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第3話_OH エド捕物帖オウジサマン!(8)

 奇跡は起きた!

 自分たちが負けそうになってるもんだから、ダイカーンはコッソリ逃げようしていた。

 そこへターザンロープでビューンっと現れた男がダイカーンにキック!

「待たせたな野郎ども!」

 ダイカーンをやっつけて現れたのはクルダだった。

 ダンナな姿を見てアルマが眼を輝かせる。

「アンタ!」

「おうハニー、帰りが遅くなっちまったな」

 再会した二人は駆け寄り……人妻怒りの鉄拳!

 強烈なパンチがクルダの顔面にヒットした。

「アンタ今までどこでほっつき歩いてたんだい!」

「いきなり殴るこったねえだろ。これの材料を採りに行ってたんだよ」

 クルダは背負っていた大剣をアルマに渡した。

「アンタ……これは?」

「抜いてみな」

 言われたとおりアルマが大剣を鞘から抜くと、辺りは一瞬にしてまばゆい光に包まれたのだ。

「これは……ホワイトムーンで作った剣じゃないか」

「そうとも、俺が鍛えた最高の剣だ」

「……アンタ」

 アルマは少し涙ぐんでいたが、決してその雫を溢すことはなかった。

 雨降って地固まる的に夫婦の絆が深まっている横で、鼻血を流しながらダイカーンはコッソリ赤ちゃん歩きで逃げようとしていた。

 しかし、悪は決して許されないのデース!

 逃げようしているダイカーンの首に刀が突きつけられた。

「逃がさんぞ小悪党め」

 ハスキーボイスでエルザは威嚇した。

 ちょっとでもダイカーンが動けば、待っているはデス(死)!

 騒ぎも静まりを見せ、ダイカーン側に最後の止めが討たれた。

 エルザが大声を部屋中に響かせる。

「皆のもの静まれ、静まれ!」

 なにごとかとエルザに視線が集まった。

「頭が高い控えおろう。こちらに居わす方をどなたと心得る――ここに居わすは第十三代アステア王国国王陛下、クラウス・アステア様であらせられるぞ!」

 と、紹介された重装備の男はフルフェイスのヘルメットを脱ごうとするが――脱げない!

「エルザちょっと手伝ってくれないか、コレが抜けないんだ」

「少々お待ちを……クソっ、抜けん……おのれ!」

 ヘルメットと格闘する二人。

 そんな姿を見る皆のものは疑いの眼差しで見ていた。

 ――本当にアレって国王なのか?

 そんな疑念が人々に伝染しはじめたころ、ついにヘルメットがスポンと音を立てて抜けた。

「……ふぅ、苦しかった」

 ブロンドの髪を掻き上げて額の汗を拭う美青年。その顔を見たダイカーンのアゴが抜けた。

「クラウス国王様!」

 名を呼ばれたクラウスは白い歯を見せながら爽やかに笑った。きっと額から零れ落ちているのは汗ではなく香水に違いない!

「やあダイカーン。僕の眼が届かないところで散々悪さをしてくれたみたいだね」

「滅相もございません、これは誰かに陰謀なのです。わしを陥れようとする抵抗勢力の仕業に違いありません!」

 まだ言い逃れをするダイカーンの前に、ロープでグルグルされたエチゴヤが突き出された。エチゴヤは白目を剥いて気絶している。

 その傍らに立っている薔薇仮面が録音テープを再生した。

《あっしはダイカーン様に脅されてやったんでさ。ダイカーン様の悪事を洗いざらい吐きますから、どーか……どーかあっしだけはご勘弁を……ぎゃぁぁぁっ!》

 テープを聴いたダイカーンは顔を真っ赤にした。

「おのれ裏切りおったなエチゴヤ!」

 暴れようとするダイカーンをクラウス側に寝返った私兵たちが取り押さえた。

 エルザが勝ち誇った顔で出口を指し示す。

「その者を引っ立て!」

 ダイカーンとエチゴヤはズルズル引きずられて行ってしまった。

 クラウスは前髪を掻き上げて爽やか笑顔。

 これにて一件落着……と思いきや、ユーリはハッとした。

「(しまった美形の王様に見惚れてた。予想より大幅に若くてあれなら恋愛対象……じゃなくて)ジャド、大丈夫ジャド!」

 今の今までジャドは放置されていた。

 ユーリはジャドの体を揺さぶった(本当は怪我人を揺すってはいけません)。

 するとジャドが静かに眼を覚ました。

「……朝か、よく寝たな」

 何事もなかったように目覚めたジャド。

 ぼーぜんとするユーリ。

「ジャド……おなかの傷は?」

「ん……傷だと? ああ、これか、これなら寝たから治ったぞ。俺の躰は日ごろの鍛錬のお陰で寝ればすぐに傷が癒えるんだ」

「は?」

 ユーリが握り締めていた小瓶が木っ端微塵に砕けた。

 そのまま百年の恋も冷めるパーンチ!

