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第4話_氷境の霊竜ヴァッファート〜キャベツよ永遠に・・・(5)

 なんかだとっても晴れ渡っている青空。

 白い山脈が地平線の彼方まで連なっている。

 山頂は天候もよく、広く平坦な地面にうっすら雪が積もっている程度だった。

 遠く王都アステアを見守る白銀のドラゴン。

 純白の霊竜ヴァッファート。

 龍族の中でも多くの知識と強大な魔力を持つ者たちをグレートドラゴンと云い、時として信仰の対象になることもある。

 ヴァッファートもまた、古くからこの地方で信仰され、アステア王国の国旗や国歌にもなっている。

 柔らかな羽毛が風に靡いた。

 静かに振り返るヴァファッート。その鳥のような瞳に少女の姿が映った。

「誰だ?」

 魔力のこもった玲瓏な声はまるで女性のようだ。

「ユーリ・シャルル・ドゥ・オーデンブルグと申します」

「ハーデスから召喚されたなんちゃってサキュバスの……オカマか」

「……オカマじゃないし! てか、なんで知ってるの」

「この国で起こったことは風の噂で届く。王都の三丁目に住んでいるトンヌラさんちの今夜の晩御飯もわかるぞよ」

 そんなのわかる必要ないし!

 ヴァッファートは首を伸ばして顔をユーリに近づけた。

「して、わしになぜ会いに来た?」

「それもわかってるんじゃ?」

「そんなの知るか」

 くだらないことばっかり風の噂で届くらしい。

「(なんかムカツク)カーシャにとりあえずここに来いと言われて来たのですが?」

「えっ、カーシャちゃんのおつかい? そうなったらそうって早く言いなさいよぉん♪」

 テ、テンションが急に変わった。

 ヴァッファートはどこからかコタツと出して、ついでに暖かいお茶と菓子まで用意してくれた。

「ここまでの道のり大変だったでしょう、ゆっくり休んでちょうだいねぇん」

「あ、はい……どうもありがとうございます(なにこの変わり様、このドラゴン威厳のカケラもない)」

 ユーリはお茶菓子のドラ焼きに手をつけた。

「……これって」

 稲妻が落ちたような衝撃。

「ももやのドラ焼きですね!」

「さすがオカマ少年だわ、その味がわかるなんてなかなかの通ねぇん!」

「オカマオカマって言わないでください、周りにはヒミツにしてますので(こんなドラゴンにケンカ売っても勝てないから売らないけど)」

「別にオカマでもいいじゃな〜い、アタイだってオカマよぉん」

 マジですかーっ!

「はっ?」

「アタイがオカマだって言うのはいちようヒミツだけど。まさか王国の守護神とまで言われているアタイがカマだなんて、そんなの知られたら暴動が起きちゃうものね。だから、ここだけのヒ・ミ・ツよぉん!」

 なんかすっごいヒミツを知ってしまったようです。口が裂けても他言無用ですよ。

 急にユーリが真剣な顔をした。

「ところで……」

「ところでぇん?」

「このドラ焼きって自分で買ってるんですか?」

 疑問だ、かなりの疑問点だ。ももやと言えば王都アステアでも人気の和菓子屋だ。ドデカイ変態ドラゴンが店に現れたら邪魔でしょうがない。

 果たして真相は!

「お茶のみ友達のローゼンちゃんがいつもおみやげでくれるのよぉん」

「ローゼンちゃんって……?」

「クリスチャン・ローゼンクロイツ。聖眼の使い手にして、王都でも三本の指に入る魔導士だけど、ちょっぴり電波なのが玉にキズねぇん」

「……ボクは電波じゃないよ(ふあふあ)」

 いつの間にかローゼンクロイツがコタツに入っていた。

 ビックリ驚天のユーリ。

「いつの間に」

「オカマ少年のトークあたりから(ふにふに)」

「……マジですかっ!」

 ユーリちゃんショック!

 バレた……ついにバレた……愛しい人にまでヒミツがバレた。

 ローゼンクロイツは無関心な感じでボソッと。

「知ってたよ(ふあふあ)」

「なにがですか?」

「男の子なの(ふっ)」

 ニヤッとローゼンクロイツはして、すぐに何事もなかったように無表情に戻った。

 ユーリちゃんショック!

