んだスープ、

 小麦を焼いた平たいパン、

 それに カスタードのプリンが食べたい。」と

 

だけど 誰も返事はしません。

王様の周りにはもうだれもいないのです。


王様は なんでもできます。




王様は料理の材料を買いに市場に行きました。

でも、王様はどこで何を買えば良いのかわかりません。


王様はお肉屋さんに聞きました。

パンはどこで買えば良いのかと。

お肉屋さんは呆れたように

「パンはパン屋さんで買えるんだよ。」と答えました。

王様はパン屋さんを探します。


王様は青物屋さんに聞きました。

9つの野菜を煮込んだスープはどこで買えば良いのかと。


青物屋さんは呆れたように

「野菜はうちでも買えるよ。

 でも、野菜のスープは自分で作らないと食べられないよ。」と答えました。


でも、王様は何を買えば良いのかわかりません。


王様は牛乳屋さんに聞きました。

カスタードのプリンはどこで買えば良いのかと。


牛乳屋さんは呆れたように

「カスタードのプリンの材料はうちでも買えるよ。

 でも、カスタードのプリンは自分で作らないと食べられないよ。」と答えました。


でも、王様は何を買えば良いのかわかりません。



もう日が暮れる頃です。

王様は市場の端から端まで歩きました。

王様の足はもう棒のようでした。


王様はなんとか 丸いパンと卵だけ 買うことができました。


王様は なんにもできません。




王様は料理をします。


卵を使って大きな玉子焼きを作ります。

でも、王様はどうすれば大きな玉子焼きが作れるのかわかりません。


王様は料理人が料理をしていた様子を思い出しながら料理を作ります。


確か料理人ははじめに玉子を割っていました。

王様が卵を割ると卵に殻が混ざってしまいました。


確か料理人は卵を割った後、フライパンで玉子焼いていました。


王様は玉子を焼きます。


料理人を思い出しながら玉子を焼きます。


火に気をつけながら玉子を焼きます。


でも、王様が玉子を焼けば今度は玉子が焦げてしまいました。

王様はその晩、こげた玉子と丸いパンを食べました。



料理人はあんなにも簡単につくっていました。

王様は なんにもできません。




夜になりました。

季節は冬、王様はガタガタと震えています。


王様の服には穴が空いています。




王様は言いました。

「誰か暖かい服をすぐに用意しろ」と


だけど 誰も返事はしません。

王様の周りにはもうだれもいないのです。


王様は なんでもできます。




王様は仕立屋の残していった仕立て道具で服を繕います。

でも、王様にはどうすれば服を繕えるのかわかりません。


王様は仕立屋が洋服を作ろう様子を思い出しながら洋服を繕います。

確か仕立屋は小さな布を糸と針を使って繕っていました。


王様は針に糸を通します。

でも、針に糸は通りません。

仕立屋のようにはいきません。




どれだけの時間がたったでしょう。

王様はようやく針に糸が通せました。



王様は小さな布を縫い付けます。


王様は仕立屋を思い出しながら縫い付けます。


針に気をつけて布を縫い付けます。



でも、糸は縫った先からスルスルと抜けてしまいます。

王様は服を繕うことができません。


仕立屋はあんなにも簡単に繕っていました。

王様は なんにもできません。




王様はガタガタと部屋の隅で震えています。

ふと部屋の片隅にある赤いビードロのついた服に目が止まります。

王様が仕立屋に仕立てさせた服です。


王様が仕立屋に怒り、一度も袖を通していない服でした。


王様は袖に腕を通します。

それはとてもとても暖かく、胸には赤く綺麗なビードロが光っています。


王様は服を羽織るとあまりの暖かさに涙がこぼれました。


王様は なんにもできません。




王様は 自分ではなにもできなかったことに気が付きました。




-6-

次の日の朝、お城の入り口がガヤガヤと騒がしく、王様は目を覚ましました。


お城の入り口には今までお城から出て行った料理人や仕立屋、家来たちがいました。


みんな王様を心配してお城に戻ってきたのです。


王様は家来たちがイない間自分がなにもできなかったことを言い、いままでのことを謝りました。


家来たちは嬉しそうな顔をすると

そのままニコニコと嫌な顔もせず、

「また、お城で働きたい。」と言いました。


家来はそんな王様が大好きでした。


今は王様も市場に行き、料理もします。

今は王様も服を仕立て、繕います。

王様は どんなことでもやります。


王様は なんでもできます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 外国語を直訳したような文体が良いですね。 私もこういう文体で童話を書いたことがあるのですが、本当にある外国の民話、という感じがして好きなんです。 生まれながらの王様(ふんぞりかえっている…
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