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第4話_氷境の霊竜ヴァッファート〜キャベツよ永遠に・・・(4)

 暗闇。

 瞳を開けた感覚はあるのに視界は真っ暗。

 体も金縛りにあったように動かない。

 ユーリの意識は夢の中にいるように、少しぼんやりとしていた。

「(雪に埋もれちゃったのかな、誰にも発見されずに衰弱死なんて老人の孤独死みたいでイヤだなぁ)」

 カイロのせいか寒くはない。

 物音が聞こえた。

 雪の中にいるにしてはとてもクリアな音質。まるでドアを開けるような音。

 そして、誰かの声が聞こえた。

「あーっ!」

「(……ルーファス?)」

 急に世界に光が差し込んだ。

 ユーリの目に飛び込んできたのは鼻血だった。

 ルーファスの姿はどこにも見えない。まだ暗闇はすべて明けず、隙間から光が差し込んでくる感じだ。

 ノックの音が聴こえたような気がする。

「すみません起きてくださーい!」

 またルーファスの声だ。やっぱりルーファスが近くにいる。

 もっと強いノックの音。

「あの、起きてもらえませんか!」

「(アタシ起きてるし。あれ、声がでない……まさか幽体離脱)」

 ユーリはハッとした。意識があるのに体が動かない。しかもルーファスはユーリが起きないと思っているらしい。この情報を整理して導き出された回答は幽体離脱!

 いきなりユーリの体が揺れた。

 ルーファスの声が聞こえる。

「……開かない……開いてよ!」

 開く?

 辺りは急に白い煙に包まれた。その向こう側に映るルーファスの影。

「なんか不味いことしちゃったぁ?!」

 やっとルーファスの姿が見えた。

 でも向うはまだ煙でこちらが見えていないらしい。

 不意に伸ばされたルーファスの手をユーリは止めようとした。

「(そこ胸だし、触っちゃダメ!)」

 でも、声もでないし体も動かない。

 ズボッと自分の体にルーファスの手が呑み込まれた感覚がユーリを襲う。

「(なにっ)」

「ぎゃー!」

 叫び声をあげてルーファスは手を抜こうとしている。

 ユーリにはまったくなにが起きているのかわからなかった。そして、体からエネルギーがどんどん吸われていく感覚。

 急に動かなかった体が飛び起きてルーファスの襟首に掴みかかった。

「貴様、なにをしておるのだ!(えっ、なに、アタシの声じゃないし、体が勝手に動いてる)」

 パニック状態のユーリ。

 なにかが可笑しい。

 ルーファスは相手の体に手を突っ込んだまま慌てている。

「あ、あの、その手が抜けないんですけど……?」

「妾の寝込みを襲うとは許せんぞ!(妾ってなに妾って てゆか、このルーファス若くない?)」

「ご、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないんだけど、そのなんていうか」

 不可抗力

「とにかく妾の胸から手を……手を……(ヤバイ、意識が飛びそう)」

 ルーファスにマナが吸われている。

 慌ててルーファスは手を抜こうと頑張った。

「ごめんなさい今抜きますから!」

 力を込めるとズボッと手が抜けて、ルーファスは反動で尻餅をついた。

 しかし、体内マナを吸われた体の衰弱は収まらない。

 ユーリの体が勝手に動いて柩の中から這い出た。違う、ユーリの体じゃない。

「(違う、これアタシじゃない。誰だからわからないけど、誰かの体の中に入っちゃったのかも!)」

 謎の女の体はドロドロに溶けかかっていた。まるで溶けたアイスクリームだ。

「妾のマナ……返して……もらうぞ!(わかった、この声カーシャだ!)」

 ルーファスに襲い掛かる――全裸のカーシャ!

 鼻血ブー!

 ルーファスの鼻血がカーシャにかかり、ドロドロの身体に混ざり合ってしまった。

「妾の身体に……不純物が……(キモッ!)」

 カーシャはそのまま倒れこむようにルーファスと重なった。

 そして、ブチュ〜っとキッス!

 ルーファスとカーシャの唇が重なった。

 その感覚はユーリにも伝わっていた。

「(……ア、アタシのファーストキス!!!11)」

 口を通してルーファスからカーシャにマナが流れ込む。奪われたマナを接吻で取り返す気だ。

 しかし、カーシャは途中で口を離した。

「駄目だ……接吻だけでは完全ではない(あはは、あははは……)」

 ユーリちゃんは壊れていた。

 多少はマナを取り返し、ドロドロだったカーシャの体は固形化していた。

 こっちの被害者も放心状態だった。

 鼻血を垂れ流しているルーファスの免疫ゼロ!

 放心しているルーファスの頬をカーシャが引っぱたいた。

「おい、目を覚まさんか!(あはは、これが夢だったらいいのに)」

「うっ! 覚ましましたから、もう手とか構えないでください」

 カーシャの手は二発目を構えていた。

「うむ、目を覚ましたならよかろう。さて、妾の裸を見た代金を払ってもらおうか、接吻はサービスだ(やっぱりなんでも金か)」

「はぁ?」

「ウソだ(ウソかよっ!)」

「あのぉ、とにかく服を着てもらえませんか?」

「ダメだ(体が動かないせいでよくわからないけど、豊満な谷間だけは見える)」

「はぁ」

 ルーファスの目はいろんなところを行ったり来たり。目のやり場に困る。なのに相手は服を着ることを拒否。

 なぜ?