 でも、ショックも一周してしまうとどーでもよくなる。

「あはは、知ってたんですかー。ローゼンクロイツ様のことですから、出会ったときから気づいてた感じですねー」

 そして、急に真顔でローゼンクロイツに詰め寄った。

「でも絶対に他言無用ですからね!」

「……それはどうかな(ふっ)」

 邪悪な笑みを浮かべるローゼンクロイツ。すぐにそのまま言葉を続ける。

「……ウソ(ふっ)」

 完全にユーリは弄ばれていた。

「いいです、ローゼンクロイツ様に弄ばれるなら本望です。でも他言無用にしてくださいね」

「わかってるよ(ふにふに)」

「ならアタシもローゼンクロイツ様のヒミツを守りますから」

「なに?(ふにゃ)」

「薔薇仮面ってローゼンクロイツ様ですよね?」

「知らない(ふあふあ)」

 鉄壁のポーカーフェイス。

 ユーリはそっぽを向いてコッソリ舌打ち。

「チッ(でもやっぱり本当にローゼンクロイツ様じゃない可能性もあるけど。髪の色からして違うわけだし)」

 自分の顔をじーっと見つめているヴァッファートにユーリは気づいた。

「(舌打ちしたのバレた?)アタシの顔になにか付いていますか?」

「アナタの顔が彼に似てるのよねぇん」

「アタシに似てるということは絶世美形ですね」

 ユーリの口は大真面目にそんなことを吐ける口だ。

 そして、ヴァッファートはその名を口にした。

「彼はインキュバスだったわ、アタイに名乗った名前はアーヤ」

 その名を聞いてユーリは言葉を失い、なぜか涙がこぼれそうになった。

 サキュバスとインキュバスは同族である。同じ種族でも女をサキュバス、男をインキュバスと云う。ユーリも正確にはインキュバスである。

 インキュバスのアーヤ。そしてユーリに似ている。人違いのはずがなかった。

「お兄様と、お兄様と会ったことがあるんですか!」

「はじめて彼と出逢ったのは数年前だったわね。弟の命を救うために旅をしていると言っていたわ。それでアタイを尋ねて来たのだけれど、残念ながらアタイの手には負えなかったわぁん」

「弟の命……アタシのこと?」

 幼少期の記憶。病弱で死の病に苦しんでいた日々。アーヤは旅好きでいつもどこかに出かけていた。

 アーヤはたくさんのおみやげを持って帰ってくる。そして、旅の話を楽しそうにしてくれた。だから、幼いユーリは気づいていなかった。

「幼いころのアタシはたしかに死の病にかかっていました。お兄様はアタシの病気を治すために旅をしていたんですね、そんなこと一言も言わなかったのに」

 その優しさを知ってユーリは瞳を潤ませ微笑んだ。

 しかし、ユーリには疑問があった。

「実は、お兄様は行方不明なんです。そして、いつから行方不明になったのか、アタシの病気がいつ治ったのか、まったく記憶にないんです。大好きなはずのお兄様の顔すら思えだせなくなってしまったんです。ずっと不思議でしょうがなかった」

 それはすべて繋がっているのだろうか?

 ヴァッファートは真剣な眼差しで話を聞いていた。そして、ユーリをさらに驚かせる一言を発したのだった。

「彼には先日も逢ったわよ」

 涙を振り払いながらユーリは相手に飛び掛る勢いだった。

「先日っていつですか、お兄様はお兄様は元気だったんですか!」

「たしか三日ほど前だったかしらぁん?」

「そんな最近ですか、だったらまだこの国いるかもしれないってことですよね?(そんな近くにいたなんて……逢いたい)」

 衝撃的だった。

 そんなに近くにいながら逢えないなんて……。

 ヴァッファートは沈痛そうな顔をしていた。

「元気だったかという問いなのだけれど……(これは言うべきなのかしら?)」

「お兄様になにかあったんですか!(正直に言わないとヌッコロス)」

「彼は変わり果ててしまっていたわ。別人かと思うほどだったわね」

「どういうことですか、お兄様になにがあったんですか」

「彼の肌は病的なまでに蒼白く、髪も色が抜け落ちて白く、瞳もくすんだ灰色だったわ。そしてアタイも質問したの、貴公の美しさはいずこへ逝ってしまったのかと。そしたら彼は笑ってなにも答えてくれなかったわ。ただ『弟の命を救うことができました』とだけ……」

「アタシのせいで……」

 きっとアーヤはユーリを助けるために『何か』を失ってしまったのだろう。

 その想いはユーリにとって重たいものだった。大切な人から『何か』を奪うことは本意ではない。

「(それならアタシが死んだほうがマシだった……)」

 いつも自分中心のユーリがそう思えたこと、胸の奥でトキメキが輝きはじめていた。

 突然、ヴァッファートが顔を上げた。

「何者じゃ!」

 オカマモードではなくマジモード。

 次の瞬間、ヴァッファートの顔面で巨大な爆発が起きた。

 硝煙と雪煙に映る二つのシルエット。

「貴様には何の怨みもないが、二五パーセントオフで受けてしまった依頼だ。覚悟しろ!」

 謎のシルエットから大量の暗器が飛び出した。

 果たしてこのシルエットの正体はっ!

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