「グハッ!」

 痛くなくてもやっぱり気絶。ジャドは動かなくなった。

 興奮状態のユーリは嗅覚が鋭くなっていて、その鼻に微かな匂いが届いた。

「……香水?(これはアフロディテ社のヒット商品、ローゼンサーガの香りだ)」

 そんなことをユーリが思っていると、辺りは少し騒がしさに包まれていた。

 エルザが怒鳴る。

「薔薇仮面を探せ!」

 どうやら薔薇仮面はいつの間にか姿を消していたようだ――納豆の香りを残して。

 クラウスは爽やかに笑っていた。

「まあいいじゃないか、彼女のお陰でダイカーンの悪事も陽の下に晒されたわけだしね」

「クラウス様、ヤツは犯罪者なのですよ!」

 エルザは納得いかないようだが、すべてクラウスの笑顔で流されてしまった。

「まあまあ、逃げられてしまったものは仕方ないさ。騒ぎも治まったことだし、鍛冶対決の続きをしようじゃないか」

 とは言ってもダイカーンの手が回っていた鍛冶屋は一緒に連行されてしまっている。

 残っているのはドラゴンファングが献上する剣のみ。

 クルダとアルマは夫婦揃ってクラウスに大剣を献上した。

 大剣を手にとって刃を見つめるクラウス。

「優しい輝きを持つ剣だね。これならばランバード王も満足してくれるだろう。エクスカリパー側の剣はどうなったんだい?」

 その剣を差し出したのはユーリだった。

「ここにございます」

 しれっとした顔でユーリが渡したのはくにょくにょ剣だった。

 驚いたアルマが口を挟もうとしたのを、ユーリが唇の前で人差し指を立てて止めた。

 くにょくにょ剣を手の取ったクラウスは苦笑した。

「うん、なかなか独創的な剣だね。芸術的ではあるけれど、ランバード王は実用的な剣を好むだろう。この勝負、ドラゴンファングの勝ちってことでいいかな?」

 これにて一件落着!


 今日のユーリちゃんはウキウキ気分♪

 ギルドから報酬をもらってビビちゃんへのプレゼントを買ったのだ。

 桐の箱に入った高級フルーツのピンクボム。またの名をラアマレ・ア・カピス。古代語でラアマレ・ア・カピスとは『神々のおやつ』と云う意味だ。

 ピンクボムはビビの大好物だ。これさえあれば勝てるとユーリは確信していた。

 学生宿舎の廊下をスキップするユーリに声がかけられた。

「ユーリさん!」

「ん?」

 アインが息を切らせながら駆け寄ってきた。

「こんにちはユーリさん、捜索しました」

「こんにちはアインちゃん♪」

「なにかラッキーイベントでもありました?」

「うん、ちょっとね」

 ユーリはニヤニヤが抑えられなかった。

 アインは改まった感じでこんな話しをはじめた。

「えと、実は父がグラーシュ山脈で遭難したときに、ある人に救助してもらったそうなんです」

「それがどうかしたの?」

「その人が至極高価な鉱石を用意してくださって、あの剣を作ることができたそうなんですけど、その人はどうやらユーリさんのこと探してたみたいなんです」

「まさか……」

 ユーリの脳裏に浮かぶ黒頭巾。

 次のヒントでユーリの想像は確信となる。

「腹話術をする『変な人』だったらしいんですけど、名前はたしか……」

「セバスちゃんでしょ」

「そうです、その人です。あのぉ、その方に会ったら父がお礼を言っておいて欲しいと言ってました。なんだかお礼を言う前に姿を消しちゃったみたいで」

「うん、わかった(会えるかわかんないけど)」

「ありがとうございます!」

 元気にアインはお礼を言って、次に別れを告げようとしたところに、ユーリからこんな話を振られた。

「ところでアインちゃんちの夫婦喧嘩の理由ってなんだったか聞いてる?」

「母には口止めされてるんですけど、実は目玉焼きが原因らしいんです」

「目玉焼き?」

「はい、目玉焼きはしょうゆで食すのとソースで食すの、どちらが美味かでもめたそうで……(娘として至極恥ずかしいです)」

 しょーもない理由だった。

 ユーリはボソッと呟く。

「……くだらない」

「そうですよね、くだらなくて悲しくなっちゃいます」

「ホントくだらない。目玉焼きは塩コショウが一番に決まってるじゃない!」

 目玉焼きの食べ方は人それぞれです。あまり他人の食べ方にとやかく言うのはやめましょう。

 そんなトークも展開しつつ、話が一区切りしたところで二人はバイバイすることにした。

「どこか行く途中だったんですよね、引き止めてごめんなさいでした」

「ううん、ぜんぜん平気だから。じゃあね、また明日学校でね!」

 ユーリはアインと別れを告げてスキップ♪

 桐の箱を大事に抱えてビビのいる部屋に急いだ。

 ビビも同じ学生宿舎で寝泊りしているらしく、ルーファスからちゃんと部屋番号を教えてもらっている。

 ビビの部屋まで来たユーリは大きく深呼吸。

「よしっ!」

 気合を入れてユーリはドアをノックした。

「ビビちゃんこんにちは♪」

 すぐにドアが開けられた。

「ユーリちゃん、こんにちわんこそば!」

「この前ビビちゃんに嫌われちゃったみたいだから、仲直りしたくてプレゼント持って来ました」

「ほえ? あたしがユーリちゃんのことキライに?」

「えっ?」

「あたしユーリちゃんのこと大好きだよ、大事なお友達だもん♪」

「…………」

 どうやら嫌われていなかったようですね!

 てゆーか、ビンタ事件のことすら覚えているか怪しい。

 ビビは眼を輝かせて桐の箱を見つめている。

「プレゼントってなぁに?(ドキドキわくわく)」

「えーっと、ピンクボムが好きだって聞いたから」

「やったぁラアマレ・ア・カピス大好き! 早く食べよ食べよ♪」

 ビビはユーリから桐の箱を奪って部屋の奥に消えてしまった。

 取り残されたユーリはボソッと呟く。

「……女ってわからない」

 乙女心は複雑なんですね!

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