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第4話_氷境の霊竜ヴァッファート〜キャベツよ永遠に・・・(3)

 ガイアの北極と南極に位置する大陸の名を、北ウーラティアと南ウーラティアという。このウーラティアという名のついた地方がサーベ大陸にはある。アステア王国のあるウーラティア地方は過ごしやすい気候の地域で、極寒の地ウーラティアの名にふさわしくないように思える。

 では、なぜそのような名がついているのか?

 諸説ある話の中でも有力とされているのは、グラーシュ山脈と呼ばれる極寒の地の存在だ。

 気象学的にはありえないが、グラーシュ山脈一帯のみが極寒で、周りの地域はいたって正常な気候なのである。まるで冷房の効いた部屋から、炎天下の外に出たような感覚だ。その特殊な気候を可能とするのがマナストーンの存在だ。

 万物すべてに宿るエネルギー、マナ。それが多く集まるとマナフレアという目に見える形になり、さらにマナを凝縮させて結晶化したものがマナストーンと呼ばれる。一握りのマナストーンですら、それは都市一つを吹き飛ばす武器となる。もっと巨大な物となれば、天変地異すら起こすことができるのだ。

 そのマナストーンがグラーシュ山脈のどこかにあるのではないかと云われている。

 クラウス魔導学院の遠足という名の地獄の校外実習でも訪れるグラーシュ山脈。そんな死と隣り合わせの極寒の地にユーリは来ていた。

「……しまった、一人で来るんじゃなかった」

 さっそく帰ろうとしているユーリ。

 まだまだ入り口付近にも関わらず十分に寒い。もっと奥に踏み込んだらもっと寒い。さらにもっと踏み込んだらもっともっと寒い。

「とにかく寒い!(ビビちゃんにコート貸してもらったけど、こんな装備じゃ凍え死ねるかも)」

 なんでこんな場所にやって来たかというと、カーシャからもらったメモにこう書かれていたのだ。

 ――グラーシュ山脈に棲んでいるヴァッファートに会いに行け。

 それだけかいっ!

 本当にカーシャのことを信じていいのか、いや……信じちゃいけない。

「うん、帰ろ♪」

 帰ろうと体を一八〇度回転させると、ユーリの目に見覚えのある二人が映った。

「あっ、ローゼンクロイツ様とその下僕!」

「下僕じゃないから」

 ルーファスは嫌そうに呟いた。

 傍らにいたローゼンクロイツはワザとらしく驚いた表情をしていた。

「ルーファスってボクの下僕だったのかい(ふにゃ)」

「そんなわけないでしょ」

「……知ってるよ(ふっ)」

 苦笑するローゼンクロイツ。あきらかにからわかれただけだ。

 どうしてこんな場所に二人がいるのだろうか?

「あのぉ、お二人はなぜここにいるんですか?(まさか、ローゼンクロイツ様とアタシの愛の絆)」

 ローゼンクロイツはきょとんをした顔をしてルーファスを見る。

「どうしているの?(ふあふあ)」

 ワザとなのか、ワザとなのか……それともマジなのか?

 ルーファスは呆れた顔で答える。

「君はカーシャと出席日数の取引したんでしょ」

「そうだったね、出席日数を改ざんしてやるからヴァッファートに会って来いって言われたんだった(ふにふに)」

「そして私はなぜだか知らないけど、とにかく行けってカーシャに命令されたんだ。ユーリはどうしてここにいるの?」

「アタシもヴァッファートに会いに行くんです。もしかして、カーシャ先生はアタシのためにお二人を寄こした……」

 ここまで言って三人の声が重なった。

「ないですね」&「ないない」&「ないよ(ふっ)」

 三人ともカーシャの命令でヴァッファートに会いに行くらしい。ちゃんとした目的があるユーリは覗いて、二人は会いに行くこと自体にはなんの意味があるのだろうか?

 ユーリは自分の唇を触りながら考えはじめた。

「実はアタシ、ルーファスのせいでノースに召喚された際、魔法などの力を使えなくなってしまったんです。その力を取り戻すためにカーシャ先生にヴァッファートに会い行くように指示されたのですが、もしかしたらカーシャ先生には別の思惑が……(ないハズがない)」

