表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

第1話_マ界のマの字はオカマのマ(5)

 魔導産業で栄えたアステア王国。その王都には数多くの魔導ショップが点在する。

 今回ご紹介いたしますのは、魔導ショップ『鴉帽子』!

 三角帽子を被ったいかにも魔女のお姉さんが主人のお店で、魔導の腕前はかなりのものです。中でもクスリの調合に関してはエキスパート、金さえ払えばどんなクスリでも調合してくれます。

 もちろん裏ルートからの仕入れも豊富です♪

 そんな店の常連であるルーファス。

「いらっちゃいませ〜♪」

 童顔の女主人がルーファスとユーリを出迎えてくれた。童顔のクセにカーシャに勝るとも劣らない、スイカップの持ち主だ。

「マリアさんこんにちは」

 ルーファスは軽く挨拶をしてカウンターの前に立った。

「今日はどんなお薬をお求めですかぁ? ルーたんのためにちゃんと胃薬も用意してますよぉ」

「ええっと、じゃあ胃薬をもらおうかな。それとマンドレイクが必要なんですけど」

「少々お待ちくださぁい」

 マリアは後ろの薬箱の中からマンドレイクを探している。

 ユーリはその間に店内を見回した。少し暗めの照明が店内を照らし、どこにでもありそうな内装だった。

 が、ユーリは気づいていた。

 何かが煮え立ったような臭いはいいとして、店の奥から謎の悲鳴が聴こえて来る。それも一つ二つではなく、地獄の釜で煮立つ人間の悲鳴のようだ。

 店の妖しさを感じつつも、クスリのエキスパートだとルーファスに聞いている。ユーリは惚れ薬の調合をしてもらおうか悩んでいた。

 絶対にカーシャは足元を見てくる。あんな人にわざわざ恩を売られることもない。

 マンドレイクを見つけたマリアはそれをカウンターに乗せた。

「まずはマンドレイクね。あとは胃薬を……そうだ、ルーたんそっちの子、もしかして彼女ぉ?」

 マリアの手がルーファスの見えないところで動いている。そんなことにもまったく気づかないルーファス。

「えっ、違いますよ。友達です友達、ユーリっていうんです」

 と、ルーファスがユーリに顔を向けた瞬間、またマリアが何かガソゴソと動いた。

 素っ気無いフリをしながら眼を凝らしていたユーリは、マリアがドクロマークのついているビンを持っていることに気づいた。

 絶対に怪しい!

「な〜んだ、お友達なのねぇ。こんにちわぁユーリたん」

「はい、こんにちは(手元で怪しいことしながら、絶対に表情に出さない。この女できる!)」

 マリアは何気ない顔をしながら、カウンターの下からクスリの小瓶を出した。

「はい、ルーたんの胃薬。またちょっと調合の仕方を変えてみたの、今度こそ効くと思うわぁ」

「前回のも体に合わなかったみたいで、ヒドイ蕁麻疹が出たんだ(いくら新しいのを調合してもらっても効かないんだよね。そんなに僕の胃は弱ってるのかなぁ)」

「ごめんなちゃぁ〜い、今度こそ大丈夫だからわたしを信じてっ!」

 輝く笑顔でルーファスを攻撃。

 この攻撃にいつも負けてしまうルーファス。

 胃薬とマンドレイクのお金をルーファスはカウンターに置いた。もちろんマンドレイク代は立替である。月末はいつもサイフが泣いている。

 ルーファスは紙袋を受け取り、笑顔でユーリに顔を向けた。

「さっ、行こうか?」

「ちょっと先に出ていてくれますか、マリアさんに個人的に頼みたい商品があるので」

「うん、いいよ。すぐ外で待ってるから早くしてね」

 ルーファスが店を出て行き、残されたのはユーリとマリアだけ。

 白い目をしながらユーリはカウンターに詰め寄った。

「マリアさん、あなたルーファスを毒薬の実験台にしてるでしょう?(絶対こんな人に惚れ薬の調合なんて頼まない)」

「うふふ、そんなわけないですよぉ。ルーたんはウチの大事なお得意サマですものぉ(……この女鋭いわね、へっぽこのルーファスとは大違いだわ)」

 はい、マリアたんの裏の顔が見れましたね!

 互いに分厚い仮面を被った者同士の戦いがはじまろうとしていた。

 ユーリはマリアが隠そうとしていたドクロマークのビンを取り上げようとした。

「これ渡しなさい!」

「泥棒行為ですよぉ、早く手を離してくださぁい」

「あんまり強情だと法的手段に出ますよ」

「だったらこっちも営業妨害で訴えますよぉ(摘発の修羅場なんていくらでも掻い潜って来たんだから、こんな小娘になんかに負けるわけないわ)」

 魔導ショップ鴉帽子の主人が、クスリの中でもポイズンエキスパートだということを、この店を利用する者なら誰でも知っている。ルーファス以外は。

 これまでなんども禁止毒薬を扱っていたとして、摘発されそうになってきたが、こうやって営業しているということは、うまく切り抜けてきたということだ。

 だが、ユーリだって負けてはない。

「我が家には絶対負けなしの専属弁護士団がいますが?」

「どこのお嬢さんか知らないけどぉ、そんなハッタリ信じないもん」

「オーデンブルグ財閥ですが何か?」

「えっ?」

 驚いた顔をした瞬間、マリアの手から力が抜け、クスリの瓶が床に向かって落下した。

 すぐにユーリがカウンターから身を乗り出して掴もうとするが――ガシャーン!

 証拠物件Aが木っ端微塵になった。

 マリアが微笑んだ。

「割れちゃいましたねぇ。損害賠償してくださいねぇ(勝ったわ!)」

「もしかして勝ったおつもりですか?(損害賠償なんか絶対してやるか)インターネットにあることないこと書き込みますよ。たとえそれがウソだとしても、騒ぎになれば風評被害に発展しますけど?」

 どこまでも黒いユーリだが、ここで急にマリアが態度を変えた。

「お友達になりませんかぁ?」

「それって和解の申し立てですか?(急にどうしたんだろう……なにか裏があるのかな)」

「あなたが本当にオーデンブルグのお嬢さんなら、お友達になりたいなぁって。だめかしらぁん?(取引ルートの開拓として、オーデンブルグ財閥は最高だものね)」

「アタシがオーデンブルグ家の者だと証明するものを、今は持ち合わせていませんが、それいいなら和解に応じますが?」

「いいわ、お友達になりましょう。これから商売のほうでも仲良くしましょうねぇ」

 差し出されたマリアの手に握手する寸前でユーリは手を止めた。

「では和解の印にマンドレイクの料金を返してください」

「……お金にがめついわね」

「だからウチは大金持ちなんです。あ、でも胃薬代は別にいりませんよ、あれはルーファスの買い物ですから」

 と、言ってユーリはニッコリ笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