「貴様が妾から奪ったマナを取り戻すため、今から性交渉をする(シネ!)」

「はぁ?」

「聞こえんかったか? 今から妾は貴様とセック(それ以上言ったらヌッコロス!)」

「あーあーあーあー 聞こえましたからそれ以上は言わなくていいですから!」

「なら話は早い。ヤルぞ(これってまさかアタシの貞操の危機)」

「ちょ、待った!」

 明らかにルーファスは腰が引けていた。

 全裸のカーシャは爆乳を揺らしてルーファスに近づいてくる。

「なにを待てと言うのだ? 元はと言えば、貴様が妾の眠りを覚ましたのが悪いのだぞ?(眠りを覚ましたって、どういうことなんだろう?)」

「あの、私たち知り合ったばかりですしー」

「妾の名前はカーシャだ。以上自己紹介終わり。これでいいな?(やっぱりカーシャなんだ)」

「よくないし!」

 声を張って抵抗。

「ならば仕方ない。妾の名前はカーシャ、この城の主だ。過去の大戦で敗北し、この柩で静養していた。おそらく百年……いや、千年か、よくわからんが、貴様が妾の眠りを覚ますまで、妾は気持ちよく眠りに落ちていたのだ……わかるか安眠を妨害された妾の気持ちが?(どういうこと、カーシャって何者なの?)」

「わかります、人に起こされると寝覚めが悪いですよねー」

「ならば、ヤルぞ?(ヤルな!)」

「だ、だからそれは……」

「まさか……チェリーボーイか!(そんなことどうでもいいし!)」

「そ、そーゆーことじゃなくて、知り合ったばかりの女性とそういう関係を持つのは、従順なガイア聖教の信者としては……ダメかなぁって」

「うるさい、とにかく妾のマナを返してもらうぞ(止めなきゃ、でも体が自由にならない)」

「ちょちょちょ、やっぱりダメですってば!」

 ルーファス逃亡。

 なんかこうなったら逃げるしかない。

「こら待て!(追わなくていいし!)」

「待てません!」

 必死に逃げるルーファス。なんか肉食獣に言われる草食動物。

 急に全力で走ろうとしたカーシャが眩暈を起こした。

 そのままユーリの視界も真っ暗に――。


 恐ろしいくらいの汗を掻きながらユーリは柩から飛び起きた。

「……ハァハァ(なに今の……全部夢?)」

 目を覚ましたその場所はどこかの部屋だった。

 見覚えのある部屋。

「ここって……さっきの場所じゃん」

 今見ていた夢と同じ場所にいた。

 ユーリはよっこらせと柩から這い出た。

 ピンクの壁紙、可愛らしいぬいぐるみの群れ、まるで幼いお姫様のような部屋だった。

「(なのにベッドが柩って)」

 趣味が破綻している。

 ユーリは辺りをじっくり観察した。

「(さっきの夢ってなんだったんだろう。偶然見たにしては出来すぎてるし、この部屋に残った思念……だとすると現実にあったことになるわけで、この部屋はカーシャの部屋?)」

 ぬいぐるみの中でなにかが動いた。

 ガサゴソ、ガサゴソ。

「誰かいるの?」

「ウキーッ!」

 ぬいぐるみ中から白いサルが飛び出した。

「本物のサル」

 グラーシュ山脈にのみ生息する珍獣ホワイキー。専門家やマニアだったら目から鱗のご対面だが、そんな知識ユーリにはなかった。ちなみクラウス国王はマニアらしい。

 部屋を飛び出したホワイキーをユーリが追う。

 かなりすばしっこいサルだ。まったく追いつけない。

 追いかけているうちにこの場所がかなり巨大な城らしいことがわかった。

 ホワイキーを追っていると、王の間らしい場所に辿り着いてしまった。

 玉座に続くレッドカーペット。その玉座の後ろには巨大な肖像画が掛けられていた。

「カーシャ?(でも今と雰囲気が違う。この絵のカーシャは金髪で蒼い眼だけど、アタシが知ってるのは黒髪で黒い眼だし)」

 気配を感じた。

 ユーリが振り向くと物陰にホワイキーがいた。

「ちょっと待っておさるさん!」

 待ってくれなかった。

 ホワイキーは姿を消してしまったが、その場所には缶詰などの保存食が置かれていた。

「(おさるさんがアタシにくれたのかな?)」

 でも缶切りがないので開かない!

「(プルトップ式にしてよ)」

 缶詰のほかにも缶ジュースもあった。コーンポタージュだ。

 とりあえずコンポタだけ飲むことにした。

「あ〜、あったか〜い」

 すっかりマッタリしていると、また気配がした。

 急いで振り向く。

 ホワイキーがこっちを見ている。

「そこで待っておさるさん!」

「ウッキー!」

 待ってくれなかった。

 ユーリはホワイキーを全速力で追いかけた。

 そして、長い長い廊下を走らされてやってきたのは――。

「この装置は……?」

 井戸のような穴。真っ白い光の渦が水のように満たされている。

「(古代の転送装置。いくつもあるけど、どこに通じてるんだろ?)」

 井戸のような転送装置は〈旅水〉と呼ばれ、世界の各地に遺跡として残っている。

 その〈旅水〉がこの部屋にはいくつもあった。まるでモグラ叩きのような光景だ。

 いつの間にかホワイキーはユーリの傍らにいた。

「ウキキー!」

「もしかしてここに案内してくれたの?」

「ウキー!」

「でもどこに通じてるのかわからない。文字が書いてあるんだけど、ぜんぜん知らない文字だし。ヴァッファートのところに行きたいんだけどわかる?」

「ウッキー!」

 ホワイキーは〈旅水〉の一つを選び、その前で呼ぶように飛び跳ねた。

「そこに入ればいいの?」

「ウッキー♪」

「ありがとね、おさるさん♪」

 ユーリはホワイキーを信じて〈旅水〉の中に飛び込んだ。

 光の玉が飛沫を上げ、光の波紋の中にユーリは消えたのだった。

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