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第4話_氷境の霊竜ヴァッファート〜キャベツよ永遠に・・・(1)

 とても幼いユーリは今日もベッドから窓の外の景色を眺めていた。

 遠い遠い夕焼けの向うへ羽ばたく鳥たちの群れ。

 ユーリは哀しい顔をしてベッドに潜った。

 小さくユーリは咳き込んだ。

 大きな屋敷の小さな牢獄。

 メイドが部屋のドアをノックして入ってきた。

「ユーリ様、お薬の時間です」

「いらない」

 ユーリはベッドに潜ったまま答えた。

 薬を持って近寄って来ようとするメイド。

「お薬を飲みませんとご病気も治りませんよ」

「うるさい、出てけ!」

 ユーリは枕を投げてメイドの顔面にぶつけた。

 仕方なくメイドは薬を置いて部屋を出て行ってしまった。

 小さく咳き込むユーリ。でも、薬を飲む気にはなれなかった。

 ベッドに潜って何もしない時間が過ぎていく。

 窓がガタガタと音を立てた。風だろうか?

「愛してるよユーリ!」

 窓を開けてアーヤが飛び込んできた。

「おにいたん!」

 今までがウソのようにユーリは笑顔でアーヤを迎えた。

 アーヤは大量の紙袋を持っていた。紙袋には美少女のイラストが描かれている。外で持って歩くには勇気が必要だ。

「今日もたくさんおみやげ買ってきたよ。ユーリが気に入るものがあるといいなぁ」

「おにいたん今度はどこに行って来たのぉ?」

 アーヤは旅に出るのが好きで、いつもいろいろなとこに行ってはおみやげを持って帰ってくる。それは物であったり話であったり、ユーリはいつもそのおみやげを楽しみにしていた。

 楽しそうな顔をしてユーリは紙袋の中身を調べている。

「今度の旅もいろいろなところに行って来たよ。中でもメイドカフェというところでは実に有意義な時間が過ごせたね」

「メイドカフェ?」

「メイドさんが接客してくれるカフェなんだ。おにぎりを目の前で握ってくれたり、ケチャップで絵を描いてくれるサービスもあるんだよ」

「……メイドならウチにもいると思うけど」

「それは違うよユーリ。あの店にはオタクのロマンがあるんだぁっ!」

 ギュッと拳を握って瞳の奥に炎を宿したアーヤ。

 アーヤは次々と紙袋から戦利品を取り出してベッドの上に並べはじめた。

 ほとんど同人誌だった。しかもほとんどBL系。

「お、おにいたん……これって……?」

 同人誌の中身を読んだユーリの鼻からツーッと赤い液体が流れた。

「ああ、それはボクの個人的なおみやげだよ。ユーリのおみやげはこっち」

 そう言いながらユーリは紙袋から衣装を取り出した。

 それを見たユーリは首を傾げた。

「水着?」

「違うよ、これはブルマと言ってね、女子が運動のときに着る神秘かつ伝統の衣装なんだ。残念なことに今ではその風習も忘れられ絶滅の危機に……」

 ブルマを握り締めながら熱く語るアーヤの姿は間違いなく変態だ。

 いきなりアーヤがユーリに襲い掛かった。

「さあ、お着替えの時間だよ!」

「イヤっ、おにいたん恥ずかしい」

「嗚呼、恥らうユーリもカワイイよ」

「お着替えなら自分でする!」

「自分で着替えるのもボクが着替えさすのも同じだよ♪」

 あきらかに違います。

 ユーリは顔を真っ赤にさせながら脱がされそうな服を死守する。

「恥ずかしいよぉ」

「わかった、ユーリ独りに恥ずかしい思いはさせないよ。ボクも脱ごう!」

「脱がないで!」

 でもアーヤは神業で一瞬にして服を脱ぎ捨ててしまった。

 股間の布をゆらゆらさせながら仁王立ちするアーヤ。

「どうだい? たまにはデザインを変えてみようと思ってね」

 ヒョウ柄のふんどし

 ブハーッ!

 ユーリは鼻血が噴射させた。

「大丈夫かいユーリ! そんなに体液を垂れ流したらまた体に障るよ!」

「……もう十分弱ってる」

 変態の兄がいる限り、いつも貧血に悩まされる。

 急にアーヤが悲しそうな顔をした。

「ごめんねユーリ、こんな兄で……」

「どうしたのおにいたん?」

「ユーリのことを愛してるのにね、どうも空回りしてしまう。押し売りの愛は本当の愛じゃない、本当に相手のことを想うなら自分の気持ちを抑えなきゃいけないこともあるんだ」

「わからないよぉ」

「もう少しユーリが大人になればわかるときも来るさ」

「ユーリ大人だよ、キャッシュカードも一人で使えるし、マネーロンダリングも得意だよ」

 マネーロンダリングとは汚れた金の出所を隠して、合法的で綺麗な金ですよと騙す行為である。子供のやることじゃねぇ!

 アーヤはティッシュでユーリの鼻血を拭いた。

「もともと体が弱いのに、ボクがいたらいつまで経っても良くならないね」

「おにいたんがいてくれたらユーリ元気だよ!」

「あはは、ありがとう。でもボクなんかいないほうがいいのかもしれない、この家にとっても。家督だってシーナが継げばいいし、ユーリだっているんだし」

「ユーリ、シィ兄きら〜い」

「そんなこと言っちゃダメだよ。あいつはちょっと性格が破綻しているところがあるけど、本当は優しいヤツなんだ。それに人を嫌うのはよくないよ、憎しみは誰も幸せにできないからね」

 アーヤはユーリの頭を優しく撫でた。

 でもユーリは不満そうに唇を尖らせていた。

「ユーリわかんなぁ〜い。シィ兄なんてバナナの皮で滑って死ねばいいのに」

「ダメだよ、死を簡単に口にしちゃ」

「ふん、みんな死ねばいいのに。ユーリだってもうすぐ死ぬんでしょ、知ってるんだから」

「そんなことないよ、すぐに元気になるさ」

「そうやってみんなユーリにウソつくんだもん、みんなキライ!」

「絶対元気になるよ、必ず、必ず……必ずね」

 その言葉はまるでなにか自分に言い聞かせているようだった。

 思いつめたようなアーヤの横顔。

 どの想い出ものっぺらぼうのお兄様の顔。なぜその横顔だけは覚えている。しかし、それが本当にお兄様の顔だったのか、もしかしたら想像が作り出した産物かもしれない。

 アーヤは近くにあった薬を見つけたようだった。

「ちゃんとクスリを飲まなきゃダメじゃないか」

「飲みたくないんだもん」

「仕方がないなぁ、ワガママなお姫様なんだから」

 そう言ってアーヤは薬を口に含むと、ユーリにキスをしようとした。

 ブハーッ!

 今日も元気に鼻血ブー。

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