 なにか思惑があるとしても、こっちは出席日数がかかっている。

「別に魔女がどんな思惑を抱いていようとボクには関係ないよ(ふあふあ)」

 こっちも行かないわけには行かなかった。

「私もカーシャに命令されちゃったから、反抗するとあとが怖い。しかも寄りによってこの山なんて……(カーシャとはじめて遭った場所だもんね)」

 ものすっごいドンヨリした顔をするルーファス。そんな顔をしながらもルーファスは行く。

 ユーリは難しい顔をしてルーファスを見つめる。

「ルーファスとカーシャ先生はどういった関係なんですか?(ただの教師と生徒の関係には見えない。もっと深い関係のように思えるけど)」

「えーっと、まあ、その、腐れ縁を結んだ関係というか……」

「まさかお母さんですか!」

「違うし!」

 断固否定。

 今はこれ以上聞いても答えてくれそうにない。

「話したくないならいいです(前にルーファスを操ったときに、たしかに感じたカーシャのマナ)」

 ユーリは疑惑の眼差しでルーファスを見つめ続けているが、それを払拭するように彼は気合を入れて拳を上げた。

「よーし、がんばって行こう!」

 そして、すでにローゼンクロイツは先を歩いていた。ものすごいマイペースです。

 ユーリは駆け足でローゼンクロイツのあとを追う。

「ローゼンクロイツ様、待ってくださいよぉ!」

 持つとか待たないとかの次元を無視して、ローゼンクロイツは歩き続ける。

 広がる銀色の雪原。三人の足跡が雪の上に残る。

 すでにもうだいぶ寒いが、まだ生物の生存圏である。グラーシュ山脈全体の平均気温は零下二〇度以下と云われ、最低は零下五〇〜六〇度らしい。だいたい南極と北極に匹敵する寒さだ。

 グラーシュ山脈周辺は外の地域と温度差が激しいため、隔離された空間に特殊な生態系を持っている。どこの自然界でも同じだが、生物はその場所に適用する能力を持っている。そのわかりやすい例が擬態と言って、生物は周りの風景に溶け込む模様や形をしている。雪原などでは白い毛並みの動物が多い。

 三人が歩く前方の崖をぴょんぴょん登る物体を発見。

 白く長い毛と先の分かれた枝のような角。

 ルーファスは懐かしそうに指差した。

「ほら見てよグラーシュシロシカだよ。懐かしいな、クラウスにツーショット写真撮ってもらったっけ」

「クラウスってアステア国王の名前と同じですね(イケメンだったなぁ)」

 ユーリが鍛冶対決騒動のことを思い出していると、ルーファスはサラッと言い放つ。

「だって私と同級生だよ、ローゼンクロイツと私はかなり長い付き合いだし」

「あはは……マジですかっ!(まさか国王とマブダチだったなんて、侮れないルーファス。まさか普段の使えない感じは演技で、その招待は公儀隠密。あの冴えないグルグル眼鏡は正体を隠すため……ないな)」

 あっさり妄想を否定した。

 だんだんと奥に進むと寒さは厳しく、山らしく道も斜めに傾きはじめていた。

 ユーリは自分の体を抱いて寒さに耐えていた。

「これからもっと寒くなるんでしょうか、死ねる気満々なんですが?」

 ユーリがビビに借りたのは秋物コートだった。零下二〇度なんか非対応だ。

 ローゼンクロイツは白い毛皮を首に巻いている程度で、ルーファスはそれほど厚着ではない。なのにまったく寒そうにしていない。

 子供は風の子という問題ではないのかあきらかだ!

 ルーファスはポケットから何か取り出して、不思議そうな顔をしてユーリに尋ねる。

「これ使ってないの?」

「なんですかこれ?」

「クラウス魔導学院購買部オリジナル商品、使い捨てカイロだよ。太陽神アウロの力がどーとかこーとかで、どんな寒さでもへっちゃらだよ」

「……早く出せよ!」

 ユーリちゃんのグーパンチ炸裂!

 ルーファスの鼻血が雪を鮮やかに彩った。

 さっそく説明書を読んだユーリは、背を向けておへその下にカイロを貼った。この場所に貼ることによって、全身がぽっかぽかになる仕様らしい。

「嗚呼、春のような心地よさ(まるでお兄様の温もりのよう)」

 そんな幸せ気分のユーリは迫り来る危機にまったく気づいていなかった。

 遠くを眺めていたローゼンクロイツがボソッと呟く。

「……雪崩ふにふに

 波というよりもはや壁。巨大な雪崩が三人を呑み込もうとしていた。

 すぐさまローゼンクロイツは持っていた日傘を開いて盾にした。

 慌てたルーファスはとりあえず盆踊り。

 ユーリは雪の壁に満面の笑み。

「あはは、絶対死ぬし」

 ズザァァァァーーーッン

 雪崩はすべてを呑み込んでしまった。

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